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危険運転致死東京2

東京地方裁判所判決/平成19年(合わ)第506号

主文

 被告人を懲役4年6月に処する。
 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
 訴訟費用中,証人A,同B及び同Cに支給した分は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)
 被告人は,平成19年5月27日午前6時30分になる少し前のころ,普通乗用自動車を運転し,東京都杉並区和泉1丁目37番付近から同区和泉4丁目40番付近に至る片側3車線道路(環状七号線)上の第3車両通行帯を大原方面から高円寺方面に向かい進行中,同じ方向に第1車両通行帯を進行中のD(当時29歳)運転の自動二輪車の通行を妨害する目的で,自車を重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約100キロメートルを超える速度で運転しながら,第3車両通行帯から第1車両通行帯に進路変更をし,同自動二輪車の直前に進入した上,同自動二輪車に著しく接近しながら時速約90キロメートルで並進し,同自動二輪車に急制動措置を余儀なくさせて走行の自由を失わせ,同自動二輪車を同人もろとも進路左側歩道上に設置された信号柱に激突させて路上に転倒させ,よって,同人に胸腔内臓器損傷の傷害を負わせ,同日午前7時25分ころ,東京都新宿区西新宿6丁目7番1号所在の東京医科大学病院において,同人を上記傷害により死亡させたものである。
(証拠の標目)
※ 以下,括弧内の番号は,証拠等関係カードにおける検察官及び弁護人の各請求証拠のそれである。
・ 証人A,同B及び同Cの当公判廷における各供述
・ Eの司法警察員に対する供述調書(弁11)
・ 検察官作成の捜査報告書(5通,甲2,3,5,16及び20)
・ 司法警察員作成の写真撮影報告書(甲17),ビデオ撮影報告書(甲19)及び実況見分調書(2通,弁1及び12)
・ 東京都監察医林紀乃作成の死体検案調書(甲1)
・ 押収してあるDVD-RW1枚(平成21年押第31号の1)
・ 被告人の当公判廷における供述
(事実認定の補足説明)
第1 弁護人の主張
 弁護人は,被告人が,普通乗用自動車を運転中,自車線の前方に車両がいたことから車線変更をしたもので,被害者が運転していた自動二輪車(以下,「本件バイク」という。)を見ておらず,被告人には本件公訴事実記載の本件バイクに対する妨害目的がなかったばかりか妨害の認識すらなかったものであり,また,被告人の運転行為と本件バイクが信号柱に激突したこととの間には因果関係はない旨主張する。
 したがって,本件の争点は,第1に,被告人が妨害の認識をもって本件公訴事実記載の運転行為に及んだかどうか,第2に,被告人に妨害目的があったかどうか,第3に,被告人の運転行為と本件事故との間に因果関係があるかどうか,という3点であるところ,当裁判所は,本件において取り調べた関係各証拠を総合すれば,上記(罪となるべき事実)欄記載の犯罪事実が認められるものと判断したので,以下,その理由を補足的に説明することとする。
第2 前提事実
 上記(証拠の標目)欄記載の関係各証拠によれば,本件バイクが信号柱に激突した本件事故の発生場所(以下,「本件事故現場」という。)付近の道路状況及び本件事故に至る経緯について,以下のとおり,客観的な事実が認められる。
1 本件事故現場付近の道路状況
(1) 本件事故現場は,東京都杉並区和泉4丁目40番付近にある片側三車線の道路(環状七号線)上の方南小学校前交差点(以下,「本件交差点」という。)内にあり,その付近の道路は舗装され,制限速度が時速40キロメートルに指定されている。本件事故現場付近の第1車両通行帯の幅は2.8メートル,第2車両通行帯及び第3車両通行帯の幅はいずれも3.0メートルである。第1車両通行帯の路外には歩道があり,歩車道の間にはガードパイプが一部設置されるとともに,随所に電柱や信号柱などがあり,一部分には街路樹が植えられたりしている。
(2) 本件事故があった本件道路上には,本件交差点の手前(大原方面寄り)に,対向車線の道路脇にドンキホーテ環七方南町店がある辺りに横断歩道(以下,「ドンキホーテ先の横断歩道」という。)があり,その横断歩道は本件事故現場から約220メートル離れている。その手前には,泉南交番前交差点があって,同交差点(高井戸方面出口)は本件事故現場から約400メートル離れている。更にその手前には泉南交差点があって,同交差点(大原方面寄りの停止線)は本件事故現場から約650メートル離れている。本件事故があった道路は,大原方面から高井戸方面に向かって,泉南交番前交差点からしばらく走行した辺りからドンキホーテ先の横断歩道付近までは傾斜が約1パーセントの上り坂になっており,その付近を頂点として,今度は傾斜が約3パーセントの下り坂となり,本件交差点手前付近では傾斜が約2パーセントと緩やかになって,本件交差点を通過すると,再び傾斜が約1パーセントの上り坂になるとともに,それまでのほぼ直線道路が緩い右カーブとなっている。
2 本件事故に至る経緯
