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覚せい剤京都

京都地方裁判所判決/平成21年(わ)第1250号

主文

 被告人は無罪。

理由

第1 本件の公訴事実は,「被告人は,法定の除外事由がないのに,平成21年7月中旬ころから同月25日までの間,京都府内又はその周辺某所において,フエニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の体内に摂取し,もって,覚せい剤を使用した」というものである。
第2 弁護人は,被告人が覚せい剤を使用したことを示す唯一の証拠である本件の尿の鑑定書は違法収集証拠として証拠能力がなく,証拠から排除されるべきであるから,被告人は無罪であると主張する。すなわち,①警察官が被告人に職務質問する際に被告人の自動車の鍵を抜き取り,被告人を現場に4時間近く留め置いた措置は違法である,②その間に,被告人の車内にあったウエストバッグを承諾なく2回にわたり開披し検査した行為は,捜索に当たるか所持品検査としての相当性を欠き違法である,③違法な身柄拘束と所持品検査で覚せい剤が発見されたことにより現行犯逮捕したことも違法である,④被告人の尿は違法な逮捕の下で提出されている上,任意提出手続自体も違法性を帯びており,これら一連の手続の違法性は重大であるから,尿の鑑定書には証拠能力がなく,排除されるべきであると主張している。
 これに対し,検察官は,被告人に対する職務質問から採尿に至るまでの各手続はいずれも適法であるし,仮に所持品検査が違法であったとしても,その違法の程度は比較的軽いものにとどまっており,採尿手続に固有の違法性がないこと等も踏まえると,違法の程度は重大でなく,尿の鑑定書の証拠能力は否定されないと主張する。そこで,以下順に検討を加える。
第3 関係証拠によれば,被告人に対する職務質問から尿の取得に至る経過に関し,以下の事実を認めることができる(なお,年月日についてはいずれも平成21年7月25日である。)
1 A巡査による職務質問等の状況について
 被告人とBは,本件当日午前9時ころ,京都府宇治市内のC○○店の駐車場(以下「本件現場」という。)で待ち合わせをし,それぞれ自動車で現場に訪れた。そして,Bが被告人の車(以下「本件車両」ともいう。)に乗ってきて,被告人が運転席,Bが助手席に座っていた。午前9時20分ころ,パトカーで警ら中であったA巡査及びD巡査部長は,本件車両内にいる被告人とBに対して職務質問を開始し,被告人は,求めに応じてパトカーに乗車した。パトカー内で,被告人は,免許証を提示するとともに,名前や住所を答えた。また,覚せい剤関係の前科があると説明し,前科照会で確認されたほか,求めに応じて自ら両腕の注射痕を示したが,それについては病院での点滴の痕であると述べ,現在は覚せい剤は使っていないと説明した。さらに,所持品検査にも応じたが,尿の任意提出については拒否し,その理由を問われると,「昔,太秦ではめられたことがある。」「はめられたことで,総理大臣にも言うてるし,鳩山さんにも言うてるんや。」などと述べたので,A巡査は,意味不明の発言をしていると考えた。その後,本件車両内の検査を求められ,被告人はこれを承諾した。A巡査は,運転席,後部座席,トランク,助手席を検査し,最後に助手席の足もとに置いてあったウエストバッグの検査を求めたところ,被告人は,他人の物だから見せることができないなどと述べて断った。Bも自分の物ではないというので,被告人に更に確認すると,自分の物ではないとして検査を拒んだ。このような状況下で,A巡査は,午前9時40分ころ,宇治署に応援を要請した。また,被告人が本件車両の所有者としてEの名前を挙げたので,連絡をとって確認したが,Eは名義を貸しただけで本件車両を1度も使ったことがないと説明したので,その旨伝えたところ,被告人は,とにかくウエストバッグのことは知らないと答えた。被告人は,最初は運転席の外にいたが,上記のような問答の途中で,「もう,帰らしてくれ,ええやろ,暑い。」などと言って,車に乗り込もうとした。A巡査とD巡査部長が運転席ドアの前に立って乗らないように説得したが,被告人は,公務執行妨害にならないよう気を付けながらドアを開けて運転席に乗り込んだ。その際,A巡査は,運転席ドアに手を入れて本件車両のキーを抜いた。被告人が抗議すると,A巡査は,急発進して事故になってはいけないから危険防止のために抜かせてもらうなどと説明したため,被告人は,渋々運転席に座っていた。
