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覚せい剤東京2

東京地方裁判所判決/平成22年(合わ)第323号

主文

 被告人は無罪。

理由

第1 訴因変更後の公訴事実
 訴因変更後の本件公訴事実は,「被告人は,氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的で,覚せい剤を日本国内に輸入しようと計画し,平成22年9月13日(現地時間),メキシコ合衆国のDコーポレーション営業所において,覚せい剤約2978.15グラムと約2989.84グラムをそれぞれ隠し入れた段ボール箱2個を航空小口急送貨物として,東京都江東区(以下略)Dコーポレーション新砂保税蔵置場留め被告人宛てに発送し,同日(現地時間),同国の空港において,同空港関係作業員に航空機に積み込ませた上,アメリカ合衆国の空港を経由して,航空機により,同月15日及び同月17日,それぞれ前記段ボール箱各1個を千葉県成田市所在の成田国際空港駐機場に到着させた上,同空港関係作業員に航空機の外へ搬出させて覚せい剤合計約5967.99グラムを日本国内に持ち込み,さらに,前記保税蔵置場にそれぞれ到着させ,同月17日,同区青海2丁目7番11号東京税関検査場において,同税関職員の検査を受けさせたが,関税法上輸入してはならない貨物である前記覚せい剤を発見されたため,前記貨物を受け取ることができなかった」というものである。
第2 当裁判所の判断
 なお,特に明記しない限り,以下の説明は日本標準時に基づいて記載しており,また,月日のみの記載は「平成22年」を示す。
1 争点
 本件では,前記公訴事実のうち,故意,営利目的及び共謀を除いた部分の事実については,関係各証拠によって明らかに認められるし,覚せい剤の量からして,その犯人に営利目的があることも容易に推認される。
 護人は,被告人には覚せい剤輸入の故意(以下の記述におけるものを含めて,覚せい剤取締法上の覚せい剤輸入の故意及び関税法上の輸入禁止貨物輸入の故意の双方を併せた意味で,このように言う。)及び共謀がなく,無罪であると主張しており,これが本件の争点である。以下,論告における検察官の主張を中心に,弁護人の指摘を踏まえて検討する。
2 覚せい剤輸入の故意について
 この点は,本件貨物の中身が覚せい剤であることの認識の有無及び本件貨物をメキシコから日本へ輸入することの認識の有無に分けて検討する。
(1) 本件貨物の中身が覚せい剤であることの認識について
ア 検察官は,メキシコでは覚せい剤を含めた薬物犯罪に関与している犯罪組織が強大な力を有していること,被告人が,来日に際して,犯罪組織関係者から多額の資金提供を受けていること,来日前,犯罪組織関係者とメールで連絡を取り合い,来日後,犯罪組織関係者と思われるA及びBなる人物らと面会したこと,逮捕時に所持していたノートに「麻薬」の意味もある「stuff」という単語を書いていたこと,来日後に本件覚せい剤を全て収納可能なフリーザーバッグを購入していること,本件貨物を受け取ってから1箱だけを開封したが,それが覚せい剤が入っている箱であったことから,被告人が本件貨物の中身について覚せい剤であると認識していたことが推認できると主張する。
イ ここで,前提として,携帯電話解析結果報告書(甲74号証)の信用性について検討する。同報告書は,被告人が使用していた携帯電話機に保存されていたデータを機械的に抽出した結果を記載したものであるが,弁護人が指摘するとおり,とりわけメール関係の部分を中心に,記載された送受信の別や送受信日時などに,それ自体が不合理極まりない点や他の証拠との関係で合理的な説明が不可能な部分等があり,その記載のすべてが信用できるとは言えない。しかし,被告人の携帯電話機が日本で使用できないものであることや,被告人自身が,同報告書に記載されたとおりの内容のメールが送受信されたことを認めているものもあることからすれば,被告人が認めているものについては,来日以前にやりとりしたという限度で,事実認定の資料として良い。
ウ 以下,検察官の主張を検討する。被告人は,来日前に,Aに空港まで被告人を迎えに行かせるなどの内容のメールを受け取っているが,その送信元と思われる電話番号は,本件とは別の件でメキシコから覚せい剤を日本に輸入したCが,帰国後に報酬を受け取るための連絡先として教えられていた電話番号と同一である。そうすると,この電話番号は,メキシコの犯罪組織関係者が使用しているものと推認でき,被告人が,来日前,犯罪組織関係者との間で,メールで連絡を取り合っていた事実を認めることができる。しかし,その内容は,被告人が,覚せい剤を受け取ることを認識していたことを窺わせるものではない。また,被告人が来日後にAらと面会した目的については,被告人供述を除いては証拠がなく,被告人供述を前提とすれば,被告人とAらとの間で,被告人が,受け取る物について覚せい剤であると認識するようなやりとりがあったと認めることはできない。その他の検察官が主張する点は,いずれも他の趣旨の理解も可能なもので,推認力が弱い。また,その主張全体を総合して考えても,被告人が本件貨物の中身について覚せい剤であると認識していたことを推認させるには足りない。
