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自動車運転過失傷害東京

東京高等裁判所判決/平成21年(う)第340号

主文

原判決を破棄する。
被告人は無罪。

理由

1 本件控訴の趣意は,弁護人森岡信夫作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから,これを引用する。
2 事実誤認の論旨について
(1) 弁護人は,控訴の趣意として,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤り,事実誤認をあげるが,その中心は,原判決が認定した被告人の注意義務違反は認められないという事実認定の主張であるので,この点について先に検討する。
(2) 本件公訴事実の要旨は,被告人が業務として普通貨物自動車を運転して,千葉県野田市(以下略)先道路を時速約50kmで進行中,左側歩道上から自車進路上に進出した被害者運転の自転車を前方約55.2m先に認めたのであるから,同自転車の動静を注視するとともに,適宜速度を調整し,安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,右側(第2車線)に進路変更し,時速約40kmに減速したものの,進路遠方を望見して,同自転車の動静を注視せずに,安全確認不十分のまま進行した過失により,自車進路上に進出しようとした同自転車を左前方約12.3mの地点に迫って認め,急制動の措置を講じたが間に合わず,自車を自転車に衝突させて,被害者を路上に転倒させ,傷害を負わせたというものである。
 そして,原判決は,ア 被害者が原審甲8の実況見分調書添付の交通事故現場見取図(ア)の地点で(以下,地点を示す場合は,いずれも同見取図のそれである。),何も障害物がないのに歩道上から第1車線に進入したというのは,不可解で不合理な進行であること,イ その先には,中央分離帯の開口部分があり,歩道上を進行していた自転車が,第1車線,第2車線を経由して,対向車線へ進入することは容易に理解できること,ウ 被害者が(ア)の地点から車道に出て来たのを見て,被告人は第1車線から第2車線へ避譲せざるを得なかったのであるから,被害者の危険な運転は明白かつ現実化していることを根拠として,被告人には,そのような危険な運転をしている被害者を注視して衝突を回避するための減速義務が生じるとするとともに,捜査段階の供述の信用性を認めて,被告人が望見して被害者の動静を注視していなかったとして,公訴事実と同一の事実を認定した。
(3) そこで,まず,原判決が被告人の注意義務発生の根拠としてあげた前記の理由アないしウがその根拠たり得るかについて検討する。
 アの点ついては,本件現場のような,片側2車線を有するような道路(国道16号線)において,自転車が歩道上から第1車線に進入するという事態は,数多く見られるものであるとまではいえないが,所論指摘のとおり,道路交通法上は,自転車は車道を通行することが原則であるから(同法17条1項),被害者の行動を「不可解で不合理な進行」とまで認定することは相当ではない。この事情のみを根拠として,被告人の注意義務が発生するというのは困難であり,他の根拠を補強する程度でしか使用することはできない。
 イの点については,確かに,本件現場には,中央分離帯の開口部分が存在しているが,被告人は,原審において,同所をしょっちゅう通っているものの,この存在を知らなかったと供述しており,被告人がこの開口部分を知っていたと認定できる証拠は存在しない。そして,その開口部分の大きさや構造からすると(原審甲8添付写真1,同弁1添付写真5ないし7,同弁7),被告人が,①の地点から,開口部分の存在を認識できなかったとしても,何ら不自然とはいえない。イの点を,被告人の注意義務発生の根拠とすることはできない。
 ウの点については,確かに,被告人は,(イ)の地点における被害者の運転状況を見て,時速を50kmから40km(いずれも制限速度内)に減速した上,②の地点で第1車線から第2車線へ車線変更をしたという事実は認められる。しかし,だからといって,それ以上に,被害者が更に第2車線に車線変更をする(しかも,所論指摘のとおり,その横断方法は明らかに道路交通法に違反する方法でもある。)ということを予測すべきであるとの根拠になるとはいえない。
