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強姦大阪

大阪地方裁判所判決/平成22年(わ)第5332号

主文

被告人は無罪。

理由

 以下,本件公訴事実において被害者とされる女性の氏名,犯行現場とされる場所,その付近に存在するバス停について,別紙のとおり仮名を用いる。
第1 公訴事実
本件公訴事実の要旨は,被告人が平成22年7月1日午後9時30分ころ,N公園内のベンチにおいて,A子(当時15歳)に対し,ナイフを示しながら「自分も女の子やったら,ナイフで傷つけられたくないよな。」などと脅迫し,抵抗できない状態にして強姦したというものである。
第2 判断
1 本件の証拠構造
 A子は,公判廷において,事件当日の夜,帰宅途中のNバス停付近で被告人に声を掛けられ,被告人に求められるままにドラッグストアやコンビニエンスストアを案内した後,N公園に誘い込まれて会話をするうち,「お金上げるからやろうや。」と言われ,これを断ったところ,公訴事実のとおり強姦されたと供述している。これに対し,被告人は,Nバス停付近でA子に声を掛け,A子の案内でドラッグストアやコンビニエンスストアに行った後,N公園に行って会話をしたが,脅迫も姦淫もしていないと供述している。
2 A子供述の信用性を高める事情
 以下の事情によれば,A子供述の信用性は相当高いように思われる。
(1) A子の供述は,事件当日の午後10時ころ,当時住んでいた児童養護施設の保育士に被害を訴えてから公判供述に至るまで概ね一貫しており,強姦行為そのものに関する供述に特に不自然・不合理な点は認められない。また,A子と被告人とは事件当日初めて会った関係に過ぎず,A子の家庭環境等,弁護人が指摘する点を踏まえても,A子が,あえて被告人に不利益な虚偽の強姦被害を申し立てる動機は明らかでない。
(2) 証拠によれば,被告人は,事件当日の午後7時30分ころ,JR大阪駅構内でA子を見かけて性的関心を抱き,A子の後を追って電車とバスを乗り継いでNバス停まで尾行し,同バス停付近でA子に声を掛けたこと,その後,被告人は,N公園でA子と会話をしたが,その途中でいったん公園を出てコンビニエンスストアに行き,1万円をキャッシングして再び公園に戻ったことが認められる。このような被告人の行動は,被告人が,A子に対し,いわゆる援助交際を持ちかけてきたというA子の供述と符合している。
(3) また,証拠によれば,A子は,被告人と別れて施設に戻った後,保育士に対し,泣きながら,「知らないおじさんと公園に行き,ナイフを出されて脅されてやられた。」「病院には絶対に連れて行ってほしい。」などと訴え,当時の交際相手にも電話で被害を伝えたこと,翌日,上記保育士らに付き添われて産婦人科医を受診した際,A子自ら強姦被害に遭ったことを医師に申告し,その後も数回通院して性感染症等の検査を受けたこと,事件後,A子が年配男性に対して拒否的反応を示したり,食欲不振や不眠を訴えたりすることがあったことが認められる。これらの事件後のA子の言動は,A子が被告人から性的加害行為を受けたことをうかがわせ,強姦されたというA子供述の信用性を高めている。
3 A子供述の信用性に疑問を生じさせる事情
 しかし,以下のとおり,A子供述の信用性に疑いを生じさせる事情も存在する。
(1) 精液の不検出
ア A子は,「被告人は体外に射精し,精液が私の太ももに付いた。その後,精液をふくことなく下着を履いた。」と供述する。この供述を前提とすると,A子の下着に被告人の精液が付着した可能性が高いといえる。ところが,A子が事件当日に着用していた下着を鑑定した結果,精液の付着は認められなかった。このことは,A子の供述の信用性に疑いを生じさせる事情といえる。検察官は,下着の履き方によっては精液が付着しないこともあり得ると主張するが,普通に履けば付着する可能性が高いと考えられ,A子が下着に精液が付着しないように配慮するなどして下着を履いたことをうかがわせる証拠はないから,検察官の主張を踏まえても,この事実はA子の供述と整合しない事情として見過ごせないものである。
