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危険運転致死千葉

千葉地方裁判所判決/平成17年(わ)第314号、平成17年(わ)第459号

主文

 被告人を懲役20年に処する。
 未決勾留日数中220日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)
第1 被告人は,公安委員会の運転免許を受けないで,平成17年2月5日午後9時16分ころ,千葉県山武郡松尾町下野〈番地略〉付近道路において,普通乗用自動車を運転した。
第2 被告人は,前記第1記載の日時の少し前ころ,千葉県山武郡蓮沼村ニの〈番地略〉付近道路において,運転開始前に飲んだ酒の影響により前方注視及び運転操作が困難な状態になっていた。そうであるにもかかわらず,そのようなアルコールの影響により正常な運転が困難な状態で運転を継続し,時速約70キロメートルで前記普通乗用自動車を走行させたことにより,前記第1記載の日時及び場所において,自車を道路左外側線側に進出させ,道路前方左側端を同一方向に歩行中の甲野太郎(当時59歳)ほか7名に自車前部等を順次衝突させ,甲野らを跳ねとばして路上に転倒させた。その結果,被告人は,甲野ほか3名にそれぞれ別紙一覧表1記載の各傷害を負わせ,同表記載の日時及び場所において,甲野らをそれぞれ前記各傷害により死亡させ,乙原春子(当時59歳)ほか3名にそれぞれ別紙一覧表2記載の各傷害を負わせた。
第3 被告人は,前記第1記載の日時及び場所において,前記第2記載のとおり,前記普通乗用自動車を運転して甲野太郎らに傷害を負わせる交通事故を起こしたのに,直ちに車両の運転を停止して甲野らを救護する等必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。
第4 被告人は,同日午後10時すぎころ,千葉県山武郡成東町上横地〈番地略〉所在の有限会社A鈑金工業駐車場内において,駐車中の同社が所有する普通乗用自動車1台(時価約3万円相当)を窃取した。
第5 被告人は,公安委員会の運転免許を受けないで,同日午後10時23分ころ,千葉県山武郡山武町矢部〈番地略〉付近道路において,前記第4記載の自動車を運転した。
(証拠の標目)〈省略〉
(事実認定の補足説明)
1 被告人は,公判段階において,判示第2の事実について,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させてはいないし,自動車を道路左外側線側に進出させてもおらず,自動車を走行させた速度も時速70キロメートルまで至っていなかった旨供述し,判示第3の事実について,人に傷害を負わせる交通事故を起こしたことは認識していなかった旨供述しており,弁護人も,これに沿って,被告人は,判示第2の事実については業務上過失致死傷罪が成立するにとどまり,判示第3の事実については無罪である旨主張している。
 そこで,判示のとおり認定した理由を補足して説明する。
2 判示第2の事実
(1)被告人の飲酒量
 被告人は,判示第1ないし第3の事実の当日,死亡した友人丙山次郎の49日の法要後に行われた供応に出席するため,自動車を運転して,千葉県山武郡蓮沼村の丁川三郎方に赴き,そこで飲酒した帰途,判示第2の事故を起こしているところ,自動車の運転を開始する前に,グラスで発泡酒を1杯,大きめのビールグラスで焼酎の水割りを2杯飲んだことは認めているが,日本酒については,捜査段階で,5合から6合飲んだ旨供述しているのに対し,公判段階では,4合しか飲んでいない旨供述している。
 そこでこれらの供述の信用性について検討すると,被告人の捜査段階の供述は,気の合う人が大勢いたので,普段より多く飲んでしまったという具体的なものである上,被告人の飲酒量を捜査した警察官戊谷五郎が,公判段階で,被告人は,捜査段階で,一貫して日本酒を5合から6合飲んだ旨供述しており,丁川三郎に確認した当夜日本酒の瓶に残っていた日本酒の量,その瓶から丁川が飲んだ日本酒の量に照らして,被告人が日本酒を5合から6合飲んでいたとしても矛盾しないことを確認した旨供述しているのと符合している。
