法律相談24時間受付無料 0120-631-276 まずは相談予約のお電話を

強姦福岡

福岡地方裁判所判決
/平成21年(わ)第1537号、平成22年(わ)第195号、平成22年(わ)第435号

主文

被告人を懲役2年6月に処する。
未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
本件公訴事実中強制わいせつの点については,被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 虚言を用いてAをホテルに連れ込んだ上,同女を強姦しようと企て,平成20年2月26日午後10時25分ころ,福岡市中央区(以下略)のホテル「□□」○○○号室において,同女(当時27歳)に対し,その両腕をつかんでベッド付近まで引っ張り,同女をベッド上に押し倒して馬乗りになり,その両肘を押さえ付けて,その唇に接吻し,その着衣の上から乳房を触るなどの暴行を加えた上,「往生際が悪いんだよ。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫しようとしたが,同女に抵抗され,その目的を遂げなかった。
第2 判示第1の強姦未遂事件の犯人であるのに,前記Aをして刑事処分を受けさせる目的で,平成20年6月16日,福岡市中央区舞鶴二丁目5番30号所在の福岡地方検察庁において,同庁検事正に対し,「前記Aは,被告人をして刑事処分を受けさせる目的で,同年3月12日ころ,福岡県中央警察署長に対し,被告人が同年2月26日,前記ホテル「□□」○○○号室において,Aに暴行・脅迫を加え,その反抗を抑圧して姦淫しようとしたが,その目的を遂げなかった旨の虚偽の事実を記載した告訴状を提出して告訴し,もって虚偽の告訴をした。」旨の虚偽の事実を記載した福岡地方検察庁検事正宛告訴状を同庁受付に提出して告訴し,もって虚偽の告訴をした。
(証拠の標目)括弧内の甲乙の番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号を示す。
判示事実全部について
・被告人の公判供述
・証人Aの公判供述
・領置品(被害者の着衣)の写真撮影報告書(甲45)
・資料入手に関する報告書(甲48)
・実況見分調書(甲50)
判示第2の事実について
・告訴状(甲1)
・告訴状謄本(甲40)
・捜査報告書2通(甲41,42)
(事実認定の補足説明)
第1 強姦未遂について
1 判示第1の強姦未遂につき,被害者及び被告人は,本件当時,現場であるホテル「□□」○○○号室に2人で行き,居合わせたことを共に供述する一方,被害者は室内で判示のとおりの被害を受けたと証言し,被告人は犯行を否認している。当裁判所は,被害者の証言は被害者の着衣に被告人の唾液が付着している状況に裏付けられており,タクシー運転手の証言や被告人との携帯メールでのやりとりなどとも整合する内容であって信用することができ,これに反する被告人の供述は,上記のような証拠と整合せず,信用できないと判断した。以下,その理由を詳述する(なお,以下において「証言」とは,当該証人の公判供述,及び,公判手続更新前の公判調書中の当該証人の供述部分を示す。)。
2 被害者証言の要旨
 被害者証言の要旨は,以下のようなものである。
 本件当時,スーパーの保安員として稼働していた被害者は,本件前日の万引き犯検挙の際に被告人と知り合い,本件当日に被告人から被害者の携帯電話に「電話下さい」との伝言の録音があったことをきっかけに連絡を取り,被告人からの申し出で,被害者と被告人の2人で同日午後7時前から午後10時過ぎまで居酒屋で飲食した。その後,被害者は,被告人からカラオケに誘われ,2人でタクシーに乗って被告人の指示で本件ホテルに向かい,同ホテルで降車し○○○号室に入った。被害者は,ホテルには他の警察官がいると言われて付いて来たのに誰もいなかったことから被告人に抗議した。すると,突然被告人からベッドに押し倒され,首筋などをなめられる,被害者が着ていたセーターの上から胸などに顔を埋められるなどの被害を受けたものの,被害者が抵抗したため,姦淫被害には至らなかった。その後,本件ホテルから被告人とタクシーに同乗して帰宅の途につき,途中で被告人が降車した後,自宅へ帰った。
3 被害者証言の信用性