イ また,被告人が体外に射精したというA子の供述を前提とすると,事件後,N公園内ベンチ付近の地面等に精液が付着している可能性が相当程度認められる。ところが,事件翌日の夕方,A子立会の下で行われた実況見分において,警察官が目視で確認したところ,N公園内ベンチ付近に精液等の遺留痕跡は認められなかった。同ベンチ付近の地面はタイル貼りであるから,遺留痕跡が認められなかったことは,同日午前中に若干の降雨があったことや,警察官が遺留痕跡を見落としたかもしれない可能性を考慮しても,A子の供述と整合しない事情といわざるを得ない。
(2) 供述内容の具体性・迫真性
 被害状況に関するA子の供述は,脅迫文言や姦淫時の体勢に言及するなど,全く具体性を欠いているわけではない。しかし,A子の供述によれば,A子は被告人が示したナイフに脅威を感じたからこそ,抵抗できなくなり被害を受けたことになるにもかかわらず,被告人がどちらの手でナイフを持っていたか,ナイフが体に触れたかどうかについては分からないと答えるのみである。また,A子は,被告人に手首をつかまれて引っ張られてベンチの背もたれに両手をつかされ,背後から強姦されたと述べるが,その際,どちらの手首をどれくらいの力でつかまれたのかは分からないと供述している。さらに,被害の核心であるはずの姦淫行為及びその前後のわいせつ行為の態様について,A子の供述は概略的で単純な内容にとどまっており,その間の被告人の言動等について特徴的なエピソードは全く語られていない。結局,A子の供述に,実際に体験しなければ供述できないほどの具体性・迫真性を認めることはできない。
4 帰宅状況についてのA子供述の信用性
 そして,A子の供述のうち強姦被害に遭った後帰宅するまでの部分は,以下のとおり信用できず,その結果,その直前に強姦被害に遭ったという部分の信用性にも重大な疑問が生じる。
(1) A子は,強姦被害に遭った後,被告人が立ち去ったので一人で施設に帰ったと供述するが,被告人は,「N公園でA子と会話をした後,A子に案内されて公園東側にある階段を通って公園を出て,A子と一緒にNバス停に向かい,Nバス停と道路を挟んで向かい側にあるNバス停の北行き側でバスに乗車した。乗車する直前,A子が近くの建物を指さしてここが私の住んでいる施設であると教えてくれた。」と供述している。
(2) この被告人の供述は,次の理由から,信用することができる。
ア 以下のとおり,被告人の供述を裏付ける事実がいくつも存在する。
(ア) 帰宅時間の合致
 被告人は,「Nバス停の北行き側でちょうどやって来たバスに乗ったが,乗車後にこのバスは自分が行くべきJRの駅に向かうバスではないのではないかと思い,運転手に尋ねてJRの駅に向かうバスの出るバス停を教えてもらい,大学のそばにあるそのバス停の近くで降ろしてもらって乗り換え,来たバスに乗って,当初意図していたJR富田駅ではなくJR高槻駅に行ってJRの電車に乗って帰った」と供述する。この供述は,特徴的なエピソードを交えながらの相当具体的なものであるが,証拠によれば,被告人がN公園を出たのは午後9時18分より後であることが明らかであるところ,Nバス停の北行き側に午後9時台のバスはなく,午後10時に最終のバスが出るが,そのバスはJRの駅には向かわず,大学の近くにあるバス停に午後10時7分に到着すること,その近くにある大学前のバス停からは午後10時19分にJR高槻駅に向かうバスが発車することが認められる。Nバス停の北行き側からバスに乗ったという被告人の供述は,これらの客観的な事実と符合していて信用性が高く,被告人は,午後10時ころ,Nバス停の北行き側からバスに乗ったと認められる。他方,証拠によれば,A子が施設に戻った時刻も午後10時ころであったこと,その施設はNバス停の北行き側の約100メートル北方にあることが認められる。そうすると,被告人がバスに乗車したころにA子がそのすぐ近くにある施設に帰宅したということになり,これは帰りのバスに乗車するまでA子と行動を共にしていたという被告人の供述を裏付ける事実である。
(イ) 被告人が施設の場所を知っていたこと
