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痴漢札幌

札幌高等裁判所/平成18年(う)第74号

理由

1 被害者が,7月4日,本件の被害にあったことは,・・・(中略)・・・優に認定できる。
 次に,この犯人と被害者の同一性について検討する。
(1) 被害者は,原審公判廷において,7月4日の犯人の人相について,「犯人を見ていない。向かいのドアのガラスに映った人の姿や後ろにどんな人がいるかも確認していない。地下鉄車両に乗る瞬間に,犯人は,その腕,肩,胸辺りを使って,被害者の背中とか腕辺りを強く押してきた。車両に乗るときにちらっと後ろを見たとき,ワイシャツが見え,自分の肩がその人物の肩の10センチメートル位下であった」と述べるにとどまり,また,7月4日に,さっぽろ駅のホーム,車両内及び大通駅でも,被告人の姿を見たことはないと証言しているのであって,原判決が説示するとおり,その着衣や身長は被告人と矛盾しないものの,この被害者の証言から直ちに被告人が本件犯人であると断定することはできない。
(2)しかしながら,他方,関係証拠によれば,以下の状況事実が認められ,これらの事実を総合して考えると,本件についても被告人がその犯人であるとの疑いは相当に強いと判断される。すなわち,
(1) 本件は,7月4日さっぽろ駅午前8時9分発か午前8時13分発の地下鉄車内で,大通駅到着までの走行中における強制わいせつ事件であるが,・・・(中略)・・・被害者は,さっぽろ駅を午前8時9分から17分までの間に発車する地下鉄車両に乗り,大通駅で降りて,地下鉄東西線に乗り換えて通学していたが,4月下旬ころから,さっぽろ駅から大通駅までの車内で痴漢に遭うようになり,その回数は,4月に3回くらい,5月に10回くらい,6月に8回くらい,7月は4日の本件と12日(原判示第2)の2回であるが,乗車する車両を変えても痴漢の被害に遭い,その被害内容は,当初はスカートの上からお尻を触られるものであったが,5月にはパンツの上からお尻を触られるようになり,6月には原判示第1の20日以外はいずれも陰部まで触られ,12日にはパンツの上から触られたと証言する。なお,6月20日と7月12日の痴漢の態様は,パンティの上から触られるというものであるが,両日とも,痴漢の途中で発覚したことにより中断したものであるから,全体として痴漢の態様はエスカレートしてきていたといえる。このように,本件は,4月下旬ころから7月12日までの間,被害者が乗車したさっぽろ駅午前8時9分発から17分発の電車内で,しかも,大通駅到着までの約1分間という,時間及び区間の限定された地下鉄車両内における,同一被害者に対する連続痴漢事件の最中の事件である。
(2) 被告人は,上記時間及び区間において,5月下旬ころから現行犯逮捕された7月12日までの間,いずれも被害者に対して,6月20日の事件及び本件を除き,捜査段階にあっては9回くらい,原審及び当審公判廷においては,6月20日までの間に限定しつつ,少なくとも5回痴漢に及んだ旨供述している。しかも,被告人は,本件の後である7月6日,7日,8日,11日の4日とも午前8時前後にさっぽろ駅ホームに現れ,6日には,一旦北側改札口に向かいながら,被害者がホームに現れると再びホームに戻り被害者の後方で乗車待ちをし,被害者に続いて車両に乗り込む際に,人混みをかき分けるようにして被害者に近づき,被害者との間にほかの乗客がいる状態で大通駅まで乗車し,7日には,一旦さっぽろ駅から大通駅まで行き同駅で乗り換えて再びさっぽろ駅に戻り,ホームのベンチに座って,北側改札口を気にしながら過ごし,その後3本の電車をやり過ごして,北側改札口に向かい,8日には,ホームのベンチに座って北側改札口を気にしていたが,3本の電車をやり過ごした後,結局北側改札口方向へ向かい,11日には,ホームのベンチに座って北側改札口を気にし,2本の電車をやり過ごした後,被害者がホームの乗り場で電車待ちを始めると,その後方に並び,被害者が乗車する後を追うようにして乗車したことが認められる。このように,被告人は,被害者を意識したとしか考えられない行動に及んでおり,これに,被害者に対し連続して痴漢をしてきたとの被告人自身の上記供述,本件前の6月20日にも上記認定のとおり痴漢に及び,本件後の7月12日にも被害者に対する原判示第2の痴漢に及んでいることを考え併せると,被告人が,時間及び区間の限定された地下鉄車内において,被害者に対し連続して痴漢をしていたことは明らかである。そして,被告人は7月4日にさっぽろ駅のホームに行ったことを認めている。
