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強姦広島

広島高等裁判所判決/平成21年(う)第184号

主文

原判決を破棄する。
被告人を懲役30年に処する。
原審における未決勾留日数中330日をその刑に算入する。

理由

第1 本件控訴の趣意及び答弁
 本件控訴の趣意は,弁護人新川登茂宣作成の控訴趣意書及び控訴趣意の補充書(ただし,控訴趣意の補充書第2の1及び2(2)を除く。)に,これに対する答弁は,検察官村瀬正明作成の答弁書(ただし,第2の2を除く。)にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。
第2 当裁判所の判断
1 訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張について
 論旨は,①原判示第1別表1番号1及び番号4の強姦の各開始時間及び終了時間,同番号2の強姦の終了時間,同番号3及び番号5の強姦の各開始時間,原判示第2別表2番号1,番号3及び番号4の児童福祉法違反の各開始時間,同番号5の児童福祉法違反の終了時間,原判示第3別表3番号1の強姦の開始時間,原判示第4別表4番号2の強姦の開始時間,同番号3の強姦の開始時間及び終了時間,原判示第5別表5番号6の児童福祉法違反の開始時間及び終了時間,原判示第7の1別表7-1番号5の強制わいせつの終了時間,原判示第7の2別表7-2番号3,番号7及び番号14の強姦の各開始時間,同番号16及び番号19の強姦の各開始時間及び終了時間,原判示第9の2別表9-2番号3,番号7及び番号10の強姦未遂の各開始時間,同番号4の強姦未遂の終了時間,同番号8の強姦未遂の開始時間及び終了時間,原判示第9の3別表9-3番号4,番号12及び番号16の強姦の各開始時間,同番号6及び番号14の強姦の各開始時間及び終了時間,同番号8及び番号9の強姦の各終了時間について,DVD-Rに録画された画像中の上記開始時間ないし終了時間を証明する静止画の証拠書類は存在せず,DVD-Rの高速再生による証拠調べでの確認は著しく困難であり,刑訴法317条の証拠裁判主義に違反しており,これらの開始時間ないし終了時間を認定した原判決には,訴訟手続の法令違反及び事実の誤認があり,②原判示第7の2別表7-2番号16のうち開始時間午後6時31分ころ,終了時間午後6時42分ころの強姦について,被告人が被害女児を姦淫したと認めるに足る証拠はなく,口淫させるなどしたにとどまるのに,姦淫を認定した原判決には事実の誤認があり,③原判示第9の3別表9-3番号9の強姦について,被告人が被害女児を四つんばいにさせたことを認めるに足りる証拠はなく,DVD-R中の四つんばいの静止画像の証拠もないのに,その旨認定した原判決には事実の誤認があり,④原判示第7の2別表7-2番号18及び番号19の各強姦について,被告人は,各犯行当時,被害女児が13歳以上の年齢であると認識していたと解されるのに,被害女児が13歳未満であることを知っていた旨認定した原判決には事実の誤認があり,⑤原判示第1別表1番号3及び番号5並びに原判示第4別表4番号1の各強姦について,合理的な疑いをいれない程度に膣内まで陰茎が挿入されたとは認定できず,いずれも強姦未遂にとどまるのに,強姦既遂を認定した原判決には事実の誤認があり,⑥上記⑤の犯行を含むすべての強姦未遂について,被告人は,被害女児との間で「痛い」と言えばそれ以上は姦淫行為をしないと約束し,被害女児が「痛い」と訴えたため姦淫を中止したものであるから,いずれも中止未遂であるのに,障害未遂である旨認定した原判決には事実の誤認があり,⑦原判示第9の1別表9-1番号11の強制わいせつについて,被告人が被害女児の下着姿を所携のビデオカメラで数秒間にわたり撮影するなどした行為は,被告人にとって自らの性的欲望を充足するには足りず,記念撮影か,単なる試し撮りにとどまり,強制わいせつとはいえないのに,その旨積極に認定した原判決には事実の誤認があり,これらの違反ないし誤認がいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
