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覚せい剤横浜

横浜地方裁判所判決/平成22年(わ)第143号

主文

 被告人は無罪。

理由

第1 争点
1 公訴事実等
 本件公訴事実は,「被告人は,法定の除外事由がないのに,平成21年12月24日ころ,神奈川県大和市(以下略)室内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって覚せい剤を使用したものである。」というものである。
 検察官は,被告人が同月25日に排出した尿から覚せい剤成分が検出されたことを鑑定書等によって立証し,上記公訴事実を証明しようとした。
2 弁護人の主張
(1) 被告人は,平成21年12月25日,その使用車両から覚せい剤が発見されたとして,覚せい剤所持の事実で現行犯逮捕された。その後,引致先の警察署で提出した尿から覚せい剤成分が検出されたことから,被告人は覚せい剤使用の事実で逮捕・勾留され,同事実により起訴された。
(2) 弁護人は,本件捜査経過のうち,
①警察官が,被告人がいない間に令状なくして車両の中を捜索し,覚せい剤を発見したこと
②警察官が,令状なくして被告人の身体を制圧し,無理矢理捜査車両に乗せ,同車両内に約1時間も留め置いて,被告人を実質的に逮捕したこと
③被告人を立会人としてなされた再度の車両の検索は,令状なくして,かつ,適法な立会いなくして行われたものであること
④被告人が引致先の警察署でした尿の任意提出は,不当な圧力のもとでなされたものであり,実質的には強制によるものであること
 を指摘し,捜査官の行為には令状主義の精神を没却する重大な違法があり,尿の鑑定書等は違法な捜査に密接に関連するものであるから,将来の違法な捜査を抑制する見地からも,その証拠能力を否定すべきであると主張した。
3 弁護人は,上記のとおり,尿の鑑定書等について証拠能力を否定すべきであると主張したが,各書証が名義人によって作成されたことを争うわけではなく,違法収集証拠であることが明らかになった際には排除されるべきであるとして,審理において証拠とすることには同意すると述べた。
 当裁判所は,これを踏まえて尿の鑑定書等を証拠として採用し,取り調べた。
第2 検討の前提となる事実
1 1回目の検索
(1) 平成21年12月25日午前1時過ぎころ,ドン・キホーテ×××店の駐車場(以下「本件駐車場」という。)に,被告人が運転するトヨタハリアー(以下「ハリアー」という。)と,被告人の知人数名が乗ったトヨタアリスト(以下「アリスト」という。)が入ってきた。被告人は,上記のドン・キホーテ店舗建物に出入りするなどした後,アリストに乗車し,無人のハリアーを駐車したまま本件駐車場を離れた(以下,平成21年12月25日の出来事であるときには,暦日の記載を省略する。)。
(2) 神奈川県緑警察署地域課所属のA巡査長(以下「A」という。),B巡査長(以下「B」という。),C巡査(以下「C」という。)の3名は,パトカーに乗車して別事件を扱っていたが,午前1時53分ころ,「ハッチバックドアを全開にしたまま,運転者が別の車に乗ってどこかへ行ってしまい,ハリアーが置き去りにされている」旨の110番通報を受け,現場へ向かうように指令された。
 午前2時6分ころ,Aら3名は本件駐車場に到着し,ハリアーを発見した。ハリアーは,後部ハッチバックドアが全開になっていた。
 Cは,ハリアーのナンバーから盗品照会及び所有者照会を実施したが,いずれも該当結果なしと回答を受けた。
(3) Aら3名は,所有者又は使用者の特定につながる物品を見つけようと考え,ハリアーの車内を捜すこととした。
 Cは,まずハッチバックドアが開いている後部荷台部分を捜し,そこにあったかごの中身を調べた。その後,助手席ドアを開けてダッシュボードの中を捜した。なお,Cは,後部荷台部分を捜している最中に,ナンバープレートについて,横浜ナンバーであるにもかかわらず,封印に東京を示す「東」の刻印がしてあることに気付いた。
 Bは,運転席側後部のドアを開けて,後部座席床に置いてあったバッグのファスナーを開け,その中を捜した。中には,「△△△様」,「S40 05 07」と印字された薬袋があった。
 Aは,運転席ドアを開けて運転席周辺を捜したところ,ドア内側サイドポケット内に黒色のポーチが入っているのを発見し,これを手に取り,ファスナーを開けて内部を見た。ポーチの中には,注射器数本と覚せい剤様の粉末が入ったファスナー付きビニール袋数枚が入っていた。