 すなわち,被告人が②の地点のとき,被害者は(イ)の地点におり,被告人が③の地点のとき,被害者は(ウ)の地点にいるところ,(イ)の地点と(ウ)の地点の歩道端からの距離は変わっていないから,被害者は第1車線を当初真っ直ぐに走行していたと認定することができる(なお,原審甲9の実況見分調書は,被害者が運転していたのはもう少し第2車線寄りであったと被告人が感じたことから,これを訂正する目的で作成されたものであり,それ以外の点については変更がなく,これによっても(ウ)の地点は40cm第2車線よりになっているにすぎない。)。そうすると,被告人において,第1車線に進入した被害者が,そのまま,第1車線を真っ直ぐに運転していくと考えたことは,自然な認識であると認められる。
 そして,その事実に加え,前記のように,被告人が開口部分を認識できなかったことも不自然でないと認められるのであるから,被告人としては,②の地点で,時速を40kmまで減速し,かつ車線変更をしたことで,十分にその行うべき注意義務を果たしたというべきであり,それ以上に,被告人に,原判示の注意義務が生じるなどとすることはできない。
 このような状況で,被害者が道路交通法に違反して横断してくる可能性を予見して減速しろというのであれば,結局,自転車が第1車線を進行していた場合には,第2車線を運転する自動車運転手は,少なくとも自転車と同程度の速度まで減速しろということを要求することに他ならなくなり,相当とはいえない。すなわち,被害者が第2車線へ移動するとは限らず,そのまま第1車線を進行すれば,被告人車と接触する危険性もあるから,それを避けるために被告人が第2車線へ移動したのは適切な判断であったというべきである。被害者が第1車線を進行するのか第2車線へ移動するのか分からないのであるから,被告人としては,ともかく被害者との接触を避けるためには,その速度程度にまで減速しなければならないことになり,本件のような国道を進行する自動車にこのような一般的な注意義務を課することは非現実的であるといわなければならない。原判決の要求する注意義務は,結局,このようなことを要求するものであって,到底賛同できない。
 前記理由アないしウを根拠として,被告人に被害者を注視して衝突を回避するための減速義務が生じると判断した原判決には事実誤認がある。
(4) そして,被告人に前記注意義務が認められないとするのであれば,被告人が,その後進路遠方を望見していたか否かについて判断する必要性はないが(望見したとされる③の地点と,進路変更をしてきた相手を認めたとされる④の地点との距離は,22.2mであり,時速約40kmとすれば,約2秒であり,望見しなかったとしても,事故を避けられたとはいえないので,結果回避義務がない),原判決はこの点についても認定しているので,更に判断する。
 確かに,被告人の捜査段階の供述によれば,「進路遠方を見ながら進行した」(原審乙2),「見てはいるけどちゃんとは見ていない」(原審乙4)とあり,被告人は望見して運転していたと認めている。しかしながら,これらの供述調書は,実況見分調書(原審甲8)の,「進路遠方を望見した地点は③,その時相手は(ウ)」という,日本語としても,説明内容としても俄に信じがたい指示説明部分に基づいて作成されているものであり,それだけでも信用性に疑問がある。加えて,本件現場付近は,ほぼ直線の道路であり,暗くて見えにくかったなどという証拠はないから,遠方を見ていれば,そのまま当然に,被害者の動静が見えていたはずである。更に,被告人が捜査段階で認める望見の時間はわずか前記のとおり約2秒にすぎないから,特別の事情がない限り,直前まで被害者の動静を注視して,車線変更までしていた被告人が,突如として約2秒間遠方を望見するなどという行動をとったなどとは信じることはできないし,本件において,特別の事情など存在しない。
 その他,証拠によっても,被告人が望見をして,被害者の動静を見ていなかったと認定することもできない。
(5) 結局,本件公訴事実の注意義務を認めることはできず,これを認めた原判決には事実の誤認があり,被告人には無罪を言い渡すべきであるから,その誤りは判決に影響を及ぼすことは明らかであり,その余の論旨について判断をするまでもなく,原判決は破棄を免れない。
 事実誤認の論旨は理由がある。
3 よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当審において被告事件について更に判決することとし,既に検討したとおり,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことになるから,同法336条により被告人に無罪の言渡しをする。
平成21年7月1日
東京高等裁判所第9刑事部
裁判長裁判官  原田 國男
裁判官  田島 清茂
裁判官  左近司映子

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