 これに対し,被告人は,公判段階において,捜査段階では,4合くらい飲んだ旨供述したのに,警察官が信用してくれなかったが,どのような経緯で調書に5合から6合と記載されたのかは覚えていないなどと弁解している。しかし,日本酒を5合から6合飲んだか4合しか飲まなかったかによって,自動車の運転に対する影響に大きな差異があったとはいえないにもかかわらず,警察官が,ことさら,日本酒についてだけ,4合以上飲んだはずであるなどと追及してきたというのは不自然である。しかも,被告人は,接見する弁護人に相談することができたにもかかわらず,そのような相談をすることなく,警察官から追及されて日本酒を5合から6合飲んだと認めた理由について,首肯できる説明をしていないから,被告人の公判段階の供述は信用できない。
 そうすると,被告人は,自動車の運転を開始する前に,グラスで発泡酒を1杯,大きめのビールグラスで焼酎の水割りを2杯,日本酒を5合から6合飲んだものと認められる。
(2)被告人が自動車の運転を開始する前の状況
 丙山夏子は,捜査段階で,被告人が,自動車を運転して帰宅する前,49日の法要後の供応であるにもかかわらず,丙山らをしつこくカラオケに誘ってきた上,ズボンのポケットに両手を入れた状態で身体を前後に揺らしていたことから,だいぶ酒が回って酔っているのかなと思った旨供述している。
 これに対し,丙山は,公判段階では,被告人は,カラオケが好きだった故人のことを思って,カラオケに誘っているようであり,寒かったので,多少震えるような感じで体を揺らしていたにすぎない旨供述している。
 そこで,これらの供述の信用性を検討すると,丙山の捜査段階の供述は,丙山には被告人に不利な虚偽を述べなければならない事情がなく,被告人が酩酊していたことについて具体的で特徴的な根拠を挙げて説明していることからすると,信用できる。これに対し,丙山の公判段階の供述は,被告人の様子はよく分からなかったなどとして,被告人の供述をあいまいに否定するにとどまり,捜査段階で被告人に不利な供述をした理由について,首肯できる説明をしていないから,信用できない。
 そうすると,被告人は,自動車の運転を開始する前に,飲酒して第三者から見て分かるほど平衡感覚を保てない状態にあったものと認められる。
(3)被告人が自動車の運転を開始した後の状況
ア 被告人は,捜査段階で,大要,以下のとおり供述している。
 自動車の運転を開始してから,酒の影響で酔いが回ってきて,気が大きくなり,良い気持ちになってきた。
 本件事故現場の手前約1650.7メートル付近の交差点に赤色の回転灯があり,丁川三郎が死亡事故を起こした場所なので,いつもは気をつけて通過していたが,段々と酔いが回ってきてボーッとしてきており,回転灯だけではなく,周囲の風景が回転灯の光でぼんやりと映る状態だったので,酒が効いてきたかなと感じた。
 本件事故現場の手前約875.5メートル付近の千葉県山武郡蓮沼村ニの〈番地略〉にある交差点で,いつも自動車用の信号機を確認しているのに,歩行者用信号機の青色が目にボーッと映ったのを見て,自動車用の信号機も青色だと思い,交差点の左右の車両や歩行者のことを気にせずに交差点を通過し,その直後にハッとして,危ない運転をしていることに気付いた。
 本件事故現場の手前約622.7メートル付近に道路が左カーブから右カーブになる地点があり,その右カーブになった辺りで,ハンドルを持つ手にガッガッという振動を感じたので,慌てて前を見ると,道路左側のガードレールがライトに映し出され,自動車が左に寄りすぎていることが分かり,ぶつかると思って,ハンドルを右に切り,体勢を立て直した。このときは,酒の酔いが回っており,いつものハンドル操作ができない状態だったので,自動車が左に寄りすぎていた。
 さらに酒の酔いが回ってきて,前はもちろん周囲もボーッとした状態で運転を続けていると,急に衝撃と共にフロントガラスが割れ,事故を起こしたことが分かった。
イ これに対し,被告人は,公判段階では,大要,以下のとおり供述している。
 運転を開始する前は,酔ってはいたが,特に普段と変わらず,足下がふらつくこともなく,自動車に乗り込んだ。
 赤色の回転灯がある交差点では,いつものとおり,遠目に交差道路の安全を確認したが,捜査段階では,警察官から酔っていたからはっきり覚えていないはずだと言われて,そのことを調書に記載してもらえなかった。
 その先の交差点では,歩行者用の信号機を見て,自動車用の信号機は見なかったが,そういう安全確認は酔っていなくてもすることがあり,それは,故人や自分の家族,自分の仕事のことを考えていたためでもあり,酒の影響でもうろうとしていたためではなかったが,捜査官からは,酔っていたので確認できたはずがないなどと言われて,聞き入れてもらえなかった。
 それから,タイヤでゴミを踏んだようなガガッという音と振動があり,そのとき道なりにハンドルを右に切っていたところ,警察官に,音がしたとき,前を見るとガードレールが見え,ハンドルを右に切っていたと答えると,自動車が左に寄りすぎていたという調書になってしまった。