 そこで,以下,記録を調査し,検討する。
(1) 論旨①について
 捜査状況報告書(原審検甲162ないし167,169,173ないし175,134ないし137,144,177,186,116,70,108,109,112,114,73,74,76,
69,96,66ないし68,71,ただし,同検甲163ないし167,174,175,134ないし136,186はいずれも抄本)及びDVD-R(当庁平成22年押第1号符号8,9,7,6,4,3)によれば,論旨指摘に係る各犯行の開始時間ないし終了時間については,原判決がそれぞれ認定しているとおりであることが認められ,原判決に事実の誤認はない(ただし,原判決が,原判示第4別表4番号3の強姦の終了時間を午後9時40分ころと判示しているのは,午前9時40分ころの明白な誤記であると認められる。)。そして,原審において,被告人及び弁護人は,上記各犯行の開始時間ないし終了時間をいずれも争わず,これらの犯行に係るDVD-Rの取調べに際しても,その取調べ方法を含めて何ら異議を述べていないことが明らかであり,DVD-Rにそれぞれ録画された画像を確認することにより,上記各犯行の開始時間ないし終了時間を認定することに証拠裁判主義に違反した違法があるとすることもできない。
(2) 論旨②について
 捜査状況報告書(原審検甲116)によれば,検察官において,被告人撮影に係るビデオテープをテレビ画面に映し出し,被告人が原判示第7の2別表7-2番号16の開始時間午後6時31分ころから終了時間午後6時42分ころの間に当該被害女児を姦淫したことを確認し,特定したとされている。しかし,DVD-R(当庁平成22年押第1号符号6)によっても,上記の犯行が行われたとされる時間に,自動車内で,被告人において,当該被害女児に自己の陰茎を口淫させるなどしている状況が撮影されていることが認められるのみであり,被告人において,自動車内で当該被害女児を座席に仰向けに寝かせてその上に覆い被さるなどし,姦淫したことを確認することはできず,なお,画像を確認する内容の捜査状況報告書(同検甲112)によっても,姦淫行為は確認されておらず,被告人においても,上記時間帯に当該被害女児を姦淫したことを認める供述はしていない(警察官調書(同検乙26))のであり,上記の時間に被告人が当該被害女児を姦淫したと認めるに足りる証拠はなく,被告人が原判示第7の2別表7-2番号16の開始時間午後6時31分ころから終了時間午後6時42分ころの間に当該被害女児を姦淫したとの事実を認定した原判決には事実の誤認があるといわざるを得ない。
(3) 論旨③について
 当該被害女児において,自分が四つんばいの姿勢で後ろから陰茎を挿入されるなどしたこともあった旨供述しており(警察官調書抄本(原審検甲97)),DVD-R(当庁平成22年押第1号符号3)によれば,原判示第9の3別表9-3番号9の強姦の犯行に際し,被告人が当該被害女児をパソコンルーム内の床面に四つんばいにさせ,背後から被害女児を姦淫している状況が録画されていることが認められ,原判決に事実の誤認はなく,その静止画像を抽出した証拠がないことが証拠裁判主義に反するともいえない。
(4) 論旨④について
 被告人は,バレー部の顧問として,バレーボール大会にエントリーする選手の年齢を知っていなければならなかったことから,当該被害女児の年齢も把握しており,特に,被害女児が被告人と同じ10月生まれであることを覚えていた旨供述しており(警察官調書(原審検乙31)),当該被害女児においても,中学1年生の平成18年9月終わりころ,13歳の誕生日の直前に,被告人に呼び出されて会った際,被告人が運転する車の中で,被告人から「もうすぐ誕生日じゃろ。今度,誕生日プレゼントをあげるけぇ」と言われた旨供述しており(警察官調書抄本(同甲120)),これらの供述は具体性があり,被告人において,同年6月17日及び同年7月15日当時,当該被害女児が未だ12歳であることを認識していたと十分に認められ,原判決に事実の誤認はない。
(5) 論旨⑤について
