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危険運転致死東京

東京高等裁判所判決/平成21年(う)第709号

主文

 本件控訴を棄却する。

理由

 本件控訴の趣意は,弁護人村山裕(主任)及び同羽倉佐知子が連名で作成した控訴趣意書,弁護人村山裕(主任)が作成した「控訴趣意書の補充書」と題する書面並びに弁護人村山裕(主任),同羽倉佐知子及び同高山俊吉が連名で作成した弁論要旨に記載されたとおりであり,これに対する答弁は,検察官小林健司作成の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。
 論旨は,要するに,原判決は,「被告人は,普通乗用自動車(スカイライン。以下「被告人車」という。)を運転中,被害者運転の自動二輪車(以下「本件バイク」という。)の通行を妨害する目的で,自車を時速約100kmを超える速度で運転しながら第3車両通行帯(以下「第3通行帯」のようにいう。)から第1通行帯に進路変更をし,本件バイクの直前に進入した上,同車に著しく接近しながら時速約90kmで並進し(以下,これらの被告人の運転行為を「本件妨害行為」という。),同車に急制動を余儀なくさせて走行の自由を失わせ,進路左側歩道上に設置された信号柱に激突させた(以下「本件事故」という。)」との事実を認定しているが,被告人は本件妨害行為をしておらず,被告人に本件バイクの通行を妨害する目的はもとよりその認識もなかった上,被告人の走行方法と本件事故との因果関係もなく,被告人は無罪であるから,危険運転致死の犯罪事実を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。
 そこで検討すると,原判決が掲げる証拠を総合すれば,原判示の事実を優に認めることができ,当審における事実取調べの結果によっても,この判断は動かない。以下,所論にかんがみ,補足して説明する。
1 本件事故現場に至る道路の状況等
 関係証拠によって認められる本件事故現場(被害者が信号柱に衝突した地点をいう。以下同じ。)に至る道路の状況は,おおむね,原判決が(事実認定の補足説明)第2の1において説示するとおりであり,これらの点については,争いはない。その要点は以下のとおりである。
① 本件事故現場は,××方面から高円寺方面に向かってほぼ南北に延びる片側3車線の道路(環状七号線。以下「本件道路」という。)の△△小学校前交差点(以下「本件交差点」という。)北側出口付近であり,最高速度が毎時40kmと指定されている。本件交差点手前付近の第1通行帯の幅員は2.8m,第2及び第3通行帯の幅員はいずれも3.0mであり,第1通行帯と左側の歩道との間(同歩道の車道側端)には,ガードパイプが設置されるとともに,随所に電柱や信号柱が設置されている。
② 本件道路を××方面から本件事故現場に向かって北進すると,まず,本件事故現場から約650m南方に○○交差点,同約400m南方に○○交番前交差点があり,更に進行すると,対向車線路外(東側)に「○○○店」があり,その付近の本件事故現場から約220m南方に横断歩道が設置されている。○○交差点から本件交差点に至るまではほぼ直線であるが,その後はやや右方に湾曲した形状になっている。
③ なお,被告人車は,幅179cm,長さ470cm,本件バイクは,幅90cm,長さ218cmである。
2 本件事故に至る経緯及び本件事故の状況等
(1) 本件事故に至る経緯及び本件事故の状況については,目撃供述として,被告人車及び本件バイクと同方向に走行していたE(以下「E」という。第1通行帯ないし第2通行帯をフェアレディZで走行)及びF(以下「F」という。第3通行帯をバスで走行)並びに本件交差点手前の左側歩道上にいた歩行者G(以下「G」という。)の各原審証言(以下,単に「証言」という。)並びにEらと同じく同方向に走行していたH(以下「H」という。第3通行帯をエルグランドで走行)の警察官調書(原審弁11号証)がある。これらの供述のうち自動車を運転していたE,F及びHについては,被告人車及び本件バイクがいずれも高速で走行していたことに加え,自らも相当の速度で走行中であったこと,相当離れた地点から同一方向に走行中の車両を目撃した(特に,E,H)とか,サイドミラー越しに目撃した(F)といった目撃時の視認条件の制約などから,その供述する各車両の位置,距離等については,相当の誤差があり得ることは当然であるが,Gを含む各目撃者の供述する本件事故に至る経緯及び本件事故の状況は,同人らの受けた印象を含めて,基本的にはよく合致しているということができ,いずれも被告人及び被害者とは利害関係のない第三者であって,これらの供述は,上記誤差の点を除き,基本的に信用できるといってよい。
