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覚せい剤名古屋

名古屋地方裁判所判決/平成21年(わ)第583号

主文

被告人は無罪。

理由

1 本件の公訴事実は,「被告人は,みだりに,平成20年9月14日,名古屋市南区(以下略)先路上に駐車中の普通乗用自動車内において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する白色結晶約0.028グラムを所持したものである。」というものであり,これに対し弁護人は,被告人は上記の日時場所において覚せい剤を所持していないとして無罪を主張し,被告人も当公判廷において同旨の供述をしていた。
2 まず,以下の事実については,特段の争いがなく,関係各証拠によってこれを認めることができる。
(1) 被告人は,平成20年9月13日の夕方,大阪府堺市内での仕事を終え,自己が所有する普通乗用自動車(登録番号名古屋○○○す・○○○ 以下「本件自動車」という。)を運転して名古屋に向かった。そして,同日午後10時ころ,名古屋市南区内の路上で密売人からパケ入りの覚せい剤と注射器を購入し,本件自動車内でその一部を水に溶かして自己の身体に注射して使用した後,同市瑞穂区内の個室ビデオ店内でも同様の方法により覚せい剤を使用した。
(2) 翌14日午前1時20分ころ,愛知県警察本部地域部自動車警ら隊所属の警察官であるA(以下「A」という。)及びB(以下「B」という。)は,被告人が名古屋市南区(以下略)先の路上に本件自動車を停止させ,運転席で横になっているのを発見した。そこで,A及びBは,職務質問を行うこととし,被告人に対し運転免許証及び自動車検査証の提示を求めたところ,被告人は,ズボンのポケットから出した財布から運転免許証を,助手席前のグローブボックス内からビニール製の車検証入れ(ただし,その中に自動車検査証は入っていなかった。)をそれぞれ取り出し,提示した。その後,Aは,被告人に対し降車して所持品検査に応じるよう求めたところ,被告人は自ら降車したので,Aは被告人のポケット等を触るなどした上,左の胸ポケットに入っているものを見せるよう言った。すると被告人は,一瞬躊躇した後,携帯電話やライターのほかタバコ(マルボロメンソールライト)の箱(以下「本件タバコの箱」という。)を取り出し,左手に持ってこれを提示したが,すぐに胸ポケットに戻した。
 その後,被告人は,本件自動車内に乗り込んだ上,本件タバコの箱の中から注射器を取り出し,これを運転席の腰掛け部分と背もたれの継ぎ目にねじり込んで隠した。Aは,被告人に対し降車して隠したものを取り出すよう求めたが,被告人は,「何も隠してないって」などと声を張り上げ,エンジンをかけようとした。しかし,Aがエンジンキーを取り上げ,Bに無線で応援を要請するよう指示し,隠したものを出すよう説得を続けると,注射器の押し出し棒を取り出し,提示した。ところが,Aが「シャブやったのか」と追及しても,「僕の物ではありません」などと答え,助手席に置いてあった買物用のビニール袋等を手に取るなどしていたので,Aが「触るな」「動かすな」と言うと,「帰してくれると言ったじゃないか」と大声を張り上げて降車し,AやBの制止を振り切り,履いていたサンダルも放置して裸足のまま逃走した。
(3) その後,応援要請に基づき,愛知県南警察署(以下「南署」という。)所属の警察官であり当直勤務に当たっていたC(以下「C」という。)らも臨場し,被告人を探したが,発見できなかった。また,AないしBは,被告人を覚せい剤取締法違反の被疑者と認め,本件自動車やその自動車検査証(以下「本件車検証」という。)のほか運転席の腰掛け部分の上ないし腰掛け部分と背もたれの継ぎ目に遺留された注射器の押し出し棒及び注射筒等を領置した上,本件自動車を運転してこれらを南署に搬送し,引き継いだ。その後本件自動車は,同署内のシャッター付きの車庫で,ドアロックをし,前輪左右のタイヤに輪留めを施し,保護シートを覆い被せた状態で保管された。