 なお,被告人は,パトカー内での職務質問中に内閣総理大臣に訴えたという話をしたことはなく,ウエストバッグの検査を拒否して本件車両の運転席に乗り込んだ後の時点で,車のキーを抜いて返さないことに関して,「こんなことされたら訴えるで」と言うと,A巡査が「訴え出したことあんのか。」と聞いてきたので,服役中に不服があって法務大臣に訴えたことがあるということを話したと供述している。しかしながら,被告人は,車のキーを抜かれたことについて,A巡査から危険防止のためなどと説明を受けて渋々運転席に座っていたというのであり,さほど時間も経たないうちに訴えるという話になったというのは不自然の感を否めないし,A巡査が訴えたことがあるのかと聞き返してきたという点もいささか不自然といわざるを得ず,被告人の上記供述は直ちに信用することはできない。また,被告人は,警察官がBに対してウエストバッグの所有者であるかを確認したことはないと供述するが,事実経過からして確認しないとは考え難いことからすると,被告人のこの供述も信用できない。
2 F警部補による1回目の所持品検査の状況について
 A巡査が被告人にウエストバッグの検査に応じるよう説得している間に応援の警察官数人が現場に到着したほか,午前10時21分ころ,F警部補も現場に到着した。F警部補は,先着していた警察官から,職務質問の経過について報告を受けた後,本件車両の運転席の横に立ち,被告人に対し,ウエストバッグの検査をさせるよう説得したが,被告人は,自分の物でないから見せることはできないなどと答えて拒否した。F警部補は,持ち主に確認すればいいのかといった質問を繰り返した上,午前10時34分ころ,助手席側に移動してしゃがみ込み,「開けるぞ。」と言って,ウエストバッグを開けようとした。被告人が,「やめろ,強制やぞ。」と言ったが,F警部補は,「お前のもんじゃなかったら,ええやろ。」などと言いながら,まずウエストバッグのポケットのチャックを開け,次に本体部分のチャックを開けた。そして,中に入っていた多数の封筒のうちの一番膨らんだ封筒の上半分をつまみ出し,開口部分を開いてのぞき,多数の注射器が入っているのを確認した。被告人は,公務執行妨害になることをおそれ,ウエストバッグを取り戻すといった行動には出ず,運転席に座ったままだった。その後,ウエストバッグや発見された注射器の状況を写真撮影し,捜索差押許可状を請求するために数名の警察官が宇治署に戻り,F警部補も令状請求の準備の進行具合を確認するため宇治署に戻った。
 なお,F警部補は,「持ち主に確認したらいいのかという質問を繰り返すと,被告人が黙り込んだ上,検査を阻止しようともしなかったので承諾したものと判断してウエストバッグのチャックを開けたところ,多数の封筒が入っており,封筒の間には新品の注射器があるのが見えた。被告人は,封筒の中に注射器を発見するまでは発言も制止もしなかったが,発見後に,『今のお前強制やんけ。』と発言した。」などと供述している。しかしながら,F警部補が本件現場に来る前も,宇治署に戻った後も,被告人は長時間にわたってウエストバッグの検査や任意提出を拒否し続けており,このような前後の経過を踏まえると,F警部補がチャックを開披するときだけ,これを黙認していたとは考え難いし,チャックを開披した時点で封筒の間に注射器が見えたとする点も,その注射器が写真撮影されていないことや,既に発見したのであれば更に進んで封筒を開く必要もないことに照らすと,疑問の余地があると言わざるを得ず,F警部補の上記供述は信用できない。
