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痴漢名古屋

名古屋地方裁判所判決/平成20年(わ)第2834号

主文

被告人は無罪。

理由

第1 本件の公訴事実及び争点
1 本件の公訴事実
 本件の公訴事実は,「被告人は,平成20年12月8日午前7時45分ころから同日午前7時59分ころまでの間,愛知県稲沢市(以下略)A株式会社名古屋本線○○○駅(以下「○○○駅」という。)から名古屋市中村区(以下略)同線×××駅(以下「×××駅」という。)に向けて走行中の列車内において,B(現在の姓B’)(当28年。以下「被害女性」という。)に対し,その背後から,その両足の間に右足を差し入れて動かし,同女の両太股付近にすり付けるなどし,もって公共の乗物において,故なく,人を著しくしゅう恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような方法で,人の身体に,衣服の上から触れる行為をしたものである。」というものである。
2 本件の争点
 本件の争点は,被告人が,被害女性の背後から,同女の両足の間に被告人の右足を差し入れて,同女の両太もも付近にすり付けたか否かである。
第2 当裁判所の判断
1 前提となる事実
 関係証拠によれば,以下の各事実が認められ,弁護人らもこれらの事実については争わない。
(1) 被告人は,平成20年12月8日(以下,単に月日のみを挙げる場合,平成20年の月日を示す。)午前7時39分ころ,上記名古屋本線△△△駅から名古屋方面行き普通列車で○○○駅に向かい,同駅でいったん降車し,同日午前7時43分ころ,同駅を同日午前7時45分に発車する特急列車(以下「本件列車」という。)の最後尾車両に進行方向左側の中央部の乗降口から乗車した。また,被害女性も,C(以下「目撃者」という。)とともに,○○○駅で,被告人と同じ乗降口から本件列車に乗車した。
(2) 被告人,被害女性及び目撃者は,12月8日午前8時ころ,いずれも×××駅で本件列車を降りた。被害女性及び目撃者は,×××駅で本件列車から降車後,被害女性が被告人の右腕をつかみ,目撃者が被告人の背中に腕を回した状態で,被告人を連れて,プラットホームから階段を上り,同駅北改札口駅詰所に向かい,その後警察官が臨場した。
(3) 被告人は,身長約167センチメートルで,事件当時ひざがしらが隠れるくらいの丈のベージュ色のコート,長ズボンを着用していた。他方,被害女性は,身長約165センチメートルで,事件当時ひざ上までの丈のコート,長ズボンを着用していた。
(4) 被害女性及び被告人の着衣について,微物鑑定が実施された結果,いずれの着衣からも他方の着衣の繊維片は検出されなかった。
2 被害女性及び目撃者の各公判供述の要旨
(1) 被害女性の公判供述の要旨
ア 12月8日以前に同様の痴漢被害を受けた状況等
 被害女性は,11月18日,○○○駅から,同駅を午前7時45分に発車する特急列車(以下,この列車(本件列車を除く。)を「同特急列車」という。)最後尾車両に乗車したところ,発車後,両足の間に背後の人物の片足が入ってきて,少し動かされるような感触があった。
 被害女性は,11月19日にも同特急列車の同じ車両に乗車したが,背後の人物から前日と同様の行為をされたため,痴漢被害に遭ったものと確信した。そして,×××駅で降車するその人物の後ろ姿を確認したところ,サラリーマン風のベージュ色のコートを着た男で,前日の犯人と同じにおいがした。
 被害女性は,11月20日,○○○駅ホームでベージュ色のコートを着た男を見つけ,約3ないし5メートルの距離から顔を確認したところ,サラリーマン風のやせ型で色白の男であった。そして,この日も前同様の被害を受けたため,被害女性は,×××駅で背後の人物の服装を確認したところ,○○○駅ホームで見かけたベージュ色のコートとスーツを着た男であった。
 被害女性は,11月21日にも○○○駅のホームでその男を目にしたが,その男は電車内で被害女性の真横に立ち,痴漢被害に遭わなかった。
 被害女性は,11月27日ころ,○○○駅の駅員に被害を相談したが,結局自分で痴漢犯人を捕まえることとし,当時交際中であった目撃者に対し,同乗して被害を確認し,×××駅で被害女性が犯人に声をかけたり,犯人の腕をつかんだりしたら一緒に捕まえてくれるよう頼んだ。
 被害女性は,11月18日から12月8日までの間,平日は11月21日を除き,前同様の被害を受けた。その間,○○○駅のホームでベージュ色のコートを着た男の風ぼうや背格好,髪型を確認したり,電車内で男のコートのそで口を見たり,特有のにおいを感じたり,降車する男の後ろ姿や顔を斜め後ろ方向から見たりしていた。