(1) 被告人は,本件当日(日曜日)午前6時30分になる少し前のころ,普通乗用自動車(市販されている車と比べると,前輪及び後輪ともに幅広のタイヤを装着し,サスペンションを換えて車高を低くし,マフラーの径を太くするとともに,車幅を1.79メートルに広く改造した総排気量が2490ccのスカイライン)を運転し,被害者は,本件バイク(車幅が0.9メートルで総排気量が670ccのオートバイ)を運転していた。被告人は,泉南交差点の第1車線で信号待ちをしていたところ,被害者の本件バイクがその前に停止した。両車両は,その後しばらく走行し,途中からは時速100キロメートルを超えるほどまで加速したりしながら本件事故現場となった本件交差点に向かって進行し,本件交差点の入口にある横断歩道手前の停止線(以下,「本件交差点前の停止線」という。)の少し前辺りで,被告人車両が第1車両通行帯を走行中の本件バイクの直前に侵入し,両車両は,同所付近から本件交差点の中の第1車両通行帯部分を並進した。その途中,被害者は,本件バイクの一部をガードパイプに接触させ,飛び上がるようにして本件バイクもろとも歩道上の信号柱に激突した。他方,被告人は,本件事故現場からそのまま加速して走り去った。
(2) 被害者は,その結果,本件当日午前7時25分ころ,東京医科大学病院において,胸腔内臓器損傷により死亡した。なお,被害者は,当時酒気を帯びた状態にあり,その血中アルコール濃度は,0.6mg/mlであった。
第3 妨害行為の存否(第1の争点について)
1 目撃者Aの証言内容
 Aは,当公判廷において,大略,次のように証言している。
(1) Aは,本件当日,普通乗用自動車(フェアレディZ)を運転して本件道路の第1車両通行帯を大原方面から高円寺方面に向かって走行中,泉南交差点で,前方の赤信号に従い同通行帯の先頭に停止し,被告人車両もA車両のすぐ後ろに一時停止した。
 Aは,信号が青になって発進するや,被告人車両に進路を譲るために第2車両通行帯に進路変更を行った。その際,Aがバックミラーで後ろを確認すると,いつの間にかA車両と被告人車両との間に本件バイクが割り込み,被告人車両が本件バイクに追走する形で第1車両通行帯をゆっくりと走行しているのが見えた。
(2) Aは,第2車両通行帯に移動してからは,時速約60キロメートルで走行していたところ,ドンキホーテ先の横断歩道に向けて坂を上がって行く途中で,いきなり後ろから爆音がしたので,右のフェンダーミラーで確認すると,先ほどまで第1車両通行帯を走行していた被告人車両が,第3車両通行帯を走行しているのが見え,すぐに被告人車両がA車両を高速で追い抜いて行った。
 Aは,被告人車両に気を取られ,その動きを目で追っていたので,第1車両通行帯を走行していた本件バイクにA車両がいつ抜かれたのか気が付かなかったが,ドンキホーテ先の横断歩道を過ぎた辺りで前方を見ると,約35メートルほど先に,第3車両通行帯を走る被告人車両と,第1車両通行帯を走る本件バイクに気が付いた。両車両は,どちらも時速100キロメートルを超えるような速度で走行しており,本件バイクの方が被告人車両の少し前に出ているものの,ほぼ並んでいる状態であった。Aは,両車両がともに異常な速度であり,被告人車両が本件バイクを追って競争しているような様子であったことから,その後も両車両をずっと見ていた。
(3) Aが,そのまま第2車両通行帯を走行していると,被告人車両は,本件交差点前の停止線から約60ないし70数メートル手前の辺りで,第3車両通行帯から第1車両通行帯に向けて急激に進路変更を始め,本件交差点前の停止線から約10メートル手前の辺りで,第1車両通行帯を走行中の本件バイクの一,二メートル前に進入し,その際,被告人車両は,その後部が歩道側(左側)に振れて流れるような状態で急激な減速を行ったため,本件バイクは,被告人車両の後部に突っ込みそうになり,急制動の措置をとったため,その前輪が前に沈み込みながら被告人車両の横に入り込んだ。Aは,被告人車両が,第1車両通行帯に入った際にそれまで車線変更をするために左に切っていたハンドルを右に切り,その後車体を立て直すために更にハンドルを左に切ったのが分かったものの,被告人車両が急激な減速をしたときには被告人車両のブレーキランプがついたのが見えなかったことから,被告人がエンジンブレーキを使うか何かして急激な減速をしたものと思った。
(4) 本件バイクは,被告人車両に割り込まれた直後からきりもみ状態となり,本件交差点に入ってからも,第1車両通行帯部分を被告人車両と並進しながら,ブレーキを踏んだままハンドルでその姿勢を立て直そうとしていたものの,車体が揺れてその操作ができず,次第に歩道の方に寄って行き,そのまま何かにぶつかり,飛び上がって前に回転するようになりながら信号柱に激突した。Aは,第2車両通行帯を本件交差点に向けて更に進行しながら,これらの状況を後方から見ていたもので,被害者が本件バイクもろとも信号柱に激突して土ぼこりのようなものが巻き上がったのを目撃すると同時に,大きな衝突音を聞いた。
2 Aの上記証言の信用性
(1) Aの上記証言の信用性について検討するに,Aの証言は,その根幹部分において,本件事故を目撃した他の者の供述と整合する内容のものであるということが指摘できる。まず,本件事故が発生した当時,ドンキホーテ先の横断歩道から本件交差点に向けて第3車両通行帯を時速約50ないし60キロメートルで大型観光バスを運転していたBは,当公判廷において,次のように証言している。すなわち,①Bは,本件交差点前の停止線から40メートル手前の辺りでサイドミラーを見ると,35メートルくらい後方の第2車両通行帯を時速100キロメートル前後の速度で被告人車両が走行してくるのに気付いた。②B車両は,ほどなく被告人車両に追い抜かれ,そのころ,Bは,左斜め前方の第1車両通行帯の真ん中を本件バイクが走行していることに気付いた。被告人車両と本件バイクは,ほぼ同様のスピードで走行しており,競い合っているかのように見えた。③被告人車両は,本件交差点前の停止線から15ないし20メートルくらい手前の辺りで,第1車両通行帯へ進路変更し,本件バイクのすぐ前方に入って行った。Bは,被告人車両が,第2車両通行帯と第1車両通行帯をまたぎながら,ハンドルを左,右,左,右と素早く切ったことから,その車体が左右に速く揺れるのを見た。