 これらの目撃者の各供述から明らかな本件事故の状況は,概要,以下のとおりである。なお,被害者は,当時,血液1mlにつき0.6mgのアルコールを身体に保有していた。
① 被告人車が,○○交差点の第1通行帯で,信号待ちのため停止中,その前に本件バイクが割り込んで停止した。青信号で発進した後,被告人車は,のろのろと走行していた本件バイクに追従する形でしばらく高円寺方面に向かって進行したが,まもなく第2通行帯に進路を変更して時速100kmくらいに加速した上,更に第3通行帯に進路を変更して,先行していたEのフェアレディZを追い越し,その後もそのまま同程度の高速度で走行し,他方,本件バイクも,第1通行帯を同じような高速度で並進して走行した。 
② その後,被告人車は,第3通行帯から第1通行帯へ順次進路変更をして,本件交差点手前の停止線(以下「本件交差点前停止線」という。)の少し手前辺り(10ないし20m手前と認められる。)で,第1通行帯を上記のとおり高速で走行していた本件バイクの直前に進入するとともに,シフトダウンをして時速90kmくらいまで減速しながら,同通行帯を被告人車の左側に入り込んだ本件バイクと著しく接近した状態で(左右の車間距離は,最大11cm程度)並進した。
③ そのため,本件バイクは,急制動を掛けてバランスを崩し,自車を制御できない状態となって,本件交差点を通過した直後に,左側ステップ部分をガードパイプに接触させ,その先の信号柱に激突した。被告人車は,本件事故現場付近で停止することなく,高速度のまま第2通行帯に進路を変更して走り去った。
(2) ところで,所論は,原判決は,妨害行為についての被告人の認識を肯定するに当たり,被告人が第3通行帯から第1通行帯に車線変更を急激に行ったこと及び被告人が第1通行帯に進入した際減速を急激に行ったことをその根拠の一つとしているが,「急激な車線変更」も「急激な減速」もなかったと主張するので,以下,検討する。
ア 「急激な車線変更」はなかったとの主張について
Eは,原審公判において,被告人車は,第3通行帯の本件交差点前停止線から約59ないし74m(図面の縮尺から換算)南方の地点から車線変更を開始し,第1通行帯の同停止線から約10m(同)南方の地点で車線変更を完了した旨図示して証言しているところ,所論は,これは,四輪自動車の曲進性能に照らして不合理であり,原判決はこのE証言に依拠して被告人が「急激な車線変更」をしたと認定しているとして,原判決を論難しているが,原判決は,E証言の信用性を肯定しつつも,Eが証言する被告人車及び本件バイクの位置やこれらの車両と自車との距離関係等については,相当程度の誤差が生じるのはやむを得ないとした上,被告人車がEが図示した地点よりも相当程度××方面(南方)寄りの地点から車線変更を始めたものであったとしても,急激な車線変更といえるというものであって,所論は,原判決を正解しないものである。そして,被告人が第3通行帯から車線変更を開始した正確な地点は明らかでないものの,被告人が,捜査段階における実況見分の際指示した第3通行帯における車線変更開始地点(原審弁1号証添付の現場見取図⑨地点)から第1通行帯への車線変更完了地点(同⑫地点)までは,約127.4m,その途中の第3通行帯と第2通行帯をまたいだ状態(同⑩地点)から上記車線変更完了地点までは,約50mであること(なお,被告人は,原審公判においては,第3通行帯における車線変更開始地点は上記のとおりであるとしつつ,第2通行帯への車線変更を完了した地点として上記停止線から約76m(図面の縮尺から換算)南方の地点(Fが,第2通行帯を走行中の被告人車を見たと証言している地点に相当する。)を図示しているが,被告人の原審供述は,上記実況見分の際の○○交差点から第1通行帯への車線変更完了地点に至る各指示地点のうち第3通行帯から第2通行帯への車線変更完了地点のみを変更するもので,上記実況見分の際同地点のみを誤って指示したとみるべき合理的理由はなく,被告人の上記原審供述は信用できない。),被告人の指示地点についても正確性に問題があることはEらの証言等と同様であるものの,被告人が捜査段階において上記のような被告人車の走行方法を指示したことは,被告人においても,特に第2通行帯から第1通行帯への車線変更について,これを相当短い区間で行ったとの認識があったことを示すものということができることからすれば,被告人車のその時の速度にもかんがみてこれを急激な車線変更と認めた原判決の説示は相当である。