(4) Aらは,「覚せい剤事件の証拠品に指紋がつくのはまずい」などと考え,ポーチのチャックを閉め,元の場所に戻した。そして,ハリアーから覚せい剤様の粉末が発見されたことを,緑警察署の当直幹部らに報告した。
 また,薬袋に記載のあった「△△△」について照会をかけたところ,被告人が該当し,覚せい剤,自動車窃盗前科を含む前科15犯があることや,その外見的特徴等について回答を得た。
(5) 当直幹部からは,「ハリアーが盗品であることがはっきりしないので無令状では車を警察署に引き上げることはできない,令状をとって引き上げる方向で話を進めるから,しばらく現場でその車両を見張るように」との指示があった。Aら3名は,制服を着用し,パトカーで本件駐車場に来ていたことから,このままではハリアーを見張るのに問題があると考えた。そして一旦緑警察署に戻り,捜査車両(日産エルグランド。以下「エルグランド」という。)に乗り換えて本件現場に向かった。その際,BとCは上にジャンパーを羽織り,一見して警察官であることが分からないようにした。
2 被告人を制止し,留め置くなどした行為
(1) 午前3時ころ,Aら3名は現場に戻ってきて,エルグランドの中でハリアーの監視を開始した。
 すると,午前3時15分ころ,アリストが本件駐車場にやって来て,エンジンをかけたままハリアーの前で停車し,左後部ドアから被告人が降りてきた。被告人はハリアーのハッチバックドアの前で車内の様子をうかがうなどしていた。Aら3名は,被告人及びアリストの運転者らに職務質問をしようと考え,被告人にはCが声をかけ,アリストの運転者らにはA及びBが声をかけた。被告人は,Cに気付いて走り出し,駐車場の出入口を通り,車道を横断して逃げた。アリストの運転者もバックでアリストを急発進させ,駐車場出入口から外へと逃走した。
(2) Cが被告人に追い付きそうになると,被告人は,路上ののぼり旗を倒すなどしながら,逃走を図った。被告人の進行方向にいたAは,被告人が横を走り抜けようとした際,被告人の背後からその左肩と右手首をつかんだ。被告人は身をよじり,つかまれた手を振りほどこうとした。Aは,被告人の右手を後ろ手にし,手の甲を背中の辺りに押し当てるようにした。CとBもやってきて,被告人の周りを取り囲んだ。被告人は身動きがとれなくなり,その場に座り込んだ。
(3) 被告人は,「逃げないから手を離してくれ」などと言ったが,Aは,手を離せばまた逃げるかもしれないと考えて,被告人の右手を後ろ手にしたまま離さず,CとBとともに,そのままの体勢で職務質問を開始した。Aらは,「この場所で職務質問を続けたのでは逃走されるおそれがある。本件駐車場に止めてあるエルグランドに被告人を乗せて質問を行おう」などと考え,エルグランドへ被告人を連れて行くこととした。エルグランドの方へ移動していく際,Aは被告人の右側からその肩と右腕又はベルトをつかんでおり,Cは被告人の左側から自己の右手を被告人の左腕に巻き付けるようにしていた。
 なお,Aは,逃走しようとする被告人を制止してから,被告人を緑警察署に引致するまでの間,常に被告人の傍らにいてその腕やベルトをつかむなどしており,側を離れることはなかった。
(4) エルグランド付近に到着した後,Aらは,被告人に左側後部スライドドアから乗るよう求めた。しかし,被告人は,「何で乗らなきゃ駄目なんだ」などと言って乗車を拒み続け,10分程度説得を受けても応じなかった。被告人は,乗車口に背を向け,車体に手を押し当てて抵抗した。これに対し,Cは,被告人の脇から手を差し入れるなどして説得を続けた。最終的に,被告人の同意を得ないまま,先に乗っていたAが,車内から被告人を引っ張り上げて席に座らせた。
(5) Aらは,当直幹部からの指示に従い,刑事課の警察官が到着するのを待つため,そのまま車内に被告人を留め置くこととした。被告人は運転席を含めて3列ある座席のうち2列目の中央に座らされ,その右側には終始Aが座っていた。被告人の左側には,Cや,応援に駆け付けた他の警察官が座ることもあったが,だれも座っていない時間もあった。また,左側スライドドアは開いたままであったが,開いているドアの外には常に警察官が数名いた。
(6) 被告人は,エルグランドに乗せられる前後,Aらからハリアーの所有者ではないかと質問されたのに対し,「自分のものではない,友人のものである」と述べていた。また,Aらは,被告人に対し,既に発見していた車内の覚せい剤に関する質問は一切しなかった。