④本件バイクは,被告人車両が第1車両通行帯に入ると同時に,歩道と被告人車両との間に吸い込まれるようにして入り込み,その後,被告人車両と並進状態になり,しばらく走行して本件交差点内で被告人車両と接触したかのように見えた途端,その車体がぶれ始め,何かに当たって飛び上がったようになって信号柱に激突した。以上がBの目撃証言であるが,ここでBの証言とAの証言とを対比してみると,被告人車両が高速で車線変更をしながら第1車線を走行していた本件バイクの直前に進入した上,著しく接近した状態でしばらく本件バイクと並進した状況について,細部にわたる点はともかくとして,両証言はほぼ同じ内容を供述していることが明らかである。次に,本件事故が発生した当時,本件交差点の歩道側から本件事故を目撃した歩行者のCは,当公判廷において,次のように証言している。すなわち,①Cは,被告人車両と本件バイクのエンジン音が聞こえたので,目をやると,両車両が,本件交差点前の停止線のほとんど直前(大原方面寄り)の辺りから,ほぼ第1車両通行帯の中をくっついているような状態で,時速100から90キロメートルくらいで並進してくるのが見えた。②その後,両車両は,それほど速度が落ちない状態でCが立っていた前を通過して行ったが,Cは,その際,本件バイクの前輪部が被告人車両の助手席辺りに位置した状態で,本件バイクが,エンジンブレーキをかけてふらふら左右にその車体を揺らしながら被告人車両と並進し,その後,信号柱に激突したのを見た。以上がCの目撃証言であるが,ここでCの証言とAの証言とを対比してみると,被告人車両と本件バイクが第1車両通行帯部分を著しく接近した状態でしばらく並進した状況について,細部にわたる点はともかくとして,両証言はほぼ同じ内容を供述するものであることが明らかである。そうすると,A,B及びCは,本件公訴事実記載の被告人車両による本件バイクに対する妨害行為が存在したことをいずれも証言するものであって,その点において,各証言は相互にその信用性を支え合っているものといえる。
(2) これに対し,弁護人は,Aが,被告人車両が第3車両通行帯から第1車両通行帯に直線的に斜行して車線変更をし,被告人車両が第1車両通行帯に進入した際には急激な減速をするとともに,被告人車両の後輪が横滑りをしたと証言しているところ,このAの証言は,Bの証言と異なっているのみならず,Cの証言とも整合的に理解できない旨主張する。しかしながら,まず,①車線変更の点についてみると,Aは,普通乗用自動車の運転席から前方を走行している被告人車両の動きを終始直接目で現認していたのに対し,Bは,大型観光バスの運転席から最初はサイドミラーで後方の被告人車両を視認し,被告人車両に追い抜かれてからは被告人車両を目で現認したものであって,両者は,被告人車両を目撃した視点の高さや目撃地点が全く異なっているのみならず,観察方法,目撃した時間の長さや観察の意識性の程度などにも違いのあったことがうかがわれるところ,これらの違いは,目撃者が,被告人車両がどの位置をどのような方角に向けて走行していたかを供述する上で,その正確性に大きな違いをもたらすものと考えられる。特に,Bが自車の走行中にサイドミラーで後方を確認して分かったという被告人車両の位置及びその進行方向についての証言はかなりの不正確さを含んでいるものとみるのが相当というべきである。そうすると,Aの被告人車両の車線変更の点についての供述がBのこの点の供述と食い違っているからといって,直ちに信用できないということにはならないというべきである。また,そもそもAにしろBにしろ,いずれも自車を時速60キロメートルくらいで運転中に被告人車両と本件バイクを目撃したものであって,両名が証言する両車両と自車の位置やその間の距離関係などについては,相当程度の誤差が生じるのはやむを得ないものと考えられるところ,AもBも,図示した地点についてはある程度のずれがあり得ること(A証言16頁)や,距離的には前後すること(B証言15頁)を留保しながら証言している。そして,被告人車両が,Aが証言時に図示した第3車両通行帯の地点から車線変更を始めたものであったとしても,あるいは,ある程度のずれを見込んでAが図示した地点よりも相当程度大原方面寄りの地点から車線変更を始めたものであったとしても,いずれにしても,被告人車両の車線変更時の速度にもかんがみると,Aが被告人車両の車線変更についてこれを急激な車線変更と表現したことは適切というべきである。次に,②急激な減速の点についてみると,確かに弁護人が指摘するように,Bは,「減速と言われると,もうちょっと記憶がないので,ただ,左右に振れたということだけが印象深く残っています。」(B証言28頁)などと述べて,被告人が急激な減速を行ったという事実については言及していない。しかしながら,Bは,被告人車両が第1車両通行帯に進入した際の動きについて問われると,「(被告人車両が)かなりクイックな感じで,ハンドルを,左に,右に,左に,切ったと思います。」,「左,右,左,右ですかね。」(同6,12頁等)とも述べており,これが,Aが証言する被告人車両に急激な減速があったとされる時期とほぼ同じ時点の出来事であることにかんがみると,Bにとっては,被告人のハンドル操作だけが強烈な印象として残ってしまい,そのほかのことが記憶されなかったということも多分に考え得るところであって,Bが証言するところは被告人車両による急激な減速があったことを否定する趣旨のものとは必ずしも解されない。それのみならず,この点に関しては,Bは,被告人車両が本件バイクの直前に進入した際,「バイクが進路が取れなくなって左に吸い込まれたような感じに入ってくるように見えました。」