3 G巡査及びH巡査部長による職務質問の状況について
 F警部補が宇治署に戻った後,主にG巡査が本件車両の運転席の横に立って被告人に職務質問を行い,宇治署に電話するなどの理由でG巡査がその場を離れる際には,H巡査部長が代わりに職務質問を行っており,繰り返しウエストバッグの検査に応じるよう説得していたが,被告人は拒否し続けていた。この間,G巡査が尿の任意提出に応じるよう求めた際,被告人が車外に出て,G巡査と話をしたことがあった。他方,被告人が飲み物を買いに行かせて欲しいと求めたところ,警察官の1人から買ってくると言われて,買いに行かせてもらえず,金を渡してジュースを買ってきてもらったことがあった。また,被告人の飼い犬が職務質問中に車内から逃げ出した際,被告人が,とっさに運転席から出ようとしたが,G巡査が制止する姿勢をとったので車外に出られず,名前を呼んで犬を呼び戻したことがあった。被告人が暑いからエアコンをかけたい,帰りたいといった理由で何度も車のキーの返還を要求したことに対しては,助手席のドアを開けて風を通したり,危険防止のために預かってる旨説明したり,誰がキーを持っているか分からないと答えたり,所持品検査に話題を変えるなどして対応していた。午後0時ころ,Bが,後に被告人の弁護人となる井木ひろし弁護士に電話し,通話中の携帯電話をG巡査のところに持ってきたので,G巡査は本件車両から離れた場所で井木弁護士と話したが,その際,井木弁護士は状況を十分に把握できておらず,後で出頭させるといった申し入れがあるのみだった。G巡査は,午後0時30分ころにも,同様の経緯で,井木弁護士と話したが,その際,井木弁護士からは,車のキーの返還と被告人の解放を求められた。被告人は,G巡査が井木弁護士との電話等で本件車両から離れている間に,運転席に座っているようにという説得を受けたものの,車外に出て,車2,3台分離れた場所に止めてあったBの車の方に行って,Bと立ち話をした。また,井木弁護士の電話の後,被告人は,「鍵,誰が持っとるんや。」などと言って車外に出た。G巡査は,車のキーの所在を知らなかったため,周りにいた警察官と目を合わせたが,誰も知らない様子だった。確認すると答えると,被告人は落ち着いた。その後,現場にいた警察官の1人が車のキーをG巡査に持ってきたが,G巡査は,キーを被告人に返すことはなかった。G巡査は,弁護士との電話の内容やキーの所在,ウエストバッグの任意提出に応じないこと等に関し,何度かF警部補と電話で話しているうちに,F警部補が現場に戻ってくることになった。
 なお,被告人は,Bの車の方に行ってBと話をしたことはないと述べ,その根拠として,G巡査が法廷で被告人が職務質問中に車外に出た回数を当初は3回と説明していたのに,後でBの車の方に行ったことを1回付け加えたのはおかしい旨主張している。しかしながら,G巡査は,当初から,弁護士の電話対応の間に被告人が車外に出ていたと説明しており,これについて被告人は特段否定していないところ,G巡査のいうBの車の方に行ったという話はこのことを指していると理解でき,車外に出た回数が1回附加されたとは認められないこと,Bの車の方に行ったことについてはH巡査部長も具体的に供述していることを踏まえると,被告人の上記供述は信用できない。
4 F警部補による2回目の所持品検査の状況について
 F警部補は,午後1時ころ本件現場に戻ってきて,被告人にウエストバッグの中を確認させてくれと声を掛けたが,拒否されたことから,ウエストバッグの中身を確認することにした。その際,被告人は,「おまえ,そんなもん強制やんけ。」あるいは「わしは許可せんぞ。」などといった言葉を発して,ウエストバッグの検査を明確に拒否したが,F警部補は,午後1時6分ころ,既に1回目の所持品検査の際にチャックを開けてあったウエストバッグの中から,1回目に中を見た封筒以外の封筒を1つ取り出しては中を確認して元に戻すことを繰り返して,合計3つの封筒の中身を確認した。さらに,ウエストバッグの中にあったポーチのチャックを開け,その中にあった小銭入れを取り出してそのチャックを開け,その中にあったチャック付きポリ袋入りの結晶粉末を取り出した。この間,被告人は,運転席に座っており,前記のとおり,所持品検査を拒否する意思を明示したが,実力を行使して検査を阻止することはなかった。発見した結晶粉末について,その場で試薬検査を実施した結果,覚せい剤であることが判明したため,被告人は,午後1時13分ころ,覚せい剤所持の容疑で現行犯逮捕された。
