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詐欺東京

東京地方裁判所判決/平成22年(刑わ)第1464号
平成22年(刑わ)第1730号
平成22年(刑わ)第2318号

主文

 被告人A1を懲役6年に,被告人B1を懲役4年6か月に処する。
 未決勾留日数中,被告人A1に対しては90日を,被告人B1に対しては180日を,それぞれその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)
第1 被告人A1は,C1から借用の名目で金員をだまし取ろうと企て,別紙一覧表(1)記載のとおり,平成16年10月上旬頃から同月19日頃までの間,4回にわたり,東京都目黒区(以下略)の同人方において,同人に対し,確実に返済する能力がないのに,これがあるように装うとともに,真実は,被告人A1が風力発電事業に関与している事実はなく,受領した金員は被告人A1の借金の支払などに充てる意図であるのにその事情を秘し,「富山の方で風力発電をしている,とてもうまくいっている。決して損になるようなことはないから投資してほしい。お金を貸してほしい。あなたにだけはどんなことがあっても必ずお返しする。」という趣旨のうそを言い,C1をして,被告人A1が風力発電事業に関与しており,被告人A1から確実に返済を受けられるものと誤信させ,よって,同月12日頃から同月21日頃までの間,4回にわたり,C1方において,C1から現金合計6700万円の交付を受けた。
第2 被告人両名は,D1から借用の名目で金員をだまし取ろうと企て,共謀の上,平成17年9月14日頃から同月27日頃にかけて,東京都目黒区(以下略)にある株式会社E1の事務所において,D1に対し,被告人両名において確実に返済する能力がないのに,これがあるように装うとともに,真実は,投資を行う事実はなく,受領した金員は被告人A1の自宅新築工事代金の支払などに充てる意図であるのにその事情を秘し,「今月中にD1さんからお金を用立ててくれたら,すごい投資話がある。」「今月中に1億円用立ててくれたら,すぐに1.5倍から2倍ぐらいにはなる。D1さんの会社の借金なんて,すぐに返せる。」「この投資は,国会議員が絡んでいるので,絶対に内密な話だ。」「1億円は,やっぱり必要だ。一,二か月で,もちろん返せる。」「今月中に1億円ないとどうしてもだめだ。」「そうじゃないとD1さんから借りたそのお金が,無駄になってしまう。」という趣旨のうそを言い,D1をして,その投資話が実在し,被告人両名から確実に返済を受けられるものと誤信させ,よって,別紙一覧表(2)記載のとおり,同月21日から同月30日までの間,4回にわたり,同都渋谷区(以下略)付近路上に駐車中の自動車内ほか1か所において,D1から現金合計8400万円の交付を受けた。
第3 被告人A1は,F1らから借用の名目で金員をだまし取ろうと企て,平成18年7月23日頃,千葉県山武郡(以下略)F1方に電話をかけ,株式会社G1の代表取締役会長であった同人に対し,確実に返済する能力がないのに,これがあるように装うとともに,真実は,衆議院議員である夫のH1に対してパーティー券購入の割当てがなされた事実はなく,受領した金員は被告人A1の借金の支払などに充てる意図であるのにその事情を秘し,「H1に対してI1さんのパーティー券の割当てがあり,小切手を振り出した。小切手の支払期日が7月24日で,3000万円がないと困る。」「3000万円を貸してほしい。」「大きな仕事をしており,そのお金が近々入ってくるので,それで払える。」という趣旨のうそを言い,さらに,被告人B1は,被告人A1から連絡を受けて,被告人A1の意図を了解し,被告人両名は,互いに意思を相通じて,共謀の上,同月24日,東京都江東区(以下略)の同社事務室において,同社の代表取締役社長であるJ1に対し,前同様に装うとともに上記事情を秘し,「I1さんのパーティー券の割当てがあり,小切手を振り出した。3000万円どうしても必要なので,貸していただけないか。」「パーティー券の割当ては,1週間ほどでめどがつく。」「迷惑をかけたくないので,1か月くらい,8月末くらいまで期間がほしい。」という趣旨のうそを言い,F1及びJ1をして,政治家のパーティー券割当てに関して振り出した小切手の決済資金が必要であり,被告人両名から確実に返済を受けられるものと誤信させ,よって,同日,同所において,それまでにF1から貸付けについて連絡を受けていたJ1から額面金額3000万円の同社振出しにかかる小切手1枚の交付を受けた。
