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大麻東京2

東京地方裁判所判決/平成22年(特わ)第1830号

主文

 被告人は無罪。

理由

1 本件の公訴事実は,「被告人は,みだりに,平成22年7月28日,東京都品川区(以下略)先路上において,大麻を含有する乾燥植物片約4.163グラムを所持したものである。」というものである。
 被告人が,平成22年7月28日,友人のA(以下,「A」という。)とともに被告人所有の車に乗車中,警察官から停止を求められて公訴事実記載の場所に車を停車させたこと,同所において被告人ら両名が警察官らから職務質問を受けていたこと,その最中,被告人が大麻入りビニール袋(甲3。以下,「本件大麻」という。)を踏みつけていたことが発見され,現行犯人として逮捕されたことは関係各証拠から明らかである。
 ところで,所持罪における「所持」とは「事実上の実力支配関係」をいう解すべきところ,本件では,被告人が,逮捕される直前,本件大麻を右足で踏みつけていたことは明らかではあるが,このままの状態では被告人が足を動かせばその支配はすぐに解けてしまう状態である上,当該場所は公道上で,周りには未だ警官らが居たのであって,未だ事実上の実力支配関係を設定したとは言えない。したがって,被告人に大麻の所持罪が成立するためには,単に本件現場において被告人が本件大麻を踏みつけていたという事実だけでは足りず,その直前に,被告人が自己の身体に本件大麻を携帯するなどして事実上の実力支配関係を成立させていたこと(以下,「直前所持」という。)が証明されなければならない。
2 そして,この点を裏付ける検察官側のほぼ唯一の証拠は,職務質問の最中,被告人の右足のすねの外側をビニール様の物が落ちていき,被告人が右足を動かしてそれを踏んだことを目撃したと供述する警察官B(以下「B」という。)の捜査段階及び当公判廷における供述である。
 Bは,当公判廷において,概ね,次のとおり供述している。すなわち,「被告人とAが,被告人車両の後部の荷台に並んで座っていたが,突然Aがジュースを買いに行くと言って立ち,被告人の正面にいた自分と被告人の間を通って自動販売機の方へ歩いて行った。Aが立ち上がった際,何かを落としたということはなかった。Aが立ち上がった時,被告人は腹部の前でおなかをもぞもぞとさするような形で両手を動かしていたが,被告人が着用していた甚平の上着のたるんだ部分に隠れて両手は見えなかった。自動販売機の方向へ歩いて行ったAの方を首を左に回して見た後,被告人に目線を戻した。そのとき,被告人の右足の外側のすねの部分をきらっと光るようなビニール様のものが落ちていくのを見え,それは被告人の右足の外側に落ちた。被告人は右足を素早く動かしてそれを踏んだ。」と供述している。そして,現認報告書(甲13)及び現行犯人逮捕手続書(甲1)においてもほぼ同様の目撃供述をしているところである。
3 しかしながら,上記Bの各供述をもって,被告人が本件大麻を直前所持していた,と認定するには,なお合理的な疑問が生ずるといわざるをえない。
(1) まず,Bの目撃状況そのものが曖昧である。Bの当公判廷における供述によれば,Bは,本件大麻が落下するのを目撃する直前,自動販売機の方向へ歩いて行ったAの方を向いていたのであり,Bが本件大麻が落下するのを目撃したのは,Bが被告人に視線を戻した直後のごく一瞬であったのであるから,きらっと光る様なものを見たという点も,本件の現場がJR△△駅前の路上で車や人の往来も多く,商業施設や街灯といった光と影が強い場所であることからすると,他から照らされた光などの動きがそのように見えてしまった可能性が排斥できない(なお,現行犯人逮捕手続書(甲1)及び現認報告書(甲13)では,Bは被告人の動向をずっと注視しており,本件大麻が落下するのを目撃したのはBが被告人の動向を注視している最中であったかのような記載がなされているが,Bは,その後,検察官に対する供述調書(甲7)及び当公判廷においてその供述を上記のとおり修正している。)。また,Bは,本件大麻が落下する状況について,被告人がどのように落としたのか,どこから落ちたのか,本件大麻が落下する際の被告人の手の位置や状態はどのようなものであったかといった点については分からない旨述べており,こうした点からすると,Bの目撃状況の確実性について一層の疑問を持たざるを得ない。しかも,Bは,被告人の右足の外側,すねの部分を垂直に落ちていくのを見た,と供述しているところ,現認報告書(甲13)添付の写真1によると本件大麻は被告人の右足の外側よりもさらに外側に落ちているのであり,仮にBが目撃したような状況で本件大麻が落下したのであれば,その落下すべき位置と現実に本件大麻が落ちていた位置とが一致しないこととなる(なお,Bは当公判廷において,同写真はBが一度拾い上げた本件大麻をもう一度地面に置いて撮影しているので,もとの位置とはすべて一緒ではない旨供述するが,現認状況の証拠を保全しようとする警察官としては,自分がもと発見した位置を出来る限り忠実に再現するはずであるから,現認報告書で撮影されている本件大麻が置いてある位置は本件大麻が実際に落ちていた位置とほとんど変わらないと認めるべきである。)。