3 2回目の検索
(1) 午前4時30分ころ,緑警察署刑事課組織犯罪対策係に所属し,当夜の当直者で唯一,普段から覚せい剤事犯を担当していたD巡査部長(以下「D」という。)が本件駐車場に到着した。
 Dは,別事件を取扱中の午前3時ころ,当直幹部からハリアー車内で覚せい剤様のものが発見された旨の報告を受けており,別事件の処理を終えて一旦緑警察署に戻った午前4時ころには,本件駐車場で被疑者を確保している旨の報告を受けていた。これらの報告に基づき,Dは,覚せい剤予試験の準備等をした上で,車内で予試験をすることが容易な交通捜査車両で現場に来た。
(2) Dが到着した際,被告人はしかめっ面で,左手で右肩を押さえており,Dに対し,「警察官から暴行を受けて右肩が痛い」などと述べた。
 Dは,被告人にハリアーの所有関係などについて質問した後,任意捜査としてハリアーの車内を捜すこととし,被告人にその同意と立会いを求めた。
 被告人は,その求めに応じ,検索に立ち会ったが,一貫して「ハリアーは友人のものだ」と答えていた。
(3) Dは,事前に運転席部分に覚せい剤があるという報告は受けていたが,ハリアーの後部荷台部分から捜し始め,次いで後部座席周辺,助手席周辺を捜した後,最後に運転席ドアを開け,ドアポケット内に入っていたポーチを開けて,覚せい剤を発見した。
(4) 午前4時51分,Cは,覚せい剤所持の嫌疑で被告人を現行犯逮捕した。
 警察官らは,逮捕に伴う捜索差押として,ハリアーの車内を再度捜索し,覚せい剤を差し押さえ,ハリアーの車体も差し押さえた。
4 被告人から尿の提出を受けるまでの経緯
(1) Aらは午前5時30分に被告人を緑警察署へ引致した。被告人が激しい右上背部の痛みを訴えるので,午前5時55分ころから横浜新緑総合病院に連れて行ったが,担当の整形外科医がおらず,夜間当直の医師に痛み止めを打ってもらって午前10時38分ころ警察署に戻った。しかし,被告人がどうしても痛いというので,午前11時30分ころ再度上記の病院に連れて行き,医師の診療を受けさせた。
 被告人は医師に対し,右側上背部の肩甲骨内側の強い痛みや,右上腕部のしびれなどを訴え,痛みの原因について,「午前3時過ぎくらいの逮捕時に,右腕を後ろに回された際に痛みが走った」旨述べた。また,被告人は,逮捕当日の取調べに対しても,「捕まった際に腕を後ろに回されたとき,背中の筋を痛めた」旨述べた。
(2) 被告人は,警察署に引致された当初,尿を提出するよう求められてもこれを拒否していたが,2度目の通院から戻った後,尿の提出の求めに応じて尿を排出し,これを提出した。
警察官らは,被告人が尿の提出を拒んでいること,覚せい剤を所持していたことなどを理由として,裁判官に強制採尿令状を請求し,被告人が警察官の求めに応じて尿を提出する前にその令状を得ていたが,そのことを被告人には言わずにいた。
(3) 被告人が提出した尿について神奈川県警察科学捜査研究所技術職員が鑑定したところ,覚せい剤成分が検出された。
5 現行犯人逮捕手続書の記載について
(1) 被告人を現行犯逮捕した経過について平成21年12月25日付け現行犯人逮捕手続書(作成名義人としてCの署名・押印がある)が作成されたが,その概要は以下のとおりである。
 平成21年12月25日午前1時53分ころ,捜査車両で走行中,本署幹部から「110番,ドン・キホーテ駐車場内において不審車両の通報。男3名が後部ドアを開けたままハリアーを乗り捨て立ち去ったもの。至急現場へ向かえ」との無線指令を受けた。午前2時6分ころ,本件駐車場に到着してハリアーを発見し,ナンバーから所有者照会等をかけるも,該当はなかった。ナンバープレートに偽造されたような形跡があったことから,盗難車両ではないかとの疑いを認め,一旦本署に戻った後,午前2時55分から張込みを開始した。午前3時15分ころ,ハリアーの前にアリストが停車し,後部座席から被告人が降りてきてハリアーを物色していた。午前3時17分ころ,Cが被告人に職務質問をすると,Cの姿を見るなり逃走した。Cが追跡して被告人に追いつき,その左肩に手をかけて,「なぜ逃げた。このまま車で話を聞かせてくれ」などと申し向けた。被告人の左肩に手をかけたまま歩き出すと,被告人は無言のままCの歩き出す方向に従った。そのとき,B及びAもやってきたので,3名で被告人を本件駐車場に同道した。被告人から所持品の提出を受けた後,被告人の同意を得て,被告人をエルグランドに乗せた。エルグランドで被告人に氏名を尋ねると,「□□□」と名乗った。