(証拠の標目)
 括弧内の甲乙の番号は,検察官請求証拠の証拠等関係カード記載の番号を示す。
判示事実全部について
被告人両名の公判供述(ただし,第2回公判期日における被告人A1の供述を除く。)
証人K1及び同L1の公判供述
「事件記録の写しの交付依頼について」と題する書面抄本(甲10)
捜査報告書(甲30)
電話聴取報告書(甲31)
判示第1の各事実について
被告人A1の公判供述(ただし,第2回公判期日におけるもの。)
証人C1,同M1及び同N1の公判供述
証拠品複写報告書(甲23)
資料入手報告書(甲24)
犯行場所写真撮影報告書(甲25)
判示第2の事実について
証人D1の公判供述
O1の検察官調書(甲7)
資料入手報告書(甲3) 
所在確認結果報告書(甲4ないし6)
判示第3の事実について
証人P1及び同F1の公判供述
F1(甲12),Q1(甲18)及びR1(甲19)の警察官調書(ただし,いずれも不同意部分を除く。)
資料入手報告書(甲13)
捜査関係事項照会回答書抄本(甲14,15)
所在確認捜査報告書(甲16)
資料作成報告書(甲17)
証拠品複写報告書抄本(甲29)
(事実認定の補足説明)
第1 本件の争点
 被告人A1の弁護人は,判示第1及び第2の各事実につき,被告人A1は被害者らに対する各欺罔行為を行っていない,また,判示第3の事実につき,被害者が錯誤に基づいて小切手を交付したわけではなく,因果関係がない,さらに,判示第1ないし第3の各事実につき,被告人A1は,いずれも返済する意思があり,返済の能力もあると確信していたので,詐欺の故意がないなどと主張し,いずれの事実についても被告人A1は無罪である旨主張する。
 また,被告人B1の弁護人は,判示第2及び第3の各事実につき,被告人B1は,被害者らに対する各欺罔行為に関与していない,また,いずれも返済する意思があり,少なくとも返済の能力もあると信じていたので,詐欺の故意がなく,共謀もない,さらに,判示第3の事実につき,仮に,被告人A1による欺罔行為があったとしても,被害者が錯誤に基づいて小切手を交付したわけではないと主張し,いずれの事実についても被告人B1は無罪である旨主張する。
 そこで,判示の各事実を認定した理由について,補足して説明する。
第2 被告人両名の返済能力について
1 関係各証拠によれば,被告人A1は,平成5年頃,出資していた「□□」というエステティックサロンの関連会社が倒産したことから,合計約1億9000万円の債務を負ったこと,その後,その債務の返済のために,知人や友人,金融業者など多数の者から,高額の利息や謝礼のもと多額の借金をし,また,被告人B1のために支出するなどしたため負債額が増加し,平成16年ないし17年頃には,負債額が約10億円に上る旨認識していたこと,被告人A1自身には国民年金以外に収入がなく,めぼしい資産もなかったこと,衆議院議員である夫H1の収入は,歳費等を含め毎月約二百数十万円(H1の歳費等は多い年で年間3410万円余り)であったこと,そして,被告人A1は,平成18年12月に破産申立てをし,破産時には,債権者230人に対して,合計13億8956万円余りの債務があったことが認められる。
2 また,被告人B1は,平成4年頃から平成6年頃にかけて,「△△」という酒問屋やその関係者に貸し付けた合計8000万円につき,1000万円しか返済を受けられなかったことを契機として,平成9年ないし10年頃には,約9000万円の債務を負っていたこと,被告人A1に,この債務を実質的に引き受けてもらい,その後も,借入れの際に保証人になってもらったり,借入れ自体をしてもらい,自らその保証人になったりしたこと,そのため,被告人B1は,被告人両名の債務について一体のものであり,平成17年頃には,その金額が10億円を超えているものと認識していたこと,衆議院議員であるH1の私設秘書を務めていた平成17年までの年収は約600万円であり,平成18年以降は無職無収入であったことが認められる。
3 このようにして,被告人両名は,互いの債務を保証するなどして,借金返済のための借入れを繰り返してはその返済に窮し,遅くとも平成16年頃には,新たな借入れがないと返済ができなくなるいわゆる自転車操業の状態となっており,頻繁に返済の方法や資金繰りについての話合いを行っていたことが認められる。