 たしかに,Bの公判廷における供述は,警察官として,真摯に,自己の記憶をできる限り正確に表現しようとする態度がうかがわれる。しかしながら,その目撃した瞬間の状況を仔細に検討すると,上記のとおりなお曖昧な点が残ると言わざるを得ない。被告人が,現場において,本件大麻を踏んでいたことは明らかであり,それを最初に発見したのがBであり,26歳という若手警察官であるBが自ら発見した顛末に関する捜査書類を作成しなければならないのであるから,Bとしては,本来一瞬の出来事で曖昧な目撃状況にすぎなかった,被告人の方を振り返った瞬間の状況を一生懸命思い出しているうちに,被告人が本件大麻を足で踏んでいたという事実から逆に推論を働かせてしまい,その瞬間被告人のすねの外側を光るものが落ちていくように見えたと考えてしまったとしても不思議ではない(Bが当初作成した現行犯人逮捕手続書(甲1)及び現認報告書(甲13)が,いかにもBが被告人の動向をずっと注視している最中に被告人が本件大麻を落としたかのような表現になっているのは,Bが自己の目撃状況を,より確実なものとして報告しておきたい気持ちの表れ,と見ることができよう。)。しかしながら,Bの目撃供述は,上記のとおり一瞬のものであって,その信用性は慎重に検討されるべきである。
(2) また,それまでに行われた被告人に対する所持品検査の状況と被告人の着衣の状況に照らし,被告人が本件大麻を自己の身体に隠匿できた可能性は極めて低いといわざるを得ない。すなわち,B及び警察官C(以下,「C」という。)の当公判廷における供述によれば,B及びCは,被告人に対し,2回所持品検査を行っており,1回目は,Cが,被告人が着用していた甚平の上下について,上下1つずつあるポケットの中から所持品を出させ,ポケットの上から手のひらでたたく方法で検査し,被告人が所持していたバックについては,その中に手を入れて検査したが,禁制品等は発見されなかったこと,2回目は,B及びCが,被告人に対し所持品検査を求めたところ,被告人が甚平の上着を同人の胸や腹が見えるまではだけ,さらに甚平のズボンまで脱ごうとしたがこれは警察官らに止められたことが認められる。押収してある甚平上下(弁7)によれば,被告人が,本件当時着用していた甚平の上下は,肌に密着するようなものではなく,甚平と被告人の身体との間には隙間が多く存在し,ポケットは上衣とズボンにそれぞれひとつずつあるだけでその他に物を引っかけておけるような場所もなく,甚平のズボンもゴムとヒモにより腰から落ちないようにする程度のゆるやかなものであることが認められる(なお,被告人の当公判廷における供述によれば,当時はヒモも締めていなかったことが認められる。)。他方,本件大麻は,ある程度の大きさと厚みと重みがあるものであり,このような物体が,被告人が着ていた甚平のポケット以外の場所に所持品検査の最中に落ちないままで隠匿しておくことはおよそ不可能である。
 検察官は,被告人の甚平のズボンの内側やゴム部分などに隠匿されていた本件大麻が甚平のズボンの裾から被告人の右足のすねの外側付近をとおり道路上に落下した可能性が極めて高い,旨主張するが,上記のとおり警察官が二度にわたり被告人の所持品検査をしていること,被告人の着衣の状況が上記のとおりであることに照らし,少なくとも二回目の所持品検査の直後に被告人が本件大麻を自己の身体に隠匿しておくことはおよそ不可能というべきである。また,被告人が二回目の所持品検査の後,未だ多数の警察官がいて職務質問が続けられている最中に何らかの方法で自己の身体に隠匿し,これを落としたとも考えがたい。
(3) さらに,直前所持を否認する被告人の供述の信用性を排斥しきることはできず,路上に本件大麻を落としたのがAである可能性を否定できない。すなわち,被告人は,「職務質問を受ける前に被告人車両内において,Aは大麻を持っていると述べていた。停車を求められて職務質問を受ける直前,Aはビニール袋のようなものを同人が持っていたウエストポーチにしまっていた。Aが自動販売機の方へ向かうため,被告人の前を通過した後,路上に本件大麻が落ちていたのを発見し,これをAが落としたものだと考え,発見されてはいけないと考えてとっさに右足で踏みつけて隠した。」旨捜査段階から一貫して供述するのであるが,関係各証拠に照らし,この供述の信用性を排斥しきることはできない。