(3) 被害者の痴漢被害の態様は,上記のとおりときの経過とともにエスカレートしている上,被告人も,原審公判廷において,5月下旬ころの最初とその2,3日後の2回目はいずれもスカートの上から,最初のときは手の甲で,2回目のときは手の平でお尻を触り,その後はスカートの中に手を入れてお尻を触り,パンツの中に手を入れてお尻を触ったと述べ,手指が陰部に触れたことが一度あるが意図的に触ったことはないと供述し,捜査段階においても,パンツの中に手を入れてお尻を触ったことが3回あり,6月中旬ころ,電車の急ブレーキにより手がすべり陰部に触れたことがあったと述べるなど,被告人自身,痴漢の態様がエスカレートしていったことを認める供述をしており,このことは被害者のいう痴漢被害の態様のエスカレートした状況とほぼ符合している。
(4) 本件は,犯人が,さっぽろ駅から大通駅までの約1分間に,被害者のスカートの中に手を入れた上,パンティの中に手を入れてその陰部を手指で弄ぶなどしたものであるから,犯人は,その日初めて被害者に対し痴漢に及んだものではなく,このときまでに被害者に対して相当回数痴漢をし,被害者が抵抗したり,周囲に助けを求めたりしないことを知った上で態様をエスカレートさせ,約1分間という短い時間内で上記のような行為に及んだものと考えるのが自然である。これは,他の者の痴漢行為を見,その被害者が抵抗しない様子を見ていても,その被害者に初めて痴漢をするときには,やはり被告人が述べるように,最初はスカートの上から触り,その後エスカレートするのが普通であって,1分間という時間内でいきなりパンティの中まで手を入れることは考えにくいからである。そうすると,なるほど,被害者が証言する被害の開始時期,回数,そして,被告人が被害者に痴漢するようになったきっかけとして被害者の痴漢被害を目撃したとの供述やその供述する被害者への痴漢の回数等からすると,被告人のほかに被害者に対して連続して痴漢をした者が存在したと解する余地がないわけではないが,上記のとおり,7月6日以降現行犯逮捕されるまでの被告人の行動,被害者が6月20日の事件以降被告人が現行犯逮捕された7月12日まで,本件(7月4日)を除き痴漢に遭ったことはないと証言しており,その証言に疑問を差し挟む事情はない上,痴漢の態様がエスカレートしていく中で,それまでの痴漢とは態様の異なる,あるいは,後退した態様の痴漢被害を証言していないことなどに照らすと,被告人のほかに被告人と同時並行的に痴漢の態様をエスカレートさせていった者が存在する可能性は非常に低いといえる。
(5) 被害者は,原審公判廷において,一連の痴漢の犯人が同一人物であると述べ,その根拠として,いつも犯人は,さっぽろ駅で乗車するときに,腕,肩,胸辺りを使って,被害者の背中や腕の辺りをすごく押してきて,逃げようとしても逃がさないように押し込む感じであり,7月4日も同じであった,7月4日に車両に乗り込むときにちらっと振り返ったところ,後ろの人物がそれまでに犯人と疑っていた人物と同じくワイシャツを着ており,身長も同じくらいだった,いずれの被害のときも,後ろにいる犯人が,被害者の太ももからスカートを手繰り上げ,お尻を触った後,陰部を触るという順序や触っているときの手の感じが同じであり7月4日も同様であったと述べ,さらに,被告人が逮捕されてから原審公判証言時まで痴漢の被害に遭っていないとも述べている。
 この被害者の証言のうち,特に,乗車する際の逃げようとしても逃がさないように押し込む感じとの点は,それが被害者の主観的な感覚であるとはいえ,スカートを手繰り上げてお尻や陰部を触るという犯行の手順等が一般的に共通するのとは異なり,犯行ないし犯人の特徴を示すものとも考えられるところ,乗車時の被告人について,警察官は,7月12日に関し,「乗客の流れを押し分けるように被害者の左斜め後方に位置した」及び「他の乗客の流れをかき分けるようにして被害者に近づいた」と述べ,7月6日に関し,「人の流れに逆らう形で肩で人を分けながら被害者のそばに来るように見えた」,7月12日に関し,「6日同様に,人の波をかき分けて,肩で自分の進路を確保するように被害者を押しながら前に進んでいっているように見えた」「車内では(被害者と)密着していた」と述べ,さらに,7月5日の事情聴取の際,「被害者は,押されて,その場にたまたま立ったんじゃなくて立たされているという表現をした」,そして,被害者からそういうことがくりかえされたんだと聞いた旨証言しており,この警察官の証言は,同人が被告人を犯人と疑ってその行動を注意深く観察していた際の認識であることに照らすと,車内に乗り込んだ際の被告人の様子や車内で被害者が押されて立たされているという感じは,7月4日の犯人の行動として被害者が証言する内容と符合するものといえる。