4 以上によれば,被告人両名は,平成16年ないし18年頃には,特別の事情がない限り,新たに1千万円単位の借金をした場合には,一,二か月程度の短期間で確実に返済する能力を有していなかったことを推認することができる。
第3 欺罔文言について
1 判示第1ないし第3の各事実について,被害者らが,判示各記載の日時場所で,判示各記載の金額の現金や小切手を被告人A1に交付したこと及び被告人両名が各約定の期限までに返済を行わなかったことは,関係各証拠により優に認められる。本件では,現金や小切手の各交付に先立ち,被告人A1らによる判示各記載の欺罔行為があったかが問題となる。
2 判示第1の事実について
(1) C1証言の信用性
 C1(以下,「C1」と略記する。)は,平成16年10月上旬頃,息子のM1(以下,「M1」と略記する。)の就職にあたり,被告人A1に被告人B1を身元保証人として手配してもらったこと,そして,被告人A1から,「富山の方で風力発電をしている,とてもうまくいっている。決して損になるようなことはないから投資してほしい。お金を貸してほしい。あなたにだけはどんなことがあっても必ずお返しする。」という趣旨のことを言われたこと,被告人A1が国会議員の妻であったこともあり,その言葉を信じて,返済期限を1か月とする約定で現金合計6700万円を交付したことを証言している。
 C1の証言は,その内容全般にわたって具体的である。C1と被告人A1とはそれぞれの子供が幼稚園の同級生であったことから長年にわたり親しい関係にあり,C1は,身元保証人の件で恩義を感じていたとはいえ,まさにC1自身が「理由がなければ,お金をただ貸してくださいでは貸せない。」旨供述するように,国会議員の妻である被告人A1から風力発電に関する投資の話があったからこそ,合計6700万円という多額の現金を交付したというのは,自然で合理的である。
 また,M1は,平成17年5月頃,C1から,被告人A1に富山の風力発電の件で貸付けをしたという話を聞き,被告人A1に確認したところ,被告人A1が富山の風力発電事業の進捗状況や政府から補助金が出るまでの短期間の借入れである旨説明していたこと,同年秋ころ,被告人A1に貸金の返済を求めた際,同席していた被告人B1が,石垣島のリゾート開発の話をしていたので,風力発電事業に言及したところ,「ああ,その話になってるんですか。」などと言い,風力発電事業の話を始めたことを証言している。このM1の証言内容は,実際に体験したことがなければ話すことができないような迫真性を有しており,信用性が高いと認められるところ,C1の証言内容の核心部分は,このM1の証言とよく合致しており,具体的に裏付けられている。
 その他,C1と被告人A1との従来の関係に加え,C1は,弁護人の反対尋問にも誠実に対応していることなどに照らし,C1が殊更虚偽の証言をしているような事情はうかがわれない。
 被告人A1の弁護人は,C1の証言内容について,不自然で不合理な点があるとか,虚偽供述の動機がある旨指摘しているが,それらの点を十分検討してみても,C1の証言の信用性を覆すものはない。
 以上によれば,C1の証言は信用性が高いということができる。
 したがって,被告人A1がC1から現金合計6700万円の交付を受けるに当たり,判示第1記載の趣旨の発言をしたことが認められる。
(2) 被告人A1のC1に対する発言内容の虚偽性
 N1の証言によれば,被告人A1がC1に説明した富山の風力発電事業は,平成16年当時,未だ準備段階にあって,稼働していなかったし,事業としての生産性や収益性に疑問があったことが認められる。
 また,被告人A1は,C1から受け取る現金について,被告人A1の借金の返済に充てる意図であったのに,その意図をC1には伝えていなかったこと,風力発電事業に投資していないことは,被告人A1自身が公判廷で認めているところである。
 そうすると,被告人A1のC1に対する上記発言内容は,虚偽であったことが明らかである。
3 判示第2の事実について
(1) D1証言の信用性