 その後,考えごとをしながら走行していたため,被害者らに全く気付くことなく,突然,衝撃と共にフロントガラスが割れて事故を起こしたことが分かった。
ウ そこで,これらの供述の信用性について検討すると,被告人は,捜査段階から,前照灯が下向きの状態で運転していた旨一貫して供述しているところ,本件事故現場は,付近に3基5個の街路灯が設置された飲食店前の路上であり,夜暗くなっても,57.1メートル手前の地点では前照灯が下向きの状態で,前方の人の集団をはっきり認識できる明るさであることが認められる。そうすると,被告人は,被害者らを発見することは容易であったにもかかわらず,急制動などの措置を全くとっていないことになる上,前記のとおり,運転を開始する前に平衡感覚を保てない状態にあったものと認められることからすると,被告人の捜査段階の供述は,これらの事実に符合しており,その内容も具体的かつ特徴的なものであって,十分に信用できる。
 これに対し,被告人の公判段階の供述は,被告人が,被害者らを発見することが容易な状況にあり,仮に発見が遅れたとしても急制動などの措置をとることが自然であったにもかかわらず,被害者らに全く気付かなかった理由,捜査段階で捜査官から誘導されただけでできるとは認めがたいような具体的で特徴的な事実が記載された調書が作成されている理由について,十分首肯できる説明をしていないから,信用できない。
 そうすると,被告人は,自動車の運転を開始した後,2か所の交差点で信号機の表示を見落とし,右カーブで路外に接近してガードレールに衝突しそうになり,視認しやすい状況にあった被害者らにも全く気付かないまま,本件事故を起こしたものと認められる。
(4)被告人の自動車の本件事故現場での走行状況
 被告人は,公判段階で,自動車を左外側線側に進出させてはいないと思う旨供述している。
 しかしながら,本件事故現場付近は緩やかな右カーブから緩やかな左カーブになっているほぼ直線の道路であり,被害者らは道路左端を集団で歩いていたところ,その前方にいた甲野太郎,乙原春子,丁川四郎,己岡秋子のうち,甲野は道路中央に飛ばされているのに対して,乙原,丁川及び己岡は道路左側の駐車場内に飛ばされている上,そのやや後方の道路左外側線外側にいた庚町冬子も被告人の自動車から衝突されている。これらの事実に照らすと,被告人の自動車は,本件事故現場において,左方向に進行して左外側線側に進出した後,右転把したものと認められ,本件事故の態様を解析した辛本六郎の公判段階における供述及び同人作成の鑑定書も同じ結論を示している。
 そうすると,被告人は,自動車を道路左外側線側に進出させたものと認められ,そのことからも,前記(3)については,被告人の捜査段階の供述が信用できる。
(5)刑法208条の2第1項前段の危険運転致死傷罪にいう「正常な運転が困難な状態」とは,正常な運転ができない可能性のある状態では足りず,前方の注視が困難になったり,意図したとおりの時期や加減でハンドル及びブレーキ等を操作することが困難になったりするなど,現実に道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることをいうと解される。
 これを本件についてみると,被告人は,自動車の運転を開始する前に,相当多量に飲酒し,第三者から見て分かるほど平衡感覚を正常に保てない状態にあった上,本件自動車の運転を開始した後には,2か所の交差点で信号機を見落とし,右カーブで路外に接近してガードレールに衝突しそうになり,本件事故現場付近では,緩やかな左カーブになっているほぼ直線の道路で自動車を左外側線側に進出させ,視認しやすい状況にあった被害者らに全く気付かないまま,自車を被害者らに衝突させたものと認められる。
 これらのことからすると,被告人は,アルコールの影響により現実に前方の注視及び道路の状況に応じた運転操作が困難な状態で自動車を走行させたものと認められるから,刑法208条の2第1項前段の危険運転致死傷罪にいう「正常な運転が困難な状態」にあったというべきである。
(6)なお,被告人は,公判段階で,本件事故当時,自動車を時速約50キロメートルで走行させており,運転を開始してから不必要な加速をしたことはない旨供述して,自動車の走行速度を争っている。