ア まず,被告人は,警察官らに停車を命じられる前から,Aが大麻を所持していることを目撃していたと供述するところ,この供述は,Aが計量器を所持しており,それについて不合理な弁解を繰り返していたことに照らし,その信用性を排斥しきれるものではない。すなわち,被告人の供述によれば,当日,Aを車で迎えに行ったのであるが,Aの家で「ガンジャ(大麻)を吸うならあるよ。」と言われていたこと,JR△△駅前でパトカーに停止を求められた際にも,被告人がAに「今持ってるの。」と聞いたところAは頷き,ビニール袋のようなものを両手でグシャグシャにしてウエストポーチにしまっているのを目撃した,と供述している。Aは,職務質問の際,その所持品中に計量器を所持していることが発見され,警察官からの質問に対し,「俺のじゃないよ。」「アクセサリーを作る時に石の重さを量るために使うんだよ。」「大工だから,接着剤を使う時に,その重さを量るために使うんですよ。」などと不合理な弁解を繰り返していたことが認められるのであり,この事実は,Aが大麻を計量販売するための道具として計量器を所持していたこと,あわせて被告人が目撃したビニール袋が本件大麻であったことを疑わせるものである。
イ 次に被告人が本件大麻を踏みつける直前にAが被告人の前を通過して自動販売機の方に向かっていったことは関係各証拠から明らかであり,Aが本件大麻を発見場所付近に落とすような機会もあったことが認められる。上記アのとおり,Aが車内において大麻を所持していたとの被告人の供述の信用性は否定できないところであり,そのAが被告人の面前を通過している以上,何らかの方法により自己の身体から本件大麻を落下させた可能性も否定できない。たしかに,現場には多くの警察官がいてAに対する疑惑を高め,Aの動きを注視していたのであるから,Aが本件大麻を落とせば直ちに発見された可能性は極めて高いはずである。しかしながら,それでも,Aが何らか隙を衝いて何らかの方法により自己が所持している本件大麻を落としたことを否定しきることはできない。
ウ また,被告人の供述内容は,捜査段階から一貫していて全くぶれていない。被告人は,本件公判の当初の段階では,自己の刑事責任を認めた上,その理由として,本件職務質問の現場で,大麻だと思いながら足で踏んで隠してしまったことが所持の事実に該当すると思ったと述べていた(弁護人も,当初は有罪の答弁をしていたものの,それは,本件公訴事実の対象外の,職務質問開始直前の被告人の車内における被告人とAの大麻の共同所持の事実をもって有罪の答弁としていたものである。ただし,関係各証拠を検討しても,この段階で被告人がAと本件大麻を共同所持していたと認めるに足りる証拠はない。)。そして,被告人も弁護人も,有罪の判決を受けることを覚悟の上,情状証人を立てて被告人に対する監督を証言してもらっている上,被告人は第2回公判期日においてそれまでの相当な長髪をバッサリと切って丸坊主にして,自分が生まれ変わりたい,とまで述べていたところである。しかしながら,そのような状況でも,被告人は,本件大麻を踏みつけるに至った状況について一貫した供述を繰り返している。もし,真実,被告人が直前所持をしていたのであれば,被告人としては自己の刑事責任を認めている以上,直前所持の事実も認めているはずである。被告人が本件において無罪を獲得する作戦として敢えて自己の刑事責任は認めた上で直前所持の事実自体を否認したとも考えられなくはないが,被告人の経歴や法的知識などに照らし,被告人が敢えてこのような複雑で姑息で危険な訴訟上の策を弄するとも考えがたい。
(4) なお,被告人の自宅から大麻を吸うためのパイプが押収されていることを認めることができる(甲11)が,被告人の当公判廷における供述によれば,このパイプは,大麻を吸うために持ち帰ったものではなく,旅先でイタリア人の友人から記念品として交換したもの,とのことであり,これと本件における被告人の直近所持を結びつけることはできない。むしろ重視すべきは,上記のような家宅捜索にもかかわらず,被告人の自宅から大麻は発見されておらず,逮捕後の尿検査でも被告人に陽性反応が出ていない,ということであり,この事実は,被告人はインドを旅行中に大麻を吸ったことはあるが,日本に戻ってきてからは吸ったことがないし,大麻を手に入れたこともない,との被告人の捜査段階及び公判廷における供述を裏付けるものである。
(5) 付言すると,本来,被告人の一連の供述の信用性を判断する上で最も重要なのは,被告人が逮捕される直前まで被告人と行動をともにしていたAの供述である。しかし,この点に関する証拠は全く提出されておらず,この点に関する十分な捜査が遂げられたかどうか明らかではない。本件においては,この点から被告人の供述の信用性を検討することはできない。
4 以上のとおりであり,被告人が本件大麻を直前所持していたということについては,合理的な疑いが残るといわざるをえず,結局,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し,無罪の言渡しをする。
(求刑懲役1年2月,大麻没収)
平成23年1月31日
東京地方裁判所刑事第18部
裁判官  鬼澤友直

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