 D1(以下,「D1」と略記する。)は,かつてH1の秘書を務めた都議会議員からH1を紹介され,被告人B1と付き合うようになり,被告人A1とも面識があったこと,平成17年9月13日頃,自らが経営する株式会社E1の事務所において,被告人B1から,会社の負債額を聞かれ,三,四千万円くらいある旨答えたところ,「D1に恩返しできるかもしれない。」旨言われたこと,翌14日以降,被告人両名から,「今月中にD1さんからお金を用立ててくれたら,すごい投資話がある。」「今月中に1億円用立ててくれたら,すぐに1.5倍から2倍ぐらいにはなる。D1さんの会社の借金なんて,すぐに返せる。」「この投資は,国会議員が絡んでいるので,絶対に内密な話だ。」「1億円は,やっぱり必要だ。一,二か月で,もちろん返せる。」「今月中に1億円ないとどうしてもだめだ。」「そうじゃないとD1さんから借りたそのお金が,無駄になってしまう。」という趣旨の国会議員が絡む投資話を聞いたこと,被告人A1が国会議員の妻であったこともあり,その言葉を信じ,被告人B1に紹介してもらった金融業者S1との間で,E1名義で不動産を担保として,合計8000万円の金銭消費貸借を結び,利息の一部が天引きされた7500万円余りを受領し,別紙一覧表(2)1ないし3記載のとおり被告人A1に現金7000万円を交付したこと,さらに,被告人A1から申入れを受け,再びS1との間で不動産を担保として1500万円の金銭消費貸借を結び,利息の一部が天引きされた1395万円余りを受領し,同表4記載のとおり被告人A1に現金1400万円を交付したこと,D1だけでは合計1億円を調達することができなかったことから,同月27日頃,被告人A1に融資してくれる友人を紹介したことなどを証言している。
 D1の証言のうち,被告人A1に合計8400万円を交付するに当たり,被告人両名から,「すごい投資話がある。今月中に1億円用立ててくれたら,すぐに1.5倍から2倍ぐらいにはなる。」などと言われて信用したという点は,D1が,その経営する会社に多額の負債がありながら,S1に不動産を担保として提供した上,年率8.76パーセント(実質年利は13.61パーセント)という高い利率で,しかもその利息の一部を天引きされるという約定で合計9500万円の借金をしてまで,その資金を調達した理由として,自然で合理的である。
 また,T1株式会社のO1の供述によれば,被告人A1は,平成17年9月当時,自宅新築工事代金の支払が遅れており,9月中に,未払金合計9376万円余りを支払う必要があったことが認められる。この事実も,被告人両名から,D1に対し,1億円の用立てについて申入れがあったというD1の証言と符合している。
 さらに,D1は,各欺罔行為について,被告人両名が行ったものと,被告人A1が単独で行ったものを明確に区別した上で,具体的に供述している。D1は,元々,H1の後援者であり,本件によって多額の損失を被っているものの,被告人両名について,殊更虚偽の事実を述べて,無実の罪に陥れるような事情まではうかがわれない。
 なお,被告人両名の各弁護人は,D1の証言には,被告人A1に交付した金額について,捜査段階の供述や民事訴訟での供述から変遷があると主張しているところ,そのような変遷があることは認められる。しかし,D1は,公判廷において,S1との契約書や入金に関する預金通帳の記載等の客観的な資料に基づいて,従前の供述を訂正して,より正確な供述をしていると認められるし,上記民事訴訟における供述は,被告人両名が作成した1億円の金銭借用証書の存在を前提にして,代理人弁護士のアドバイスに従って,H1がその債務を引き受けたという法的主張をしていた際のものであって,当事者も時期も異なるというのであり,供述の変遷について一応合理的な理由を述べている。
 その他,D1が,平成18年6月頃,他の秘書から被告人B1の自宅住所を聞いて訪れたところ,更地となっていた旨の証言は,その時期と場所に誤りがなければ,民事訴訟における郵便送達報告書(弁7,8)という客観的証拠と整合しないことになるが,この点を含めて,各弁護人がいろいろと主張している点を考慮してみても,D1の証言の核心部分の信用性に疑問を差し挟むような事情があるとはいえない。
 以上によれば,D1の証言は信用性が高いということができる。
 したがって,被告人A1がD1から現金合計8400万円の交付を受けるに当たり,被告人両名が,判示第2記載の趣旨の発言をしたことが認められる。
(2) 被告人両名のD1に対する発言内容の虚偽性
 K1,L1の証言や関係各証拠によれば,被告人両名が,平成17年9月当時,1か月で投資額の1.5倍ないし2倍の利益を得られるような事業に投資していた事実は見当たらない。
 そして,被告人A1は,D1から受け取る現金について,その当時,支払を迫られていた自宅の新築工事代金の支払などに充てる意図であったのに,その意図をD1に伝えていないことは,被告人A1自身が公判廷で認めているところである。
 そうすると,被告人両名のD1に対する上記発言内容は,虚偽であったことが明らかである。