イ 12月8日の被害状況等
 被害女性は,12月8日,○○○駅で目撃者とともに本件列車に乗り込んだ。目撃者には他人の振りをしてそばに立ってもらった。発車前後ころから,被害女性の両足の間に背後の人物の片足が差し入れられ,つま先を床につけてかかとを上げ下げするように動き,電車が特に揺れていないのに動くときもあり,被害女性の足のひざ上辺りの内側や後ろ側に接触した。また,その人物の右手が被害女性の体の前に突き出すような体勢になることもあった。
 被害女性は,痴漢行為をされている旨携帯電話の画面に表示し,目撃者に示したところ,目撃者から左示指で,体を前方斜め前にずらすよう指示されたため,左足を靴一足分前に出して体を斜め前方へ動かした。すると,背後の人物はこれに追従するような形となった。
 背後の人物は×××駅で降車したため,被害女性は,同人の後を追い,同人に対し,ちょっといいですか,痴漢したでしょうなどと声をかけて,その腕をつかんだ。目撃者も,その直後ころ,その人物の腕をつかんだ。その人物は,公判廷にいる被告人であり,以前にも顔やコート等を確認した男と同一人である。
(2) 目撃者の公判供述の要旨
 目撃者は,11月19日,被害女性から痴漢被害に遭ったことを聞き,同月下旬ころ,その頼みに応じて犯人を一緒に捕まえることにした。
目撃者は,12月8日,被害女性とともに○○○駅のホームで本件列車を待っていたところ,被害女性が黄土色のコートの男を指さした。目撃者は,被害女性から,犯人は黄土色のコートを着ていると聞いていたことから,その男が痴漢犯人であると思った。
 目撃者は,被害女性の後に続いて本件列車に乗り,進行方向に向いて立った被害女性の左側に立った。そのとき,既に被害女性の後ろには黄土色のコートを着た男が立っていた。周囲の乗客の立ち位置が落ち着いたころ,目撃者が被害女性の足下を見ると,被害女性の後方の男の右足が,被害女性の両足の間に入れられていた。その足は,被害女性の右足ひざ下内側に触れており,動いていないときと,つま先を床につけてかかとを上下させるように動いているときが半々くらいで,電車が揺れていないときにも足が動くことがあった。その男の右手は,軽く握った状態で被害女性の右肩の後ろに上げられていた。
 その後,目撃者は,被害女性から,携帯電話の画面で痴漢被害を受けていることを知らされたことから,被害女性が動くと後ろの男も一緒に動くか確認しようと考え,左示指で合図したところ,被害女性は左足を前に動かして目撃者に背中を向けるように体の向きを変えたが,後ろの男も被害女性の動きにゆっくり追従するように動き,男の足が被害女性の足の間から抜けることは一度もなかった。
 ×××駅到着後,被害女性が男に声をかけたので,目撃者は,男の左腕をつかんだ。その男が被告人である。
3 被害女性及び目撃者の各公判供述の信用性について
(1) 検討
 被害女性及び目撃者の各供述は,それぞれ本件列車内における被告人の行動,特にいったん被害女性が体の位置を動かした時の状況等,降車後に被告人を捕捉して駅詰所に連れて行った際の状況等のほか,12月8日以前の相談の経過等について,細部においては約10か月間の時間を経過したこともあって若干記憶の減退がみられるものの,いずれも具体的であって,防犯カメラの映像(甲2)や携帯電話のメール内容(甲13)等の客観的な証拠関係とも符合し,特に不自然,不合理な点は見当たらない。また,上記各供述とも捜査段階における供述調書の内容とも基本的に矛盾しておらず,弁護人らの反対尋問にも揺らいでいない。
 そして,被害女性らは,それまでにも痴漢被害に遭っていたため,犯人を逮捕する目的で本件列車に乗り込んでいたものであって,被害女性の背後に立った,それまでの痴漢犯人と類似した風体をした被告人の挙動等については相応に注意深く観察し,記憶したものといえる。
 また,被害女性と目撃者は,本件当時交際中で,その後結婚するに至っているが,このような人的関係を前提としても,それぞれ公判廷に各別に出廷し,宣誓の上で供述をしており,いずれも社会人である二人がそろって,一面識もない被告人にとって殊更不利益な虚偽の供述を作出する動機や利益に乏しく,証拠上その形跡も認められない。
 以上に加え,被害女性及び目撃者の各公判供述は,いずれも相互によく符合し,互いに信用性を補完する関係にあることからすると,被害女性及び目撃者の各供述は,いずれも一応信用することができる。
(2) 弁護人らの主張
