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住居侵入大阪

大阪高等裁判所判決/平成20年(う)第1589号

主文

 一審判決を破棄する。
 被告人は無罪。

理由

第1 弁護人の控訴理由
1 訴訟手続の法令違反
 一審判決が有罪認定の証拠として掲げる被告人の警察官調書(一審判決乙2)には任意性がなく,証拠能力を欠くのに,これを証拠として採用した一審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。
2 事実誤認
 一審判決が認定する被告人のA方への立入り行為(以下,これを「本件立入り行為」ともいう。)は,①本件住居の管理権者であるBの黙示の承諾に基づいており,②立入りの態様や経過,管理権者であるA及びBと被告人との従前からの関係,立入りの際のBの態度等からみてBの意思に反しておらず,③正当な理由に基づくものであるのに,これらをすべて否定して被告人を有罪とした一審判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。
3 法令適用の誤り
 本件立入り行為が住居侵入罪の構成要件に該当するとしても,同行為には可罰的違法性がないから,同行為に刑法130条前段を適用した一審判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。
第2 控訴理由に対する判断
1 訴訟手続の法令違反の主張について
 弁護人は,被告人の警察官調書(一審判決乙2)は,取調べをした警察官が,被告人の言い分に耳を貸さず,誤った説明をして被告人を諦めの気持ちに陥らせ,利益誘導や圧力をかけるなどして被告人の調書訂正の申立てを封じ,調書の記載内容を被告人に理解させず,黙秘権を告知しなかったという違法ないし不当な取調べをした結果作成されたもので,任意性を欠くと主張する。
 しかし,被告人を取り調べて上記調書を作成したCは,一審証人として,取調べに至る経緯や取調べの状況につき,記憶の有無に従って具体的に証言しており,その証言内容に格別不自然な点はなく,同証言は信用するに足るものである。そして,同証言と被告人の上記警察官調書の記載内容によれば,同調書作成の過程で,弁護人が主張するような違法ないし不当な取調べがなされてはいなかったことが認められる。被告人の一審における供述中,上記認定に抵触する部分は,Cの証言等に照らして信用できない。
 以上のとおり,一審判決には訴訟手続の法令違反はない。弁護人の主張は理由がない。
2 事実誤認の主張について
 被告人の警察官に対する上記供述調書(Cの証言からうかがわれる被告人の供述態度やその記載内容等に照らして信用性を肯定し得る。)をはじめ関係証拠によると,被告人が本件立入り行為に及んだ経緯や立入りの状況等について次の事実が認められる。
 すなわち,被告人が今回立ち入ったA方は,25階建のマンションの12階にある1戸であり,間取りは3LDKで,土足のまま立ち入ることができる玄関土間は東西1.34メートル,南北1.52メートルの広さで,バリアフリー部分を隔てて廊下,居室へと続いている。Aは,ここでB及び2人の幼児とともに暮らしているが,本件当時,Aは不在で,Bと幼児2名だけが在室していた。
 ところで,被告人は,かねてより,本件マンションのA方の階下に居住する被告人の母親から,A方から出される生活騒音等に日夜悩まされ,直接又はマンションの管理人を介するなどして何度も苦情を申し入れたが,一向に改善されず,そのせいか体調も崩しているなどと聞き及んでいた。被告人自身は,A及びBとは,これまで,マンション駐車場での車両の駐車方法を巡って少し話した程度の関係であったが,母親の話もあって,自らもマンションの管理センターに善処方を申し入れたりしたものの,その件についてAやBと話し合う機会もなかった。しかるに,本件当日,母親と会った際,母親から,騒音等は相変わらずでもう耐えられない,今はA方で物音がしていたので誰か居るようだと聞いたことから,この際,母親に代わってA方に赴き,家人に苦情を申し入れようと思い立ち,同日午後5時50分ころ,A方を訪ねた。被告人は,A方の居住者が上記のとおりであることは以前から知っていたが,本件当時在室していたのがBと2人の幼児だけだったことは知らなかった。
