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詐欺大阪

大阪地方裁判所判決/平成22年(わ)第3114号

主文

 被告人は無罪。

理由

第1 本件公訴事実及び争点の所在
1 本件公訴事実
 本件公訴事実は,「被告人は,平成22年6月7日午前6時26分ころ,大阪市中央区心斎橋筋2丁目7番11号先路上において,目的地到着直後に料金を支払う意思も能力もないのに,その情を秘し,A運転の甲タクシー株式会社タクシー(以下「本件タクシー」という。)に乗車して「天下茶屋に行ってくれ」と申し向け,同人をして,目的地到着後確実に料金支払を受けられるものと誤信させ,よって,同人をして,同所から同市浪速区難波中3丁目5番13号先路上まで本件タクシーを運転走行させ,料金640円相当の財産上不法の利益を得たものである。」というものである。
2 争点の所在
 検察官は,被告人が,A運転の本件タクシーに乗車した時点において,目的地到着直後にタクシー料金を支払う意思がなく,また,その支払能力もないことを認識していた旨主張し,このことは,被告人の乗車時の挙動や停車後の挙動,さらには,被告人がAによって連行された大阪府浪速警察署(以下「浪速署」という。)での言動等から明らかである旨主張する。
 これに対し,被告人は,下記第2・2・(2)のとおり,本件タクシーに乗車した時点では自己の所持金の入った財布を所持していると認識していたが,その後に財布を所持していないことに気付いたものであり,また,自宅に帰れば自己の所持金により,あるいは大家のBから借りることによってタクシー料金を支払うことができた旨弁解し,弁護人は,被告人の上記弁解を前提に,被告人には上記タクシー料金を支払う意思も能力もあったことから,被告人には詐欺罪の故意がない旨主張する。
 そこで,被告人が本件タクシーに乗車した時点において,タクシー料金の支払意思,支払能力のいずれもなかったのか否かが,本件の争点となる。
第2 争点に対する判断
1 前提事実
 証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1) Aは,平成22年6月7日午前6時26分ころ,大阪市中央区心斎橋筋2丁目7番11号日宝ロイヤルビル南側路上(以下「本件乗車場所」という。)で,手を挙げている被告人を認め,本件タクシーを停車させて,被告人を乗車させたが,その際,被告人は相当酩酊してる様子であり,足下がおぼつかず,酒臭がした(証人Aの公判供述・第1回公判調書添付同証人尋問調書1,2,10頁(以下各証人の証言を引用する場合,「第1回A証言1,2,10頁」などと略す),甲1,4)。
(2) Aは,被告人を本件タクシーに乗車させた後まもなく,被告人から,「天下茶屋の方にやってくれ。」などと言われ,被告人が酩酊していることから,所持金を有しているのか警戒する気持ちはあったものの,殊更バックミラー越しに被告人を見るような素振りは見せず,被告人の指示に従って,「取りあえず御堂筋をずっと下りてまいります。」などと行き先案内をして,国道26号線(御堂筋)を南下した(第1回A証言2,10,11頁,甲4)。
(3) Aは,本件乗車位置から2キロメートル以内,タクシー料金でいえばワンメーター,すなわち,640円の距離にある大阪市浪速区難波中3丁目5番13号朝日生命保険難波ビル西側路上(以下「本件停車場所」という。)に差し掛かった際,被告人から,突然「止めてくれ。」と言われたので,本件タクシーを停車させたところ,被告人から,「金がないねん。家に帰ってもないねん。相談しよか。」などと言われた(第1回A証言2ないし4,6,13ないし15頁,甲1,4)。そこで,Aは,被告人に対し,警察に連れて行く旨告げたところ,被告人は,「最近の甲タクシーは,金ない言うたら,すぐ警察行くって言いよるなあ。」と言った(第1回A証言5,12頁)。
(4) Aは,その後寝入った被告人を乗車させたまま,同日,浪速署に到着し,被告人を起こしたところ,被告人は,「何や,西成警察署違うんか。西成警察署やったら歩いて帰れんのに。」と言った(第1回A証言5,6頁)。