4 判示第3の事実について
(1) F1及びP1の各証言の信用性
 株式会社G1(以下,「G1」と略記する。)の代表取締役会長であり,H1の後援者でもあったF1(以下,「F1」と略記する。)は,平成18年7月22日,友人の娘の結婚式に出席した際,被告人A1と同席したこと,被告人A1から,翌23日頃,電話で,「H1に対してI1さんのパーティー券の割当てがあり,小切手を振り出した。小切手の支払期日が7月24日で,3000万円がないと困る。」「3000万円を貸してほしい。」「大きな仕事をしており,そのお金が近々入ってくるので,それで払える。」などと申し入れてきたので,それを信じ,事後の対応を同社代表取締役社長である息子のJ1(以下,「J1」と略記する。)に任せたことなどを証言している。
 また,本件当時,G1の経理課長であったP1(以下,「P1」と略記する。)は,同月24日,被告人両名が,G1の事務所を訪れ,J1に対し,上記F1に対するものと同趣旨の説明をしたと証言している。
 そもそも,政治家のパーティー券の割当てが具体的になされたという話は,F1やP1が知り得ないことであり,同人らがそのような内容の虚偽の話を作り出して証言することは考えられない。
 また,P1は,被告人両名とJ1との会話を,2メートルほど離れた席で聞いていたのであり,G1の経理を担当する立場にあったことや,J1が被告人A1に交付した本件小切手の振出しに関与したことからしても,その会話を特に意識的に聞き取り,記憶していたものと考えられる。さらに,P1は,被告人両名がG1を訪れる前のJ1の様子,小切手の交付に至る経緯,交付後のやりとり,J1らが被告人A1に多額の借金があることを知った後の状況などについて,具体的かつ詳細に証言しており,その内容も自然である。
 加えて,このようなF1とP1の各証言内容は,大筋において,相互に補完し符合しているから,その信用性を高め合っている。
 以上によれば,F1及びP1の各証言は,いずれも信用性が高いということができる(なお,F1に対する申入れの内容については,被告人A1自身,公判廷において,F1の証言と同様の説明をしたと述べている。)。
 したがって,被告人A1が,J1から額面3000万円の小切手の交付を受けるに当たり,F1やJ1に対し,判示第3記載の趣旨の発言をしたことが認められる。
(2) 被告人A1のF1及びJ1に対する発言内容の虚偽性
 Q1及びR1の供述によれば,平成18年当時,H1に対し,合計金額3000万円に相当する政治家のパーティー券の割当てがなされたことはなく,したがって,その代金に関して,小切手で支払がなされた事実もないことに帰する。このことは,被告人A1自身も公判廷で認めているところである。
 そして,被告人A1は,J1に振り出してもらった本件小切手を換金して,自己の借金の返済等に充てる意図であったのに,その意図をF1やJ1に対して告げていないことが認められる。
 したがって,被告人A1のF1及びJ1に対する上記発言内容は,虚偽であったことが明らかである。
第4 被告人両名の供述の信用性
1 被告人両名の返済能力について
 被告人両名は,前記第2のとおり,本件当時,1千万円単位の借金を一,二か月程度の短期間で確実に返済する能力を有していなかったことが推認できるが,被告人両名は,公判廷において,本件各借入れの返済を可能とする種々の入金予定があった旨供述するので,その信用性について検討する。
(1) 被告人両名は,故U1代議士の養女であるV1なる人物がアメリカの銀行W1に2兆円を超える財産を保有しており,その換金のための経費として約3500万円を関係者に支払った見返りとして,被告人A1に2億円,被告人B1に1600億円余りあるいは100億円が入金される予定になっていた旨供述する。
 しかし,戸籍上,U1の養女であるV1という人物は存在しない。また,被告人両名の上記供述を裏付ける的確な証拠も見当たらない(なお,被告人B1がZ1という人物に現金85万円を送金したことは認められるが[弁12],その趣旨は明らかでない。)。そもそも,そのような入金予定の内容自体,明らかに不自然,不合理と評価し得るところ,被告人両名は,その換金の方法や金額,支払った経費とされる金員の使途について具体的に供述しておらず,上記経費を負担した程度で,それをはるかに上回る多額の入金を受けることができる理由についても合理的な説明をしていない。