(4) Cは,同月24日午後3時37分ころから午後4時10分ころまで,上記車庫内で,捜索差押許可状に基づき覚せい剤等を目的物とする本件自動車内の捜索を行い,6点の証拠品を押収した。その内訳は,本件タバコの箱のほか,白色結晶2袋(一角が溶解した約3.7センチメートル×約2.5センチメートル大の透明ビニール袋に入ったもので,後に行われた鑑定の結果覚せい剤であること及び重量が0.028グラムであることが判明したもの(以下「本件覚せい剤」という。)及び約4.0センチメートル×約2.6センチメートル大の透明ビニール袋に入ったもので,後に行われた鑑定の結果覚せい剤であること及び重量が0.134グラムであることが判明したもの(以下「別件覚せい剤」という。))及び注射器1本(プラスチック製1ミリリットル用オレンジ色キャップ付きで,マイジェクター等と印刷されたビニール袋に入った未開封のもの。以下「未開封の注射器」という。)等であり,同日付けの捜索差押調書(甲3はその謄本)には,捜索差押えの経過として,本件覚せい剤はセンターコンソールと並んで設置されたドリンクホルダー内に置かれた本件タバコの箱の中で,別件覚せい剤及び未開封の注射器は助手席グローブボックス内で,それぞれ発見された旨が記載されている。また,同日付けの捜査報告書(甲4)には,本件タバコの箱と並べてその内容物としてタバコ6本及び本件覚せい剤を撮影した写真並びにグローブボックスの在中品として別件覚せい剤及び未開封の注射器を撮影した写真が貼付されている。
3 被告人は,当公判廷では本件犯行を一貫して否認しているが,捜査段階では,当初こそ否認していたものの,平成21年3月18日に行われた検察官による取調べでは,別件覚せい剤及び未開封の注射器については自分がグローブボックス内に入れたものであることを否認する一方で,本件覚せい剤については,「これまで,覚せい剤を持っていた覚えはないなどとお話ししていましたが,本当は,覚せい剤を使った残りの覚せい剤を持っていました。」などと供述し(乙4),翌19日に行われた警察官による取調べ(取調べを行ったのは前記Cである。)でも,「個室ビデオ店でシャブを食った私は,使ったポンプを濯いでそのとき吸っていたマルボロメンソールライトボックスの箱の中に入れました。そして,シャブが入っていたパケをどうしたかよく覚えていませんでしたが,結局このタバコの箱の中に入っていたのです。」などと供述している(乙3)。
4 以上によれば,被告人が公訴事実記載の日時場所において本件覚せい剤を所持していた疑いがあり,一見するとそのことは明らかなようにも思われる。
 しかしながら,以下のとおり,本件覚せい剤は,被告人が職務質問を受けて逃走した後に警察官あるいはそれ以外の何者かが本件タバコの箱の中に入れた可能性を否定できない。
 まず,職務質問の際の被告人の言動からすると,AないしBあるいはその他の警察官は,本件タバコの箱の中に覚せい剤が隠されているのではないかとの疑いを抱いたはずであり,そうすると,警察官は被告人が逃走した後に本件タバコの箱の中を確認し,それにもかかわらずその時点では本件覚せい剤は発見されなかったのではないかとの疑問がある。この点につきA及びCは,「覚せい剤が入っている可能性が極めて高いと思ったので,領置の手続をするよりも,法の手続に従ってやった方が証拠価値があると思い,触らなかった」(A)あるいは「覚せい剤が入っている蓋然性が非常に高いと判断したので,令状を取った上での捜索をして差し押さえようと考えた」「捜索にわたるかもしれないという思いがあり,確認しなかった」(C)旨の供述をし,いずれもこれを否定している。しかし,前述のとおり,AないしBは本件自動車とは別に本件車検証を領置しているところ,その経緯についてBは,「車検証がどこにあったかというのははっきり覚えておりません。」「たしか渡されたのではないので,車内にあったのではないかと思います。」などと供述し,グローブボックス内を捜したことがあるかとの質問に対しては,「はっきり覚えておりません。」と供述しているのである。そして,自動車検査証がグローブボックス内に保管されることは一般的である上,車検証入れについてはグローブボックス内から被告人が取り出していることからすると,本件車検証もグローブボックス内に保管されていた可能性が高く,被告人の逃走後本件車検証が本件自動車の座席上などに放置されていた形跡も見当たらない(甲2)ことも併せ考えると,AないしBあるいはその他の警察官がグローブボックス内から本件車検証を取り出した可能性が高く,その前提として警察官がグローブボックスの扉を開けた可能性もある。そうすると,本件タバコの箱についても,警察官が中を一瞥する程度のことはあったのではないかとの疑問を禁じ得ず,それにもかかわらずその時点では本件覚せい剤は発見されなかったのではないかとの疑いを払拭し得ない。そして,そうであるとすれば,本件覚せい剤は,被告人の逃走後に何者かが本件タバコの箱の中に入れたものである可能性を否定できない。