ア 弁護人らは,被害女性が,痴漢犯人として捕捉した被告人に名刺を要求した行為や,その点に関する同女の供述経過は不自然である旨主張する。しかし,被害女性が,犯人を逃さないようにするため名刺で身元を確認しようとしたこと自体が不自然な行動であるとはいえない。また,被害女性が名刺を要求したことについて当初供述していなかったことについても,その供述経過に不合理な点があるとはいえず,その供述の信用性は減殺されない。弁護人らの主張は採用できない。
イ 次に,弁護人らは,被害女性が,11月18日から12月7日までの間,痴漢被害を避ける行動を取らなかったことは,痴漢被害者の一般的な対応と比べ,極めて特異で不自然であるし,満員電車の混雑状況で同一人物から同一の痴漢被害を受け続けることは物理的に困難であるなどとして,連日のように痴漢被害を受けた旨の被害女性の供述は信用できないなどと主張する。しかし,被害女性は,被害事実を駅員に相談したが根本的な解決策を示されなかったことから,自ら犯人を捕まえようと考えて同特急列車に乗車し続けたというのであり,その心情や行動が痴漢被害者のものとして極めて不自然なものであると断ずることはできない(もっとも,供述全体の信用性については格別,その供述の証明力について別途慎重な検討が必要であり,後述する。)。また,利用する列車や車両を決めて乗車することが多い通勤列車では,連日のように同一人物と近い位置に乗り合わせることは経験上大いにあり得るものであり,被害女性の供述する内容が物理的に不可能であるとはいえない。弁護人らの主張は採用できない。
ウ また,弁護人らは,被害女性及び目撃者が被告人を捕捉したのが,痴漢被害を受けた時ではなく,被告人が降車する時であったことが不自然であるなどと主張するが,運行中の本件列車内で捕捉することについてしゅう恥した旨の被害女性の心情に関する供述は不自然とはいえず,その他被害女性及び目撃者が供述する一連の行動も不自然とはいえない。弁護人らの主張は採用できない。
エ さらに,弁護人らは,揺れる本件列車内で約15分間も右足を接触させ上下させるのは不可能であるとか,足が接触していた箇所に関する被害女性及び目撃者の各供述の間には矛盾があるなどとして,被害女性らの供述が信用できないとも主張する。しかし,上記の各公判供述は,各証人が視認した事実について自己の記憶に基づいて供述したものであるところ,各証人が体験し,認識した事実が極めて細部にわたるまで合致することは逆に不自然であり,上記の各公判供述は被告人の行動等の本件罪体に関する客観的事実の核心的部分において符合するものであって,弁護人らが指摘する諸点から各公判供述の信用性が失われるものではない。弁護人らの主張は採用できない。
オ このほか,被害女性及び目撃者の公判供述の信用性について,弁護人らがるる主張する点は,被害女性らに対する単なる人格批判にわたるものであったり,弁護人らの証拠に基づかない憶測によるものに過ぎず,いずれも到底採用することはできない。
(3) 小括
 以上によれば,被害女性及び目撃者の各公判供述は一応信用できる。被告人の供述も,これらと符合する限度において一応信用することができる。
4 関係証拠から認定できる客観的事実について
(1) 検討の前提
上記のとおり,被害女性及び目撃者の各公判供述の信用性は,一応肯定できる。
 しかしながら,被告人は,捜査段階から一貫して犯行を否認しており,本件公訴事実を基礎づける証拠として被害女性及び目撃者の各公判供述があるのみで,物的証拠等の客観的証拠は存在しない。そうすると,上記各公判供述の証明力については慎重な吟味が必要であるので,更に検討する。
(2) 被害女性及び目撃者の各公判供述の証明力について
 上記3のとおり一応信用できる被害女性及び目撃者の各公判供述によれば,本件列車に乗車後,被告人の右足が被害女性の両足の間に差し入れられ,時折動かされた事実が認められる。
 ところで,被害女性及び目撃者は,○○○駅から×××駅までの間を走行中,本件列車が揺れた旨供述している。確かに,同特急列車の同区間における車内の混雑状況等について,警察官が実際に乗車した結果,「列車の加減速,通過駅を通過する際の線路の分岐による揺れ,線路のカーブによる車両の揺れ等により,車両内に設置されたつり革はほぼ絶え間なく揺れており,また,両足を閉じた状況ではバランスを崩してしまい,直立し続けることは困難であった。なお,同区間において,電車の加減速による前後の揺れにより2回バランスを崩して片足を半歩前方に踏み出し,それ以外に10回ほどバランスを崩しかけた。また,線路のカーブにより,大きな横揺れにより左右1回ずつバランスを崩し,それぞれ一時的に横の乗客に体ごと体重を預ける状態になった。」(捜査報告書,甲16)と報告されている。被害女性らの公判供述はこれと整合するものであるが,他方で,被害女性らの公判供述によっても,上記のとおり相当揺れていた本件列車内にあって,被告人の足がいつ,どの機会に,どのように動いたのかについて明らかであるとはいえない。また,被害女性の足と被告人の足の位置関係や接触した状況についても,これと同様,上記各公判供述は,それぞれ断続的に各証人が視認した状況を大まかに供述するものに過ぎず,その詳細が明らかではない。