 なお,F警部補は,2回目の所持品検査の際,ポーチや小銭入れの中は確認したが,封筒の中は確認していないと供述している。しかしながら,被告人は,ポーチ等の確認に先立って封筒の中を確認する経過を前記認定のとおり具体的に供述している上,ウエストバッグ内には多数の封筒が外から見えやすい形で押し込まれていたこと,1回目の所持品検査の際もF警部補は最初に封筒の中を確認して注射器を発見しており,覚せい剤の在中する可能性を疑って確認未了の封筒から検査していくことは自然であること等を踏まえると,F警部補の上記供述は信用できない。
5 採尿手続の状況について
 被告人は,午後1時30分ころ,宇治署に引致され,I係長から取調べを受け,途中で昼食を食べてから取調べが再開した後,大便が漏れそうと訴えてトイレに行くことを求めた。これに対し,I係長が大便に行く前に尿を出すことを求めたため,被告人は尿を提出することに応じた。そして,午後2時37分ころから午後2時39分ころまでの間に被告人自ら採尿を行い,午後2時41分ころから午後2時45分ころまでの間に尿の任意提出書等を作成し,さらに,午後2時50分ころから両腕の注射痕等の写真撮影を行った。
 なお,被告人が大便に行った時刻に関しては,上記の写真撮影直後か午後4時ころであるが,いずれであるかは証拠上判然としない。
第4 以上の認定事実を前提として,本件の捜査手続の適法性について検討する。
1 本件車両のキーの取り上げ行為及び本件現場での留め置き行為の適法性について
 A巡査は,被告人に対する職務質問を通じて,被告人に覚せい剤取締法違反の前科があることや,被告人の腕に注射痕があることを確認した上,被告人が,「昔,太秦ではめられたことがある。」「はめられたことで,総理大臣にも言うてるし,鳩山さんにも言うてるんや。」などと覚せい剤使用の影響を窺わせる一見意味不明な発言をするのを目の当たりにした。しかも,被告人は,本件車両内の検査に任意に応じていながら,ウエストバッグの検査だけを拒否し,更に嫌疑が濃厚となった状況において,「もう,帰らしてくれ,ええやろ,暑い。」などと言って,逃走の容易な車に乗り込んでいる。このような事情の下で,A巡査は,何ら有形力を行使することなく,本件車両のキーを抜き取ったのであって,その行為は,警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問を行うために停止させる方法として必要かつ相当な行為と認めるべきである。
 また,本件車両のキーの取り上げ行為が,上記のとおり,適法といえること,その後もキーを返還することはなかったものの,有形力を行使することなく,説得を続けるなどして本件現場に留め置いていること,覚せい剤取締法違反の嫌疑がある程度濃厚であったことから,ウエストバッグの所持品検査に応じるように説得するため,被告人を現場に留め置いておく必要性,緊急性が認められること,頑なに所持品検査を拒む被告人の態度も踏まえると,その説得にある程度の時間を要することはやむを得なかったといえること,並行して捜索差押許可状の請求の準備を進めており,この時点では令状主義を潜脱する意図があったとはいえないことからすれば,結果的に職務質問開始から現行犯逮捕に至るまでの留め置きの時間が4時間近くと長時間に及んでいることを考慮しても,被告人に対する留め置き行為が,所持品検査を求めるための説得行為として許容される範囲を逸脱したとまではいうことはできない。
2 F警部補による2度の所持品検査の適法性について