 被告人の捜査段階の供述は,当初は,自動車を普段走っている時速60ないし70キロメートルで走行させていたが,妻や子供が待っていると思って,本件事故現場の手前約511.7メートル付近から加速したから,本件事故当時は,時速100キロメートル近くの速度で走行していたと思うというものであるところ,被告人は,公判段階では,捜査段階で,時速約60キロメートルで走行した旨供述したが,捜査官から聞き入れてもらえず,時速約100キロメートルで走行したという調書が作成された旨供述している。
 そこで検討すると,辛本六郎の公判段階における供述及び同人作成の鑑定書によると,辛本は,実験によって経験的に導いた人体の飛翔距離から衝突時の車両速度を求める数式を用いるなどして,己岡及び丁川の人体が飛翔した距離等から,衝突したときの被告人の自動車の走行速度を時速約70キロメートルと求めている。また,壬島花子は,捜査段階で,被告人の自動車が時速約70キロメートルで走行していたと報道されたが,自動車を運転している経験からすると,被告人の走行速度は時速70キロメートルという生半可な速度ではない旨供述しており,癸村七郎は,捜査段階で,被告人の自動車がすごいスピードで走行していくのが見えた旨供述している。
 これらの証拠は,被告人の捜査段階の供述に符合するものである上,被告人は捜査段階で具体的に速度を特定した供述をした理由について首肯できる説明をしていないから,被告人は,本件事故当時,少なくとも時速約70キロメートルで自動車を走行させていたものと認めることができる。
3 判示第3の事実
(1)被告人は,捜査段階で,当初は,フロントガラスが割れて,何にぶつかったのか分からなかった旨供述したが,その後は,一貫して,衝撃と共にフロントガラスが割れ,衝突したのが人かもしれないなどと考え,運転免許停止中に行った飲酒運転が発覚するのを避けようという気持ちもあって,そのまま自宅に向かった旨供述している。
 これに対し,被告人は,公判段階では,フロントガラスが割れて,事故を起こしたことは分かったが,パニックになり,何に衝突したのかも分からないまま,自動車を停止させずに自宅に帰り,捜査段階でも,人に衝突したとは分からなかった旨供述したが,聞き入れてもらえなかった旨供述している。
(2)そこで検討すると,被告人は,一般道で自動車を走行させていたところ,本件事故によりフロントガラスが割れて,助手席側フロントガラスの一部が窓枠から外れて,運転席側フロントガラスも細かくひび割れ,前方を見通すことができないほど自動車が破損したのであるから,自動車を比較的大きな対象物に衝突させた交通事故を起こしたことは認識できたはずであり,その対象物に人が含まれる蓋然性が高いことも認識できたものというべきである。また,自動車を人以外の物体に衝突させたと認識したのであれば,事後に行う自動車の修理等のため,直ちに自動車を停止させて,状況を確認するのが通常であるにもかかわらず,被告人は,自動車を停止させずに走り去ったのであり,これは,自動車を人に衝突させて傷害を負わせる交通事故を起こしたことを少なくとも未必的には認識していたという被告人の捜査段階の供述を裏付けるものである。
 これらの事情に照らすと,被告人の捜査段階の供述が信用でき,被告人の公判段階の供述は信用できないから,被告人は人に傷害を負わせる交通事故を起こしたことを少なくとも未必的には認識していたものと認められる。
(法令の適用)
罰条
判示第1及び第5の各所為 いずれも道路交通法117条の4第1号,64条
判示第2の所為
危険運転致死の点 別紙一覧表1記載の各被害者ごとにそれぞれ刑法208条の2第1項前段(人を死亡させた場合)
危険運転致傷の点 別紙一覧表2記載の各被害者ごとにそれぞれ同法208条の2第1項前段(人を負傷させた場合)
判示第3の所為
救護義務違反の点 道路交通法117条,72条1項前段
報告義務違反の点 同法119条1項10号,72条1項後段
判示第4の所為 刑法235条
観念的競合の処理
判示第2の罪 1個の行為が8個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として刑及び犯情の最も重い別紙一覧表1番号4記載の危険運転致死罪の刑で処断
判示第3の罪 1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い救護義務違反の罪の刑で処断
刑種の選択 判示第1,第3及び第5の罪について各所定刑中懲役刑をそれぞれ選択