 被告人A1は,平成15年中頃ないし終わり頃から,この件に関して1年に何度かは被告人B1を通じて具体的な入金予定を聞いていたが,書類の不備等を理由に何度も入金が延期になり,結局,平成18年に至るまで,一度も入金がなかったと述べている。そのような状況にあってなお,被告人A1が,本件の各借入れに対する返済期限に間に合うように,入金がなされると信じていたというのは不合理である。また,被告人B1も,V1らから一度も入金がなされていないことを認め,しかも,平成17年12月以降は,換金に関わったA2弁護士から裁判にかけなければ換金できないという話を聞いていたと述べている。それでもなお,被告人B1が,本件当時において入金がなされると信じていたというのは,同様に不合理である。さらに,被告人両名は,捜査段階において,V1の存在について供述していなかったのであり,重要な点に変遷を生じているところ,変遷の理由について,納得できる説明がなされていない。
 以上によれば,V1からの入金予定に関する被告人両名の供述は,いずれも信用できない。
(2) 次に,被告人両名は,L1が関与していた種々の事業からの入金予定があった旨供述しているが,その内容は,既に頓挫していた事業であったり,実現性の不確実なあいまいなものにとどまっている。
 また,被告人両名は,L1からの入金が一度もなかったことを認めながら,本件当時,L1からの入金があると信じていた合理的な理由を述べていない。
 そうすると,この点に関する被告人両名の供述も,いずれも信用できないというほかない。
 そのほか,被告人両名は,B2やC2なる人物からの入金予定について供述するも,いずれも入金予定日や金額を含め,漠然とした内容であり,その実現性の不確実なものである。
 以上によれば,本件当時,被告人両名に対して,本件各借入れの返済を可能にする金員が入金される具体的な予定があったとは認められない。
 なお,被告人A1は,被告人B1に全幅の信頼を置いており,被告人B1が述べる入金予定を信じていたと述べるが,以上のとおり,被告人A1が信じていたとする入金がいずれも全くなされていなかった状況からすると,その供述は不合理というほかない。
(3) よって,被告人両名は,本件当時,それぞれの借入れに当たり,確実に返済をする能力がなく,かつ,そのことを認識していたことに疑いはない。
2 欺罔文言について
(1) 判示第1の事実について
 被告人A1は,公判廷において,C1から,被告人B1がM1の保証人になってくれたことに対するお礼をしたいとの申出を受け,1000万円の借入れを申し入れたところ,C1がこれを承諾し,借入れをするに至り,2回目以降の借入れについても,まずC1から利息を付けてくれるのであれば貸与する旨の申出があった,C1に対して,判示第1記載の文言を言ったことはなく,いずれの借入れについても金員を必要とする理由を説明しなかった旨供述している。
 しかし,被告人A1の供述は,前記のとおり信用性の高いC1の証言と明らかに矛盾するだけでなく,本件当時のC1の財産状況や貸付金額などに照らすと,C1が被告人A1に対して,その使途や目的も聞かずに貸付けを申し出るということは常識に照らして考えられない。また,被告人B1がM1の保証人になったことが貸付けの契機になったことは確かであるが,それでもなおC1が被告人A1に対して,使途や目的も聞かずに多額の貸付けをした動機としては不自然である。さらに,被告人A1は,第2回公判期日における被告事件に関する陳述の際,C1に対し,借入れの申入れをしたとき,風力発電事業のパンフレットを見せ,計画をこれから進めようと思っている旨話をしたと述べていたにもかかわらず,その後,第8回公判期日における被告人質問の際,C1に対して借入れの申入れをしたときには風力発電事業の話をしておらず,平成17年の1月か2月頃になって同人に同事業のパンフレットを見せ,話をしたと述べるに至ったが,このように供述が変遷したことについて,何ら合理的な理由を述べていない。
(2) 判示第2の事実について
 被告人A1は,公判廷において,D1に対して投資の話をしたことはなく,被告人B1がD1に対する借入れの申入れに同席したこともない旨供述している。また,被告人B1は,公判廷において,平成17年9月13日,「脈絡も何もなく」,「ひょいっと出たような,そんなような状態で」D1に対して1億円を融通できないかという話をし,同日の夕方頃,被告人A1に,D1に対して借入れを申し入れるよう提案したことはあるが,D1に対する借入れの申入れには同席していないし,判示第2記載の文言を言ったこともなく,その後,被告人A1がD1に借入れを申し入れたかどうかも確認しておらず,同月17日か18日頃,D1から,不動産を担保にして貸付けをする業者の紹介を頼まれ,S1を紹介したことはあるものの,何のために融資が必要であるのか聞いたこともなく,同年10月6日に被告人A1の依頼を受けて,E1の事務所で契約書を作成するに至るまで,被告人A1がD1から借入れを受けた事実を知らなかった旨供述している。
