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覚せい剤横浜3

横浜地方裁判所/平成13年(わ)第1363号、平成13年(わ)第2238号

主文

 被告人を懲役11年及び罰金500万円に処する。
 未決勾留日数中210日をその懲役刑に算入する。
 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 横浜地方検察庁で保管中の覚せい剤水溶液192本(平成13年領第1969号符号1ないし12,14ないし25,27ないし38,40ないし51,53ないし64,66ないし77,79ないし90,92ないし103,平成13年領第2691号符号1-1,2ないし12,14ないし25,27ないし38,40ないし51,53ないし64,66ないし77,79ないし90,92ないし103),覚せい剤1袋(同号符号1-2)を没収する。

理由

(犯罪事実)
 被告人は,ほか数名と共謀の上,みだりに,営利の目的で,覚せい剤を本邦に輸入しようと企て,
第1 平成13年4月14日ころ,中華人民共和国香港港において,パナマ共和国船籍A号に床用ワックス容器96本内に隠匿した覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩71.975キログラム(平成13年領第2691号符号1-1,1-2,2ないし12,14ないし25,27ないし38,40ないし51,53ないし64,66ないし77,79ないし90,92ないし103はその鑑定残量)を溶解した水溶液を積載させて出航させ,同月19日,横浜市a区b○番cd○号岸壁に接岸させた上,同所において,情を知らない作業員をして,床用ワックス内に隠匿した上記覚せい剤を本邦に陸揚げさせ,もって覚せい剤を輸入するとともに,同月20日,上記覚せい剤を同区e○番地B株式会社f所保税蔵置場内に搬入させて蔵置した上,同月26日,横浜税関c出張所長に対し,情を知らない通関士をして,品名を床用ワックスとして輸入申告させ,同年5月7日,同出張所長の輸入許可を受けて本邦に引き取り,もって,関税定率法上の輸入禁制品である覚せい剤を輸入し,
第2 同年4月19日ころ,前記香港港において,キプロス船籍C号に床用ワックス容器96本内に隠匿した前同様の覚せい剤72.27024キログラム(平成13年領第1969号符号1ないし12,14ないし25,27ないし38,40ないし51,53ないし64,66ないし77,79ないし90,92ないし103はその鑑定残量)を溶解した水溶液を積載させて出航させ,同月24日,同船を同区b○番cd○号岸壁に接岸させた上,同所において,情を知らない作業員をして,床用ワックス内に隠匿した上記覚せい剤を本邦に陸揚げさせ,もって覚せい剤を輸入するとともに,同月26日,上記覚せい剤を同所c○番○の指定保税地域に搬入させて蔵置させ,もって関税定率法上の輸入禁制品である覚せい剤を輸入しようとしたが,税関職員の調査により発見され,その目的を遂げなかった。
(証拠)    

