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大麻札幌

札幌高等裁判所判決/平成3年(う)第113号

主文

 本件控訴を棄却する。
 当審における未決勾留日数中二二〇日を原判決の刑に算入する。

理由

一 本件控訴の趣意は、弁護人横路民雄提出の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官伊藤厚提出の答弁書に各記載のとおりであるから、これらを引用する。
 なお、弁護人は、当審第一回公判期日において、控訴趣意のうち事実誤認をいう点は、独立の主張ではなく、訴訟手続の法令違反の内容をなす旨釈明した。
二 控訴趣意第一(訴訟手続の法令違反の主張)について
1 論旨は、要約すると、次のとおりである。
 本件の①現行犯人逮捕手続及びこれに続く勾留、②覚せい剤・大麻草の捜索差押手続、任意提出手続、及び③採尿手続には、以下のとおり重大な瑕疵があって違法である。すなわち、①被告人は、平成三年二月六日午後四時三〇分ころ札幌市中央区南七条西四丁目先路上において、四人の警察官から付近の派出所への同行を求められ、これを拒否すると、警察の車両に押し込まれ、うち一人の警察官からは足を蹴られ、所持していたバッグをもぎ取られるなどして、無理やり同車両で派出所へ連行された。②右警察官は、派出所へ行く間の車中で、被告人の同意がないのに、右バッグを開け中に手を入れて所持品検査をした、③更に、その後、被告人が尿の提出を拒否しているのに、司法警察員松岡廣明は、被告人を採尿場所に連行し、「どうせ強制採尿すれば同じなのだから」等と申し向けて、押えつけるようにして尿の提出を強制したため、被告人はこれに抗し切れず尿を提出した。したがって、以上のような違法手続に依拠して収集された別紙記載の各証拠は、いずれもその証拠能力を否定すべきものであるから、これらの証拠を原判示の各事実の認定資料とした原判決には、訴訟手続の法令違反があり、ひいては、有罪証拠のない右各事実を有罪と誤認した違法があるから、原判決を破棄の上無罪の判決を求める、というのである。
2 そこで、原審の記録及び証拠物に、当審証人松岡廣明、同菊地廣昭、同藤井美光、同吉田学及び同臺秀博の各供述、当審で取り調べた被告人作成の平成三年二月二七日付任意提出書とこれに対する司法警察員作成の領置調書、司法警察員作成の採尿状況報告書、宮城島孝の検察官に対する供述調書、被告人の当審公判廷における供述、被告人作成の「控訴趣意書」と題する書面及び手紙二通(弁7、8)、当審で押収した黒色手提げバッグ一個(当庁平成三年押第三六号の15)、同バッグのバンド一本(同号の16)を加えて検討すると、以下の経緯ないし状況が認められる。
(1) 被告人の本件逮捕は平成三年二月六日であるが、これより先の平成二年一二月三日、札幌市中央区《番地略》所在の甲野石油販売株式会社北大西給油所で盗難事件が発生し、次いで、平成三年一月一四日、黒色の乗用車(フェアレディZ)登録番号・札幌○○ら○○-○○に乗って同給油所に来所した者が右盗品の一部であるクレジットカードを使用して詐欺未遂事件を起こした。これらの事件の捜査を担当した札幌方面中央警察署(以下「中央署」という。)刑事第一課盗犯第一係の警察官らが、同市内に住む右登録車両の所有者であるBから事情聴取したところ、同人は同じナンバーの車両を所有するが、右の窃盗、詐欺未遂事件のいずれとも無関係であることが判明した。その後、同年二月六日(被告人の逮捕当日)に至り、右Bから、中央署に、「私の車と同じナンバーの車が中央区《番地略》の飲食店『乙山』前路上に停車しているので、警察で調べて欲しい」旨の通報があった。そこで、前記盗犯第一係の菊地廣昭巡査部長及び藤井美光巡査が、同日午後四時五分ころ警察車両(白色スバルバン)で同所に臨場したところ、同所の車道上には車体前部にはナンバープレートがなく、車体後部にのみ前記番号のナンバープレートを付けた黒色のフェアレディZ(以下この車両を単に「フェアレディZ」という。)がエンジンをかけたままの状態で停車していた。そこで菊地らは、その運転者に職務質問をする必要を認め、警察車両をフェアレディZの後方(東方)五、六メートルの地点に停めて同車内で、また、別途駆けつけた吉田学巡査ら三名は付近の物陰で、それぞれ張り込みを実施した。