 しかし,被告人両名の供述は,前述したとおり信用性の高いD1の証言と明らかに矛盾するだけでなく,D1がS1から高い利率で融資を受けるまでした上,被告人A1に対し多額の現金を交付したことや本件当時のD1らの財産状態といった客観的事実と整合しない。また,被告人B1は,被告人A1がD1に対し借入れを頼むほどの親しい関係にはなかったと述べ,被告人A1も,D1とは世間話をするくらいの関係にすぎなかったと述べていることからすると,被告人A1が単独でD1に対して多額の借入れを申し入れたというのは不自然である。さらに,被告人B1の供述は,D1に1億円の融通を持ちかけた理由などについて具体性を欠き,あいまいであることに加え,被告人B1が,D1に1億円の融通を持ちかけ,さらに被告人A1にD1に対して借入れを申し入れるよう提案したにもかかわらず,その四,五日後にD1から融資先の紹介を頼まれた時点で,D1が被告人A1への貸付けのために融資を必要としていることに気づかず,また,D1や被告人A1に確認することもなかったと述べるなど,内容が不自然不合理といわざるを得ない。
(3) 判示第3の事実について
 被告人A1は,公判廷において,F1に対し,判示第3記載の発言をしたことは認めているものの,被告人両名は,平成18年7月24日のJ1とのやりとりに関して,判示第3記載の発言をしたことはない旨供述している。
 しかし,被告人両名の供述は,G1でのやりとりについて,前述したとおり信用性の高いP1の証言と矛盾する上,J1が貸付けについて消極的な態度を示していたのかどうかという点で,相互に食い違いもある。また,当時のG1の経営体制や,J1の消極的な態度などに照らすと,被告人両名がJ1に対し,借入れの理由を説明しなかったというのは不自然である。
(4) 以上検討してきたところによれば,判示第1ないし第3の各欺罔文言を否定する被告人両名の供述は,いずれも信用することができない。
 したがって,判示第1ないし第3について,C1,D1,F1及びP1が証言するとおり,被告人A1らによる判示各記載の欺罔行為が存在したことについて,合理的な疑いはない。
第5 判示第3の事実に関する弁護人の主張について
 被告人両名の各弁護人は,判示第3の小切手の交付について,J1による本件処分行為はF1の指示に基づくものであると主張し,被告人A1の弁護人は,F1が,被告人A1の金員を必要とする事情に無関心であり,その内容に関わらず貸付けを行う意思であったため,錯誤に基づく処分行為がない旨主張している。
 しかし,F1が,被告人A1に返済能力があり,判示第3の欺罔文言の内容を真実であると誤信したため,J1に貸付けについて事後の対応を委ねたことは明らかであり,F1とJ1が共に錯誤に陥った結果,J1が本件処分行為を行ったことが認められる。
 よって,欺罔行為と財産的処分行為との間に因果関係があることは,優に認められるから,各弁護人の主張は採用できない。
第6 共謀の成否について
 被告人B1の弁護人は,判示第2及び第3の各事実について,被告人B1が被告人A1と共謀していた事実について争う主張もしているので,検討する。
 被告人B1は,前述したとおり,本件当時,被告人両名の債務につき一体のものであり,被告人両名に返済能力がないことを認識していた。そして,被告人B1は,判示第2の事実について,被告人A1が自宅新築工事代金の支払に迫られていることを認識した上で,D1に対する欺罔行為の契機を作り,最初の欺罔の場にも被告人A1と同席してこれに関与し,その後D1に対して,金融業者のS1を紹介したほか,事後に被告人A1を借主とする金銭借用証書に連帯保証人として署名していること,判示第3の事実については,被告人A1から印鑑証明と住民票を準備するように連絡を受けた上で,G1におけるJ1に対する欺罔の場に被告人A1と同席してこれに関与したほか,その際に被告人A1を借主とする金銭借用証書に連帯保証人として署名している。このような事実に照らせば,被告人両名において,判示第2及び第3記載のとおりの共謀があったことは明らかである。
