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自動車運転過失傷害大阪

大阪地方裁判所判決/平成22年(わ)第4759号

主文

 被告人を罰金3万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)
 被告人は,平成22年4月1日午後1時5分ころ,普通貨物自動車を運転し,大阪府豊能郡(以下略)付近の東西道路を東から西に向かい進行してきて,同所先の信号機により交通整理の行われている交差点を時速約25キロメートルで直進するに当たり,同交差点の対面信号機が黄色の灯火信号を表示しているのを同交差点入口の停止線手前約23メートルの地点で認めた。
 このような場合,自動車運転者としては,上記信号に従い同停止線の手前で停止すべき自動車運転上の注意義務があった。
 ところが,被告人は,この注意義務を怠り,同停止線の手前で停止せず,漫然と上記速度で同交差点に進入する過失を犯した。
 そのため,被告人は,折から右方道路から赤色の灯火信号に従わずに進行してきたA氏(当時66歳)運転の普通乗用自動車を右前方約9.2メートルの地点に認めて急ブレーキをかけたが間に合わず,同車左側面前部に自車右前角部を衝突させ,よって,同人に通院加療約80日間を必要とする胸骨骨折の傷害を負わせた。
(証拠)(以下,括弧内の甲乙の数字は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
被告人の警察官調書(乙1)
B(甲6)及びA(甲8〔不同意部分を除く。〕)の各検察官調書
実況見分調書5通(甲1,3〔不同意部分を除く。〕,4,7〔不同意部分を除く。〕,15)
写真撮影報告書(甲2)
捜査報告書2通(甲11,16)
診断書(甲10)
捜査関係事項照会回答書(甲12)
電話聴取書(甲13)
(争点に対する判断)
1 争点と証拠構造
 本件では,当初,A車両が「青色信号に従い」進行してきたとする公訴事実で起訴されるとともに略式命令の請求がなされ,この公訴事実と同一の内容を認定する略式命令が発布された。しかし,被告人から正式裁判の請求がなされ,公判手続に移行した後,検察官は,上記「青色信号に従い」の部分を削除する趣旨の訴因変更請求を行うとともに,同請求はA車両の対面信号が赤色信号であったとの証拠関係に基づくものである旨釈明した。したがって,訴因変更後の公訴事実は,被告人車両が黄色信号に従わずに大阪府豊能郡(以下略)先の交差点(以下「本件交差点」という。)内に進入し,他方でA車両は赤色信号に従わずに同交差点内に進入してきて,両車両が衝突したという事実関係を前提とするものであるところ,上記事実関係は,主として,目撃者2名の立会いによる実況見分調書や供述調書(甲4,6,15),信号周期に関する捜査報告書(甲11)によって認められ,その限度では弁護人も争っていない。
 もっとも,弁護人は,① 被告人が本件交差点の停止線手前約23メートルの地点で黄色信号を認めた際,被告人車両の速度は時速約40キロメートルであったから,道路交通法施行令2条にいう「黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合」に当たり,被告人には黄色信号に従い停止すべき義務はなかった,② 被告人は,停止線を越えた後に左右を確認した上,右前方約21.5メートルの地点にA車両を発見して急ブレーキをかけ,交差点中央の1メートル手前で停止し,A車両が事故を回避するのを待っていたところを衝突された,③ A車両には赤信号無視の違反があったから,被告人には信頼の原則が適用される,などとして,被告人には過失がなく無罪であると主張し,被告人も公判でこれに沿う供述をしている。
 これに対し,検察官は,主として,事故当日の平成22年4月1日(以下,単に日付を記載する場合にはいずれも平成22年を指す。)に被告人立会いの下で行った実況見分に関する実況見分調書(甲1)と4月6日の被告人の取調べの際に作成された警察官調書(乙1)に依拠して本件公訴事実を立証しようとしている。そこで,まず,上記実況見分と被告人の取調べを担当したC警察官の証言を検討しつつ,実況見分調書(甲1)と被告人の警察官調書(乙1)を概観した後,被告人の公判供述について検討することとする。
2 C警察官の証言の信用性
(1) 実況見分調書(甲1)について
 上記実況見分調書添付の「交通事故現場見取図」(別添「交通事故現場見取図」。以下「本件見取図」という。)には,被告人において,対面信号が青色であるのを認めた地点(①),対面信号が黄色になっているのを認めた地点(②),最初にA車両を発見し,危険を感じてブレーキをかけた地点(③),A車両と衝突した地点(④),被告人車両が停止した地点(⑤)を特定する記載があるところ,C警察官は,公判で,要旨,次のように証言している。