 証拠によれば,被告人は,本件で逮捕された直後の捜査段階から上記のとおり供述しており,現場で行われた実況見分においてもA子に教えられたという施設の場所を正しく特定できたことが認められる。このような供述経緯に照らし,被告人は,逮捕の時点で既に施設の場所を知っていたと認められる。このことは,別れ際にA子から施設の場所を教えられたという被告人供述を裏付けている。
 もっとも,被告人が他の機会に施設の場所を知り得たと認められる場合,裏付け事情としての価値は減殺される。この点,検察官は,被告人はA子との会話の中で施設の場所を聞いて知った可能性があると主張する。確かに,そのような可能性は抽象的には否定できない。しかし,仮にそうだとすると,被告人は,犯行後,そこがA子の住居のすぐ近くであることを知りながら,あえてNバス停の方に戻り,夜間であることを考慮すると相当長時間待たなければならないかもしれないバスを待って帰宅しようとしたことになる。強姦という重大犯罪をした直後にそのような行動をすれば,仮に被害者が直ちに警察に被害申告をして付近の検索が行われていればすぐに検挙される危険性があり,これは相当に不自然な行動である。また,被告人が何らかの方法で施設の場所を知っていたとしても,その理由について,別れ際にA子から直接施設の場所を教えられたという虚偽の説明をすることで,上記知識を帰り際までA子と行動を共にしていたという虚偽の弁解と結び付け,ひいては強姦行為などなかったという弁解の根拠として利用するという発想はなかなか思い付かない技巧的なものであり,逮捕直後からそのような弁解をすることが可能であったかという点にもやや疑問がある。加えて,仮にこの弁解が虚偽であるとすれば,A子は偶々被告人の虚偽供述に符合するように午後10時ころに施設に帰宅していたということになるが,そのような偶然は考えにくい。検察官の主張を踏まえても,被告人が施設の場所を知っていたことの裏付け事情としての評価は揺らがない。
(ウ) 被告人が公園東側階段の場所を知っていたこと等
 証拠によれば,被告人は,本件で逮捕された後の捜査段階から上記のとおり供述しており,現場で行われた実況見分では,警察官をN公園東部の芝生広場から下に降りる階段(以下,「東側階段」という。)に案内し,A子に案内された出口として特定したことが認められ,被告人は逮捕の時点で東側階段の存在及び場所を知っていたと認められる。そして,証拠によれば,東側階段を通ると実際にN公園から外の道路に出ることができ,被告人が最初にN公園に入ったときに通ったN公園西部の円形広場から歩道に降りる階段(以下,「南側階段」という。)を通った場合とは反対側に出るが,施設やNバス停に行くにはこちらの方が近道になること,A子は東側階段の存在及び場所を知っていたことが認められる。これらの事実は,A子の案内でA子と一緒に公園を出たという被告人供述を裏付けている。
 被告人は,最初にN公園に入ったときと1万円をキャッシングした際にコンビニエンスストアまで往復したときには,南側階段を通ったと認められ,被告人がこれらの機会に東側階段の存在及び場所を知ったとは考えられない。また,証拠によれば,東側階段の入口は,被告人とA子が腰掛けて会話するなどしていた円形広場内のベンチから60メートル程度離れた位置にあり,入口の形状も,公園を囲むフェンスの一部分が途切れていて,そこから下に階段が伸びているという目立たないもので,公園内の夜間の明るさや芝生広場歩道の両脇には木々も植えられていたことも考慮すると,被告人が,公園にいる間に,A子に教えられることなく東側階段の存在及び場所に気づいたとも考えにくい。仮にこれに気づいたとしても,一見して公園の外の道路に通じるものであることがわかるような階段でもない。さらに,帰り際以外にA子が被告人に東側階段の存在及び場所を教える機会があったとも考えられない。そうすると,被告人が東側階段の存在及び場所を知り得る機会は,N公園からの帰り際以外には考えにくく,しかも,強姦という重大犯罪を犯した直後に現場から一人で逃走する際にあえて入ってきた階段とは別の勝手のわからない方向へ行って偶然東側階段を見つけたということも考えにくいから,被告人が東側階段の存在及び場所を知っていたという事実は,A子の案内で東側階段から公園を出たという被告人供述を裏付けるものである。