併合罪の処理 以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,無免許で,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ,4人を死亡させて,4人を負傷させた道路交通法違反,危険運転致死傷(判示第1,第2),その際に救護義務及び報告義務を尽くさなかった道路交通法違反(判示第3),駐車中の自動車を窃取し,無免許で運転した窃盗,道路交通法違反(判示第4,第5)の事案である。
 本件危険運転致死傷の犯行は,道路左端を通行していた歩行者8人に自動車を衝突させ,4人を死亡させて,4人のうち3人に重篤な傷害を負わせたというものであり,結果は誠に重大かつ凄惨である。被害者らは,いずれも59歳で,中学校の同窓会を終えて帰宅しようとして,道路の左端を集団で歩いていて本件被害にあったのであり,落ち度は見当たらないところ,楽しいはずの同窓会が一転して,自動車に衝突されて,被害者8人のうち5人は約15メートルないし約40メートルも跳ねとばされ,生命を奪われあるいは車椅子による生活を余儀なくされるほどの重傷を負わされたのであり,その苦痛,無念には察して余りあるものがある。被害者らは,定年の前後であったり,子育てを終えたりして,今後,家族らと共に悠々自適の生活を楽しもうとしていた矢先,本件事故にあっており,死亡した被害者らの家族の悲嘆,怒りには著しいものがあり,また,負傷した被害者らは,自己の負傷のみならず,4人もの友人を一時に失うという激しい精神的苦痛を受けている。
 被告人は,亡くなった知人の49日の法要後の供応に出席するため,あらかじめ酒を購入して,自動車で知人宅に赴き,その知人宅で多量に飲酒した後,帰宅するため自動車を運転し,2か所の交差点の信号を見落とし,カーブを正常に曲がれないなど,アルコールの影響により前方注視及び運転操作の著しく困難な状態にあったにもかかわらず,運転を継続し,道路左端を集団で歩き,飲食店前の街路灯に照らされて視認しやすい状況にあった被害者らに対し,時速約70キロメートルで走行する自動車を衝突させている。このように,被告人が自ら無免許で飲酒運転をする状況を作り出して,重大かつ凄惨な事故を引き起こしたのは,言語道断であり,そのような犯行の経緯に酌むことのできる余地はみじんもなく,被告人に対しては厳しい非難が幾重にも向けられてしかるべきである。
 のみならず,被告人は,人に傷害を負わせる交通事故を起こしたことを認識しながら,全く停止することなく逃走し,本件救護義務違反及び報告義務違反の犯行を行っている上,その後,別の知人宅に赴こうとして,駐車中の無施錠の自動車を窃取し,無免許でこの自動車を運転し,判示第4の窃盗及び判示第5の道路交通法違反の犯行に及んでいる。そうであるにもかかわらず,被告人は,公判段階では,危険運転致死傷並びに救護義務違反及び報告義務違反の事実について不合理な弁解を重ね,自己の刑事責任を軽くすることに汲々としており,そのような被告人の態度を目の当たりにして,死亡した被害者らの家族や負傷した被害者らが,怒りを露わにしながら,被告人に対する厳罰を希望しているのはもっともである。また,被告人は,業務上過失傷害,道路交通法違反による罰金前科2犯があり,平成16年12月に免許停止の処分を受けたのに,本件無免許運転の各犯行に及んでいる。
 これら結果の重大性,犯行に至る経緯,犯行自体の危険性,事故後の態様の悪質性に照らすと,被告人の刑事責任は誠に重大というほかない。
 しかしながら,他方において,被告人の自動車について加入していた強制保険により死亡した3人の被害者の遺族にそれぞれ約3000万円が支払われ,負傷した2人の被害者にも金員が支払われているから,他の被害者らにも相当額の金員が支払われることが確実であることからすると,一定程度は被害の回復が図られている。また,被告人は,事故を起こしたこと自体は認めて反省の態度を示しており,前記の前科のほかには前科がなく,中学卒業後仕事に就き,恵まれない境遇にありながらも,これまでまじめに稼働してきている上,本件犯行後,警察に出頭して,本件事故を起こしたことを申告して自首しており,被告人の妻及び2人の子が被告人の社会復帰を待っているなど,被告人のためにしん酌することのできる事情もある。
 これらの事情を総合考慮するときは,被告人を主文掲記の刑に処するのが相当というべきである。
 よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・山口雅高,裁判官・古閑美津惠,裁判官・西田昌吾)

別紙 一覧表〈省略〉

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