 強姦罪にいう姦淫とは,性交であり,男性性器の少なくとも一部を女性性器に没入することをいうと解するのが相当であり,被告人の警察官調書(原審検乙42,43,36,ただし,同検乙42,43はいずれも抄本)によれば,被告人は,捜査段階において,犯行状況を撮影したデジタルビデオカセットテープの再生画面を見て,原判示第1別表1番号3の犯行について,陰茎の一部が陰部に入っている状況を確認した旨を,原判示第4別表4番号1の犯行について,陰茎が陰部に入っていることに間違いはないが,亀頭部分くらいしか入っていないと思う旨をそれぞれ供述し,原審公判廷においても,原判示第1別表1番号5の強姦に関して,既遂に達したか否かよく分からない旨供述したものの,同番号3及び原判示第4別表4番号1の各強姦における姦淫の事実はいずれも間違いない旨供述しており,捜査状況報告書抄本(同検甲165,134)及びDVD-R(当庁平成22年押第1号符号8,7)によれば,原判示第1別表1番号3及び原判示第4別表4番号1の各犯行において,被告人が,原判示のパソコンルームで,各当該被害女児に対し,それぞれ姦淫に及んだことはこれを十分に認定でき,これらの強姦の事実を認定した原判決に事実の誤認はない。
 しかし,原判示第1別表1番号5の犯行については,被告人は,上記のとおり,原審公判廷において,既遂に達したか否かよく分からない旨供述しているところ,DVD-R(当庁平成22年押第1号符号8)によれば,被告人において,「今日は入りにくいわ」「硬い」などと言いつつ,陰茎を手でしごくなどし,陰茎を当該被害女児の陰部に擦りつけるなどして挿入を試みている状況は確認できるものの,陰茎を当該被害女児の性器に一部なりとも没入して姦淫にまで至ったことはこれを十分に確認することができない。この点,上記画像を確認する内容の捜査状況報告書抄本(原審検甲167)によれば,「被告人が自己の陰茎をしごき,さらに自分の唾を亀頭に塗り付ける状況が認められる。その後,さらに左手中指を被害女児の性器に挿入しながら,陰茎をしごく。被告人が自己の陰茎を右手で持ち,午後4時14分25秒から午後4時14分30秒の間に,被告人が陰茎を被害女児の性器に挿入しようとし,被告人の亀頭部分が被害女児の性器に没入する。直ぐに被告人の亀頭が被害女児の性器外へ出る」ことを確認したと記載されているものの,その確認結果によっても,挿入を試みるに当たり陰茎を勃起させる行為をしなければならない状況にあり,没入したとされる陰茎の亀頭部分が直ぐに被害女児の性器外へ出たとされており,また,被告人も,警察官調書抄本(同検乙43)において,「午後4時12分20秒の場面で,私の陰茎の一部,陰茎の先端部分が被害女児の陰部に入っている状況が撮影されている映像の確認をした」と供述しているにとどまり,上記のとおり,犯行を録画したDVD-Rによって陰茎の没入が確認できない以上,姦淫の事実を認めることはできないといわざるを得ず,被告人の犯行は強姦未遂の限度で認定できるにとどまるというべきであり,原判決には事実の誤認があるといわざるを得ない。
(6) 論旨⑥について
 被告人は,原審公判廷において,被害女児との間で,どうしてもやめてほしい場合には,「やめてくれ」とか,「もう我慢ができない」とか,何か合図をするよう決めていたので,嫌だという言葉を被害女児が発していても,行為を続けたことはある旨供述し,また,嫌がるのを無理をしてすると,その子が誰かに言ったりなどして,自分がしていることが発覚するのが一番怖かったからである旨供述しており,これらの供述に照らせば,被告人において姦淫を途中で止めたことがあったとしても,専ら又は主として自身の犯行の発覚を恐れたためであり,自己の任意の意思により自発的に犯行を中止したとはいえないから,中止未遂と認めることはできない。なお,被告人は,当審公判廷において,原判示第1別表1番号1ないし番号3及び番号5,原判示第3別表3番号1及び番号2,原判示第4別表4番号1ないし番号3,原判示第7の2別表7-2番号1ないし番号5の各強姦について,いずれも陰茎が膣には入っておらず,原判示第8の2別表8-2,原判示第9の2別表9-2番号1の各強姦未遂も含めて,いずれも膣の中にまで入れるつもりはなかった旨供述しているが,原審公判廷においては,原判示第1別表1番号5の強姦については,既遂に達したか否かよく分からない旨供述していたものの,他の強姦における姦淫の事実及び強姦未遂の事実をすべて認める旨供述していたにもかかわらず,合理的な根拠もなく,その供述を変遷させるものであり,信用できず,強姦未遂の各犯行について,中止未遂の成立を認めなかった原判決に事実の誤認はない。