 「一般的な実況見分の手順に則り,被告人から,順次,衝突地点④,被告人車両の停止位置⑤,危険を感知した地点③,交差点に進入する直前に信号を確認した地点②(このときの信号は黄色であったという。),最初に信号を見た地点①(このときの信号は青色であったという。)の説明を受けた。③地点の説明の際には,当時の被告人車両の速度は時速25キロメートルくらいだったとの説明も受けた。」
 ところで,道路状況に関する実況見分調書(甲3)によれば,①地点からは本件交差点の車両用信号は民家の屋根の影になって視認できないことが認められる。そして,C警察官自身,被告人に対して最初に信号を見た地点の説明を求めた際,被告人は,当初①地点ではなく,②地点よりやや後方の位置を説明したと証言していることも考え併せると,少なくとも①地点については不正確な特定であったといわざるを得ない。問題は,①地点だけでなく本件見取図の他の地点の特定にも疑問が生じないかであるが,C警察官は,①地点を特定するに至った経緯について,さらに次のように証言する。
 「当時,同僚の警察官から目撃者の供述を又聞きしていただけであり,目撃者は衝突時のA車両の信号が青色だと供述していると誤解していた。確かに当初,被告人は,最初に信号を見た地点として②地点よりもやや後方の位置を説明していたが,上記のようなA車両の信号状態と③地点での被告人車両の速度(時速約25キロメートル)を前提とすれば,被告人が最初に説明した位置では信号周期から考えて青色のはずはないと思った。そうであれば,被告人が最初に青色信号を見た地点は被告人が説明する位置よりも後方でなければ説明かつかないと考え,被告人にその旨指摘して再度説明を求めたところ,①地点の説明を受けた。」
 交差点事故においては往々にして信号表示に関する当事者の主張が食い違うことがあるだけに,第三者である目撃者が信号表示についてどのような説明をしているかが重要な意味を持つことは言うまでもないが,C警察官は,又聞きしただけの不正確な知識をもとに,結果として被告人を誤導する形で①地点を特定してしまったというのであるから,その捜査に問題があったことは否定できない。しかし,C警察官は,公判で,自らの誤りを認めた上,なぜ客観的な視認状況と一致しない①地点が特定されてしまったのかについて,上記のとおり速度に関する被告人の説明状況を交えながら具体的に説明を行っていることからすれば,①地点の特定に問題があったことをもって,直ちに他の地点の特定にも問題があるとするのは早計である。そこで改めてC警察官の証言について見ると,その内容は,一般的な実況見分の手順に沿って順次各地点の説明を受けたとするものである上,各地点を特定する際には,被告人車両の位置は被告人自身に,A車両の位置は被告人の指示を受けて補助者である警察官に,実際に当該地点に立ってもらって確認したとするものであって,その方法に不自然な点も見当たらない。また,③地点での被告人車両の速度が時速25キロメートルであるとする点については,被告人車両が進行していたのは中央線で区分されていない幅員約4.5メートルの道路であったことや,当時C警察官は被告人から,池田市にある得意先に行くため本件交差点を左折するつもりであったとの説明を受けていたと供述していることに照らせば,矛盾のない速度であったと考えられる。したがって,本件見取図の①地点を除く他の地点の特定に直ちに問題があったとはいえない。
(2) 被告人の警察官調書(乙1)について
 上記警察官調書は,本件見取図中にあらわれた地点を引用しつつ,時間の流れに沿って①地点から⑤地点までの走行状況を説明し,③地点におけるA車両との距離やその際の被告人車両の速度(時速約25キロメートル)を説明するなどの内容となっているところ,C警察官は,この警察官調書の作成状況につき,公判で,要旨,次のように証言している。
 「被告人が事実を認めており,A氏の加療ないし全治期間が3週間以上3か月以内であって,特例書式を使用できる場合であったことから,特例書式を使用して供述調書を作成した。書式の順番に従い,パソコン上で書式中の不動文字以外の空欄を埋めながら取調べを行った。その際は,本件見取図を被告人に示しながら各地点を確認していった。」
 このC警察官の証言は,本件見取図の記載内容に沿うものであり,特段不自然な点は見当たらず,被告人車両及びA車両の損傷状況とも合致しているところである。