(5) 浪速署警察官のCが被告人から事情聴取をしたところ,被告人は,一見して酩酊している様子で,「何で,ここ来なあかんねん,朝来たら,課長呼べ,課長知っとる。」などと言ったほか,Cから,「金あるんか。」と尋ねられると,「ない。」と答え,「家にあるんか。」と尋ねると,最初「ある。」と答えたが,その後,「ない。」と答え,浪速警察署警察官のDにも同様の答えをした(第1回証人C4,5頁,第1回証人D4ないし9頁)。なお,被告人は,同日午前11時50分,浪速署において所持品検査を受けたが,その際,現金は一切所持していなかった(甲7)。
(6) 浪速署警察官Eらは,同月11日午前10時23分ころから同日午前10時50分ころまでの間,被告人立会のもとで,大阪市西成区天下茶屋北(以下省略)所在の本件アパートの被告人方を捜索した結果,合計815円の現金が発見された(第1回証人E,甲8)。また,被告人の開設している預金口座の残高は,平成22年6月10日現在,合計115円であった(甲10)。
(7) 本件乗車位置から被告人方のある本件アパートまで本件タクシーに乗車した場合のタクシー料金は1280円であった(甲5)。
2 支払意思の有無の検討
(1) 前提事実からの評価
 上記前提事実によれば,被告人は,上記1・(1)のとおり,本件乗車場所で本件タクシーに乗車後まもなく,Aに対し,「天下茶屋の方にやってくれ。」と告げているところ,上記1・(7)のとおり,被告人の自宅が大阪市西成区天下茶屋北(以下省略)所在の本件アパートにあることからすれば,被告人は,本件タクシーに乗車した時点で,本件乗車場所からタクシー料金にして1280円の距離にある本件アパートまで本件タクシーを利用する意図であったと認められる。また,Aは,上記1・(2)のとおり,被告人に所持金があるのか問いただしたり,それを疑ったりするような言動はせず,被告人の指示に従って被告人方がある天下茶屋方面に向かって本件タクシーを走行させており,そのままであれば,被告人は,その意図するとおり,本件タクシーに乗車して,被告人方付近に到着できる状況であった。これからすれば,検察官主張のように,被告人が本件タクシーに乗車した時点で,目的地である被告人方付近到着直後にタクシー料金を支払う意思がないのに,その情を秘したのであれば,被告人において,Aから料金を請求されるまで本件タクシーに乗車しているのが自然な行動と思われる。しかるに,被告人は,上記のとおり,本件タクシーを天下茶屋まで利用することはせず,上記1・(3)のとおり,本件乗車場所から2キロメーター以内,タクシー料金にすればワンメーター,すなわち,640円の距離にある本件停車場所付近で,Aに対し,自ら本件タクシーを止めるように言い,Aが,本件停車場所で本件タクシーを停車させるや,「金がないねん。家に帰ってもないねん。相談しよか。」などと,これも自ら所持金がないことを告げている。
 これを本件公訴事実に即していえば,被告人が,「目的地」,すなわち,天下茶屋到着直後にタクシー料金を支払う能力がないのに,その情を秘して本件タクシーに乗車しながら,乗車して2キロメートル以内で,目的地である被告人方付近からは遠く離れた場所で,「支払能力がない」という自ら秘したばかりの情を,今度は自ら進んで明かして,突如,当初の意図とは異なる行動をとったことになるが,このような被告人の行動は,被告人に当初から支払意思がなかったとの検察官の主張を前提にする限り,常識的に考えて,不自然・不可解な行動というほかない。
 もっとも,検察官は,上記1・(3),(4)に現れた被告人のAに対する言動,すなわち,①「金ない。家に帰ってもないねん。相談しよか。」,②「最近の甲タクシーは金がない言うたらすぐ警察行きよるな。」,③「西成署ちゃうやんけ。西成署ならすぐ帰れるのに。」と言ったことから,被告人が当初から支払意思がなかったことが強く推認できる旨主張する(論告要旨第1・3・(2))。しかしながら,これらは,いずれも,被告人がなぜ目的地到着前に自ら所持金がないことを進んでAに明かしたかを説明する根拠を示しているとはいえず,他にこの点を説明するに足りる検察官からの主張も証拠もない。