 職務質問に付随して行う所持品検査については,原則として所持人の承諾を得て行うべきであるが,所持人の承諾のない場合であっても,捜索に至らない程度の行為は,強制にわたらない限り,所持品検査の必要性,緊急性,これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し,具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるというべきである。
 そこで,まず,F警部補による1回目の所持品検査の適法性についてみると,当該検査を行った時点では,前記のとおり,前科や腕の注射痕の発覚,一見意味不明な被告人の発言,ウエストバッグについてだけ所持品検査に応じない被告人の不審な態度等を通じて,被告人に対する覚せい剤取締法違反の嫌疑がある程度濃厚となっており,このことからすれば,一定程度の所持品検査の必要性,緊急性はあったといえる。また,所持品検査の際に有形力は行使されていないし,ウエストバッグは施錠されていなかった上,携行中の所持品であって,身につけている所持品を検査する場合と比較すれば,プライバシー侵害の程度は低いともいい得る。しかしながら,その検査の態様をみると,被告人が明確に拒否しているにもかかわらず,最初にウエストバッグのポケットのチャックを開けた上,更に本体部分のチャックを開けて,入っていた多数の封筒の中から一番膨らんだ封筒の上半分をつまみ出し,開口部分を指で開いて多数の注射器が入っているのを発見したというものであって,所持品検査の許容限度を超えた捜索に類する行為であったというほかない。そして,ウエストバッグ内に凶器や危険物があることが疑われていたわけでもないことを踏まえると,前記のような所持品検査の必要性,緊急性等の事情を考慮しても,所持品検査が相当であったということもできない。そうすると,F警部補による1回目の所持品検査は違法であるといわざるを得ない。
 また,2回目の所持品検査の適法性についてみると,その実施時点においては,1回目の際と同様に,所持品検査の必要性,緊急性や,有形力が行使されていない等の事情が認められるほか,ウエストバッグの本体のチャック自体は既に1回目の所持品検査によって開披された状態となっていたことや,ポーチや小銭入れは施錠がされていなかったことが認められる。しかしながら,その検査の態様をみると,被告人が明確に所持品検査を拒否する意思を示しているにもかかわらず,これを無視して,ウエストバッグの中から順次3個の封筒を取り出して中身を確認しているほか,ウエストバッグ内にあったポーチのチャックを開け,更にそのポーチ内にあった小銭入れのチャックを開けて,その中から覚せい剤を発見したというのであって,実質的には無令状で捜索をしたに等しく,職務質問に伴う所持品検査としての許容限度を明らかに超えた行為であって,違法の程度は重大であるといわざるを得ない。
 この点,検察官は,当時,捜索差押許可状の請求を準備中であったところ,F警部補は,被告人が本件車両から降車したり,エンジンキーの返還を要求するなど現場から立ち去ろうとする気配を示していた中で上記の検査行為に及んだのであり,令状主義を潜脱する意図がなかったから,違法性の程度は比較的軽いと主張する。しかしながら,被告人は,立ち去ろうとする気配を示していたとはいえ,実力を行使して逃走を図ろうとしたり,証拠隠滅行為に及んでいたわけでもないし,また,F警部補がウエストバッグの内部の捜索をするために令状が必要なことを十分に理解していたことは,令状請求の準備をしていたことからも明らかであるのに,所持品検査を明確に拒否する被告人の意向を無視して,無令状のまま,あえて明白に違法な捜索行為に及んでいることからすると,少なくとも2回目の所持品検査の時点では,違法な捜索によって覚せい剤を発見し,これに基づき被告人を逮捕してその覚せい剤も押収することを念頭において行動したものと推認される。そうすると,F警部補に令状主義を潜脱する意図がなかったとは到底いえないのであって,検察官の上記主張は採用できない。