(同25頁)とも証言しているところ,この証言を,「スカイラインが減速をしてるところに,急ブレーキをかけながらバイクが入っていったんですよ。前に,すぽーんと入っていくんです。」(A証言36頁)というAの証言と照らし併せると,被告人車両による急激な減速の結果,本件バイクが被告人車両の脇に図らずも入り込んだ同じ光景を,両者がそれぞれ「吸い込まれ」あるいは「すぽーんと入って」というふうに各人各様に言い表したものとみることも可能であって,むしろ,Bの証言は,被告人車両の急激な減速行為をうかがわしめるものとして理解することができないものではない。更に,弁護人は,被告人車両が本当に急激な減速をしたのであれば,その急激な減速をしたという地点とそれほど離れていない地点である,Cが被告人車両と本件バイクとの並進状態を目の前で目撃した場所付近において,両車両が時速100ないし90キロメートルもの速度で走行することは不可能であったはずであると指摘して,Aの証言はCの証言とは整合的に理解することができないとも主張する。しかしながら,被告人車両が第1車両通行帯に入る直前の速度についてAが証言しているところも,目の前で目撃した被告人車両と本件バイクの速度についてCが証言しているところも,いずれもそれなりの幅や誤差が当然あり得ることをも考えると,Aの証言とCの証言とを整合的に理解することは可能というべきである。最後に,③弁護人が被告人車両の後輪が横滑りをしたとAが証言していると捉えている点についてみると,Aは,被告人車両が第1車両通行帯に車線変更した際に,被告人車両の後輪の方が歩道側に振れて流れるような状態になったと証言しているところ(A証言8頁),Bは,先にみたとおり,被告人車両がハンドルを左,右,左,右に素早く切ったため車体が左右に速く揺れるような動きをしたと証言しているのであるから(B証言6,12頁等),後方から被告人車両の動きを見ていたAが,被告人車両の後部が振れて流れるような,あるいは後輪が横滑りしているような印象を持ったとしても何ら異とするに足りない。その他,弁護人は,Aの証言が信用できないとしてAのほかの証言部分をも種々論難するとともに,Bの証言についても,被告人車両がハンドルを左,右,左,右に素早く切った旨証言する部分が信用できないと主張するのであるが,弁護人の主張に即して逐一検討しても,いずれもこれまで検討してきた判断を左右するような点は見当たらない(なお,Bが,被告人が2回にわたってハンドルを左,右,左,右に素早く切った旨証言しているという理解を前提とする弁護人の主張は,Bの証言を正解しておらず,その前提においてすでに失当というべきである。)。したがって,Aの証言がBやCの各証言に照らして信用できない旨の弁護人の主張はいずれも採用できない。
(3) Aは,本件とは何ら利害関係がない純粋な第三者であって,殊更虚偽供述をするような動機は全く見当たらない。また,Aは,異様な高速で並走し,まるで競争しているかのような被告人車両と本件バイクの様子を継続して注視していたことが認められるところ,後方からの目撃ではあるものの,本件事故発生当時は日曜日の早朝でそれほど走行中の車が多くなかったことがうかがえ,その視認条件にも格別問題は見当たらない。上記1でみたAの証言は具体性に富み,聞いた者をしてAが目撃した状況がほぼ一義的に頭に浮かぶようなものといえる。更に,Aは,進路変更の際に被告人車両の方向指示器が出ていたのを見た記憶はあるか,と問われると,「ありません。」と繰り返し答えるなど(A証言8,51頁),記憶にないこととあることを明確に区別して証言しようとしているばかりか,被告人車両が進路変更を始めた地点などについて図示するように求められると,幅をもった記載をした上,「大体この辺りです。」と述べる(同10頁以下)など,曖昧なところはその旨断って証言しようとしており,自己の思い込みで不正確なことを断言するようなところはあまり見受けられず,Aは,証言時の記憶に従って誠実に供述しているものとみられる。加えて,Aは,本件事故発生時の状況については,「非常に衝撃的だったものですから,そこの短い時間なんですけど,目に焼きついてしまったんですね。・・・ですから,全部その前後も焼きついたような形で,そこからしばらくの間走行できる状況ではなくて,一瞬車をちょっと止めましたけど。」(同51頁)と述べ,更に,「・・・僕は,何回も毎週日曜日ここを車で走って,この時点で,ここでというのが,今でもシーンで見えますから。」(同41頁)などと述べており,Aが本件事故に遭遇して,一時走行不能になるほどのショックを当時受けながらも,その後も当時の状況について記憶の喚起,保持に努めてきたことがうかがわれるのであって,これらの事情に照らすと,本件事故発生時の状況については,事故から1年以上が経過していたものの,証言時にもその記憶はあまり減退していなかったものと考えられる。
 これに対し,弁護人は,A車両が本件バイクに追い抜かれたことに関する点については,Aが,捜査段階では,その位置まで指示説明していたのに(弁13,14号証),当公判廷では,本件バイクに追い抜かれたこと自体についてすら気付かなかったと証言していることや,被告人車両が第3車両通行帯から車線変更を開始した位置に関する点については,捜査段階で実施された2回にわたる実況見分(弁14,16号証)のときのAの指示説明の間にはすでに50メートル以上の違いがあったことなどを指摘して,Aの供述には看過し難い矛盾や変遷がある旨主張する。しかしながら,まず,①A車両が本件バイクに追い抜かれたことに関する点ついてみると,この点については確かに弁護人が指摘するような供述の変遷がみられるものの,Aは,本件事故発生当時衝撃を受け,その後も記憶の喚起,保持に努めてきた本件事故発生時の状況とは異なり,ドンキホーテ先の横断歩道に至る上り坂で本件バイクに追い抜かれたことについては,その記憶に減退が起きてもおかしくないと考えられる。