 この被害者証言は,以下に述べるように,他の証拠に裏付けられているもので高度の信用性が認められる。
(1) セーターの鑑定結果との整合
 被害者が本件当時着用していたセーターの唾液付着の有無及びその唾液のDNA型の鑑定を行った証人Bが作成した鑑定書(甲22,24)及び「被疑者Gに係わる強姦未遂事件における鑑定について」と題する書面(甲25)並びに同人の証言(これらの書証及び証言を併せて,以下「B鑑定」という。)によれば,①セーターの右胸部から腹部にかけての縦7センチメートル横3センチメートル程の部位に唾液の陽性反応があり,他方で飛沫状の唾液の反応がなかったことからくしゃみや咳による唾液付着とは考えにくいこと,②陽性反応があった部位のうち異なる2か所から採取したDNAは,経験上も理論上も2人のみのDNAが混在している可能性が非常に高いものであり,その混合DNAから被害者のDNA型を除いた残りのDNA型は被告人のDNA型と矛盾せず,その出現頻度は35兆8,000億人に1人であったことが認められる。
 B証人の鑑定人としての資質や鑑定方法に問題はなく,B鑑定は信用することができる。
 弁護人は,本件事件当時まで,及び事件当時から鑑定に至るまでの間のセーターの保管状況が不明であり,鑑定資料としての適格性を欠く旨主張する(弁論要旨第4の1)。しかし,被告人と被害者の関係性からして,前記部位に付着するに足りる量の被告人のDNAを含んだ唾液が,本件事件前及び事件後鑑定に至るまでの間にセーターに付着する可能性は考えられないし,保管状況如何によって被告人以外の者のDNAが混在する可能性が抽象的に考えられるとしても,その点は結局混合DNAの分析や検討という鑑定結果に帰着するのであり,保管状況如何が本件鑑定の信用性を減殺するとはいえない。
 B鑑定によって,被害者が事件当時着ていたセーターの右胸部から腹部にかけて,縦7センチメートル横3センチメートル程の唾液が付着しており,その唾液は被告人のものである可能性が極めて高いと認められ,この事実は,被告人が被害者の胸あたりに顔を埋めたという被害状況に関する被害者証言を客観的に裏付けるものである。
 この点,弁護人は,鑑定結果そのものが被告人の犯行を裏付けるものではない,首筋等をなめられたという被害者供述とセーターの他の部位から唾液反応が出ていない鑑定結果とは矛盾すると主張する(弁論要旨第4の1)。しかしB鑑定は,混合DNA中に被告人のDNAが存在して矛盾しないことを出現頻度という確率でもって示しているのであり,被告人のDNAが含まれている可能性が極めて高いと認められるし,被害者供述によっても襟首付近に唾液が必ず付着するとはいえず鑑定結果と矛盾するものでもない。弁護人の主張は当たらない。
(2) 本件ホテルへタクシーで行った状況
 被害者は被告人から騙されて本件ホテルに行った,タクシーの運転手には行き先を被告人が指示していた旨証言しているところ,この被害者証言は,タクシー運転手の証言によって裏付けられている。
 証人Cは,乗務したタクシーで,本件当日,男女の客を本件ホテルまで乗せていった旨証言したところ,その客が被告人及び被害者であることはタクシーの乗務記録とホテルのチェックアウト票(甲48)の時刻から推認できる。そして,C証人は,男性客の指示で本件ホテル方面へ向かった際,男性客の指示を間違えて須崎浜西交差点で区画を一周したという特徴的な経路を証言した上で,料金メータを止め,男性の指示で本件ホテルに入り客を降ろした旨を証言した。前記の経路自体が特徴的で,タクシー運転手としては,道順を間違えた後は客からの行き先の指示に注意していたと考えられる上,C証人は,本件当日から2か月以内に取調べや実況見分に応じており,早期に記憶が定着されていると推察されることからすると,C証言は信用できる。
 C証言は,被告人の指示で本件ホテルへ向かったという被害者証言を裏付けるものである。
(3) 事件前の電話,事件後の携帯メールとの整合
 被告人が本件当日の午後1時13分に被害者の携帯電話に録音した「電話下さい」との伝言内容(甲5)から,そもそも被告人の側から被害者に連絡を取ったことが明らかであり,被告人から誘われたという本件に至る経緯に関する被害者証言を裏付けるといえる。また,本件翌日以降に被告人からのメールに対して送信した被害者のメールの内容(甲4)は,その文面からして本件被害に遭ったことや,犯行を非難していると理解できるもので,被害者証言とよく整合しており,同証言を裏付けるものである。