(争点に対する判断)
1 争点
 被告人は,覚せい剤の輸入を共謀したことはなく,本件輸入物件であるワックス容器中に覚せい剤水溶液が入っていることは知らなかった旨供述し,弁護人も同様に述べて被告人が無罪であると主張する。そこで,①共謀の有無②覚せい剤についての認識の有無につき以下検討する。
2 認定事実
 D,Eの供述をはじめとする前掲関係各証拠(被告人の供述で,捜査,公判を通じて一致している部分を含む)によれば,本件犯行に至る経緯,犯行状況等として,概ね以下の事実を認めることができる(なお,D及びEの供述(捜査及び公判)は,被告人と知り合って床用ワックスの輸入手続き等を頼まれた経緯,被告人とのやり取りなど本件に係わる一連の事項について,詳細かつ具体的に述べられており,また,相互に矛盾するところもなく,一貫性が認められるものであり,格別その信用性を疑うような事情は存しない)。
(1) 被告人は,食品ブローカー等として稼働していた者であるが,平成10年10月ころ,日本において時計やバッグ等の輸出入を行っていた有限会社Fの代表取締役を務めるDと同人の母親を通じて知り合った。
 平成12年3月ころ,被告人は,香港で,友人のGから,Hなる人物を紹介された。その際,被告人は,GからHはIという組織に所属する者で,過去にアメリカに違法薬物の輸出をしようとして捕まったことのある人だと説明を受け,Hと仕事するに際しては何をするにも十分気をつけるように言われた。
 そして,同月ころ,香港において,被告人はHと会い,日本で輸入手続をしてくれる人を捜して欲しい旨言われたため,Dを紹介することとした。
 同年4月1日,被告人は本邦へ入国し,同月3日ころ,Hとともに,Fの事務所を訪れ,DにHを紹介した。被告人とHは,Dに輸入取扱品のことや輸入代行にかかる手数料について問い,Dはこれに対して,一般的に費用として10から20パーセントであると答えた。
 同月12日には,被告人は香港に来ていたDと会い,食料品の輸入を希望したが,Dは自分の会社では食料品を扱うのは難しいと返答し,日本の拠点として場所を提供することはできると伝えた。
(2) 同年5月11日ころ,香港において,被告人はDに,ボディシャンプーの日本への輸入に関して,荷物の受領を依頼した。その後,ボディシャンプーが日本に向けて輸出されたので,6月7日に入国した被告人はDに再度荷物の受領を依頼したが,Fでは医薬部外品であるボディシャンプーの受け入れができなかった。被告人は6月21日に帰国したが,再び7月2日に日本を訪れた。そのころ,Dは被告人の指示により,ボディシャンプーをフィリピンのマニラに送る手続をした。Dは保管費用,手数料など併せて53万円位を被告人から現金で受け取った。
(3) 同年7月から8月ころ,被告人は,Hからワックスを日本に輸入できるか調べてくれと依頼を受けた。被告人は,Dに調査を依頼し,その結果ワックスであれば輸入可能な見込みであると分かった。
 同月下旬,被告人からDにワックスを送る旨の連絡とインボイス,パッキングリスト等関係書類のファックスがあり,その後,床用ワックス1カートンが,「J」から航空便でFに送られた。
 同年11月ころ,被告人からDに対してワックスを送る旨の連絡と関係書類のファックスがあり,11月13日,「K」からF宛に船便にて輸入された床用ワックス3カートンが配送されたところ,被告人は,同月15日に入国して先の1カートンとともに受け取った。
 同年12月下旬ころにも同様に被告人からワックスに関する連絡があった後,翌平成13年1月9日には,「K」からF宛に送られた床用ワックス6カートンが配送された。被告人は同日入国し,Fにおいて荷物を受け取った。
 このころ,Dが被告人に手続費用が少ないと言うと,被告人は1カートン受領する毎に5000円を払うことを約束した。
 同年3月ころにも同様の経過で,床用ワックス11カートンが「K」から輸入され,同月9日Fに配送されたところ,被告人は同月13日に入国し,荷物を受け取った。このとき,Eは,被告人が事務所から荷物を下ろした後,事務所前にとめられたタクシーを囲み,被告人と中国人らしき男2人が話をしているのを見た。