「ハリアーは誰のものか」と尋ねると,「車はわからない,俺のものじゃない」などと返答した。午前4時30分ころ,Dが到着し,被告人に対し,「ハリアーの中を見てもいいか」と尋ねると,「別にいいよ」と返答したので,被告人立ち会いの上で車内検索を開始した。エンジンルームに刻印されていた車台番号から再度盗品照会を実施すると,盗難被害にあった車であることが判明した。Cが被告人に,「盗難品だぞ,この車はどうしたんだ」と尋ねると,「俺の車じゃないから,俺は知らない」と返答した。車内検索中,後部座席に緑色スポーツバッグがあったので,中身を確認すると,「△△△」等と書かれた処方箋があった。被告人に処方箋を提示しながら,再度氏名を追及すると,「本当は△△△です」と返答した。同名で照会をかけると,覚せい剤取締法違反等の多数の前科を有する旨の回答があった。午前4時40分ころ,Dが運転席サイドポケットから黒色小物入れを発見した。被告人の許諾を得て中を確認し,覚せい剤様の結晶が入ったビニール袋と注射器を発見した。午前4時50分ころ,交通事故処理車両に移動して予試験を行うと,覚せい剤であるとの反応が出たので,被告人を覚せい剤所持罪の被疑事実で現行犯逮捕した。
(2) 上記現行犯人逮捕手続書には,110番通報を受けて本件駐車場に到着した直後,Aらが1回目の検索を行った旨の記載は一切ない。覚せい剤はDが到着した後の検索によって発見されたなどと,内容虚偽の記載がされている。
 また,1回目の検索の記載がないことに伴って,被告人の処方箋を発見した時期や,被告人の前科等の照会を受けた時期についても,内容虚偽の記載がされている。
 他にも,逃走する被告人の腕を背中に押し付けた等の記載はないし,被告人をエルグランドに乗せる際に,被告人の同意を得たと記載されている。
6 事実認定の補足説明
(1) Aが被告人を制止した際につかんだ腕が右腕か左腕かについて
ア Aは,逃走しようとする被告人を制止した際,自己の右手で被告人の右肩を,自己の左手で被告人の左腕をつかんだ旨供述し,Cも,Aが被告人の左腕をつかむところを見た旨述べる。
イ これに対し,被告人は,Aに右腕をつかまれ,背中に押し当てられたことが原因で右上背部及び右腕を痛めた旨述べているところ(程度の問題こそあれ,被告人の右上背部及び右腕に痛みがあった事実については検察官も認めている。),被告人は,本件駐車場にいる際も,逮捕当日に医師の診療を受けた際にも,右上背部及び右腕を痛めた原因は,Aから右腕を後ろに回されたことであると述べており,供述内容は当初から一貫している。
 また,被告人は以前交通事故にあって首を痛め,平成20年11月からは頸部,左上肢等の痛みやしびれを訴えて通院し,リハビリ治療等を受けていたが,右肩や右腕の痛みを訴えたことはなかった。
 さらに,被告人が右腕をつかまれたか左腕をつかまれたかにつき,あえて虚偽を述べる実益は乏しい。
ウ 他方,Aらが述べるように,Aが被告人の左腕をつかんだのであれば,被告人の右上背部及び右腕に痛みが生じることは考えにくい。
エ 以上によれば,A及びCの供述は信用できない。Aは,被告人の右手をつかんで後ろ手にし,被告人の背中に押し当てたものと認められる。
(2) 被告人がエルグランドに自らの意思で乗り込んだか否かについて
ア A及びCは,被告人は当初はエルグランドに乗車するのを嫌がっていたものの,最終的には自ら乗り込んだ旨供述する。
イ 上記のとおり,被告人は当初エルグランドに乗車することを頑強に拒否していたものであるが,A及びCは,証人尋問において,その後,被告人との間でいかなるやりとりがあった上で被告人がエルグランドに乗車することに応じたのかについて尋問されても答えることができなかった。被告人が自発的にエルグランドに乗車したものと判断した根拠について尋問されても,あいまいな答えに終始した。
ウ これに対し,被告人は,乗車口に背を向けて乗車を拒んでいたところを,Aから車内へ引っ張り上げられた旨述べる。この供述は,①被告人が乗車前に10分程度も警察官らの説得に応じなかったこと,②乗車口に対して背を向け,手を車体に押し当てて乗車を拒んでいたこと,③Aが被告人より先にエルグランドに乗車していたことなどの証拠上明らかに認められる事実と整合する。
エ 以上によれば,A及びCの上記供述は信用できない。被告人は,背後からAに引っ張り上げられるようにして,エルグランドに乗せられたものであり,自分の意思で乗り込んだものではないと認められる。