(4) その他の証拠との整合性
 被害者の母や友人,交際相手などの証言等も,被害者証言と整合しその信用性を支えるものということができ,被害者証言と整合しなかったり矛盾したりする内容はない。
(5) 被害者証言の信用性に関する弁護人の主張について
 被害者証言につき,弁護人は,ホテル室内の滞在時間を合理的に説明できないなど,供述内容自体が不自然不合理であると主張する(弁論要旨第2の1)。しかし,時間に関する記憶は確たる根拠によるものではなく,被害者証言が客観的な滞在時間と矛盾するとはいい難い。また,弁護人は,被害者の着衣に暴行の痕跡がない,被告人と被害者の互いの着衣から相手方の着衣の繊維片が検出されていないとして,被害者証言が信用できないと主張する。しかし,着衣に暴行の痕跡がないという点は,被害者の着衣の素材等に照らせば,痕跡が残らないことは不自然ではなく,繊維片が検出されていないという点は,証拠上そのような捜査を行った形跡が窺えず,繊維片付着という裏付け証拠が存在しないことは弁護人指摘のとおりであるが,先に述べたように唾液付着について裏付け捜査が実施されている本件では,繊維片付着を保全する捜査がされていないこと,あるいは繊維片付着という裏付けがないことが被害者証言の信用性を減殺させる事情とはいえない。その他弁護人が主張する点を検討してみても,被害者の証言する内容が不自然不合理とはいえない。
 弁護人は被害者証言について重要な事実に関し重大な変遷があるとも主張する(弁論要旨第2の2)。しかし,被害者証言は,被告人から判示のような被害を受けたという点では,何ら変遷しておらず,弁護人が指摘する証言内容の変遷は,重要な事実に関するとはいえないものか,尋問の仕方に影響されたとみられるものや表現の違いに過ぎないものなど実質的には変遷とはいえないものであって,被害者証言の信用性を減殺するものではない。また,弁護人は,被害者証言には秘密の暴露的要素がないと主張するが(弁論要旨第2の3),秘密の暴露的要素がないことが信用性を減殺するものではない。
 弁護人は,被害者には,被告人とホテルに行った事実を隠すという虚偽申告の事情があると主張する(弁論要旨第3)。しかし,仮にそのようにホテルに行った事実を隠したいのであれば,事件翌日の被告人からのメールに対して,無視するか適当な返信をすることが自然な対応と考えられ,本件のように唐突に被告人を非難するメールを送るとは考えにくく,弁護人の主張は採用できない。
4 被告人の供述について
 本件犯行を否認する被告人の供述は,被告人の唾液が被害者のセーターに付着していることの説明をなし得ず,その他の証拠とも整合しないもので,信用することができない。
(1) B鑑定との不整合
 被告人の供述によっては,被告人の唾液が被害者のセーターの胸から腹部辺りに付着することはなく,その供述内容は,B鑑定と整合しない。
 なお,被告人は,前記○○○号室のベッドで仰向けになっている間に,被害者が被告人にすり寄ってきた旨を供述するが,被害者の胸部付近が被告人の顔辺りに来るような状況は述べておらず,その他の機会での付着を窺わせる事情も見当たらない。
(2) 被害者の携帯電話へのメール,伝言及びC証言との不整合等
 被告人は,本件翌日以降に,被告人と被害者との間で交わしたメールの内容について,被害者が何か因縁をつけてくる変な女性かもしれないと思い,刺激することなく事態を収束させようとしたなどと説明するが,メールの文面は被告人から被害者に対して本件を事件にしないよう繰り返し忠告ないし警告するものと理解できる内容であって,刺激しないようにしたとの説明とは整合しない。
 また,本件当日に被告人の私用電話から被害者の携帯電話に電話をくれるよう伝言を残した点についても,被告人が公判廷で述べる理由は不自然である。
 さらに,被告人は,被害者の道案内で本件ホテルに行き,須崎浜西交差点を右折していない旨供述しているが,前記Cの証言と相反する。
(3) 被告人の供述の変遷