また,検察官指摘の上記①の点は,下記(2)の被告人の弁解内容,すなわち,本件停車場所付近で所持金がないことに気付いた者の言動としても,矛盾するとはいえない。同じく上記②の点も,被告人が現にAに警察に連れて行かれようとしていたことに加えて,被告人が酩酊していたため腹立ち紛れにそのような言動をとったとしても,下記(2)の被告人の弁解内容と矛盾するとまではいえない反面,検察官主張のように,被告人が当初から支払意思がなかったのであれば,なぜ,警察に連れて行かれる危険性を犯してまで,目的地ではない本件停車場所で所持金のないことを明かしたのかの説明に窮することにもなる。さらに,上記③の点も,被告人が帰宅したいとの意図を有していたことの現れともいえ,したがって,下記(2)の被告人の弁解内容と矛盾するとはいえない事情といえる反面,当初から支払意思がなかったとの検察官の主張を前提にすれば,そのまま黙っていれば本件タクシーに乗車したまま被告人方まで行くことのできた状況にあったにもかかわらず,なぜ,本件停車場所で所持金がないことを自ら告げたのかの説明に窮することにもなる。
(2) 被告人の弁解内容
 これに対し,被告人は,上記のような行動を採るに至った経緯について,当公判廷で,おおむね以下のような弁解をする。
ア 被告人は,平成22年6月1日か2日ころ,生活保護費として12万1600円を受給し,家賃として4万4000円を支払った(被告人の公判供述・第2回被告人供述調書2頁。以下被告人の公判供述を引用する場合,「第2回被告人供述2頁」などと略す。)。
イ 被告人は,同月6日午後3時ころ,4万7000円ほどの現金を財布に入れて,自宅から地下鉄で日本橋まで行き,そこから徒歩で道頓堀まで行き,コンビニエンスストアで缶ビールとたこ焼きを買い,付近の公園で飲食した(第2回被告人供述4ないし6頁,第4回被告人供述1ないし3頁)。
ウ その後,被告人は,付近にいた店の呼び込みをしている若い男性に5000円札を渡してビールを買ってくるように言い,釣り銭3000円を受け取り,ビールを一緒に飲み,さらに,スナックやピンクサロンで飲食し,合計1万8000円程度支出した(第2回被告人供述5ないし8頁)。
エ 被告人は,ピンクサロンを出てからの記憶がなく,気がつくと周囲は朝になっており,帰宅しようと心斎橋筋付近の商店街を歩いていると,本件タクシーが通りがかったので,手を挙げて停車させ,乗車し,自宅のある天下茶屋まで行くように言った(第2回被告人供述9,12ないし14頁)。
オ 被告人は,コンビニエンスストアで缶ビールを買っていこうと考え,財布を入れていたズボンの右後ポケットを触ったところ,財布がなかったので,トラブルになるのを避けるため運転手にそのことを相談しようと思い,本件停車場所で止めるように言い,停車後,運転手に金がないという趣旨のことを言ったが,財布を落としたかどうかはっきりしなかったので,そのような話はしてない(第2回被告人供述15ないし17頁)。
(3) 被告人の弁解内容の検討
 被告人の上記弁解内容は,被告人が上記(1)のような経緯で,当初被告人方のある天下茶屋まで行くつもりで本件タクシーに乗車した後,2キロメートル以内の場所にある本件停車場所で本件タクシーを停車させ,自ら所持金がないことを打ち明けた理由について,一応合理的に説明できているほか,以下のとおり,客観的事実とも矛盾していないのであって,これからすれば,被告人の上記弁解内容を排斥するには,合理的な疑いが払拭できない。
ア 被告人は,生活保護を受給し,受給後すぐに家賃を支払っており,そのため,これまで家賃を滞納したことは1回しかなく,家賃を支払った後の生活保護受給金の残金は受給後1週間くらいは外で飲酒することに使い,残りは1日1000円ないしは500円で生活する状況にあった(第3回証人B3,4頁)。これからすると,仮に1か月を4週間として計算すれば,被告人は,生活保護費を受給した後,それを家賃や飲酒代金の支払に充てた後も,なお3週間,すなわち,21日間ほどは,1日1000円の割合で生活できる残金,すなわち,2万1000円ほどを残していたとしても不思議ではない生活を送っていたことがうかがえる。