(3) 2回目の検索の際,被告人がハリアーは自分のものであると述べたか否かについて
ア Cは,被告人は当初ハリアーは友人のものであると述べていたものの,Dが到着するまでの間,エルグランドの中で警察官らから追及されるうちに自分の車であると認めるに至った旨証言した。Dは,本件駐車場に到着した当初,被告人はハリアーは自分のものではない旨述べていたものの,追及したところ,自分の車であると認めた旨証言した。
イ(ア) しかしながら,C及びDの供述は,Cが作成名義人となっている現行犯人逮捕手続書に,「被告人がハリアーを自己の所有車両であると認めないまま,被告人を立会人として車内を調べた」旨の記載があることと明らかに矛盾する。
(イ) また,被告人を制止して以降,被告人を警察署に引致するまで常に被告人の側におり,C及びDと被告人との問答を全て聞いているはずのAが,「被告人はハリアーは友人の車だと話していたと思う」,「被告人がハリアーの関係者であることは明らかだったので,その被告人が任意見分に応じていれば立会人として問題ないと思った」と供述していることとも矛盾する。
(ウ) さらに,被告人を逮捕した後,逮捕に伴って車内を捜索した状況についての写真撮影報告書(弁23号証。水島巡査作成名義の平成21年12月25日付けのもの)には,バッグやジャケット等,車内の物品の一部についてのみ,被告人が自己の所持品であると申し立てた旨の記載があるが,ハリアー自体や,通常ハリアーと所有関係を同一にするはずの車検証入れや自賠責保険証についてはそのような記載がない。
ウ 以上によれば,上記C及びDの供述は信用できない。2回目の検索の際,被告人はハリアーが自分のものであると述べたことはなかったと認められる。
(4) 被告人はDから令状が出ていると言われたか否かについて
ア 被告人は,Dからハリアーに対する令状が出ていると言われ,令状を示されたことから,2回目の検索に応じ,これに立ち会ったと述べ,弁護人も,Dは令状の発付を受けていないにもかかわらず,令状を所持しているかのように装ったものであると主張する。
イ 2回目の検索の際,被告人はハリアーは自分のものではないと述べていたものと認められること,多数の前科を有し,これまで何度も捜査を受けた経験を有する被告人が,令状が発付されているとの発言を聞き間違えるとは考えにくいこと,本件捜査手続に関する被告人の供述はおおむね信用でき,この点について被告人があえて虚偽を述べる理由も考えられないことなどに照らすと,Dが被告人に対し令状が出ていると述べた可能性も否定できないではない。
ウ しかし,本件当日の令状発付状況に関する公務所照会の結果や,当時の捜査状況からすると,緑警察署の警察官においてハリアーを捜索場所とする捜索差押許可状を請求するための書類を作成していたとは考えられず,捜索差押許可状の請求及び発付があったとは認められない。また,本件捜査手続には多くの問題点が存在するとはいえ,Dが存在しない令状の存在を偽装して明白な虚偽を述べたとは考えにくい。
エ 以上によれば,Dの上記発言が存在したか否かは不明であるといわざるを得ない。
第3 本件捜査手続が重大な違法を有することについて
1 1回目の検索でハリアー車内から覚せい剤を発見した行為が重大な違法を有すること
(1)ア Aら3名の警察官は,本件駐車場に到着した直後に,それぞれ別のドアを開けた上で,助手席のダッシュボードの中など,車内の外部から一瞥しただけでは分からない部分を開けて,その中にあった物を確認し,さらに,後部座席床に置いてあったバッグや,運転席ドアのサイドポケット内に入っていたポーチという,よりプライバシー保護の要請が強い手荷物に対しても,チャックを開けた上で,その内容物を確認した。
 このようにしてAらは,実際に覚せい剤を発見したほか,薬袋を発見し,そこに記載された氏名及び生年月日等の個人情報を入手したものである。1回目の検索によるプライバシー侵害の程度は大きい。
イ 1回目の検索行為のうち,ナンバープレート等の車体外側を見た行為や,窓ガラス越しに,あるいは開いているハッチバックドアから車内を見た行為についてはさておき,その余の部分は,その態様に照らしても,侵害されたプライバシーの程度に照らしても,刑訴法上の捜索に他ならない。令状なくして,かつ,立会人なく行われた1回目の検索が違法であることは明らかである。