次に,②被告人車両が第3車両通行帯から車線変更を開始した位置に関する点についてみると,この点についても確かに弁護人が指摘するような供述の変遷がみられるものの,Aは,このような違いが生じた理由について,当公判廷において,1回目の実況見分のときは道路を歩きながら立った状態で指示説明をしたのに対し,2回目の実況見分のときは,実際に車に乗って目撃した当時の視線の高さや動きに合わせて指示説明をしたため,2回目の実況見分調書の内容の方が正確であると証言しているのであって(A証言25,45頁),かかる説明は合理的で是認できるものというべきである(なお,被告人自身も,弁1号証の実況見分時と被告人質問時における指示地点の違いについて,実況見分時の指示説明を行ったときに乗車した警察車両との違いから生じた視点の高さや速度の違いを理由として挙げているところである。第3回被告人質問33頁)。したがって,Aの供述に変遷がある部分については納得できる理由があり,いずれの点も,上記(1)でみた根幹部分についてのAの証言の信用性を揺るがすようなものとはみられない。
(4) このようにみてくると,Aの証言は,弁護人の種々の論難にもかかわらず,高い信用性を有するものというべきである。
3 考察
 以上によれば,被告人が被告人車両を運転中に,第3車両通行帯から車線変更を行って第1車両通行帯を走行していた本件バイクの直前に進入した上,本件バイクに著しく接近して並進したという本件公訴事実記載の犯罪事実が優に認定できることから,被告人は,客観的にみて,本件バイクに対して妨害行為に当たる運転行為に及んだといえることになる。そして,被告人が,主観的にみて,本件公訴事実記載の妨害行為に及ぶ認識をもっていたといえるかどうかという点についても,被告人車両が本件バイクと接触することなくその直前に進入したり,著しく接近しながらも,幅1.79メートルの被告人車両が幅0.9メートルの本件バイクと幅2.8メートルの第1車両通行帯部分を接触することもなく高速で並進したりできたことは,被告人が本件バイクを認識していなかったとすれば,そう起きそうもない偶然が重なったというほかないことになるのであるから,上記認定の犯罪事実それ自体から,被告人にかかる認識があったことが強く推認できると考えられる。そして,それのみならず,被告人が,被告人車両が本件バイクとほぼ並んだ状態になったときに第3車両通行帯から第1車両通行帯に車線変更を急激に行い,第1車両通行帯に入った際には減速を急激に行ったという,これまで検討してきたところから認定できることが明らかな事実や,上記第2の2の(1)でみた本件事故に至る経緯に関して,被告人車両が,泉南交番前交差点を過ぎた辺りから,本件バイクが先行しながらも本件バイクと高速で競争し合うかのような進行をしながら本件交差点前の停止線の手前にまで至ったという,Eの後記4でみる供述によって認定できる事実関係をも加えて考察すると,特段の事情がない限り,被告人には本件公訴事実記載の妨害行為に及ぶ認識があったということが優に推認できるというべきである。
4 被告人の供述の信用性
 この点について,弁護人は,被告人が,泉南交番前交差点からドンキホーテ先の横断歩道に至るまでの間に,地点ははっきりしないものの,被告人車両が本件バイクを追い抜いたと供述していること(第3回被告人質問27,48,73頁等,第4回被告人質問1,11頁等)を前提として,被告人は被告人車両が本件バイクを追い抜いてからは本件バイクに気付かないまま走行して本件交差点を通過したもので,車線変更をしたときにも,本件バイクは被告人車両の死角に入るなどして見えなかった可能性があると主張する。しかしながら,被告人の上記供述は,上記1の(2)でみたAの証言に反しているばかりか,泉南交番前交差点に赤信号に従って第3車両通行帯に停止した後,発進して走行中に本件バイクや被告人車両に追い抜かれ,その後,本件事故の発生を目撃したというEの供述にも反している。なぜならば,Eは,①Eが信号が青に変わって泉南交番前交差点前の停止線から発進してすぐに,本件バイクが第1車両通行帯を時速100キロメートルを超える速度で,しかも後部を浮かすような格好で走り抜ける様子を目撃し,更に,Eが時速40ないし50キロメートルで30メートルくらい走行したときに,被告人車両が第2車両通行帯をやはり時速100キロメートルを超える速度で走り抜けるのを目撃した,②Eは,その後,被告人車両が第2車両通行帯を先行していたフェアレディZに追い付いたため第3車両通行帯に車線変更をしたのを目撃した,③本件バイクと被告人車両とはレースをしているような感じでドンキホーテ先の横断歩道付近を超えて行き,後方を走行していたEには直ぐに見えなくなった,④Eは,ドンキホーテ先の横断歩道付近まで走行したときに,本件交差点内で本件事故が起きたのを目撃した,などと供述しているところ(弁11,12号証),Eは,泉南交番前交差点からドンキホーテ先の横断歩道に至る間に被告人車両が本件バイクを追い抜いたとは供述していないことが明らかであるからである。また,被告人は,当公判廷において,被告人が第3車両通行帯から第1車両通行帯にかけて車線変更をした際には,第3車両通行帯から第2車両通行帯に車線変更したときにも,第2車両通行帯から第1車両通行帯に車線変更したときにも,いずれも,ルームミラーとサイドミラーで被告人車両の左後方を確認しただけでなく,更には直接目視して確認したと供述しているところ,本件バイクが被告人車両の左後方の第1車両通行帯を走行していたのであれば,被告人が上記のような後方確認を尽くせば,本件バイクに全く気付かなかった,ということは考えにくいことといわなければならない。更にいえば,被告人車両が,本件交差点前の停止線の手前で本件バイクの直前に侵入した後の,被告人車両と本件バイクの並進状態は,先にみたCの証言のとおりであったと認められるところ,それによれば,本件バイクの前輪部が被告人車両の助手席側に位置しながら,本件交差点の中を少なくとも20メートルくらい並進したことになるから,被告人がその間に左横を並進している本件バイクに全く気が付かなかったというのも不自然さを免れないというべきである。