そうすると,被告人が,上記(2)・アで述べるように,平成22年6月1日か2日ころに生活保護費として約12万円を受給して,同月6日ころには,家賃や飲酒代金に費消しても,なお,2万円程度の残金は所持していたとしても不思議ではない。これに加えて,上記1・(6)のとおり,同月11日の時点で,被告人の自宅には815円の現金しかなかったことからすれば,被告人は,生活保護受給金の残金のほぼ全額を身につけていたと考えても不自然ではない。さらに,被告人の弁解によっても,上記(2)・イ,ウによれば,被告人の述べる当初所持金から,同じく被告人が述べる飲食代金を控除すれば2万7000円程度の現金を所持していたことになるが,この金額も,上記の生活状況から推定される,同月6日時点での所持金額と矛盾しない範囲内にある。
 この点,検察官は,被告人の大家であるBが,被告人が炊き出しに行っていると証言したこと(第3回B証言4頁)を根拠に,そのような被告人の生活状況からすれば,平成22年6月6日の段階で所持金が残っていること自体が不自然であると主張する(論告要旨第1・6)。しかしながら,Bは,上記のとおり,被告人が,生活保護受給金を飲酒等に使った後も多少の金は持っており,「1日に1000円か500円ぐらいで生活してる」と聞いていることも証言している上(第3回B証言4頁),検察官が根拠とするBの証言にしても,「炊き出しとかやってるとこあるじゃないですか。」との検察官の質問に対し,Bが,「それも行ってるようなこと聞いています。」と答えたことに続けて,検察官が「そうやって食いつないでる,そういうことなんですね。」と誘導尋問したところ,「はい,そうですね。」と答えたに過ぎない(第3回B証言4頁)。そうすると,Bにおいて,検察官の質問にある「食いつないでる」との表現が意味する生活状況をどのように理解し,1日1000円か500円ぐらいで生活しているとの自らの証言との関係をどのように理解した上で,「はい,そうですね。」と答えたのかは何ら明らかでなく,上記B証言を根拠に,被告人が,平成22年6月6日当時,「多少の小銭」程度の所持金しかなく,それを飲酒によって全額費消したとする検察官の主張は一面的であって,採用できない。
イ 被告人が,上記1・(1)のとおり,本件タクシーに乗車した時点で足下もおぼつかないほどに相当酩酊していたこと,本件乗車場所が付近に飲食店が建ち並ぶ繁華街であることは(甲4,5),いずれも上記(2)・イ,ウの被告人の弁解内容と矛盾しない。また,被告人が上記酩酊していたことに加えて,本件乗車場所は,被告人方がある場所から徒歩で行くにはかなりの距離があることからすれば,被告人において,平成22年6月6日に,交通費や飲食代金を所持して自宅を出たと考えるほかないが,これも,被告人の弁解内容と矛盾しない。
ウ 本件停車場所付近にはコンビニエンスストアがあるが(甲4),これも,上記(2)・オの被告人の弁解内容と矛盾していない。なお,Aは,被告人が本件タクシーに乗車している間,お金を探している様子はないと供述するが(第1回A証言7頁),他方で,被告人をバックミラー越しに見ることはなく,被告人の挙動は正確にはわからないとも述べているのであって(第1回A証言11頁),これからすれば,Aにおいて,被告人がズボンの右後ポケットを触っているのに気付かなかった可能性は否定できず,したがって,上記A証言をもって,被告人の上記(2)・オの弁解内容が信用できない根拠とするには足りない。
(4) 検察官の指摘の検討
 検察官は,支払意思の有無に関する被告人の弁解が信用できないとし,その根拠として,①被告人は,捜査段階では,上記(2)のような弁解を行っていないこと,②被告人は,弁解録取や勾留質問の際に,平成22年4月半ばにもタクシーの無賃乗車をしたことがある旨認めていること,③被告人は,本件タクシー乗車時には相当酩酊して記憶も定かではないと供述しながら,他方で,上記(2)のような詳細な弁解ができるのは不自然であること,④被告人が本件タクシーに乗車するときに所持金の確認をしなかったことが,その理由も含めて不自然であることを挙げる(論告要旨第1・6・(1)ないし(4)。なお,同要旨第1・6・(5)ないし(7)は,被告人の支払意思に関する弁解についてのものではない。)。しかしながら,被告人の弁解を排斥できない理由として上記(3)で挙げる理由に加えて,以下の点を考慮すれば,結局,検察官が指摘する上記の点を考慮しても,なお,被告人の弁解が信用できないと断じるには足りない。