(4) 同年4月16日ころ,被告人からDに再びワックスを送ったとの電話があり,翌日ころ,関係書類がファックスで送られた。このころから,被告人からDに対して,通関がいつ終わるかについて毎日問い合わせの電話があった。同月20日,通関業者であるLの担当者Mから荷物が横浜港に着いた旨のファックスが送信されたため,Dは同月24日,通関手続の依頼をするファックスを送信した。同月27日ころ,DはMから,5月1日には荷物を発送できる旨返答を得たので,このころ,被告人に対して,5月2日には荷物を受け取れるだろうと連絡をした。5月2日に被告人は入国し,午後4時半ころ,Fの事務所を訪れたが,荷物はまだ配送されていなかったため,被告人は再度Dに通関業者に尋ねるよう依頼した。Dは再度Mに電話をし,お客さんがどうしても欲しいと言っているから,休みでも持ってきてほしいなどと言って,荷物の配送を急ぐように依頼したが,結局,荷物の配送は休み明けになるとのことであった。被告人は,同日,5月3日に予約していた帰国のための航空券を同月9日に変更した。Dは,次回の荷物であるとして,判示第2の事実に係る荷物8カートンの通関に必要なインボイス,パッキングリスト等関係書類を被告人から手渡しで受け取った。このころ,D,Eは,食事の際,お金は十分にできた,疲れるから今の仕事はやめたいと被告人が話しているのを聞いた。
(5) 同月7日,判示第1の事実に係る覚せい剤水溶液入りの荷物8カートンについて,麻薬特例法に基づく特例通関により通関許可がなされた。同月8日,Fの事務所において,前記荷物が配送されたところ,受け取ったEと被告人は現行犯逮捕された。その際,Eは「わぁ覚せい剤。違うと思います。」とハンカチで口を押さえて逮捕に応じたのに対し,被告人はEと目を合わせることなく,無言で首をうなだれたまま逮捕に応じた。
 判示第2の事実に係る荷物8カートンは,4月24日,横浜港に到着し,同月25日,F宛にその旨がファックスで送信されたが,輸入通関手続はなされなかった。
3 被告人の供述内容
 被告人は,捜査段階において,供述を変遷させながらも,最終的には,本件判示第1の事実のころには,Hの経歴,高額な報酬の提示,荷物の輸入の手続と受取りだけを自分に任せるという不自然さなどを理由として,床用ワックスの中身が覚せい剤を含む何らかの違法な薬物であると思ったことを詳細に供述している。
 しかし,公判において,被告人は,覚せい剤の認識と共謀の事実をともに否定して,覚せい剤であることを知らなかったと話しても警察官や検察官が調書を採ってくれなかったので,罪を認める供述をして早く裁判にしてもらおうと思ったこと,Hがどういう人物であるかは知っていたが,自分の食品関係の仕事でお世話になっていたのですっかり信じており,疑うことをしなかったこと,日本へ行っていたのは,紙の棺桶等日本において新しいビジネスをするための相談があったためであり,荷物の受取りはついでに友達(H)の手伝いをしたに過ぎないこと,本件判示第1の荷物の受取りに関してのみ,1箱1000香港ドルの報酬をもらう約束をしたが,それまでは報酬をもらう約束はなく,1度だけDから10万円位をもらったこと,市場における輸入コストと販売利益の不釣り合いについては自分のビジネスではないので考えなかったことなどを供述している。
 そこで,上記公判供述を検討するに,被告人は,前記認定事実のとおり,Hと知り合った平成12年3月か4月からまもなくして,同人の依頼どおりに,ボディシャンプーの日本への輸入ルートの開拓を行っており,ボディシャンプーの輸入手続が失敗すると今度は,水溶液状の床用ワックスの輸入手続きについてDに積極的に働きかけるなどした上,実際に床用ワックスが日本へ輸入されるたびにDに連絡を入れ,配送されると同時か,2,3日のうちに荷物を受け取りにやって来ていたことが認められるのである。加えて,被告人がブローカーとして稼働していた者であり,輸入コストや市場価格などにつき何らの疑問を持たないとは到底考えられないこと,日本でビジネスを始める意図があったにせよ本件当時は実現の見込みがほとんどたっていなかったことなどの諸点に照らすならば,Hを信用していたので本件床用ワックスの内容物については何ら疑いを持たなかったなどという前記公判供述は,たやすく信用することができない。
 かえって,捜査段階の被告人の供述は,床用ワックスが輸送される度にDに連絡をし,Fに配送される度に日本に入国しては荷物を受け取っていたという被告人の行動,輸入コストから考えてもおよそ市場価値を持たないと思われる床用ワックスを少量ずつ日本へ輸入する行為,そして,Hがマフィアに関係のある人物であり,4月には荷物の受け取りにつき1箱1000香港ドル(8カートンの受け取りで8000香港ドル)という高額な報酬の提示があったことなど不自然さ,不合理さを否めない各事実について,少なくとも本件判示第1の事実のころには床用ワックスの中身は覚せい剤を含む何らかの違法薬物であるかもしれないと思ったとして理由を述べて,整合性ある説明を行ったものと見ることができる。