 なお,所論は,被告人車は本件バイクの直前には進入していないといい,この点に関し,Eは,捜査段階においては,被告人車が第1通行帯に進入した際の本件バイクとの車間距離を4mと指示していたともいうが,前記のとおりEの供述する距離の正確性には問題があるものの,被告人車が第1通行帯に進入したときの本件バイクとの車間距離について,Eは一,二メートルと証言しており,Fは更に近い位置関係を図示して証言しているから,被告人車が本件バイクの直前に進入したことは明らかである。また,所論指摘のE立会の実況見分調書(原審弁14号証等)によれば,Eが指示した4mというのは,被告人車の後端と本件バイクの運転席との間の距離であることが明らかであるから,本件バイクの車長(218cm)を考えると,捜査段階でEが指示した両車両の車間距離は3m程度になると思われ,いずれにしても本件バイクの走行速度からして直前であることに変わりはない。
イ 「急激な減速」はなかったとの主張について
 所論は,当審弁6号証によれば,走行中の乗用車がエンジンブレーキによって速度を時速10km減速するためには,約50mの距離が必要であり,そのような減速は「急速な減速」とはいえないというが,エンジンブレーキではフットブレーキによる急制動のような急激な制動効果は得られないものの,当審弁6号証は,トップギアで走行時にアクセルから足を離すことによるエンジンブレーキの効果を示したもので,シフトダウンをするなどしてより低速のギアを使用した場合にはより強いエンジンブレーキが働くことは明らかであり,しかも,被告人の原審供述によれば,被告人車のギアは前進5速で,本件時は,4速で走行中,第1通行帯に進入した後3速にシフトダウンしたのではないかというのであるから,本件時においても被告人車が時速10km減速するためには約50mの距離が必要であったかのようにいう所論に直ちに賛同することはできない。もっとも,Eは,「第1通行帯に進入するとき,被告人車は,後部が歩道側に振れるような形で,レースでアウトからインに入るような急激な曲がり方をするとともに急激な減速をし,これに対し,本件バイクはブレーキランプがつき,前輪がものすごく沈み,前輪に急ブレーキを掛けたことが確認できた。」旨証言しているのに対し,Fは,「スカイラインがクイックにハンドルを切ったことにより,左右に重心が移動して速く揺れるような動きをした。」とはいうものの,「急減速というよりはクイックにハンドルを切ったことの方が印象が強い。」旨E証言とはやや異なる証言をしている。シフトダウンをしたとしてもエンジンブレーキのみによって直ちに急激な速度低下を来すものではないから,速度が急激な割合で低下したかのようにもとれる原判決の表現が適切かどうかはともかく,100km近い高速で走行中,第1通行帯に進入した後シフトダウンをしてエンジンブレーキを掛け,その結果時速80ないし90kmくらいまで減速したことは被告人自身原審公判においても認めているところであって,第1通行帯に進入した際被告人がエンジンブレーキにより減速措置をとったことは明らかである。そして,その際の被告人車と本件バイクが極めて接近していたことは前記のとおりであるから,高速走行中の自動二輪車の直前に進入した上減速することは,エンジンブレーキによる減速であるとしても,極めて危険な運転方法であることは明らかであり,「減速を急激に行った」との原判決の表現もあながち不相当とはいえない。
3 被告人の妨害行為及び妨害目的の有無について
(1) 上記のとおり,被告人は,時速100kmくらいの高速度で被告人車を運転しながら,第3通行帯から,順次,第1通行帯に進路を変更し,第1通行帯を同じくらいの高速度で走行していた本件バイクの直前に進入した上,減速し,さらに,幅員2.8mの第1通行帯の中に幅179cmの被告人車を完全に入れて,幅90cmの本件バイクと左右の車間距離が約11cmくらいしかないと思われる著しく接近した状態で並進するという本件バイクにとって脅威となる極めて危険な運転をしたもので,これが客観的に見て本件バイクに対する妨害行為に当たることは明らかである。