 弁護人は,被告人の供述は,逮捕当初から一貫しており信用できると主張する。しかし,被告人は,逮捕当日の警察官調書では,ホテル室内で被害者の肩を抱いたり,髪をかき上げたりしたなどと録取されているが(乙2),公判廷においては,そのようなことはしておらず,すぐにカラオケを歌おうとしたが,2人で歌うことのできる曲目がなく,自分はベッドで寝ていたなどと供述し,室内でのやり取りの内容を変遷させている。本件ホテルに行く経緯についても,前記供述調書においては,居酒屋での飲食後に「このまま帰るね,どうするね。カラオケくらい行くね。」などと被告人から言ったと録取されているが(乙2),公判廷では,被害者からカラオケに誘われた旨供述し,内容を変遷させている。
 被告人は,供述変遷の理由について,取調べを担当した警察官から,「絶対起訴されないから調書は関係ないし,留置場に早く入らないといけないから,今日はこのくらいにしておけ」などと言われたので,後で修正すればいいと思って加除訂正を諦めて署名指印したという。しかしながら,警察官である被告人が,自分の記憶と異なる記載がある供述調書に署名指印するとは考えにくい。
5 結論
 以上の次第で,本件被害に遭った旨の被害者証言には高度の信用性が認められる一方,犯行を否認する被告人の供述は信用できず,排斥されるべきものであるから,被告人が判示第1の強姦未遂を犯したと認められる。
 なお,弁護人は,公訴権濫用として公訴棄却すべきである旨主張するが,公訴提起に至る経緯その他一件記録から窺われる事情を検討しても公訴権濫用を疑わせるような事情は見当たらない。弁護人の主張には理由がない。
第2 虚偽告訴について
 上記第1で検討したとおり,被告人は判示第1の強姦未遂罪の犯人であるから,判示第2の虚偽告訴罪が成立する。判示第2に関する公訴棄却の主張についても,上記第1と同様である。
(法令の適用)
罰条
 判示第1の所為  刑法179条,177条前段
 判示第2の所為  刑法172条
法律上の減軽
 判示第1について 刑法43条本文,68条3号
併合罪の処理     刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入  刑法21条
訴訟費用の不負担   刑事訴訟法181条1項ただし書
(一部無罪の理由)
1 公訴事実
 強制わいせつの公訴事実は,「被告人は,平成18年10月14日午前3時ころ,福岡県大牟田市(以下略)付近路上に停車中の普通乗用自動車内において,同車を運転していたD(当時28年)に強いてわいせつな行為をしようと企て,同女に対し,やにわにその身体に覆い被さって抱きつき,その両頬を両手で挟み込んで押さえ付けるなどの暴行を加え,同女の意に反して接吻し,さらに,同女が着座していた運転席を後方に倒した上,同女の上に覆い被さり,その着衣の上から同女の乳房等をもてあそぶなどし,もって強いてわいせつな行為をしたものである。」というのである。
 D(以下「被害者」という。)及び被告人は,被害者の運転する自動車で佐賀から大川を経由して大牟田に至った経緯や同車内での会話,後述するHタクシー有限会社(以下「Hタクシー」という。)社屋近辺で被告人が被害者の車を降りた点については概ね一致した供述をする一方,被告人が本件強制わいせつ行為に及んだか否かについては対立する内容を供述している。当裁判所は,被害者証言には一応の信用性が認められ,被告人が犯行を犯したとの疑いは肯定できるものの,被害事実を裏付ける客観証拠はなく,被害者証言や関係証拠を総合しても,被告人が本件公訴事実を犯したことについて,合理的な疑いを容れない程度の確信には至らなかった。その理由を以下に述べる。
2 被害者証言について
(1) 被害者は,①本件当日午前1時にスナックでのアルバイトが終わった後,自分の車で帰宅するついでに,常連客であったEを大川市へ,初対面であった被告人を大牟田方面の同人の実家まで送っていくことになったこと,②被告人は助手席に,Eは後部座席に座り,大川市でEを降ろした後,大牟田市内に入ったころ,被告人から太ももを触られたこと,③被告人がタクシーで帰ると言うので,Hタクシー社屋そばの本件現場に車を止めたところ,いきなり被告人から公訴事実のとおりの被害を受けたこと,④その後,被告人は,降車する際にカーネーションの形の雑貨を助手席に置いていったこと,⑤被害者は,平成20年5月10日に警察官に対して本件被害を申告し,平成21年10月18日に被告人を本件強制わいせつ罪で告訴したことを証言した。