(7) 論旨⑦について
 被告人は,原審公判廷において,上半身裸の女児が写っているようなグラビアを見るのが好きで,自身でも同じような写真を撮ってみたいという気持ちはあった旨供述しており,捜査状況報告書(原審検甲96,72)及びDVD-R(当庁平成22年押第1号符号5)によれば,被告人は,原判示第9の1別表9-1番号11の所為に及んだ際,当該被害女児のスカートをめくり,その右腿内側を触りながら,パンティを撮影するなどしたことが認められ,被害女児が下着を着用し,その陰部等を直接撮影することはなかったとしても,その行為が性欲を刺激興奮させ,又は満足させるという性的意図をもって行われたと認めるに十分であり,原判示第9の1別表9-1番号11の事実を認定し,強制わいせつ罪の成立を認めた原判決に事実の誤認はない。
(8) 職権調査を求める事実誤認の主張について
 弁護人は,①原判示第1別表1番号2の強姦について,被告人は,机上に仰向けに寝ている当該被害女児に対し,机の傍らに立ったまま姦淫したのであり,被害女児を机上に仰向けに寝かせてその上に覆い被さるなどし,被害女児を姦淫した旨認定した原判決には事実の誤認があり,また,②原判示第9の2別表9-2番号3ないし番号6,同番号9及び番号10の各強姦未遂,原判示第9の3別表9-3番号6ないし番号8,同番号12ないし番号16の各強姦,原判示第7の2別表7-2番号9ないし番号13の各強姦について,自動車内で行う場合には,被害女児は自ら仰向けに寝るのであって,被告人が仰向けに寝かせることはないのに,いずれも被告人が車内の座席に仰向けに寝かせた旨認定した原判決には事実の誤認があると主張し,職権調査を求めている。
 しかし,①については,DVD-R(当庁平成22年押第1号符号8)によれば,被告人が姦淫の際に当該被害女児の上に覆い被さっているとまでは認められないが,そのような行為は姦淫の際に通常付随して行われる有形力の行使でもあり,その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。また,②については,小学生である被害女児らに対する上記各犯行の内容及び経緯等にかんがみれば,仮に犯行現場において被害女児らが自ら仰向けに寝たことを前提にしても,その実質は,被告人が被害女児らに上記の行動をとらせたと認めるに十分であり,原判決の認定に誤認があるとはいえない。
 以上に検討,判断したとおりであり,原判示第7の2別表7-2番号16の開始時間午後6時31分ころ,終了時間午後6時42分ころの間に当該被害女児を姦淫した事実及び原判示第1別表1番号5の強姦の事実を認定した原判決にはいずれも事実の誤認があり,これらの誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであり,論旨はその事実誤認をいう限度で理由があるが,その余の訴訟手続の法令違反ないし事実誤認をいう論旨はいずれも理由がない。
2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,①原判示第9の3別表9-3番号9及び番号10の各強姦は,被告人が同じ日に同じ場所で同一の被害者に対して行なった犯行であるから,包括一罪とすべきであり,同番号15及び番号16の各強姦も,同様に包括一罪とすべきであるにもかかわらず,これらを併合罪とした原判決には法令適用の誤りがあり,②原判示第8の1別表8-1番号2及び原判示第9の1別表9-1番号3の各強制わいせつは,2名の被害女児に対し,同じ日のほぼ同じ時間に同じ場所でわいせつ行為に及んだものであることに照らすと,1個の行為として評価し得るものであり,観念的競合とすべきであるにもかかわらず,これらを併合罪とした原判決には法令適用の誤りがあり,③原判示第2別表2番号1ないし番号6,原判示第5別表5番号1ないし番号6,原判示第6別表6の各児童福祉法違反は,それぞれ被害女児ごとに包括して一罪が成立するにもかかわらず,これらの各所為を併合罪とした原判決には法令適用の誤りがあり,これらの誤りがいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