(2) また,1回目の検索を開始した時点では,ハリアーが窃盗の被害品かもしれないという程度の抽象的な嫌疑しか存在しなかったこと,1回目の検索は無人の車両に対して行われたもので,直ちに車内に立ち入り,ダッシュボード内等を捜す必要が存在したことをうかがわせる状況は見当たらないことなどからすると,上記の態様でハリアー車内等を捜さなければならない必要性,緊急性はほとんどなかったものである。
(3) さらに,1回目の検索の際,警察官らはハリアーの車台番号を確認しようとしておらず,実際に行った行為に比べ,よりプライバシーの侵害が少ない行為を行うことについて検討した形跡がない。Aは,「通常であれば捜索令状をとった上で行う行為であるが,時間がかかる上,盗難車両の可能性もあったので車内を調べることにした」と証言し,Cは,「恥ずかしい話だが,令状のことは当時はよくわからなかった。令状が必要だったという話は後から聞いた」などと証言した。警察官らの令状制度に対する理解の乏しさ,関心の低さは深刻である。
(4) これらにかんがみると,1回目の検索には看過できない違法があるというべきである。
2 被告人を制止し,留め置くなどした行為が重大な違法を有すること
(1)ア Aは,逃走しようと抵抗する被告人の左肩をつかみ,被告人の右手を後ろ手にして背中に押し付けるようにした。被告人は右肩と右肘の関節を極められているため,動きたくても動くことができなかった。その後,Aが被告人のベルト又は右腕をつかみ,Cが自己の右腕を被告人の左腕に巻き付けた状態で,エルグランドまで数十メートルにわたり被告人を移動させた。被告人が乗車口に背を向け,車体に手を押し当てるなどして車内に入るのを拒むのに対し,後ろ向きに無理矢理車内に引っ張り上げて乗車させ,そのまま1時間近くも被告人を留め置いた。エルグランド内においても,被告人は,自己の氏名を「□□□」と述べ,ハリアーは誰のものかとの警察官の質問に対して,「友人のものである」などと述べていた。
イ Aが被告人の右手を後ろ手にして背中に押し当てた行為は,逃走しようと激しく抵抗していた被告人に対し,強度の有形力を行使したものである。その後,被告人を無理矢理捜査車両に乗せ,長時間にわたって留め置いたことや,その際,被告人が上記のような発言をしていたことなどにかんがみると,警察官らの一連の行為は,被告人の意思を制圧してその身体の自由に制約を加えたものに他ならない。
ウ 被告人は当時自傷行為や他害行為に及んでいたわけではない。当時被告人に認められたハリアーの盗難の嫌疑は具体的なものではなかったし,ハリアー内の覚せい剤に関する嫌疑は1回目の検索によって得られたものであった。
(2) 以上によれば,Aらが被告人の身体を確保し,その後捜査車両に乗せて留め置いた行為は,職務質問に付随する行為又は任意捜査として許容される限度を逸脱するものであり,被告人を令状なくして実質的に逮捕したものと評価すべきである。そして,上記逮捕行為は,緊急逮捕の要件が存在していた状況で,その手続を怠ったものなどとは様相を異にし,その違法の度合いは深刻なものである。
3 違法行為に対する警察官らの糊塗行為
(1) 2回目の検索が1回目の検索の違法を糊塗する行為であること
 Aらは,逃走しようとする被告人を制止して以降,Dが到着して2回目の検索を行うまでの間,被告人に対し,ハリアー内の覚せい剤に関する質問を一切していない。そもそも,警察官らが仮に1回目の検索の適法性に何ら疑問を持っていなかったのであれば,2回目の検索を行って覚せい剤を発見したかのように装う必要はなかったし,約1時間にわたって被告人をエルグランド車内に留め置く必要もなかったはずである。そうすると,Aらはもちろんのこと,同人らから報告を受けた当直幹部らにおいても,被告人を実質的に逮捕する前の段階で,1回目の検索が違法であったことを十分に認識していたものと認められる。
 しかるに,警察官らは,上記の態様で被告人を実質的に逮捕し,被告人がハリアーは友人のものであると述べているにもかかわらず,被告人を立ち会わせて2回目の検索を行い,これによって覚せい剤を発見したかのように装ったのである。そうすると,警察官らは,1回目の検索の違法を糊塗する目的で,2回目の検索に及んだものと認められる。
(2) 現行犯人逮捕手続書に虚偽の記載をしたこと
 警察官らは,1回目の検索の違法を糊塗しようと2回目の検索に及んだにとどまらず,現行犯人逮捕手続書を作成する際,1回目の検索に関する記載を一切せず,Dが到着した後の2回目の検索によって覚せい剤を発見したなどと虚偽の事実を記載した。これは,違法な1回目の検索を証拠上隠匿しようとしたものである。