 そうすると,結局,上記の被害女性及び目撃者の各公判供述等の関係証拠からは,被告人の足が被害女性の両足の間に差し入れられた状態にあり,時折上下に動き,その際,被告人の足が被害女性の両足ひざ辺りに接触することがあったという事実を認定することができ,かつそれにとどまるといわざるを得ない。
(3) 検察官の主張について
 これに対し,検察官は,被害女性及び目撃者の各公判供述に基づき,被害女性は,11月18日以降連日にわたり被告人から本件と同様の痴漢被害を受け続けた事実も認められる旨主張する。
 確かに,被害女性は,おおむね上記の内容の供述をし,11月18日以降の同様の痴漢被害に係る犯人が被告人であると識別した根拠として,○○○駅のホームでベージュ色のコートを着た男の顔を見て確認したこと,痴漢被害に遭わなかった日に同特急列車内で真横に来たその男の顔を見たこと,痴漢被害を受けた最中に後ろの男のコートのベージュ色のそで口を見たし,同じにおいだったこと,後ろの男が降車する際に,ベージュ色のコートの後ろ姿や斜め後ろ方向から顔を見たことを挙げる。
 しかし,被告人が12月8日の事件当時に着用していたベージュ色のコートは一般的な形状のものであるのに,同じような色目のコートを着用した男性が被告人だけであったか否かについては明らかではない。また,においの点については,被告人の体臭が特徴的なものなのであれば格別,被害女性は単に同じにおい(加齢臭)がしたと述べるにとどまり,それ以上具体的な供述をしていない。そして,多数の乗客が乗り合わせる混雑した通勤列車内においては,この点が被告人と痴漢犯人の同一性を識別するに当たって決定的な理由になるとはいい難い。また,○○○駅ホームで痴漢犯人の顔を確認したとする点についても,痴漢行為時の犯人の顔として特定して認識したものでもないため,においの点と相まっても被告人と痴漢犯人との同一性を肯定することはできない。
 そして,12月8日以前の痴漢被害の態様に関する被害女性の公判供述の内容はあいまいなものにとどまること,被害女性は,2回同じような経験をしてそれが痴漢であると確信し,犯人を捕まえようとして同特急列車に乗り続けていたことからすると,その思いが強い余り,いつも同特急列車の近い位置で乗り合わせていた被告人との接触を,その作為性の有無についての検証が十分ではないまま,被告人から上記の痴漢被害を受けたものと認識した可能性も完全には排除できない。
 そうすると,被害女性の公判供述からは,被害女性が,12月8日以前にも両足の間に足を差し入れられ,その足が動かされるという痴漢被害に遭ったという事実は認められるが,被告人が,連日のように作為的に当該行為を行ったことまでは認められない。
 検察官の上記主張は採用できない。
5 被告人の故意の存在の推認の可否について
(1) 故意の必要性
 そもそも,本件犯罪(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例10条1項,2条2項1号)が成立するには,「故なく,人を著しくしゅう恥させ,又は人に不安を覚えさせるような方法で,人の身体に,直接又は衣服その他の身に付ける物の上から触れる」ことについて,実行行為時に故意が存在しなければならないことは,その規定上明らかである。
 そして,本件においては,被告人は,自己の足と被害女性の足との接触の事実についてはある程度認めるものの,わざとやったのではない旨述べて犯罪の成立を否認しており,被告人の供述からは故意の存在が認められない。そのため,被告人が行った上記の客観的行為の態様等から,被告人に故意があったことを推認できるか否かが問題となる。
(2) 推認の可否
 関係証拠によれば,本件列車は相当混雑し,乗客は互いの身体,衣服に触れ合った状態であった上,上記のとおり,時折前後左右に大きく揺れて,他の乗客に体を預けることとなるような状態であったと認められる。このような場合,乗車時の状況によっては,被告人の足が他の乗客の両足の間に差し入れられるような立ち位置や姿勢になることも十分あり得る。また,その場合,その列車の動揺に応じて,差し入れられた足が動いて,やや強く他の乗客の足と接触したり,こすれあったりすることもあり得ることである。