 また,被告人が逃走した後に警察官が本件タバコの箱の中を一瞥する程度のことすらなかったとしても,その時点でグローブボックス内に別件覚せい剤や未開封の注射器が存在したのであれば,警察官がグローブボックス内から本件車検証を取り出した際に別件覚せい剤や未開封の注射器についてもこれを発見して領置するのが自然である(前述の平成20年9月24日付け捜査報告書によれば,同日行われた本件自動車内の捜索の際,少なくとも未開封の注射器については,グローブボックスの扉を開ければ中を一瞥するだけで容易にその存在に気付く状態にあったと認められる。)のに,その時点では,別件覚せい剤及び未開封の注射器のいずれも発見,領置されていない。このことは,その時点ではグローブボックス内に別件覚せい剤及び未開封の注射器が存在しなかったのではないかとの疑いを抱かせるものであって,被告人の逃走後に何者かがグローブボックス内に別件覚せい剤及び未開封の注射器を入れた可能性を否定できない。そして,そうであるとすれば,本件覚せい剤についても,被告人の逃走後に何者かが本件タバコの箱の中に入れたものである可能性を否定できないというべきである。
5 これに対し,前述のとおり本件自動車はその内部の捜索が行われた平成20年9月24日まで南署の車庫内にドアロックをするなどして保管されていた点が問題となるが,南署所属の警察官であれば,管理担当者の目を盗んで本件自動車の鍵を持ち出すことも可能であると考えられる上,Cによれば,車庫のシャッターが開いていることもあるというのであるから,警察官以外の何者かが鍵を用いずに本件自動車のドアを開けて本件覚せい剤を本件タバコの箱の中に入れるということも,可能性は低いとはいえ可能性がないとまではいえない。
6 また,前述のとおり,被告人は,捜査段階において,別件覚せい剤の所持については最後まで否認を貫く一方で本件覚せい剤の所持についてはこれを自白しているため,これをどのように捉えるかも問題となる。
 この点について被告人は,当公判廷において,平成21年3月15日の取調べが終わる際,Cから「タバコからもしシャブが出てきたらどうするんだ,それはもうおまえのって認めるんか」と言われたので,「タバコの中って言うんやったらわしのだがね」と答えたところ,翌16日,本件タバコの箱の中から覚せい剤が発見されたと言われ,実際にはそのような記憶はなかったものの,「おまえ胸の中に入れとったタバコやろうが」「そこから出てきたら言い訳のしようがないだろう」などと言われたので認めた旨供述しており,同日付けの被告人の警察官調書には「私のタバコの箱の中にあったということなら私のものと言うしかないし,そうであれば間違いありません。」との記載もある(弁6)。そうすると,本件タバコの箱の中に本件覚せい剤を入れたか否かについて明確な記憶のなかった被告人が,本件タバコの箱の中から本件覚せい剤が発見されたとの事実を突きつけられたために,明確に自己の犯行であることを否定することができず,虚偽の自白をするに至ったとも考えられる(なお,前述のとおり,被告人は同月18日に行われた検察官による取調べでも自白を維持しているが,同日付けの検察官調書にも「私が持っていた覚せい剤は,たばこの箱に入れていたものでした。普段でしたら,財布の中に入れ,常に身の回りに持っていたのですが,このときはたばこの箱に入れたのだと思います。」との記載があり,被告人が,本件タバコの箱の中に本件覚せい剤を入れたことについて明確な記憶があることを前提として供述しているのではないことがうかがわれる。)。したがって,自白が存在することをもって被告人が公訴事実記載の日時場所において本件覚せい剤を所持していたと認めることはできない。
7 以上のとおりであって,公訴事実記載の日時場所において被告人が本件覚せい剤を所持していたと認定するには合理的な疑いがあるというべきである。
平成22年1月26日
名古屋地方裁判所刑事第1部
裁判官  村瀬賢裕

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