 よって,被告人B1の弁護人の主張は採用できない。
第7 結論
 以上の検討によれば,被告人A1については判示第1ないし第3のとおり,被告人B1については判示第2及び第3のとおり,それぞれの被害者に対し,返済能力があるように装った上,欺罔文言を申し向けて,現金や小切手をだまし取ったことは,合理的な疑いを超えて証明十分である。
(法令の適用)
 被告人A1の判示第1別紙一覧表(1)番号1ないし4の所為は,いずれも刑法246条1項に,被告人両名の判示第2の所為は包括して同法60条,246条1項に,判示第3の所為は同法60条,246条1項に,それぞれ該当するところ,被告人A1の判示第1ないし第3の各罪並びに被告人B1の判示第2及び第3の各罪はそれぞれ同法45条前段の併合罪であるから,いずれも同法47条本文,10条により,被告人A1については犯情の最も重い判示第2の罪の刑に,被告人B1については犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で,被告人A1を懲役6年に,被告人B1を懲役4年6か月に,それぞれ処することとし,同法21条を適用して,未決勾留日数中,被告人A1に対しては90日を,被告人B1に対しては180日を,それぞれの刑に算入することとし,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人両名に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,衆議院議員の妻であった被告人A1が,架空の風力発電事業への投資を名目に被害者から合計6700万円を(判示第1),被告人A1及び前記衆議院議員の秘書であった被告人B1が,架空の国会議員絡みの投資を名目に被害者から合計8400万円を(判示第2),架空のパーティー券割当ての決済資金を名目に被害者から額面3000万円の小切手を(判示第3),それぞれだまし取ったという詐欺の事案である。
 被害総額は,被告人A1の関与分につき合計1億8100万円,被告人B1の関与分につき内合計1億1400万円に上り,いずれも多額である。
 被告人両名は,借金の返済資金等を得るためにいわゆる自転車操業を続ける中,法的手続を採る機会が幾度もあったにもかかわらず,確実な返済の当てがないまま多額の借入れを繰り返し,ついには架空の投資話等を持ち掛けて,本件各犯行に至っており,健全な経済観念が欠けていたというしかない。
 また,被告人両名は,国会議員の妻,あるいはその秘書といった立場を利用し,被害者らの信用を逆手にとり,判示第2及び第3については互いに協力し合いながら,本件各犯行を遂げたのであり,その手口は狡猾で悪質である。
 本件各犯行によって,だまし取った現金等はいずれも被告人A1の借金の返済に充てられている上,被告人A1は,各犯行において,いずれも重要な役割を果たしている。また,そもそも被告人A1の借金は,被告人B1の借金と一体のものとして評価し得るものであるし,被告人B1の果たした役割も決して軽視することはできない。
 さらに,被告人両名は,不合理な弁解を続けており,本件各犯行について反省の態度を示しているとは言い難い。
 そうすると,犯情は悪質であり,被告人A1の刑事責任はかなり重いというべきであり,被告人B1の刑事責任もこれに準じて重いものがある。
 他方,判示第1の被害者は,被告人A1とその夫から100万円余りの返済を受けたほか,被告人A1の破産手続において840万円余りの配当を受けている。判示第2の被害者は,被告人A1から約200万円を受領したほか,前記破産手続において440万円余りの配当を受け,判示第3の被害者も前記破産手続において130万円余りの配当を受けている。このように,被害額からすればわずかではあるが,その一部は弁済されている。また,被告人A1には前科前歴がなく,被告人B1にも20年以上前の公職選挙法違反による罰金前科以外に前科がないことなど,被告人両名に有利な又は酌むべき事情も存在する。
 そこで,これらの事情を総合考慮して,主文のとおり刑を定めた次第である。
(求刑 被告人A1につき懲役8年,被告人B1につき懲役6年)
平成23年5月31日
東京地方裁判所刑事第6部
裁判長裁判官  島田 一
裁判官  川田宏一
裁判官  石川理恵

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