 この点,弁護人は,捜査段階の犯意や共謀を認める供述は,前記捜査官や通訳人による利益誘導があったためであり,任意性がない旨主張する。
 しかし,捜査段階の被告人の供述には,Hから報酬をもらう代わりに,指示されたままに荷物を受け取ったのであって,覚せい剤についての認識はなかった(平成13年5月9日付け警察官調書)という公判供述と同趣旨のものや,実はDから指示を受けて荷物を受け取ったのであり,中身については知らなかった(平成13年5月22日付け警察官調書)というものなど,被告人の供述するところがそのまま記されたと思われるものが存在している上,それ以外の調書についても,通訳人を介して録取,読み聞けを受け,署名指印に応じていることが認められる。さらに,被告人の公判供述によっても,取調べが長時間に及んだり,暴行を受けたという事実は窺えない。
 これらからすると,被告人の捜査段階の供述につき,任意性に疑いがあるとは認めがたい。
4 結論
 以上より,被告人が,HをDに紹介し,輸入手続の依頼をするとともに,一連の床用ワックス等の荷物の輸入に関してDへの連絡を頻繁に行っていたこと,当該荷物が本邦に配送されるたびに,本邦へ入国して荷物の受取りを行っていたこと,判示第1の事実に係る荷物の配送時期について,しきりとDにその問い合わせをしていたこと,荷物の配送時期に合わせて帰国の予定時期を変更していること,現行犯逮捕された際の言動といった諸事情に加えて,前記のとおり,被告人の公判供述は,各証拠から認められる前記の認定事実をおよそ整合的に説明できるものとは言い難く到底信用できないものである一方で,前記の認定事実とそれに整合性のある捜査段階の被告人の供述内容を総合すると,遅くとも本件判示第1の当時には,被告人に床用ワックスの中身について少なくとも覚せい剤を含む何らかの違法薬物であることの認識があったことを優に認めることができる。
 そして,Hの指示を受けて輸入手続と荷物の受取りに関与したことは被告人自ら認めるところであるが,前記のとおり,被告人には荷物の在中物が覚せい剤を含む違法薬物であることの認識があった以上,H及びその他の者と事前に共謀した上で,本件覚せい剤の輸入手続等の実行行為に関与した事実が認められ,被告人には共同正犯の成立も認められる。
 弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)  略
(量刑理由)
本件は,被告人がほか数名と共謀し,輸入禁制品である覚せい剤を,営利目的で大量に輸入したという事案である。貨物に見せかけた合計192本の床用ワックスの容器内に水溶液状の覚せい剤を隠すという巧妙な手口を用い,2回にわたって合計約140キログラムと極めて多量の覚せい剤の輸入を行った本件犯行態様は極めて悪質である。本件の覚せい剤輸入元である中国には,覚せい剤密売組織の存在が窺われるのであり,継続した組織的な関与の見込まれる,大規模,国際的な犯罪といわざるを得ない。
そして,被告人は,交友関係を元にして貨物の日本への輸入手続に関わった上,荷物が送られてくるのとほぼ同時期に本邦へ入国しては,実際に荷物を受け取り,首謀者より指示された者に手渡していたというのであり,関与の態様としても決して従属的なものとはいえずまさに実行行為の一部を担当していたというべきものであり,犯情は悪質である。公判においても,不合理な供述を繰り返し,自己の刑責を免れることに終始しており,反省の態度を示すにも至っていない。
幸いにして本件の発覚により,本件輸入に係る覚せい剤が社会に拡散されることは免れたのであるが,覚せい剤等の違法薬物の蔓延が大きな社会問題となっている今日において,本件の如き大量の覚せい剤密輸事件については一般予防の見地からも,厳しい対応が必要である。
以上からすると,被告人の刑事責任は極めて重いといわざるを得ない。
とするならば,本件につき被告人に指示を出していたと思われる首謀者の存在が窺われること,被告人には本邦における前科前歴はなく,本国には被告人を待つ妻と娘がいることなどの被告人のために斟酌すべき事情を考慮してもなお,主文の刑はやむを得ない。
(検察官熊澤貴士,国選弁護人徳田暁各出席)
(求刑-懲役13年及び罰金500万円,没収)
平成14年5月9日
横浜地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 矢  村     宏
裁判官 柳  澤  直  人
裁判官 辻     美  佳

 

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