 そこで,検討する。
(1) 論旨①について,
 原判示第9の3別表9-3番号9及び番号10の各強姦の所為については,同番号9の終了時間から同番号10の開始時間までに約6時間34分の間隔があり,同番号15及び番号16の各強姦の所為については,同番号15の終了時間から同番号16の開始時間までに約1時間46分の間隔があり,なお,同番号15及び番号16の各強姦の所為については,普通乗用自動車の駐車場所が特定されるまでには至っておらず(捜査状況報告書(原審検甲96)),この所為を含めて,それぞれの犯行場所が同一であることを考慮しても,それぞれ2個の罪が成立するとして罰条を適用した原判決に法令適用の誤りがあるとまではいえない。
(2) 論旨②について
 原判示第8の1別表8-1番号2の強制わいせつの所為は,当該被害女児の着衣を脱がせて,その陰部等を所携のビデオカメラ等で撮影するなどしたものであり,原判示第9の1別表9-1番号3の強制わいせつの所為は,別の被害女児の着衣を脱がせて,その陰部等を舐めるなどしたものであり,被害者が異なっており,これらの行為が同じ場所でほぼ同時間帯に行われた所為であることを考慮しても,行為者の動態が社会的見解上1個のものと評価することはできないことは明らかであり,これらの所為を併合罪とした原判決に法令適用の誤りがあるとはいえない。
(3) 論旨③について
 原判示第6別表6の児童福祉法違反の所為は,その行為が1個しかなく,この所為についての論旨は前提を欠き失当である。また,原判示第2別表2番号1ないし番号6及び原判示第5別表5番号1ないし番号6の各児童福祉法違反の所為については,前者の各所為は約1か月半の間に6回にわたり,後者の各所為は3か月余の間に6回にわたり,それぞれ同一被害女児に対して反復して行われたものであり,それぞれ包括して1罪と解するべきであるところ,原判決は法令の適用の項においてその旨明示しておらず,各所為を併合罪と認めたとする余地もあるが,本件においては,これらの罪と原判示の他の罪とが併合罪の関係にあり,結局,併合罪の処理を経た処断刑に変わりはないことに照らすと,上記の誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない
 論旨はいずれも理由がない。
第3 破棄自判
 前記第2の1で検討,判断したとおり,原判示第1別表1番号5の強姦の事実及び原判示第7の2別表7-2番号16のうち開始時間を午後6時31分ころ,終了時間を午後6時42分ころの強姦の事実を認定した原判決には事実の誤認があり,それらの誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるところ,原判決は,上記の各事実に係る罪(ただし,原判示第7の2別表7-2番号16の開始時間を午後6時31分ころ,終了時間を午後6時42分ころとする強姦の罪については,同番号16の開始時間を午後5時15分ころ,終了時間を午後5時35分ころとする強姦の罪と包括して1罪として)と原判示のその余の罪とを刑法45条前段の併合罪として1個の刑を科しているので,量刑不当の主張についての判断をするまでもなく,原判決はその全部を破棄すべきである。
 よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,更に次のとおり判決する。
(原判示罪となるべき事実第1別表1番号5の事実に代えて当裁判所が新たに認定した事実)