 被告人は,A方のインターホンを押し,応答がなかったが,母親の話で家人が在室していることが分かっていたので,ドアのノブを引いてみたところ,施錠されておらず,ドアが開いた。そこで,被告人は,ドアを少し開けた状態で,室内に向けて「すんません」と声をかけたが,応答がなかったことから,上半身だけをドアの内側に入れ,声を大きくして,再度室内に向け「すんません」と呼びかけた。すると,Bが玄関に出てきて「何」と言ったので,相手にやっと会えたとの思いから,玄関土間に両足を踏み入れ,これに伴って玄関ドアは閉まった。
 以上の事実が認められる。被告人の一審における供述は,A方への立入りの態様等につき,被告人の上記警察官調書と比べて不自然なところが多く,また,Bの一審における証言にも,同女が外国人で日本語の語彙が必ずしも十分でないことなどから誇張して述べたと考えられる部分があり(なお,同女の証人尋問には法廷通訳人が付されていたが,同女が自らの意思で日本語で証言している部分がある。),その供述ないし証言中,上記認定に抵触する部分は被告人の上記警察官調書等に照らして信用できない。
 そこで,この事実を前提に,弁護人の主張について検討してみる。
 まず,本件立入り行為がBの黙示の承諾に基づくものであり,また,同行為はBの意思に反するものではないとの主張は,後述するように,Bが,被告人の立入り直後からその立入りを拒否する態度を明確に示していることに照らしても,また,その主張が,被告人の一審供述中,上記のとおり信用性に乏しい部分に依拠してなされたものであることからしても,採用できない。
 次に,本件立入り行為が正当な理由に基づくものであるとの主張についてみる。
 住居侵入罪の処罰規定である刑法130条前段の趣旨に照らすと,同条にいう「正当な理由」があるというのは,住居等へ立ち入った日時,立ち入った住居等の構造及び立入り箇所,立入りの態様等の客観的要素と,立入りの動機,目的や立入りに際しての行為者の認識等の主観的要素とを総合的に考慮した結果,その立入り行為が,社会通念上,相当な行為と認められる場合をいうと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに,上記認定のとおり,被告人が本件立入り行為に及んだのは夕刻であって,他人の家を訪問するのに非常識な時刻ではないこと,立入りに際しては,インターホンを押して応答を待つなどしており,いきなりドアを開けて立ち入ったものではなく,施錠を外すなどの挙に出たわけでもないこと,また,立ち入った場所は,ある程度の広さのある玄関土間にとどまっており,かつ,被告人は,その呼びかけに応じてBが玄関に出て来るまでは土間にさえも立ち入ってはいないこと,そして,被告人がA方に立ち入ったのは,母親からA方の生活騒音等に悩まされていると聞かされ,それを改善するため,A方の家人に苦情を申し入れたいと考えたからであって,格別の根拠もないのにA方に難癖をつけに行ったわけではないこと,また,被告人は,ことさらAの留守を狙って訪問したわけではなく,後記認定の,立入り後の被告人の行動に照らしても,被告人には,玄関土間より奥の居室内まで入り込むつもりは当初からなかったと認められることなどの事情がある。そうすると,被告人が立ち入ったのはマンションうちの1戸の居宅であり,その間取りからすれば,玄関土間から容易に居室に入り込むことができることや,当時,A方には女性のBと幼児だけが居たことなどの事情を考慮してもなお,被告人の本件立入り行為は,社会通念上,相当な行為というべきである。
 この点につき,一審判決は,被告人には,Bらの意思に反してA方に立ち入らなければならないような緊急性,必要性がないこと,立入りにつき,事前にAとコンタクトをとるか同人の明示の承諾を得るべきであったのにそれらの措置を講じていないことを理由に上記の「正当な理由」があるとは言い難いと説示するが,そもそも,本件において,同判決が指摘するような事情が「正当な理由」の判断を基礎づけるものかどうか疑問である上,それらの事情のみで被告人の本件立入り行為につき「正当な理由」の該当性を排斥するのは,前述したその判断要素の内容に照らしても相当でないといわなければならない。