(2) 被害者と被告人とが本件当時初対面であり,その後も特に利害関係がないことに照らすと,被害者が虚偽供述をする動機は見当たらず,証言を全体としてみれば,虚偽の事実を作出したものとは考えにくいといえる。もっとも,本件が平成18年10月14日の出来事であって,被害者の証人尋問がちょうど4年後の平成22年10月14日に実施されている上,被害者が警察官の問い合わせに応じて被害申告した時点でも既に約1年7か月が経過しており,本件に至る経緯や被害の具体的な状況については一定程度の記憶の減退や混同を考慮に入れる必要がある。
 そこで,さらに,場面を追って証言の信用性を検討すると,被告人を送っていくことになった経緯については,不自然な点はなく,被告人と以前から親交のあるEの証言とも整合的である。本件被害に密接に関連する,車内で被告人から太ももを触られたことや本件被害状況については,証言内容自体に特に不自然な点は見当たらず,被害再現に照らしても実行可能な内容である。本件被害状況,すなわち,被告人からキスされたり自動車の座席を倒され触られたりしたという事柄については記憶が保持されていると考えられ,信用性を減殺するような事情がないのは検察官主張のとおりである。しかし,この被害状況の部分について,被害者が証言している以外に,事件後早期に被害を相談した第三者の存在や物的証拠など被害者証言の信用性を支える証拠は存在しない。被害者は知人のFや交際相手に被害を打ち明けているが,事件から相当期間経過後のことであり,その経緯自体あり得ることで不自然とまではいえないものの,事件直後に相談した場合と比較して信用性を担保する程度は高くない。また,被害者及び被告人の携帯電話機に互いの電話番号が登録されている事実(甲37,38)は,被害者証言を裏付けるものといえるが,本件被害状況以外の部分であり,本件被害及び被害に密接に関連する事情についての被害者証言の信用性を高める事情とはいえない。検察官は,被告人が強姦未遂に関して釈放され,強姦未遂事件の被害者を虚偽告訴罪で告訴したことを知った後に,本件被害者が敢えて告訴に及んだ点を指摘するが,この点は,被害者が全体として虚偽供述をする動機がないと評価する事情にすぎないというべきである。
 結局,被害者の証言は,被害申告に至る経緯を含め,その内容自体に不自然不合理な点はないが,被害に遭ったことについて,それを裏付ける客観証拠や事件直後頃の裏付け証拠がなく,一応の信用性が認められる程度にとどまる。
 なお,弁護人は,Eと株をめぐってトラブルがあったFが,被告人と親交のあるEに金を支払わずに済むように,被害者に虚偽の供述をさせているなどと指摘するが,被害者の被害相談と前記トラブルとの先後関係に照らすと,弁護人の指摘は当たらない。
3 被告人の供述について
(1) 被告人は,平成22年2月,取調べ担当警察官に対し,被害者のアルバイト先スナックには本件当日以降行ったことがなく,被害者に被告人自身の電話番号などを教えることもなく,被害者の電話番号などの連絡先も知らない旨明確に供述していた(乙13,14)。携帯電話への登録状況は客観証拠に反するが,公判廷では覚えていない旨述べて供述を後退させている。事件から相当期間を経てからの取調べであり,一定程度の記憶の減退があり得ることを考慮しても,不自然である。
(2) また,被告人は,公判廷において,被害者がHタクシー車庫前に車を止め,被告人が,直ちに同車を降りてHタクシーの事務室を見たところ,人がいなかったので大声で呼んだら従業員が出てきてタクシーの準備ができるまで待つことになり,その旨を被害者に告げ,被害者は車で去っていった,Hタクシーの車庫と歩道との間に何分間か立ってタクシーの準備を待った後,タクシーで荒尾市の実家に帰ったと供述し,このとき乗車したタクシーにつき,Hタクシーの業務日報を確認した結果,同日報の○○○号車であり,発地「大正町」,着地「荒尾」,料金が2400円との記載が被告人の乗車を記録したものであるという。
 しかし,Hタクシー社屋は東新町にあるので(甲53),他の業務日報の記載(甲57)にも照らすと,発地は「東新町」と記載されると考えられ,東新町と大正町との位置関係(甲29)からして「大正町」と記載するとは考えにくく,Hタクシーで実家に帰ったとの被告人供述は疑わしい。
4 検討