(3) 事実に反する証言をしたこと
 A,C及びDはそれぞれ当公判廷に証人として出廷しながら,被告人の右手を背中に押し当てたことはないとか,被告人は自分からエルグランドに乗り込んだとか,被告人は2回目の検索前にハリアーが自分のものであることを認めていたなどと,事実に反する証言をした。
4 小括
(1) 以上検討したように,本件捜査手続には,令状なくして,かつ,立会人なくハリアーを捜索したという違法,及び,被告人を令状なくして実質的に逮捕したという違法がある。
 上記のように,警察官らは,無人のハリアーを捜索すべき必要性・緊急性は何ら存在しないにもかかわらず,ハリアーを捜索したものである。この捜索は,令状主義の精神に反するものであり,その違法は大きい。そして,警察官らは,違法な捜索により覚せい剤を発見したことを端緒として被告人に職務質問をし,緊急逮捕の要件がないにもかかわらず,被告人を実質的に逮捕したものであるから,この実質的な逮捕は上記捜索の違法を引き継ぐものであり,かつ,逮捕自体の違法も大きい。
 加えて,警察官らは,1回目の検索の違法を糊塗するため,2回目の検索を行った上,内容虚偽の現行犯人逮捕手続書を作成し,更には,公判廷において事実と反する証言をした。
(2) このような本件捜査の違法の重大性及び本件の経緯全体を通してあらわれた警察官の態度を総合的に考慮すれば,1回目の検索から実質的な逮捕までの手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものと評価すべきである。
5 検察官の主張について
(1) 1回目の検索について
ア 検察官は,Aらの行った1回目の検索は行政警察活動として適法であると主張する。すなわち,深夜,ハッチバックドアが全開となった状態で,偽造ナンバープレートが装着された盗難車両と思われる放置車両を発見した際には,所有者を示す積載品を見つけ,所有者と連絡をとる必要性・緊急性が高い。したがって,所有者等を確認するため,車外からその状態を確認するにとどまらず,施錠されていないドアを開けて,その近辺の車内積載品を調べることは,警察比例の原則に沿った必要最小限度の行為である。そして,ポーチ等のチャックを開け,在中物を確認したことについても,そのような手荷物の中には免許証等の携行品が存在している可能性が高いのであるから,やはり必要最小限度の行為であって適法である,と主張する。
イ しかしながら,警察官らが本件駐車場に来るきっかけとなった110番通報の内容は,ハッチバックドアを開けたまま運転者がどこかへ行ってしまったというもので,その内容から直ちに運転者がハリアーを乗り捨てた疑いが生じるものではない。ハリアーが駐車されていたのは営業時間中の量販店の駐車場であったし,運転者がハリアーを残して本件駐車場を出てから警察官が1回目の検索に着手するまでの時間は約1時間程度にすぎなかった。また,ハリアー内にはポーチ,バッグなどの手荷物類や,上着や印鑑などが置いてあった。このような状況の下では,ハリアーが乗り捨てられたものと考え得る余地はなかったというべきである。
 そうすると,警察官らにおいてハリアーが盗難車両かもしれないと考え,車内に所有者につながる物品がないか否かを確認したいと考えたとしても,ハリアーが乗り捨てられたものではない以上,車内を調べ,手荷物の在中物を確認する行為は,ハリアーの運転者又は使用者のプライバシーを侵害する行為であることは明らかであるから,既に述べたように捜索に該当する警察官らの行為が,令状なくして,あるいは適切な立会人の許諾なくして許されないことは当然である。
ウ また,検察官は,ハリアーをそのままにしておくことは,駐車場内の交通の安全に影響を及ぼすおそれがないではないし,ハリアー自体又は積載品が盗まれる可能性があったとも主張する。しかし,ハリアーの位置を移動させた,ないしはハリアーを見張っていたというのであればまだしも,上記各事情はおよそ警察官らがハリアーの車内を捜索したことを正当化する理由たり得ない。
エ 以上のように,1回目の検索は,およそ行政警察活動として許容できるものではない。
(2) 被告人の身体の確保,留め置きについて