ア 上記①の点について,被告人は,捜査段階で,上記(2)のような弁解をしたことはうかがわれないばかりか,上記1・(3)ないし(5)のとおり,本件停車場所や浪速署においても,A,あるいはCやDに対しても,上記(2)のような弁解は行っていないのであって,身の潔白を主張したい立場の被告人の行動として不自然ともいえ,それをしなかった理由として被告人が述べる内容も,病気や薬のせいで混乱していたなど,あいまいな内容に終始しており(たとえば,第4回被告人供述10ないし12頁),この点は,検察官の指摘するとおり,被告人の上記弁解の信用性を減じる根拠にはなる。しかしながら,他方で,検察官において,捜査段階で,被告人が本件タクシー乗車後まもなく本件タクシーを停車させた上,自ら所持金がないことをAに明かした理由を端的に尋ねた形跡はうかがえず,したがって,それに対する被告人の供述がどうであったかも不明であって,上記理由について,被告人の説明内容自体に変遷があるわけではない。
イ 上記②の点について,被告人が,検察官に対する弁解録取や,裁判官の勾留質問の際に,平成22年4月半ばに所持金がない状態でタクシーに乗車したことを認める供述をしたことがうかがわれるが(第4回被告人供述17頁),そもそも,上記事件の詳細な内容は不明であるほか,仮に,被告人がそのようなことをしたとしても,そのことをもって,本件での被告人の上記弁解の信用性が直ちに減殺されるものではない。
ウ 上記③の点について,被告人は,本件タクシーに乗車する前後の経緯について酔って覚えていない部分もあることは自認している(第4回被告人供述14頁)。しかしながら,このことから,直ちに被告人の上記弁解内容の信用性が否定されることにならないばかりか,その内容も,上記(3)のとおり,客観的事実とも矛盾していないところ,被告人が,酔って記憶がないにもかかわらず詳細な作り話をしたところ,たまたま,それが客観的事実と矛盾しない内容となったと考えることも不自然といえる。
エ 上記④の点について,被告人は,普段はタクシーに乗車する前に所持金があることを確認するが,本件タクシーに乗車するときは確認しなかった旨自認した上,その理由について,あいまいな供述に終始している(第4回被告人供述7頁)。しかしながら,上記1・(1)のとおり,本件タクシーに乗車する際,被告人が相当に酩酊した状態であったことからすれば,被告人において本件タクシーに乗車する前に所持金があることを確認しなかったとしても,それが不自然であり得ないこととして排斥するには足りない。
(5) まとめ
 以上検討してきたことをまとめると,上記(1)のとおり,証拠によって認められる被告人が本件タクシーに乗車した後,所持金のないことを自ら打ち明ける経緯において,被告人が当初から支払意思がなかったことを前提にすると不自然な点が見受けられるが,この点について,検察官の主張や証拠を精査しても,それを合理的に説明し得るような事実を認めるには足りないこと,これに対して,上記(2),(3)のとおり,被告人の弁解内容は,上記経緯を一応合理的に説明するものである上,客観的事実とも矛盾しておらず,これからすれば,上記(4)のとおり,検察官指摘の点を考慮しても,上記被告人の弁解を排斥するには,なお合理的な疑いを払拭することはできない。そうすると,結局,本件タクシー乗車時において,被告人にタクシー料金を支払う意思がなかったと認めるには合理的な疑いが払拭できず,したがって,被告人に詐欺罪の故意があったと認めるには足りないことになる。
第3 結論
 以上の次第であって,結局,本件公訴事実は犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により無罪の言渡しをすることとする。
平成23年1月31日
大阪地方裁判所第11刑事部
裁判官  岩倉広修

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