 もっとも,上記警察官調書には,「この事故を起こした原因は,私が信号交差道路を進行する際に,進路前方に気を奪われてしまい,信号が赤色に変わっているにも係わらず,信号を見落としてしまった事により結果的に私が信号無視した事です。事故後,目撃者の人から話をお聞きし私が,信号無視してしまったのが判ったのです。私がそのような不注意な運転をした理由は,信号の灯火の色が黄色を示していましたのでこの黄色信号は青から黄色に変わったところと勝手な判断をしてしまったのが失敗でした。」との記載部分があり,この部分は,やはり目撃者の説明を誤解したC警察官の誤った誘導により作成されてしまったものと考えられる。しかし,上記記載部分は,目撃者が説明したとする内容を前提に,事後的・客観的に見れば,被告人が赤信号を見落とし,信号無視をしてしまったことになるなどの趣旨が述べられたものにすぎず,事実認定上は特段の意味も持つものではないから,当該記載部分によって直ちに上記警察官調書全体に問題が生じることはないというべきである(とはいえ,取調べ時には既に事故から5日が経過していたにもかかわらず,C警察官はなおも目撃者の説明を誤解したまま被告人の取調べを行ったというのであるから,その点において問題があったといわざるを得ない。さらにいえば,C警察官は,被告人の取調べを終えた後に目撃者の実況見分を実施した結果,自身が目撃者の説明を誤解していたことに気付いたが,衝突時と衝突直後の取り違えであって,衝突時に被告人の対面信号が赤色であったことに変わりはないと考え,再度被告人の取調べを行うこともしなかったと証言しているのであるが,起訴までにこの点の捜査が十分に尽くされていれば,A車両が「青色信号に従い」進行してきたとする誤った前提で起訴が行われ,略式命令が発布されることもなかったと考えられるのであって,やはりC警察官の対応は適切なものであったとはいえない。)。また,上記警察官調書中には,本件見取図の①地点に関して説明した記載部分もあるが,①地点が不正確であったことが他の地点に関する記載部分に直ちに影響を及ぼすものでないことは,上記実況見分調書に関して既に述べたとおりである。
3 被告人の公判供述の信用性
 以上のC警察官の証言に対し,被告人は,公判で,要旨,次のように供述している。
 「停止線手前約28メートルのところで青信号を確認し,約23メートルのところ(本件見取図でいう②地点)で黄色信号を見た。そのとき,時速約40キロメートルだった。下り坂で路面も濡れているので停止線手前で止まるのは無理だと思ったし,後続車も来ていて追突される可能性があると思い,そのまま交差点内に入った。停止線を越えてから時速25キロメートル以下くらいに減速した。信号の変わり目なので常日頃のように左右を見たところ,相手の車が約21.5メートル先に来ており,止まる方が安全だと思ったので,ブレーキをかけ,交差点中心より1メートル手前で止まった。止まってから約1秒後,相手の車は避けるどころか当たってきて衝突してしまった。その後,C警察官が来て実況見分に立ち会った。本件見取図でいう②,④,⑤の地点は説明したが,最初に青信号を見た地点(①)や相手の車を発見した地点(③)については説明していないし,そもそもそのような質問自体されていない。」「4月6日の取調べでは,本件見取図は一切示されていない。C警察官は,『君が黄色で入ってきたと言うけど,黄色じゃなくして,もう赤になっとったから事故が起こったんや,要は君が悪いんや』と言うだけで何を言っても取り上げてくれなかった。1時間以上もけんけんがくがくのやり取りをしており,納得しないのならもう一つ上のランクの罰(危険運転致傷)になるぞと脅された。それでも認めないと言ったところ,たばこタイムにしようかなと言われ,5分間のたばこタイムが終わってからは署名押印する気になり,内容を読んで聞かされたということもなかったが,調書の2枚目のみを示されて署名した。調書に『時速約25キロメートル』と打ち込んであるところは2か所とも,自分が署名したときは空欄となっていた。そのほかにも『信号が赤色に変わっているにも係わらず』という部分など所々が空欄になっているものに署名した。」
 しかし,まず,事故態様について述べる点を見ると,そもそも被告人は,黄色信号を認めたが停止線の手前で止まるのは無理だと思って交差点内に入ったというにもかかわらず,交差点内に入ってから減速するという危険な状態をあえてつくり出した上,停止してA車両が通過するのを待っていたとまでいうのであって,その説明自体,不自然であるといわざるを得ない。また,時速40キロメートルで進行していた場合,本件見取図②地点辺りから急ブレーキをかけたとしても,衝突地点である④地点で停止することはできないと考えられること,被告人が述べるように被告人車両が交差点内で停止していたところにA車両が衝突してきたのであれば,A車両の損傷部分は前面部分に存在していなければならないが,実際には左側面前部に存在していることなど,客観的な事実との矛盾も認められる。さらには,実況見分の際に本件見取図でいう3つの地点の説明はしたが,最初に青信号を見た地点や相手の車を発見した地点については質問自体されていないとする点も極めて不自然であると考えられる。