 第1を「同校の女子児童であるA(平成3年○月○○日生,当時10歳ないし12歳)が13歳未満であることを知りながら,同女を姦淫しようと企て,1 平成13年11月21日から平成15年3月1日までの間,前後5回にわたり,別表1番号1ないし番号4及び番号6記載のとおり,同校新館4階パソコンルーム内映写室ほか2か所において,同女を姦淫し,2 平成14年11月14日午後4時10分ころから同日午後4時14分ころまでの間,上記パソコンルーム内において,同女を同ルーム内の床面に仰向けに寝かせてその上に覆い被さるなどし,同女を姦淫しようとしたが,同女の陰部に自己の陰茎を挿入できなかったため,その目的を遂げなかった」と改め,第7の2別表7-2番号16から「開始時間午後6時31分 終了時間午後6時42分」を削除し,なお,明らかな誤記である第7の冒頭に「B」とあるのを「B」に,原判示第4別表4番号3の終了時間に「午後9時40分ころ」とあるのを「午前9時40分ころ」とそれぞれ訂正する。
(上記新たに認定した事実についての証拠の標目)
「被告人の公判供述」とあるのを「原審公判調書中の被告人の供述部分」と改めるほかは,原判決の挙示する原判示罪となるべき事実第1別表1番号5の事実に関しての証拠と同一である。
(一部無罪の理由)
 平成20年9月17日付け公訴事実中,第1の1別表1番号16の平成18年3月7日の開始時間午後6時31分ころ,終了時間午後6時42分ころの強姦の点については,前記第2の1でその判断を示したとおり,犯罪の証明がないところ,この強姦の点については,原判示第7の2別表7-2番号16の開始時間午後5時15分ころ,終了時間午後5時35分ころの強姦と包括して一罪の関係にあるとして起訴されたものと認められるから,主文において無罪の言渡しはしない。
 なお,上記の強姦の点については,関係証拠によれば,公訴事実記載の日時,場所において,被告人が当該被害女児に対して口淫をさせるなどのわいせつな行為に及んでいることが認められるが,その行為は訴因に掲げられておらず,強制わいせつの限度でこれを認定することはできない。
(法令の適用)
 原判決の認定した判示第1の1別表1番号1ないし番号4及び番号6,第3別表3番号1及び番号2,第4別表4番号1ないし番号3,第7の2別表7-2番号1ないし番号5及び第9の3別表9-3番号1ないし番号5の各所為は,いずれも行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法177条後段に,裁判時においてはその改正後の刑法177条後段に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,判示第2別表2番号1ないし番号6,第5別表5番号1ないし番号6及び第6の各所為(ただし,判示第2別表2番号1ないし番号6の所為及び第5別表5番号1ないし番号6の所為はそれぞれ包括して)は,いずれも行為時においては児童福祉法34条1項6号に違反し,平成15年法律第121号による改正前の児童福祉法60条1項に該当し,裁判時においては児童福祉法34条1項6号に違反し,平成15年法律第121号による改正後の児童福祉法60条1項に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,判示第7の1別表7-1番号1ないし番号4,第8の1別表8-1番号1ないし番号4,第9の1別表9-1番号1ないし番号9及び第10別表10番号1及び番号2の各所為は,いずれも行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法176条後段に,裁判時においてはその改正後の刑法176条後段に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,判示第7の1別表7-1番号5及び番号6並びに判示第9の1別表9-1番号10ないし番号13の各所為は,いずれも同法176条後段に該当し,判示第7の2別表7-2番号6ないし番号19(番号16の前記削除部分(開始時間午後6時31分ころ,終了時間午後6時42分ころの強姦の点)を除く。)