 このようにみてくると,被告人の上記供述は極めて信用性が乏しいというべきである。
5 小括
 以上によれば,被告人の上記4でみた供述は,被告人には本件公訴事実記載の妨害行為に及ぶ認識があったとの上記3でみた推認を妨げるものとはならず,本件証拠を精査しても,その他に上記推認を妨げる特段の事情はうかがえない。したがって,被告人が妨害の認識をもって本件公訴事実記載の本件バイクへの妨害行為に及んだという事実が認められる。
第4 妨害目的の存否(第2の争点について)
1 問題の所在
 弁護人は,被告人は,第3車両通行帯にも第2車両通行帯にも前車があったので,被告人車両がそのまま追走するには速度差があり過ぎ,急制動措置をとらなければならなかったのでそれを避けるため,車の流れに沿って車線変更をしただけであり,第1車両通行帯に入ってからは,本件交差点のカーブに合わせて減速した上,進行しただけであるなどと主張し,被告人も,当公判廷において,①被告人が第3車両通行帯から第1車両通行帯に車線変更したのは,第3車両通行帯にも第2車両通行帯にも前車があって,そのままだと結局追突してしまうと思ったからである,②被告人は,第3車両通行帯には前車(バス)が近くを走行していたのに対し,第1車両通行帯には車が走行していなかったので,第1車両通行帯の方が安全と判断して第2車両通行帯から第1車両通行帯に車線変更をしたが,本件交差点が右カーブであり,第2車両通行帯には車が走行していて先が見通せない状態にあったため,緩やかに減速した上,本件交差点の中で第2車両通行帯を走行していた車を追い抜いたなどと供述している(第3回被告人質問32,34,35,37,38,73,74頁等,第4回被告人質問18,19,21,22頁等)。そこで検討すると,被告人は,被告人が本件バイクの存在に気付いていなかったということと併せて,上記のように供述するものであり,弁護人も,被告人が本件バイクの存在に気付いていなかったということと併せて,上記のように主張するのであるが,そもそも被告人が本件バイクに気付いていなかったとの被告人の供述は信用できず,その旨の弁護人の主張も採用できないことは,上記第3の4でみたとおりである。しかしながら,翻って考えてみると,刑法208条の2第2項前段にいう「通行を妨害する目的」とは,相手方に自車との衝突を避けるために急激な回避措置をとらせるなど,その自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいうものと解されるところ,本件においても,被告人が供述する上記のような状況があったとすれば,被告人が車線変更をしたことにはやむを得ない事情があったともみることができ,被告人に本件バイクの通行を妨げる積極的な意図まではなかったとみることもできることとなる。そうすると,上記第3で検討したとおり,被告人に本件公訴事実記載の妨害行為に及ぶ認識があったと認められる本件においても,被告人に妨害目的があったかどうかという点を更に検討する必要があると考えられる。そこで,以下では,まず,被告人に妨害目的があったことを推認させる積極的な間接事実について検討を加え,次に,被告人の上記供述の信用性について検討を加えることとする。
2 積極的な間接事実
(1) まず,本件事故に至る経緯及び本件事故発生直前の状況に関する客観的な事実関係それ自体が,被告人に本件バイクの通行を妨害する目的があったことをうかがわしめるに十分なものである,ということが指摘できる。すなわち,本件事故に至る経緯(上記第2の2の(1))に関して,上記第3の3及び4でみたとおり,被告人は,泉南交番前交差点を通過してから,第3車両通行帯に移動して被告人車両を時速100キロメートルを超えるほどの速度で運転し,同じような速度で第1車両通行帯を先行している本件バイクと競い合うかのような走行をしていた事実が認められるところ,更に,上記第3の1及び2で検討したところによれば,被告人車両は,ドンキホーテ先の横断歩道を過ぎて,第1車両通行帯を走行している本件バイクとほぼ並ぶような状態になった後,第3車両通行帯から第1車両通行帯に車線変更を急激にし,第1車両通行帯を走行していた本件バイクの直前に進入した上,減速を急激にし,その後被告人車両の横に入り込んだ本件バイクと著しく接近した状態のまま第1車両通行帯部分を並進した,という事実が認められるのであって,このような一連の事態は,被告人に本件バイクに対する認識はもとより,その通行を妨げる積極的な意図がなければ,起こらなかったものと考えられるから,本件においては,上記の客観的な事実関係それ自体から,特段の事情がない限り,被告人に本件バイクの通行を妨げる積極的な意図があったことが推認できるというべきである。