 なお、後に判明したところによると、フェアレディZは、平成二年札幌市白石区内で被害に遭った盗難車両であった。
(2) 右張り込み中の同日午後四時三〇分ころ、後に被告人と判明した、やせ型で身長約一六〇センチメートルくらい・年齢四〇歳くらいでサングラスをかけた男性(以下「被告人」という。)が、手に黒色の手提げバッグ(以下「バッグ」というが、バッグ本体を単に「バッグ」ということもある。)を持ち、暴力団事務所などが入居している付近の丙川マンションから出て来て、フェアレディZに近づき、乗り込む様子で運転席側のドアを開けようとした。なお、当庁平成三年押第三六号の15はバッグ本体であり、同号の16のバンドは後記する経緯で右本体からちぎれた取っ手であるが、後に判明したところによると、バッグは、一見いわゆるブランド商品らしく作られているが、実際はそのコピー商品であって、被告人と交際のあったCが、平成三年一月一二日Dとともに札幌市内の輸入商(丁原商事株式会社)事務所から窃取した盗品の一部であり、これを被告人が右Cから買い受け、当時、被告人において使用していた。
 菊地と藤井は、前記のように被告人がフェアレディZに近づき運転席側のドアを開けようとするのを認めると、すぐに「警察だ」と声を掛けながら、小走りに東方から近づいて行くと、被告人は、エンジンをかけたままのフェアレディZを放置し、やにわに反対(西)方向に逃走するので、張り込みしていた他の警察官とともに追い掛け、約二〇メートル先の車道上で、最初に追い付いた藤井が被告人の左肩付近を後ろからつかんで停止させた。これに対し、被告人は、振り向きざま「何をするんだ」と大声を出し、続いて追い付いた菊地が、警察手帳を示した上、「警察の者だ。今乗ろうとした車のことで聴きたいことがある。近くの交番に来てくれ」と言うと、「俺は関係ない」などと大声で答えて、更に持っていたバッグを両手で腹の辺りに抱え込むようにし、背を丸め身体を左右に揺さぶるなどして周りを取り囲んでいた警察官らの隙をついて再び逃走しようとした。そのため菊地が、「落ち着け」などと言っても聞き入れず、なおも逃走しようとするので、これを制止するため、菊地が後ろから被告人の腰付近をつかみ、藤井が肩を押えるなどして、逃げようとする被告人ともみ合いの状態となった。その際、菊地が、逃げようとする被告人を制止するため、右手で被告人の持っていたバッグの取っ手(手提げかばんの「手ひも」といわれる部分)をつかみ、なおも逃げようとする(バッグを抱え込んだ)被告人とバッグを引っ張り合う状態となったところ、取っ手がちぎれ、菊地の右手にちぎれた取っ手が残った。そこで菊地が、被告人に対し、「お前が逃げようとするから、こうやって取っ手が取れたんでないか」「ちょっと貸してみれ」と言って、バッグ本体を渡すよう手を出すと、被告人は、これに応じてバッグ本体を菊地に手渡した。そして菊地は、傍らにいた部下の吉田学巡査にバッグの本体と取っ手を渡し、同巡査にこれらを預からせた。なお、被告人は、以上のような菊地らの一連の措置に対し、特に抗議もバッグの返還も要求しなかった。
(3) 菊地と藤井は、前記の窃盗や詐欺未遂の事件のごく概略を告げ、そこから約三〇〇メートルないし三五〇メートルの距離にある中央署薄野警察官派出所(以下「薄野交番」という。)までの同行を求め説得しながら、いやがる被告人の背中、腰などを後ろから軽く何度も押して、被告人を停止させた地点から東方二十数メートル余の地点に停めてあった警察車両まで被告人を歩かせた上、同車両の後部右側ドアを開け、被告人に乗るよう促したが、被告人は、「俺は関係ない、行く必要はない。」などと繰り返し、同車両の屋根に両手を掛け、車体下部(床)の縁に足を掛けて踏ん張るなどして同行を強く拒否した。これに対し、菊地と藤井が、被告人の背中、腰などを後ろから何度も押して乗車させようとした。なお、そのころ、吉田がバッグ本体と取っ手を持って同車両の後部座席左側に乗り込んだ。