 前記3で検討したとおり,被告人の供述は,被害者に関してことさらに無関係を装ったともとれる供述をしていたことや,Hタクシーで実家に帰ったのかという点で,その信用性に疑いを生じさせる。しかし,本件においては,被告人の供述に前記のような疑問があることが,直ちに被告人の犯行そのものを否認する供述を排斥することにはならないし,被害者と被告人の供述は,被害者運転の自動車に被告人が同乗し,Hタクシー付近で被告人が降車したことでは合致し,被害状況に関してのみ相反しており,その被害状況に関して信用性を裏付ける客観証拠がない点では,被害者証言も被告人供述も同様である。そうすると,前記2で検討したとおり,被害者証言は不自然不合理とはいえないものの,一応の信用性が認められる程度にとどまり,その他に被害状況を裏付ける客観証拠や事件直後の裏付け証拠はないので,被告人供述と相反する被害者証言のみによっては,被告人を有罪とするにはなお合理的な疑いが残り,犯罪が証明されたという確信には至らなかった。結局,強制わいせつの公訴事実については,「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従い,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。
 なお,本件についても,弁護人は,捜査手続の違法性や嫌疑のない起訴であるとして公訴棄却の主張をしていると解されるが,仮に捜査手続に違法があったとしても公訴提起の効力が失われないことは確定判例の示すところであるし,一件記録を精査しても本件について違法捜査を疑わせるような事情は見当たらない。また,既に検討したとおり,被害者の供述には一定の信用性がある一方,被告人の供述は信用できない面があって,嫌疑がないのに起訴したとは認められない。弁護人の公訴棄却の主張には理由がない。
(量刑の理由)
 本件は,警察官である被告人が,その立場を利用して,事件協力者である被害者を食事に誘い,警察関係者のみが利用するカラオケがあるなどと嘘をついてラブホテルに連れ込み,強いて姦淫しようとしたが,同女に抵抗されて未遂に終わった強姦未遂(判示第1),及び,同女が上記被害を告訴したことを虚偽告訴であるとして告訴した虚偽告訴(判示第2)の各事案である。
 判示第1については,警察官に対する信頼を悪用して,被害女性を騙してホテルに連れ込み,二人きりの室内で被害女性を襲おうとした狡猾な犯行であり,警察官に対する信頼を損なうものである。被告人は,一部の警察官による陰謀である旨の弁解に終始し,なんら反省の態度を示さないばかりか,判示第2の虚偽告訴に及んでいる。性犯罪の告訴をした被害者に対して虚偽告訴をすることは,親告罪の制度を揺るがしかねないものである上,刑事手続に詳しい警察官であった被告人が虚偽告訴したものであって,虚偽告訴事案の中でも悪質といえる。被害者の処罰感情が厳しいのは当然である。そうすると,被告人に対しては,厳しい社会的非難が向けられるべきであり,その刑事責任は重く,実刑は免れない。
 一方で,判示第1について,着衣を脱がせるなどの強度のわいせつ行為までには至らなかったこと,有罪判決の確定によって警察官に復帰する途が閉ざされ,一定の社会的制裁を受けることになること,これまで前科前歴がないことなど,被告人のために考慮すべき事情もある。
 そこで,これらの事情を総合的に考慮して,未遂減軽をし,主文の刑を科すのが相当であると判断した。
(求刑 懲役5年)
平成23年7月12日
福岡地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官  田口直樹
裁判官  杉本正則
裁判官  藤井俊彦

▲ 刑事事件の裁判例目次にもどる

LINEアカウントでお得な無料相談を受ける!上記の記事でよく分からない部分を弁護士に法律相談することができます

「LINE無料相談」での実際の相談例をご紹介します

お客様の感謝の声はこちらをクリック。アトム法律事務所は1人1人のお客様を大切にしています。 横浜・川崎で刑事事件に強い弁護士をお探しなら 刑事弁護ホットライン 0120-631-276 法律相談のご予約は日本全国24時間受付無料 すぐに弁護士が警察署に向かいます。まずはお電話ください。 親身で頼りになる刑事弁護士とすぐに相談できます。