 被害女性及び目撃者は,被告人の足は電車が揺れていないときでも動いていたことがあった旨述べるが,上記のとおり,その点に関する各供述はあいまいな内容にとどまり,被害女性及び目撃者の各公判供述から,列車の動揺と被告人の足の動きの関係について具体的な状況を認めることはできない。
 そうすると,本件列車内における被害女性と被告人の位置関係,姿勢,体の向き,体格等のほか,本件列車が相当動揺していたことなどの事実関係に照らすと,被告人の足が被害女性の両足の間に差し入れられた状態が続き,その足が時折動いて被害女性のひざ周辺部に接触し,列車の動揺と相まって足が動き,ときには電車が余り揺れていないのにその足が動くことがあったからといって,それだけで直ちに被告人に当該行為について作為的に行ったものと推認することはできず,故意があったものと認めるに足りない。
 そして,足が被害女性の足に触れたことは認めながら,故意がなかった旨弁解する内容の被告人の供述は,捜査段階から公判段階に至るまで中核部分において一貫しており,上記の検討結果と合理的に符合し,特段不自然,不合理な点はみられず,これを全く虚偽のものとして排斥することもできない。
 加えて,被告人は,わいせつ事犯によるものも含めて前科前歴は全くなく,愛知県職員として勤続し,本件事件の約8か月前には自宅を新築するなど安定して真っ当な社会生活を送ってきたものである。このような被告人の人となりをも併せて考慮すると,被告人が,上記の客観的行為を故意に行ったものと推認するにはなお合理的疑いが残るといわざるを得ない。
(3) 検察官の主張について
検察官は,①被害女性の供述する被害状況は偶然には起こり得ないものであり,着衣越しでも感触を得ることができるから,故意が認められる,②被告人の供述は重要事実に関して不合理に変遷しており,到底信用できないなどと主張する。
 まず,①については,上述のとおり,被害女性らの供述には証明力に限界があるため,「被告人の足が被害女性の両足の間に差し入れられた状態にあり,時折上下に動き,その際,被告人の足が被害女性の両足ひざ辺りに接触することがあった」という事実が認められるにとどまるから,それを前提にすると,混雑した通勤電車内という本件の状況の下ではあり得ることであり,それ自体から故意を推認することはできない。②については,被告人の足と被害女性の足が当たった回数の点について,確かに,被告人は,逮捕当初十数回と供述していたが,その後数回程度当たったかもしれない旨訂正した供述経過が認められるが,混雑した通勤電車内で他の乗客との接触回数について具体的に認識,記憶していることの方が特異であり,被告人自身被害女性の足と接触した事実については認めているのであって,被告人が具体的な接触回数を供述できず,供述に多少のずれがあったとしても特に不自然とはいえない。次に,被害女性の外見を詳しく知っていたか否かの点については,被告人が同特急列車の近い場所に毎日乗車する被害女性の特徴を知っていても不自然でないし,その供述する内容の差も故意の存否の点にかかわるほどのものではない。さらに,電車につり革があったか否かの点についても,被告人の各供述には若干の違いがあるものの,その信用性を覆すほどのものではない。
 したがって,検察官の主張はいずれも理由がなく,被告人の弁解供述が信用性を欠くものということはできない。
(4) 小括
 以上のとおり,本件列車内で,被害女性の背後に立っていた被告人の右足が被害女性の両足の間に差し入れられ,その足が時折上下するように動いて,被害女性のひざ周辺部に接触したことについて,被告人が故意に行ったことを推認するに足りる証拠はなく,被告人が故意を有していたものとは認められない。
第3 結論
 以上の次第であるから,本件公訴事実の立証は不十分であり,被告事件について犯罪の証明がないときに当たるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。
(検察官藤川浩司,弁護人藤井成俊(主任),同高橋一之,同大山貞雄,同吉野剛成(いずれも私選)各出席)
(求刑 罰金50万円)
平成22年1月18日
名古屋地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官    伊藤 納
裁判官    谷口吉伸
裁判官    渡邉裕美

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