(4) 菊地らは、右のように被告人を警察車両に乗車させようと試みているうち、菊地が興奮している被告人に氏名を尋ねると、被告人が「Aだ」と本名を名乗った。そこで、菊地は、前日、「A」と名乗る男が、中央署に電話を掛けてきて、菊地の上司である同署刑事第一課盗犯第一係の入谷係長に会いたいと言うので、外出中の入谷係長にその連絡を取ったことがあり、その後、入谷係長から、「Aから捜査中の輸入商事務所荒らしの窃盗事件(前記のCらが行った窃盗事件)に関する話があった」旨の説明を聞いたことを思い出し、被告人に「昨日入谷係長と会ったAか」と確かめると、「そうだ」と答えるので、菊地は、被告人に自分達が入谷と同じ係に所属する同人の部下である旨を説明すると、被告人は、抵抗するのをやめて急におとなしくなり、薄野交番への同行に応じそうな様子を見せた。そこで、菊地と藤井は、説得を続けながら、被告人を伴ってフェアレディZのもとに行き、被告人からエンジンキーと登録事項等証明書を受け取って預かった後、再び警察車両の横に戻り、被告人を促したところ、今度は被告人は自ら後部座席に乗車したので、その右側に藤井が乗り込み、菊地が運転して薄野交番に向かった。なお、フェアレディZは、渡辺巡査部長が移動した。
(5) 菊地らは、同日午後四時五〇分ころ、薄野交番三階の所長室に入り、被告人を同室応接セットに座らせ、吉田が携行してきたバッグ本件と取っ手を被告人の目の前のテーブルの上に置き、菊地が、被告人から前記フェアレディZの入手経緯などにつき簡単に事情を聴取し、その状況を入谷に電話で連絡した。そうこうするうち、被告人から、北海道警察本部の臺秀博刑事に電話したいとか同人をこの場に呼んでくれとかの要求があり、菊地らは、当初これを聞き流していたが、しきりに要求するので、これに応じることにしたが、被告人が連絡先の電話番号はバッグ(「バッグ」本体の意・以下同じ。)内に入れている手帳に書いてあると言うので、被告人にバッグから手帳を出して渡すよう指示した(なお、このころには、菊地らは、前歴照会の結果、被告人に覚せい剤事犯の前科があることを知り、また、やせこけているので、被告人が覚せい剤にかかわっているのではないかとの疑いも抱いていた。)。そして、菊地と藤井が両脇から注視していると、同日午後五時三分ころ、被告人が目の前のバッグを手元に引き寄せ、ふたを開けて中から手帳を取り出したが、その際、バッグ内の上部に白い粉末様のものが入ったビニール袋があるのを現認したので、菊地がすぐその中身が何であるかを問い詰めると、被告人はしぶしぶ覚せい剤であることを認めた。同日午後五時一〇分ころ入谷が来所し、三階の事務室で、菊地から右の経緯につき報告を受け、自らも所長室の被告人のそばに来て、テーブルの上にふたが開いた状態で置かれているバッグ内を軽くのぞき込むようにして(その際、被告人に「これか」と念を押すと、被告人は「勘弁して下さい」と述べた。)、その白い粉末様のものが相当の量にのぼることを確かめた上、中央署保安課第二係長の松岡廣明警部補に覚せい剤所持の容疑者がいる旨電話で連絡した。
(6) 同日午後五時三〇分ころ、松岡が三名の部下とともに来室すると、入谷ら盗犯第一係の警察官は、被告人に対する措置を松岡らに任せ、藤井だけをその場に残し、他の者らは中央署に引き上げた。その後、松岡の指示を受けた石塚巡査部長が、右粉末様のものの一部をバッグから取り出した上、被告人の前で、予試験を実施したところ(なお被告人は、石塚が右粉末様のものの一部を取り出すことやこれを予試験に使うことを拒んでおらず、それまでの経緯等にも照らすと、被告人は、不承不承ではあるが、これらに同意していたものと認められる。)、右検体が青藍色を呈し、被告人の自供どおり覚せい剤であることが確認されたので、藤井らは、同日午後五時四一分ころ、被告人を右覚せい剤所持の現行犯人として逮捕し、引き続き、その場においてバッグ内を捜索し、ビニール袋入りの覚せい剤合計一三袋(原庁平成三年押第五八号の1ないし13)、注射筒、注射針、バッグなどを差し押さえ、また、その際チリ紙の中に更に銀紙に包まれた乾燥大麻草様のもの(同号の14)が発見され、これについては、別途、被告人から任意提出を受けた後、被告人の身柄などを松岡らに引き継いだ。なお、バッグの取っ手は、その後、二月二七日に至り、改めて被告人から任意提出を受けた。