ア 検察官は,逃走を図る被告人に対し,背後から肩に手をかけて押さえ,それでもなお逃走を図る被告人の手を後ろ手にして背中に押し当てる行為は,車両窃取や,違法薬物所持の疑いにより職務質問をする緊急性が認められる中,被告人の態度によって緊急性がより高まっていく状況下で行われたものである上,態様としてもその場に被告人を停止させるためには自然かつ必要最小限度の行為であるから,社会通念上許容される範囲の有形力の行使である。被告人を約1時間エルグランドの車内に留め置いたことについても,季節や時間帯,さらには被告人が一旦乗車して以降は帰宅したいなどと述べることはなかったことからすると,職務質問継続のために必要かつ相当なものであると主張する。
イ しかしながら,Aが逃走を図る被告人を制止し,エルグランドに乗せて留め置くなどした行為は,これが被告人の抵抗を排し,同人をその場に留め置くためには必要最小限度の行為であったにせよ,被告人の意思を制圧し,その身体の自由に制約を加えたものに他ならない。そして,被告人の車両窃取の嫌疑は,盗難車の可能性がある車両に乗車していたという未だ抽象的なものにとどまっていたのであるし,覚せい剤所持の嫌疑は上記の違法な捜索によって生じたものである。
ウ 以上によれば,Aらが被告人を制止し,エルグランドに乗せて留め置くなどした行為は職務質問ないしはこれに付随するものとして必要かつ相当なものであるとの検察官の主張は採用できない。
(3) 以上のように,検察官の主張は,いずれも上記判断に影響を及ぼすものではない。
第4 尿の鑑定書の証拠能力
1 本件においてハリアーを令状なくして捜索し,被告人を実質的に逮捕した一連の手続には,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大な違法がある。このような違法な手続に密接に関連する証拠を許容することは,将来の違法捜査抑制の見地からも相当ではないから,その証拠能力を否定すべきである。
2 本件において,重大な違法を有する手続の後,被告人が尿を提出するまでの経緯は上記のとおりである。すなわち,警察官らは,1回目の検索が違法に行われたことを糊塗するため,実質的に逮捕した状態にある被告人を立ち会わせて2回目の検索を行い,その検索で覚せい剤を発見したように装った。そして,その覚せい剤を所持したとの被疑事実で被告人を現行犯逮捕した上,引致先の警察署で,逮捕当日のうちに被告人に尿の提出を求め,被告人から尿の提出を受けたものである。
3 2回目の検索は1回目の検索の違法を糊塗するために行われたものである。よって,2回目の検索の際に被告人の同意があり,これを受けて車内の検索を行ったものであったとしても,違法な先行手続の影響が遮断されることはない。また,2回目の検索で覚せい剤を発見したかのように装い,その覚せい剤を所持しているとして被告人を現行犯逮捕したのであるから,現行犯逮捕手続により違法な先行手続の影響が遮断されることもない。そうすると,現行犯逮捕手続による被告人の身柄拘束は,1回目の検索の重大な違法と,実質的な逮捕の重大な違法をそのまま引き継ぐものであって,重大な違法を帯びることになる。
 そして,現行犯逮捕当日に被告人に尿の提出を求め,その提出を受けた手続は,重大な違法を帯びる被告人の身柄拘束状態を直接利用して行われたものと評価できる。
 以上によれば,被告人の尿についての鑑定書は,重大な違法がある手続と密接に関連する証拠であるから,その証拠能力を否定すべきである。
4 なお,警察官が被告人から尿の提出を受けた時点では,裁判官によって強制採尿令状が発付されていた,しかし,令状の強制力によって尿が採取されたものではないし,被告人に令状が発せられていることを知らせた上で尿が採取されたものでもない。また,被告人が当初,尿の提出を拒んだからこそ強制採尿令状の請求がなされたものである。さらに,警察官らは令状請求に際して,被告人に覚せい剤所持の嫌疑があることを強制採尿令状が必要であることの理由の一つとしている。これらの事情にかんがみれば,強制採尿令状が発せられていたことをもって,上記の鑑定書が重大な違法を帯びる手続と密接に関連することを否定することにはならない。
5 以上の次第で,被告人の尿についての鑑定書は違法収集証拠として排除する。
第5 結論
 そうすると,その余の証拠によって公訴事実を認めることはできず,公訴事実については犯罪の証明がないこととなる。
 よって,刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役3年6月)
平成23年3月30日
横浜地方裁判所第6刑事部
裁判長裁判官  秋山 敬
裁判官  林 寛子
裁判官  海瀬弘章

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