 以上の(1)ないし(5)の事実を総合して考えると,特に,(1)及び(2)の事実に加え,本件が約1分間という短い時間内に手指をその陰部にまで到達させて弄ぶという犯行であって,被告人のほかに被告人と同様に痴漢を繰り返しエスカレートしていたという者が存在するという状況は殆ど考え難いことに照らすと,本件もまた被告人の犯行によるとの疑いは相当に強いというべきである。
(3) ・・・(中略)・・・,被告人の供述は,要するに,7月25日及び26日は,「7月の痴漢行為は,12日のほかにやっていても1回だけである」と述ベていたが,本件で逮捕された8月3日の弁解録取では,「6月末ころから7月8日ころの間に被害者に対して1回痴漢行為をした」とより具体的となり,8月4日の検察官の弁解録取では,6月27日から7月8日までの平日に被害者に1回痴漢をした,7月4日にしていないとは言い切れないとまで述べ,8月6日にも8月3日の上記供述を維持し,8月8日には,被害者が7月4日だけ痴漢の被害を受けたと供述していることを聞かされた上で「痴漢をしたのは6月27日から7月1日の間だと思う」と述べて,これまでの6月27日から7月8日の間という供述を変更し,8月9日には例会メモなどを見た上で,8月8日と同じ供述をし,8月18日に至って,痴漢をしたのは地下鉄に急病人が出た6月20日より前であるとして,それまでの6月27日から7月8日まで,あるいは,6月27日から7月1日までの間に痴漢をしたことがある旨の供述を否定変更し,その後もこれを維持したものである。
 ところで,被害者は,6月20日の痴漢被害以降被害に遭ったのは7月4日と12日の2回だけであると供述し,この供述は十分信用できるところ,6月末から7月8日ころまでの間に1回痴漢行為を行ったとする上記被告人の捜査段階の供述が信用できるならば,上記(2)の状況と相俟って,被告人が本件の犯人であると推認するに足りる根拠となるというべきである。
 ・・・(中略)・・・
 したがって,6月末ころから7月8日ころの間に被害者に対して1回痴漢行為を行っているとの捜査段階での被告人の供述は,十分に信用できるというべきである。
(4) 上記(2)の状況事実から本件が被告人の犯行であることが相当つよく疑われることに加え,上記(3)で検討したとおり,被告人が捜査段階で7月4日の前後の期間に被害者に痴漢行為を行ったとする供述が信用できることを総合すると,被告人が7月4日に痴漢を行った犯人であると認定することができる。
2 本件は,通学途中の当時18歳の女性に対して,同女が抵抗できないのに乗じて,2度にわたり電車内で臀部を触るといういわゆる痴漢2件と,強いて同女のパンティの中に手を入れてその陰部を弄んだという強制わいせつ1件の事案である。被告人は,その供述するところによっても,判示第1の痴漢以前から1か月近い期間複数回痴漢を繰り返したもので,本件はその一環である。もとより動機に酌むべき事情はない。その態様も,パンティ内に手を入れ,直接臀部を触るというもので,強制わいせつの態様も含め大胆極まりなく,常習性も顕著である。被害女性は,被告人による一連の痴漢により,大きな衝撃を受け,過呼吸症などのパニック障害を引き起こした上,学業等日常生活にも悪影響が及んでいるなど結果も大きい。しかるに,被告人の現行犯逮捕された事実を除く判示第1及び判示第3の事実を争うという態度もあって,被害女性及びその家族は,被告人側からの謝罪の申込みを拒否するなど,その処罰感情は強い。以上のとおり,本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いというほかはない。
 一方,被告人は,長年公務員として勤務していたが,本件によって失職することが見込まれること,前科前歴がないこと,重度の身体障害を有する娘がいること,被告人なりに後悔の念が認められること,被害女性に対し被害弁償の申し出をしていることなど,被告人のために酌むべき事情もある。そこで,これらの事情を総合考慮し,被告人に対しては懲役1年6月の実刑をもって臨むのが相当と判断する。

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