(7) 松岡らは、同日午後六時過ぎころ、被告人を中央署へ連行した。そして、前記押収物の存在や被告人の腕に注射痕があること、また、被告人自身が覚せい剤使用の事実を認めていたことなどから、被告人に対し尿の提出を求めたところ、被告人は、これに応じる態度を示しながらも、膀胱が悪くて尿が出ずらいなどと言い、実際にも排尿の申し出がなく、お茶やジュース類を飲むなどした末、翌七日午後三時一五分ころに至り、ようやく同署三階便所で約一〇ccの尿を排泄した上これを任意提出した。鑑定の結果、右の尿に覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの含有が認められた。
 以上の経緯ないし状況が認められる。被告人の当審公判廷における供述、被告人作成の「控訴趣意書」と題する書面等のうち以上の認定に抵触する部分、並びに当審証人菊地廣昭、同藤井美光の各供述のうち、飲食店「乙山」前路上での状況(取っ手が取れた際の状況等)に関し、以上の認定に抵触する部分は、いずれも信用することができない。
 なお、各証拠の信用性について補足すると、所論は、吉田巡査が、被告人を薄野交番に同行する間の車中で、被告人の同意がないのにバッグの中に手を入れ勝手に所持品検査をした旨(所論②)や松岡警部補が被告人の尿の提出を強制した旨(所論③)を主張するところ(なお、所論①の被告人に同行を求めた際の違法の有無については、項を改めて後に説明する。)、被告人の当審公判廷における供述、被告人作成の「控訴趣意書」と題する書面等はこれらの主張に沿うものであるが、これらの証拠は、自己に有利に誇張しているとみられる内容や明らかに事実を歪曲しているとうかがえる内容を少なからず含むものであって、全体としてその信用性が低いと認められる上、当審証人菊地廣昭、同藤井美光、同吉田学、同松岡廣明及び同臺秀博の各供述、更には原審で取り調べた被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書等と対比すると、いずれも信用することができない。
3 そこで、以上認定の経緯等に更に記録を加えて、別紙記載の各証拠の証拠としての許容性について検討すると、以下のように判断することができる。
(1) まず、中央署刑事第一課盗犯第一係の菊地巡査部長らは、前記のとおり、被告人を検挙した当日、阿部司からの通報に基づき、飲食店「乙山」前の路上で、運転者はいないがエンジンをかけたままの状態で停車中のフェアレディZの張り込みをするに至ったが、この張り込みの時点で、既に、フェアレディZには車体前部にナンバープレートがなく、車体後部にはナンバープレートが付いているが、それは右B所有の車両と同じ札幌○○ら○○-○○であることを認めており、かつまた、その二十数日前に、同一性は断定されていないが、右と同じナンバープレートを付けた黒色のフェアレディZに乗った者が盗難にかかるカードを使用して詐欺未遂事件を起こしその者(犯人)がいまだ検挙されていないことも知っていた。以上のことから、警察官らは、フェアレディZの運転者が、右詐欺未遂事件やこの事件で使用されたクレジットカードの窃盗事件にも関与しているとの疑いをもったほか、偽造にかかる右のナンバープレートを不正に使用しているとの疑い、更にはフェアレディZが盗難車両ではないか等々の疑いをもって張り込みをしていた。そうして、菊地らは、この張り込み中、付近の丙川マンションから出て来た被告人が、フェアレディZに近づきその運転席に乗り込む様子で運転席側のドアを開けようとするのを認めると、被告人に職務質問をするため、「警察だ」と言いながら、小走りに近づいたところ、被告人は、エンジンをかけたままのフェアレディZを放置して、警察官が来る方向と反対の方向にやにわに逃げ出した。そこで警察官らが、逃げる被告人を追い掛けて、まず、藤井が追い付いて、その後ろから被告人の左肩付近を手でつかんでその場付近に被告人を停止させた。次いで、これにより振り向いた被告人と藤井とが相対する状況になったところ、同じく追い付いた菊地が、「今乗ろうとした車のことで聴きたい」などと告げて同行を求めたが、被告人は、「俺は関係ない」などと答えるのみで、納得しうる説明もしないまま、バッグを両手で腹の辺りに抱え込むようにして、なおも警察官らの隙をついて逃げようとした。そこで菊地が、これを制止するため被告人の腰の辺りをつかむ等して逃げようとする被告人ともみ合いの状態となったことが明らかである。