(2) 次に,被告人に本件バイクの通行を妨げる運転をする動機や理由があったかどうかという点についてみると,本件公訴事実は,この点について,被告人が被害者の本件バイクの走行方法に立腹して妨害行為に及んだものとしている。確かに,上記第3の1の(1)でみたAの証言によれば,被告人車両が,泉南交差点で信号に従って一時停止してから発進した直後に,本件バイクが被告人車両の前をゆっくりと走行しており,被告人車両は本件バイクを追走する状態にあったことが認められるところ,被告人は,当公判廷において,被告人が泉南交差点から発進しようとしたとき,本件バイクが被告人車両の前に突然割り込んできたもので,その際,「自分が気付かないでそのまま発進していたらぶつかってしまうような,そういう危険な割り込み方をなんでこのバイクはしているんだ」と思ったので,そういうのが理解できず,「いらっとした」と供述し(第3回被告人質問11頁等),泉南交差点を過ぎた後も本件バイクが被告人車両の前をほかの車より遅い速度で運転をしていたので,第2車両通行帯に車線変更をしたとも述べているのであるから(第4回被告人質問1,2頁),被告人がこれらの時点において,本件バイクに対して少なからず不快感をもっていたことがうかがえるところである。しかしながら,そうであるからといって,直ちに本件公訴事実記載のとおり,被告人が被害者の走行方法に立腹して妨害行為に及んだとみるのは,証拠関係上,早計のそしりを免れないというべきである。他方において,上記第3の4でみたとおり,Eは,本件バイクが第1車両通行帯を時速100キロメートルを超える速度で,しかも後部を浮かすような格好で走り抜け,引き続いてすぐ,被告人車両も第2車両通行帯を同様の速度で走り抜ける様子を目撃したと証言しているところ,そうであるとすれば,被害者が被告人を挑発してスピードレースを挑んだ結果,被告人が本件バイクを追いかけ,ついにはその通行を妨害する運転行為にも及んだのではないかとみることもできるところである。しかしながら,ここで重要なのは,被告人が被害者の走行方法に立腹したものであろうと,被害者から挑発された結果であろうと,いずれにしても,必ずしもその推認力は決して大きいとはいえないものの,被告人が本件バイクの通行を妨害しようとの意思をあらかじめもっていたのではないかとみてもおかしくない状況があったことである。したがって,この点も,被告人に本件バイクの通行を妨害する目的があったことをうかがわしめる事実ということができることになる。
3 被告人の供述の信用性
 被告人に妨害目的がなかったという点についての被告人の供述は,上記1でみたとおりである。そもそも,被告人の上記供述は,被告人には本件バイクに対する認識がなかった旨の被告人の上記第3の4でみた供述とワンセットになったものであるところ,被告人には本件バイクに対する認識がなかった旨の供述は信用性が乏しいものであることは,先に検討したとおりであるから,これと一体をなす被告人の上記供述もそもそも信用性が乏しいものというほかないのであるが,ここでは,一応そのことはさて措き,妨害目的を否認する被告人の上記供述に焦点を当てて,更にその信用性に検討を加えることとする。まず,①被告人は,第3車両通行帯にも第2車両通行帯にもいずれも前車があったので,第3車両通行帯から第1車両通行帯に車線変更をしたものである旨供述するのであるが,この点について,被告人は,当公判廷においては,そもそも,被告人が第3車両通行帯から車線変更を始めた時点で前車がどの地点を走行していたのか覚えていないし,第2車両通行帯に入ったときに第2車両通行帯の前車がどの地点を走行していたのかも覚えていない旨供述している(第3回被告人質問31,34頁等)。したがって,被告人のこの点の供述はあくまで感覚的なものにとどまっているものというほかない。しかしながら,他方で,被告人は,捜査段階においては,実況見分が実施された際に,第3車両通行帯から車線変更を始めた時点では,第3車両通行帯の前車は105メートルほど先を走行し,第2車両通行帯の前車は127メートルほど先を走行していた旨指示説明したことが認められる(弁1号証)。もしこの実況見分の際の距離関係のとおりであったとすると,前車がともに時速約60キロメートルで走行中であり,被告人車両が時速約100ないし110キロメートルで走行中であったとして,仮に被告人車両と前車との速度差が時速にして50キロメートルほどあったと仮定しても,被告人車両が急制動措置をとらなければ前車に追突してしまうというほどの状況にはなかったと考えられることになる。そうすると,いずれにしても,この点についての被告人の供述は信用できるものとはいえない。次に,②被告人は,第2車両通行帯を走行中,第3車両通行帯には前車(バス)が近くを走行していたのに対し,第1車両通行帯には車が全く走行していなかったので,第1車両通行帯の方が安全と判断して第1車両通行帯に車線変更をし,本件交差点が右カーブで,かつ第2車両通行帯を走行する車で先が見通せなかったため,緩やかに減速をした上,第2車両通行帯を走行していた車(甲車)を追い抜いたと供述する。しかしながら,被告人が緩やかな減速しかしなかったというこの供述は,上記第3の2でみたとおり,信用性が高いAの証言(上記第3の1の(3)の部分)に反していることが明らかであって,やはり信用することができないものといわざるを得ない。
4 小括
 以上によれば,被告人の上記1でみた供述は信用できず,被告人に妨害目的があったとの上記2でみた推認を妨げるものとはならないことは明らかで,本件証拠を精査しても,その他に上記の推認を妨げる特段の事情はうかがえない。したがって,被告人が妨害目的をもって本件公訴事実記載の本件バイクへの妨害行為に及んだという事実が認められる。
第5 因果関係の有無(第3の争点について)
 弁護人は,本件バイクが急制動措置をとってバランスを崩した位置は,Aが上記第3の1の(4)で証言する地点ではなく,BとCがほぼ一致して証言する地点であって,被害者は,本件交差点に入って被告人車両と並進中に,本件バイクが右にカーブしており,そのまま進行すると信号柱のある歩道部分に衝突すると自ら判断し,急制動の措置をとったためバランスを崩して本件事故を起こしたものであって,被害者がそのような判断をした背景には,被害者が飲酒によって酩酊状態にあった影響の可能性が否定できないから,被告人車両が第1通行帯に進入したことや本件バイクと並進したことと,本件バイクが信号柱に激突したこととの間には因果関係がない旨主張する。