及び第9の3別表9-3番号6ないし番号16の各所為は,いずれも同法177条後段に該当し,判示第8の2及び判示第9の2別表9-2番号1ないし番号3の各所為は,いずれも行為時においては同法179条,平成16年法律第156号による改正前の刑法177条後段に,裁判時においては刑法179条,平成16年法律第156号による改正後の刑法177条後段に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,判示第9の2別表9-2番号4ないし番号10の各所為は,いずれも同法179条,177条後段に該当し,当裁判所の認定した前記所為は,行為時においては刑法179条,平成16年法律第156号による改正前の刑法177条後段に,裁判時においては刑法179条,平成16年法律第156号による改正後の刑法177条後段に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,判示第2,第5及び第6の各罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により法定の加重をすることとするが,平成16年法律第156号の施行前に犯したものと施行後に犯したものがある場合で,これらの罪のうち同法の施行後に犯したもののみについて同法による改正後の刑法14条の規定を適用して処断することとした場合の刑が,これらの罪のすべてについてその改正前の同法14条の規定を適用して処断することとした場合の刑より重い刑となるときであるから,平成16年法律第156号附則4条ただし書により,同法の施行後に犯したもののうち刑及び犯情の最も重い判示第7の2別表7-2番号19の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役30年に処することとし,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中330日をその刑に算入することとする。
(量刑の理由)
 本件は,被害女児5名がいずれも13歳未満であることを知りながら,合計45回にわたって姦淫し,被害女児3名がいずれも13歳未満であることを知りながら,合計12回にわたり姦淫しようとしたが,その目的を遂げず,被害女児4名がいずれも13歳未満であることを知りながら,合計25回にわたりわいせつな行為をし,被害女児3名がいずれも満18歳に満たない児童であることを知りながら,合計13回にわたり淫行をさせる行為をした強姦,強姦未遂,強制わいせつ及び児童福祉法違反の事案である。
 被告人は,小学校教諭の立場にありながら,約4年8か月の間に勤務していた小学校で好みの女子児童に次々と声をかけ,自己の邪な欲望の赴くままに合計10名に上る被害女児に対し,上記の各犯行に及んでいるもので,その経緯,動機は身勝手かつ短絡的で酌量の余地はおよそない。被告人は,勤務先の小学校の校舎内で,パソコンの授業中を除けばほとんど人が来ないパソコンルームに被害女児らを呼び出して内側から鍵をかけ,あるいは,自身が運転する自動車に被害女児らを乗せて連れ出すなどし,肉体的にも精神的にも未成熟な児童であることを意に介することなく,被害女児が拒否の態度を示している場合も含め,時には,用意した性具を用いてわいせつな行為をし,手淫,口淫を強い,姦淫にまで及んだばかりか,これらの行為をビデオカメラで撮影するなどしており,無軌道極まりない。また,被害女児らの警戒心を和らげるなどの目的で複数の女児らを一度に呼び出し,特定の被害女児との犯行中に,その様子を他の女児に撮影させ,意に沿おうとしない女児には,以後無視する旨伝え,他の女児は被告人の要求に応じた旨告げるなどして,元々教師の言うことに逆らいにくい年齢の被害女児らを心理的に追い詰めて要求に応じさせたほか,被害女児らに口止めをして犯行の発覚を防ぐなどもし,狡猾に長期にわたって犯行を繰り返しており,誠に悪質というほかない。しかも,被告人は,被害女児らを育成し,その健やかな成長を見守るべき教師としての立場を顧みないばかりか,その立場を悪用し,当初は指導上の必要があるなどと偽って被害女児らの身体に触れ,その反応を確かめながら徐々にわいせつ性の度合いを高めていき,被害女児らの幼さにつけ込んで弄び,その保護者らの教師に対する信頼をも裏切り続けたものであり,その犯行は醜悪というべきであり,厳しい社会的な非難に値する。