 以上の状況に照らすと、被告人は前記の各被疑事件のいずれかに関与していると疑うに足りる相当な理由がある者で、警察官らにおいて、被告人を停止させて職務質問することができる場合であり、かつまた、右のような状況下で、警察官らが逃げる被告人を追い掛けてその肩付近をつかんで停止させ、更に、なおも逃げようとする被告人を制止するためその腰付近を後ろからつかむ等の有形力を行使したのは、やむを得ない措置として是認することができる(警察官職務執行法二条一項)。もっとも、その際、バッグの取っ手がちぎれているのであるが、これは、菊地が、警察官らの隙をついて逃走しようとする被告人を制止するため、とっさに被告人が抱え込んでいたバッグの取っ手をつかみ、逃げようとする被告人とバッグを引っ張り合う状況になったところ、思いがけず取っ手がちぎれたものと認められ(なお、バッグと取っ手部分の糊付けの状況や糸による縫合の状態からみて、それらは必ずしも強固に取り付けられていたとは認められない。)、結果として取っ手はちぎれたが、右状況下で、菊地がとっさにバッグの取っ手をつかんで被告人の逃走を制止しようとしたことが、直ちに違法な有形力の行使に当たるとまではいえない。
 更にまた、この現場が交通量がある市街地の車道上であり、その周囲の状況等にも照らすと、警察官らが被告に最寄りの薄野交番への同行を求めたこと自体は、もとより是認しうる措置ということができる(同条二項)。
(2) しかしながら、警察官らが、その後に執った行為、すなわち、被告人が薄野交番への同行を承諾していない状況下で、警察官ら数名が被告人の周囲に寄り添い、このうち菊地らが後ろから被告人の背中などを何度も軽く押しながら、警察車両の停止場所まで被告人を移動させた上、警察車両に乗るように命じ、被告人が乗車を拒み同車両の床に足を掛け両手で同車両の屋根をつかんで踏ん張っているのに、警察官らがその後ろから何度も被告人の背中などを押して、乗車させようとした行為(以上一連の行為)は、もはや任意同行とはいえず違法といわざるを得ない(警察官職務執行法二条三項参照)。そこで更に検討するに、この違法は、以上に述べる諸点に照らすと、いまだ重大であるとはいえず、本件では、その後の段階に収集された別紙記載の各証拠を被告人の罪証に供することが許容されるというべきである。この判断は、違法捜査抑制の見地を加えて考察しても左右されない。
 すなわち、①フェアレディZが付けていたナンバーは、前説示のとおり、阿部司所有の車両のそれと同一であり、したがって、フェアレディZは正規には存在しないナンバープレートを付け、しかも、車体前部にはナンバープレートがなく同後部のみにこれを付けているという一見して異常な状態で、その上エンジンをかけたままで停車していたこと、警察官らは、右阿部から、自車と同一のナンバープレートの車両が飲食店「乙山」前の路上に停止している旨の通報を受けて、直ちに臨場して右状態で停止しているフェアレディZを現認したこと、警察官らの張り込み中、被告人が、右停車中のフェアレディZの運転席側のドアを開けようとしたものであり、被告人において右車両を運転して同所に来、そして、同所から再び出発しようとした同車両の運転者と認められたこと、被告人は、警察官が「警察だ」と名乗りながら近づくと、エンジンがかかったままの同車両をその場に放置して逃げ出し、次いで警察官らにより停止させられた後も、「俺は関係ない」などと答え、再び逃げようとしたこと等が明らかである。これらの状況を総合すると、少なくとも、被告人は、その情を知りながら、偽造にかかるナンバープレートを付けた状態でフェアレディZを運転して同所に来、かつ、同所から出発しようとしたものということができ、道路運送車両法九八条一項、一〇六条違反の被疑事実により、準現行犯人として逮捕若しくは緊急逮捕しうる場合と認められるから、前記の違法は、実質的にみて法規からの逸脱の程度が大きいとはいえない。