 しかし,上記第3及び第4で認定した事実にかんがみると,本件バイクが急制動措置をとってバランスを崩した位置がAが証言する位置であったかどうかはともかくとして,被害者にとって,自車(本件バイク)の直前に突然被告人車両が進入してきた上,急激な減速をするようなことは想定外の事態であったものとうかがわれ,被害者は,かかる被告人の運転行為によって被告人車両と著しく接近したまま本件バイクを並進させなければならない状態に陥り,いわば逃げ場がない状況下で並進中に急制動措置をとることを余儀なくさせられたものであることが明らかであるから,本件事故が,弁護人が主張するごとく被害者自身の判断の結果によるものであるということはできない。なお,被害者は,当時酒気を帯びて本件バイクを運転していたことが認められるものの,アルコールの体内保有量(酩酊度)は第1度(微酔)の中でも軽度の域にあったもので,本件事故現場近くには被害者の住居もあって,日頃通り慣れたはずの道路を,本件当日もそれまで事故も起こさずに本件交差点まで走行してきた被害者が,自らの判断で本件交差点のカーブに対処することができないほどの酩酊状態に陥っていたものとは考え難い。
 このようにみてくると,本件バイクが本件事故を起こした原因は,本件公訴事実記載の被告人による妨害行為によるものと優に推認することができるから,被告人の運転行為と本件事故との間に因果関係が認められることは明らかである。
第6 結論
 以上によれば,弁護人の主張はいずれも採用できず,被告人が上記(罪となるべき事実)欄記載の犯行に及んだことが認められる。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法208条の2第2項前段,第1項前段(人を死亡させた場合)に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役4年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中180日をその刑に算入し,訴訟費用中,証人A,同B及び同Cに支給した分は,刑事訴訟法181条1項本文によりこれらを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転していた際に,被害者が運転する本件バイクの通行を妨害する目的で,時速約100キロメートルを超える速度で自車を運転しながら,第3車両通行帯から第1車両通行帯に進路変更をし,本件バイクの直前に進入した上,本件バイクに著しく接近しながら時速約90キロメートルで並進し,本件バイクに急制動措置を余儀なくさせて走行の自由を失わせ,本件バイクを被害者もろとも信号柱に激突させて路上に転倒させ,被害者を死亡させた,という危険運転致死の事案である。
2 被告人は,高速で自車の急激な車線変更を開始し,本件バイクの直前に自車を進入させて急激な減速を行った上,本件バイクに著しく接近したまま高速で並進したものであって,かかる妨害行為の態様は,危険性が極めて高く,悪質性が際立った無謀極まりないものというほかない。被告人は,高い運転技術を有しているものとうかがえるが,本件のような形でその運転技術を悪用したことは厳しい非難を免れない。その結果,被害者は,本件バイクもろとも飛び上がって回転しながら信号柱に激突し,胸腔内臓器損傷の致命傷を負って,わずかその1時間後に死亡するに至っているのであって,その結果は極めて重大である。これから夢も希望もあったであろう被害者が,29歳にして,突如本件被害に遭って絶命せざるを得なかった無念は察するに余りある。被害者の実父は,息子に先立たれた悲しみに耐えながら,生前に約束していた母親との再会をも果たせないまま息子が突如として逝ってしまったことに痛切な思いを抱いている。被告人は,捜査段階から一貫して本件バイクに気付かなかった旨供述するなどして,不合理な弁解に終始し,反省の情を看取することはできない。このような被告人の態度を目の当たりにした遺族の怒りも大きく,被告人に対して厳しい処罰感情を抱くのも至極当然といえる。本件犯行は,被告人が,被害者の本件バイクの走行方法に立腹するか,あるいは,被害者から挑発されスピードレースを挑まれるかしたことから,敢行されたものとうかがえるが,いずれにしても,本件犯行に至る経緯に酌量の余地は乏しい。これらの点に照らすと,被告人の刑責は相当重いというほかない。
 そうすると,本件は機会的な犯行で計画性までは認められないこと,先にみたとおり,被害者の運転にも問題がなかったとはいえないこと,被告人には,平成17年11月に道路交通法違反(指定速度違反)の罪により罰金刑に処せられたもの以外には前科がないこと,被告人車両には自動車損害賠償責任保険のほかに任意保険が掛けられており,過失相殺も考慮した上での賠償義務の履行が見込まれること,被告人がいまだ若いことなど,被告人のために斟酌すべき諸事情を十分考慮しても,その刑責の重さにかんがみると,主文の刑は免れないものというべきである。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役6年)
平成21年3月30日
東京地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官   波床昌則
裁判官   丸山哲巳
裁判官   豊島栄子

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