3 現行犯逮捕の適法性について
 F警部補による2回目の所持品検査で覚せい剤が発見されたことによって,その覚せい剤の所持を被疑事実とする逮捕の要件が初めて整ったのであり,先行する所持品検査の手続が違法である以上,被告人の現行犯逮捕手続も違法といわざるを得ない。
4 採尿手続の適法性等について
 F警部補による2回目の所持品検査,覚せい剤所持容疑による現行犯逮捕及び採尿手続は,いずれも被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的の下に実施されたということができる。また,採尿手続は現行犯逮捕により被告人の身柄を確保していたからこそ可能であったのであり,現行犯逮捕は先行する所持品検査があって初めて可能となったといえる。そうすると,本件採尿手続は,先行する一連の違法な手続によりもたらされた状態を直接利用し,これに引き続いて行われたものであるから,違法性を帯びるといわざるを得ない。
 なお,採尿手続の任意性についても検討すると,前記のとおり,被告人が,宇治署でI係長の取調べを受けている最中に,大便が漏れそうと訴えた際,先に尿を提出するよう求められた結果,これに応じたことが認められる。そして,その時点で便意を催していたか否かについては,採尿手続や引き続き実施された注射痕の写真撮影時における被告人の表情等を踏まえると,非常に切迫した状況にあったとまでは断定できないが,遅くとも午後4時ころまでには実際に排便していることからすれば,その切迫の程度は別にして,現に便意を催していた可能性は否定できず,尿を出さなければ大便に行かせないといわれた結果採尿に応じたという被告人の供述も直ちに排斥することは困難である。そして,被告人は,強制採尿令状があれば尿を出さざるを得ないことを認識しており,採尿手続の時点では,違法な現行犯逮捕に基づいて身柄拘束されていたため,いずれ採尿されることは避けられない状況にあったことが,被告人の意思決定に影響を与えた可能性も否定することはできない。このような点を考慮すると,被告人が全く任意に採尿に応じたとみるには疑問があるといわざるを得ない。
第5 尿の鑑定書の証拠排除の当否について
 以上を前提として,さらに尿の鑑定書の証拠排除の当否について検討すると,本件の捜査における覚せい剤の発見の過程には,被告人が明確に拒絶していたにもかかわらず,職務質問に付随する所持品検査の名の下に,実質的に無令状でウエストバッグの捜索を行ったという問題があり,しかも,その際担当の警察官に令状主義を潜脱する意図があったことが窺われるのであって,このような手続には,令状主義の精神を没却する重大な違法がある。また,採尿手続についても,このように重大な違法性の認められる所持品検査を通じてなされた現行犯逮捕による違法な身柄拘束状態を直接利用して,かつ,全く任意に応じたとみるには疑問のある状況下で尿が提出されたものであり,同様に令状主義の精神を没却する重大な違法があるといわざるを得ない。そして,本件の尿の鑑定書の証拠能力を是認することにより,実質的に無令状の捜索といえる明らかに違法な所持品検査を利用した違法な身柄拘束状態下での採尿を結果的に追認することは,将来における違法な捜査を抑制するという見地からしても相当とは解されない。
 以上検討した結果によれば,当裁判所は,鑑定書1通(甲5)を本件被告事件の証拠から排除すべきものと考える。
第6 結論
 そうすると,本件公訴事実を裏付ける証拠はないから,その余の点につき判断するまでもなく,公訴事実について犯罪の証明がないものとして,刑訴法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役5年)
平成22年3月24日
京都地方裁判所第2刑事部
裁判官     坂口 裕俊

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