(2) そして,被告人は,本件事故現場から約650m××方面(南方)寄りに位置する○○交差点の第1通行帯において,信号待ちのため停止中に本件バイクに割り込まれ,青信号で発進した後も,のろのろと走行する本件バイクに追従せざるを得ない状況にあったところ,まもなく本件バイクを避けて第2通行帯に進路を変更し,周囲の車両の運転者等からは被告人車と本件バイクが競争をしているようにみられるような異常な高速走行を続けた末,上記のような客観的に妨害行為と認められる運転をしたもので,このような高速走行に至った経緯及びその後本件事故に至るまでの被告人の走行方法に照らせば,特段の事情のない限り,被告人は,○○交差点で本件バイクに割り込まれるなどしたことに不快の念を抱いて,その走行を妨害する目的で,本件妨害行為に及んだものと推認される。そして,被告人が本件バイクの走行を妨害する目的を有していたことは,被告人自身,原審公判において,「○○交差点に至るまでは,特に飛ばしていた記憶はなく,環七は混雑しているところなので,普段は高速走行することはない。本件当時,自宅に帰るために運転していたが,急いで自宅に帰る必要はなかった。フェアレディZを追い越す必要や理由は特になかった。」,「スピードを出した一番初めのきっかけとしては,バイクに強引で危険な割り込みをされて,離れたいと思ったということはあると思う。」などと本件バイクに対する不快な感情が高速走行の契機となったことを認める供述をしていることからも明らかといえる。
 所論は,被告人は第1通行帯へ車線変更をした際本件バイクを認識していないと主張し,被告人は,原審公判において,「本件バイクを避けて第2通行帯に車線変更をしてから更に第3通行帯に車線変更をして第2通行帯を走行中のフェアレディZを抜くまでの間に第1通行帯を走行中の本件バイクは視界から消えており,その後は本件バイクは見ておらず,そばにいるとは思っていなかった。」旨これに沿う供述をしているが,被告人が終始本件バイクを意識して走行していたことは,○○交差点において本件バイクに割り込まれるなどしたこと及びその後本件事故に至るまでの被告人車の走行方法から明らかであって,被告人の上記弁解は到底信用できず,所論は採用できない。
 また,所論は,被告人車が第2通行帯から第1通行帯へ車線変更をしたのは,第2通行帯の先行車との衝突を回避するためであったと主張するが,衝突を回避するためには,異常な高速走行をやめればよいのであって,異常な高速走行を前提とする所論は採用できない。
4 本件妨害行為と本件事故との間の因果関係の有無について
 本件事故に至った前記経緯に照らせば,被害者は,自動二輪車で高速走行中に自車の直前に被告人車に進入され,さらに著しく接近した状態で並進されたため,被告人車との衝突を回避するために急制動の措置を講じることを余儀なくさせられ,自車を制御できない状態となって本件事故に至ったことが明らかであり,本件妨害行為と被害者の死亡との間に因果関係があることは明白である。
 所論は,被害者が自ら進んで被告人車と並進状態に入り,並進する中での判断も誤って急制動措置をとり,バランスを崩して本件事故に至ったと考えられると主張するが,自動二輪車で時速100km近い高速度で走行中に,同程度の高速度で走行中の車両の左側の自車の幅と比べて11cm程度しか余裕のないスペースに入り込むことが極めて危険であることはいうまでもなく,所論指摘のように当時被害者が血液1ml中0.6mgのアルコールを身体に保有していたことを考慮しても,被害者が自ら進んでそのような状況に入ったとの所論は,不合理というほかない。被害者は,自動二輪車で高速走行中,自車の直前に被告人車に進入された上,被告人車が減速したことによる速度差のため,被告人車の左側の狭いスペースに入り込まざるを得なかったと認めるのが相当である。
 以上のとおり,原判決に所論指摘の事実の誤認はなく,その他,所論がるる主張するところを検討しても,この判断は動かない。
 論旨は理由がない。
 よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
平成21年10月14日
東京高等裁判所第3刑事部
裁判長裁判官   金谷 暁
裁判官   山内 昭善
裁判官   古玉 正紀

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