 イ 以上に加え,帰宅状況に関する被告人供述は,途中のドラッグストア角の三叉路でA子から一番近いバス停として南方向を指し示されたが,道が何本か枝分かれしてわかりにくいように感じたので,元のNバス停に戻るべく北方向に歩いていったという特徴的なエピソードを含む詳細かつ具体的なものであり,不自然・不合理な点は認められない上,捜査段階から概ね一貫している。
 検察官は,A子から施設の場所を教えられた状況について,被告人の供述が度々変遷していると主張する。確かに,そのとき被告人らが立っていた場所とNバス停の北行き側との位置関係等について,被告人の供述には変遷があり,Nバス停の北行き側の位置についての被告人の当初の供述は客観的証拠に反している。しかし,Nバス停の北行き側で帰りのバスに乗る直前,A子から施設はここだと教えられたという供述の核心部分は一貫している。被告人にとって施設周辺は事件当日に初めて訪れた場所であったこと,夜間の路上での出来事であったことを考えると,バス停の位置関係等について正確に認識・記憶できなかったとしても不思議ではなく,これらの点は,帰宅状況に関する供述全体の信用性には影響しない。
(3) 以上によれば,A子と一緒にN公園を出て,帰りのバスに乗車するまで行動を共にしていたという被告人供述は信用でき,一人で施設に帰ったというA子の供述は信用できない。
5 被告人供述の信用性について
 他方,強姦の事実を否認する被告人の供述は,捜査段階から一貫しており,上記3(1)のとおり,A子の供述どおりであれば存在する可能性が高いか相当程度認められる客観証拠が存在しないことは,被告人供述と整合するものである。また,上記4のとおり,被告人は,A子と一緒にN公園を出て,帰りのバスに乗車するまで行動を共にしていたと認められ,これも強姦行為をしていないという被告人供述と整合し,その信用性を補強する事情といえる。
 他方,被告人供述と明らかに矛盾する事実及び証拠はない。もっとも,被告人がA子を尾行した経緯に照らせば,被告人が当初はA子に対し,被告人が供述するよりも直接的な性的関心を抱いていた疑いは濃厚である。しかし,被告人は,普段は妻子を養いながら勤務先の会社でグループリーダーとして稼働する会社員であり,被告人に前科はなく,性犯罪の傾向も認められないから,そのような被告人が当初はA子に性的関心を抱いてかなり執拗に尾行までしてしまったものの,自分の子供と同じくらいの年齢であるA子とかなりの時間にわたって直接話をするうちに,その欲情を消失させてしまう可能性も十分あり得ることである。1万円をキャッシングしたのはA子が小遣いを使い果たして翌日友達と買い物に行くのにお金がないというから,かわいそうに思って1万円を上げることにしたからであるという供述部分も,やや不自然な感はあるものの,あり得ないことではなく,明らかに不合理であるとまではいえない。これらの問題点を考慮しても,強姦行為をしていないという被告人供述の核心部分の信用性を排斥することはできない。
6 結論
 上記3,4の事情を考慮すると,上記2の事情を踏まえても,被告人に公訴事実のとおり強姦されたとするA子供述の信用性には合理的疑いをいれる余地があり,これを否定する被告人供述を排斥するに足りる証拠はない。したがって,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役6年)
平成23年3月2日
大阪地方裁判所第9刑事部
裁判長裁判官  長井秀典
裁判官  安永武央
裁判官  渡邊彩子

(別紙)
A子           A
N公園          大阪府高槻市(以下略)所在のN公園
Nバス停         Nバス停(△△△西口方面行き)
Nバス停の北行き側    Nバス停(□□□方面行き)

 

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