 次に,取調べ時の状況について見ても,被告人は,本件見取図を全く示されなかった,所々が空欄になっている調書に署名させられたなどと述べているが,調書には見取図にあらわれた地点が引用されていることからしても,およそ見取図が示されないまま取調べが行われたなどとは考えられないところであるし,C警察官が読み聞けもせず,所々空欄になっている調書に署名を求めたなどという話もにわかには信じ難い。また,被告人は,1時間以上もやり取りをしたがC警察官は何を言っても認めてくれなかったというのであるが,そのような状況にもかかわらず,被疑者が事実関係を認めていなければ使用できない特例書式が使用されたというのも不自然である。さらには,被告人はC警察官から脅されたというにもかかわらず,たった5分のたばこ休憩の後には直ぐに署名押印する気になったというのも納得し難い。
 以上のとおり,被告人の公判供述には,不自然・不合理な点が多々見受けられることから,到底信用できない。
4 結論
 そこで,裁判所は,実況見分調書(甲1)及び証拠能力に問題のない被告人の警察官調書(乙1)に依拠することができる(ただし,いずれも本件見取図①地点に関する部分を除く。)ものと判断し,「犯罪事実」記載のとおり,被告人は,本件交差点の停止線手前約23メートル(本件見取図②地点)で黄色信号を認めたこと,その際の被告人車両の速度は時速約25キロメートルであったこと,したがって路面の状態を考慮しても,被告人が黄色信号を認めた時点でブレーキをかけていれば停止線手前で止まることは可能であったと認められることから,被告人には黄色信号を認めたにもかかわらず停止しなかった点で注意義務違反があったものと認定した。そして,弁護人が指摘する信頼の原則に関しては,本件では,被告人自ら黄色信号の表示に従わずに交差点に進入しているのであって,相手方車両が自車の進路に入ってくることはないものと信頼する資格を有しないというべきである(もっとも,相手方車両が赤信号に従わなかった点については量刑事情として考慮される。)から,これを適用する余地はない。
 以上の次第で,被告人は本件事故につき過失があると判断した。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法211条2項本文に該当するところ,所定刑中罰金刑を選択し,その所定金額の範囲内で被告人を罰金3万円に処し,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,普通貨物自動車を運転していた被告人が,信号機のある交差点に差し掛かり,黄色信号を認めたにもかかわらず,これに従って停止線手前で停止すべき注意義務を怠り,交差点内に進入し,折から交差道路から進行してきた相手方車両と衝突する人身事故を起こしたという事案である。
 既に認定したとおり,被告人には黄色信号に従って停止しなかった過失が認められる上,相手方の怪我も約80日間の通院加療を必要とするものであったとの事情も認められる。
 しかしながら,本件では,相手方の方にも赤信号に従わずに進行したという過失が認められ,これは被告人の過失よりも格段に重いと評価される上,本件事故により,被告人自身傷害を負ったとの事情も認められる。また,起訴までの捜査が適切に行われていれば,誤った前提で起訴がなされたり,ましてや罰金40万円に処する旨の略式命令が発布されたりすることもなかったと考えられるのであり,このように被告人が相手方よりも過失が重いとの前提で不利益な処罰を受ける危険に晒されたことは,被告人に有利に斟酌しなければならないと考えられる。そして,被告人には,道路交通法違反(速度超過)の罰金前科1犯があるだけで,それ以外に前科はない。
 裁判所は,以上の事情を考慮した結果,主文の罰金刑に止めるとともに,その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(検察官杉本卓也,国選弁護人柳川博昭各出席)
(求刑-罰金5万円)
平成23年4月19日
大阪地方裁判所第7刑事部
裁判官  三村三緒

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