 以上のとおりで,被告人の本件立入り行為には「正当な理由」があり,被告人は住居侵入の罪責を負わないから,一審判決には,この点に事実の誤認があり,その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。この点の弁護人の主張は理由がある。
 なお,住居侵入の事実につきその罪が成立しなくても,これと公訴事実を同じくする不退去の事実に訴因変更すれば,証拠関係に照らして直ちに有罪の判断がなし得るような場合には,裁判所としては,検察官に対し,釈明権を行使し,訴因変更申立ての意思を確認したりこれを促したりすべき義務が生じ得ると考えられるので,この点から,本件における不退去罪の成否につき検討しておく。
 不退去罪は,居住者からの退去の要求を受けてこれに応じないことが,社会的相当性の見地からみて許容される範囲を逸脱した場合に成立するものと解され,その判断は,滞留の動機・目的,滞留の間の居住者とのやりとりを含めた滞留時の状況,滞留時間等の事情を総合勘案してなされるべきところ,これを本件についてみるに,関係証拠によれば,被告人が本件立入り行為に及んだのちの状況につき,以下の事実が認められる。
 すなわち,被告人が,立ち入ったあと,Bに対して「下の者やけど,音がうるさいので,静かにしてくれ。」と言うと,Bは,興奮気味に「何で入ってくるの。誰,帰って。」などと答えた。その後,被告人がBに対し,騒音等に関する苦情を言うなどし,これに対して,Bが,どうしてそんなことを言うのかと興奮した様子で答えるなどしていたが,そのうちに,被告人は,Bとの間では話が十分に噛み合わないと感じ,BからAは在宅していないと聞かされていたことから,Aと電話で話そうと考え,Bに対し,Aに電話をするよう求めた。そこで,Bは,携帯電話で職場に居るAに電話をかけ,被告人はBから携帯電話を受け取って,Aに対し来訪の目的である苦情を言ったが,Aからはその場から立ち去るよう求められるばかりであったため,そのまま通話を終え,その後まもなくしての午後6時ころ(立ち入ってから10分ほどのちになる。)A方から退去した。
 そして,以上の事実によれば,被告人は,A方に立ち入ったのち,何とかBに騒音等の苦情を聞いてもらおうとしてBに話しかけ,一方,Bも,被告人の立入り直後に退去を求めたものの,その後は,被告人の話に一切耳を貸さずに強く退去を求め続けるまでの態度を示してはいなかったこと,そして,被告人は,Aにも十分苦情を言うことができず,来訪の目的が果たせないと分かるや,時を置かずにA方から退去しているのであって,A方での滞留時間は10分間程度の比較的短時間にとどまることなどを指摘することができる。
 そうすると,Bに退去を求められてからの被告人の滞留は,その目的や滞留状況等に照らし,社会的相当性の見地から許容される範囲を逸脱したものと直ちに評し得るかどうかは疑問であり,したがって,裁判所には,検察官に対し,上記のような形で釈明を求める義務はないものと考えられる。
 以上のとおりで,一審判決は破棄を免れないから,その余の控訴理由に対する判断を省略し,一審判決を破棄して自判することとする。
第3 適用法令
 刑事訴訟法397条1項,382条,400条ただし書
第4 自判
 本件公訴事実は,「被告人は,神戸市中央区(以下略)に居住するA及びBらの階下に居住する被告人の実母から,多数回にわたり上記Bらの騒音等に関する苦情を聞き及んでいたことから,自らが母親に替わって上記Bらに同様の苦情を申し入れる目的で,平成19年2月19日午後5時50分ころ,施錠されていなかった上記A方玄関ドアを無断で開放し,玄関土間内に立ち入り,もって,正当な理由がないのに上記A方に侵入したものである。」というのであるが,前述したとおり犯罪の証明がないので,被告人に対し無罪の言渡しをする。
(適用法令)刑事訴訟法336条
平成21年5月14日
大阪高等裁判所第2刑事部
裁判長裁判官  湯川哲嗣
裁判官  榎本 巧
裁判官  細谷泰暢

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