そして,被害女児らは,いずれも9歳ないし12歳という幼さで,そのほとんどが複数回にわたり,庇護されるべき教師である被告人から,いまわしい性的被害を受けたもので,これに伴う肉体的苦痛はもとより,親にさえ相談できない煩悶を抱え続けるなど,その受けた精神的衝撃は大きく,今後の成長に与える悪影響も懸念されるところであり,被害女児らの両親らも,我が子が予想だにもしない被害に遭っていたことを知って大きな衝撃を受け,子供を守ってやれなかった自責の念に苛まれるなどしており,犯行の結果は極めて重大である。にもかかわらず,被告人は,原審公判廷において,あらかじめ被害女児に了解を取り,行為に応じることなどを約束した以上は,被害女児から嫌だと言われても行為を続けていいと思ったなどと不合理な弁解をし,当審公判廷においては,強姦の大半について中止未遂を主張するなど,更に不条理な弁解の度を強めており,自ら犯した罪の責任の重さを自覚して真摯に反省する姿勢が乏しいといわざるを得ない上,慰謝の措置も講じておらず,被害女児らやその両親らが被告人に対して峻烈な処罰感情を抱いているのも当然である。のみならず,本件各犯行により,学齢期の子供を抱える家庭を中心に,小学校やその教師に対する不信や不安を強めたであろうことは想像に難くなく,また,多数の教育関係者らが処分を受けるなど,その社会的な影響の大きさも看過できず,以上の点などからすると,被告人の刑事責任は極めて重いというべきである。
 そうすると,他方で,被告人が,原審公判廷において,償いとして,たとえ何年かかってでも,少しずつでも慰謝料の支払に努める旨述べ,当審公判廷においても,被告人なりの反省と謝罪の言葉を述べていること,被告人が広汎性発達障害(アスペルガー症候群)の傾向を有しており,そのことが本件各犯行の一因ともなっている面がうかがわれること,本件により懲戒免職処分となり,教育職員免許も失ったほか,原判決後,妻とも離婚するなど,既に相応の社会的な制裁を受けていること,前科,前歴がないこと,被告人の親族において,被告人の更生に助力する意向を有しているとうかがわれることなどの被告人のために酌むべき事情を十分に考慮し,さらには,前記第2の1で検討,判断したとおり,本件各公訴事実の一部について,証拠上認定できず,その刑責を問えないことを考慮しても,前記の罪責の重大さからすると,処断刑の最高刑をもって臨むほかなく,被告人を懲役30年に処するのが相当である。
 なお,弁護人は,(1)被告人は被害女児らに対して一方的に容赦なくわいせつ行為をしたものではなく,被害女児らがどうしても嫌と言えば,わいせつ行為を中止しており,(2)本件各犯行のうち,平成16年法律第156号による刑法改正後の犯行は,小学校卒業後も被告人からわいせつ行為を受けるなど,被害感情が極めて希薄な被害女児2名に対するもののみであり,被告人を上記改正後の最高刑である懲役30年に処するのは余りにも刑の均衡を逸する旨主張する。しかし,(1)については,既に認定,説示したとおり,被告人が被害女児らに対する行為を途中で中断したことがあったとしても,それは被害女児らに対する憐憫の情等から出たものではなく,専ら又は主として自身の犯行の発覚を恐れて自己保身を図ろうとしたことに基づくものと認められるのであり,(2)については,所論指摘の被害女児らが,被告人との関係を小学校卒業後も継続するなどしたのは,そもそも,被告人から本件各犯行を含む不正な働きかけを受けたことによるものであるから,これらの点は,量刑上特段酌むべき事情であるとはいえず,上記の量刑判断を左右するものではなく,刑の均衡を失するとの主張も採用できない。
 よって,主文のとおり判決する。
平成22年3月23日
広島高等裁判所第1部
裁判長裁判官    竹田 隆
裁判官    野原 利幸
裁判官    結城 剛行

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