エ しかし,この点について,被告人は,当公判廷で,メキシコから来日する前に,日本で受け取る荷物が覚せい剤であるかもしれないと思っていたと述べている。被告人は,併せて,来日後の9月15日に,メキシコからDコーポレーションを介して送った荷物を受け取るように指示されてからは,そのような運送方法で輸入される荷物には税関で摘発されるような物は入っていないだろうから薬物が入っているなどとは考えなくなったとも述べているが,本件貨物は,9月13日(現地時間)にメキシコで発送され,その後は犯人グループの手を離れて運送関係者等によって運搬されて日本に到達したのであるから,問題となるのは貨物発送時における被告人の認識である。そして,被告人が,メキシコから来日する前に,日本で受け取る荷物が覚せい剤であるかもしれないと思ったという時点から,前記の9月15日の連絡までの間に,被告人の本件貨物に関する認識に変化が生じたことは証拠上全く窺われないから,被告人の前記供述は,本件貨物の中身が覚せい剤である可能性を認識していたことを自白するものである。
 そして,被告人は,メキシコにおいて,犯罪組織関係者に脅されて,日本に行き,そこで荷物を受け取るように指示されたが,メキシコの犯罪組織は覚せい剤を含む薬物犯罪を初めとして様々な犯罪行為に関与しているので,荷物の中身についてはあらゆる可能性を考え,覚せい剤かもしれないと思った旨,経緯を説明している。検察官は,被告人がメキシコの犯罪組織に脅された点について,来日前後の行動に照らして,不自然,不合理であるなどとして疑問を呈するが,それらの点に関する被告人の説明は一応理解可能なものである。前記報告書から認められるメール送受信の事実も,被告人が述べる来日の経緯と矛盾するものではなく,その他,この点に関する被告人の弁解を排斥するに足りる事情はない。したがって,被告人の来日の経緯に関する供述を排斥することはできず,本件では,それを前提に検討をしなければならないところである。そして,それを前提にすれば,被告人が本件貨物の中身が覚せい剤である可能性を認識していたと述べる点は自然であり,信用できる。
オ そうすると,本件貨物発送時において,被告人が,本件貨物の中身について覚せい剤である可能性を認識していたことが,疑いなく認められる。
(2) 本件貨物をメキシコから日本へ輸入することの認識について
 この点について,被告人は,犯罪組織関係者から脅されて指示された際に,メキシコから輸入する物を受け取る可能性を考えなかったと述べている。しかしながら,既に述べたように,そのときに,犯罪組織の行っていることから荷物の中身についてあらゆる可能性を考えた被告人であれば,メキシコから日本にわざわざ赴いて荷物を受け取ることを指示されている以上,メキシコから日本に輸入される荷物を受け取る可能性をも考慮するのが当然であって,この点を認識していたことは,常識に照らして間違いなく認められる。
(3) よって,本件では,覚せい剤輸入の故意については,認めることができる。
3 共謀について
 そこで,次に,被告人と犯罪組織関係者が,本件貨物発送時以前において,共同して覚せい剤を輸入するという意思を通じ合っていたと認められるかを検討する。
 この点について,検察官は,本件が,大量,高価な覚せい剤を日本に輸入するという事案であり,現に被告人宛ての本件貨物を被告人自身が受け取っていることから,事前共謀が推認されると主張する。しかし,それは,結局,およそ外国から大量の覚せい剤の入った荷物を受け取った者は,輸入について事前共謀をしているという経験則の存在を前提とするもので,当裁判所は,それには全く賛成できない。
 さらに,関係各証拠から,被告人と犯罪組織関係者との共謀の存在を推認させる事実が認められるかを検討しても,被告人と犯罪組織関係者との間で交わされたメールの送受信履歴及び内容は,被告人と犯罪組織関係者が,共同して覚せい剤を輸入することについて意思を通じ合っていたことを推認させるには足りない。また,犯罪組織関係者から被告人に対してなされた指示の内容や,Aらとの面会の目的については,被告人供述のほかに証拠はなく,被告人供述を前提とすれば,本件貨物発送時以前に,被告人が,犯罪組織関係者から,本件貨物の中身が覚せい剤であり,メキシコから日本へ輸入するものであることを知らされたとの事実は認められない。その他の証拠の内容にも,被告人と共犯者との意思の連絡を推認させる点は見当たらない。
 そうすると,本件では,被告人と犯罪組織関係者が,本件貨物発送時以前において,共同して覚せい剤を輸入するという意思を通じ合っていたことが常識に照らして間違いないとは言えない。
 なお,被告人は,本件犯行の実行行為を行っていないから,単独犯としての責任を負うことはない。
4 結論
 本件のような覚せい剤の輸入行為は許されない犯罪であり,その犯人は処罰されるべきである。また,外国での出来事が関係する事案の証拠収集に難しい点があるのも事実であろう。しかしながら,本件で問題となっているのは,本件犯罪の刑事責任を被告人に問うてよいか否かの点なのであり,他の事件より有罪の証明の程度が低くなるわけではない。本件においては,取調べ済みの関係各証拠によっては,被告人が本件覚せい剤輸入について犯罪組織関係者と共謀した事実について,なお疑いを残すと言うほかない。
 したがって,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役15年及び罰金800万円,覚せい剤の没収)
平成23年7月1日
東京地方裁判所刑事第6部
裁判長裁判官  合田悦三
裁判官  川田宏一
裁判官  石川理恵

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