また、②前記の違法と因果関係はあるにしても、被告人は、あくまでも警察車両への乗車を拒むことはせず、菊地から名前を聞かれると「A」と本名を名乗り、菊地が、「昨日電話してきたAか」と確かめた上、自分達が入谷と同じ係に所属する同人の部下である旨説明すると、被告人は抵抗するのをやめて急におとなしくなり(被告人は、この時点ころからは、従前から警察に事件に関する情報提供をする等して面識のある警察官がいるため、このような関係を頼って、自己の事件について便宜な取り扱いを受けたいとの考えを抱いたものとうかがわれる。)、以後、自らの意思で警察車両に乗り込んで薄野交番への同行に応じていること、そうして、薄野交番では、不承不承ではあるが、警察官がバッグの中から覚せい剤の一部を取り出すことやこれを覚せい剤の予試験に使うことをいずれも同意していたと認められること、その後、覚せい剤の所持を内容とする逮捕状の執行を受けて、これによる身柄拘束中(翌日)自己の尿も任意提出していること等が認められ、これらによると、前説示の警察官らによる違法な方法での同行強要により惹起された状態下で、被告人に同行に応ずる意思決定をさせている点では因果関係があるにしても、この違法が、その後における右説示にかかる被告人の各行為(警察官がバッグの中から覚せい剤の一部を取り出すこと等の同意や尿の任意提出)に及ぼした影響は間接的であったということができる。もとより、③警察官らは、盗犯等の事件を捜査する過程で、被告人の覚せい剤及び大麻草の所持を認知するに至ったものであり、警察官らにおいて、令状主義に関する諸規定を潜脱する意思があったとは認められない。加えて、④被告人及び原審弁護人は、原審の審理において、原判示の各事実を終始認めて争わず、別紙記載の各証拠の取調べに同意し、その取調べに異議なく応じているのであるから、当審に至り、その収集に至る過程に前説示の程度にとどまる違法の存在が判明したからといって、これにより右各証拠の証拠能力が否定されることにはならないと解される。
4 以上の次第で、原裁判所が別紙記載の各証拠を原判示の各事実の認定の用に供したのは正当であり(なお、これらの証拠によれば、原判示の各事実を認めるに十分である。)、この措置に所論主張のような訴訟手続の法令違反は認められない。論旨は理由がない。
三 控訴趣意第二(量刑不当の主張)について
 論旨は、要するに、原判決の量刑が重過ぎて不当である、というのである。
 そこで、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討すると、本件は、被告人が、平成三年二月六日、前記のとおり、薄野交番で覚せい剤結晶性粉末約一一・八五グラムと乾燥大麻草約〇・九八グラムとを所持し(原判示第一)、また、同日当時の住居で覚せい剤を自己の身体に注射した(原判示第二)という事案であるが、証拠に現れた諸般の情状、特に覚せい剤の所持量が多いこと、同種前科に限っても原判示の累犯前科を含め三つの前科があること、本件各犯行当時、被告人の生活態度や被告人を取り巻く交友関係なども芳しくなく、また、被告人には覚せい剤依存の傾向が認められること等を考慮すると、被告人の刑責は重いといわざるを得ない。
 そうすると、被告人が警察に情報を提供するなど犯罪捜査に協力することがあったこと、被告人が今後覚せい剤とのかかわりや暴力団関係者との交際を絶つ旨述べていること、兄が原審公判廷で被告人の今後の生活の監督をする旨証言していること等、酌むべき諸事情を十分考慮しても、被告人を懲役三年六月(未決勾留日数六〇日算入)に処した原判決の量刑はやむを得ないものとして是認することができ、これが重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。
四 よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審未決勾留日数の算入につき刑法二一条を、当審訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法一八一条一項ただし書を各適用して、主文のとおり判決する。
検察官 伊藤 厚 公判出席
(裁判長裁判官 鈴木之夫 裁判官 田中 宏 木口信之)
別紙 《略》

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