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暴行東京

東京地方裁判所立川支部判決/平成22年(わ)第1113号

主文

被告人は無罪。

理由

第1 本件公訴事実及び争点
1 本件公訴事実
 本件公訴事実は,「被告人は,平成21年11月28日午前9時20分ころ,東京都町田市ab丁目c番d号Aクリニック敷地内において,B(当時42歳)に対し,その大腿部を足で蹴るなどの暴行を加えたものである。」というものである。なお,検察官は,第1回公判期日において,「その大腿部を足で蹴るなどの暴行」というのは,具体的には,「肩をBの胸付近に数回当て,頭突きをし,仰向けの状態で同人の大腿部や腹部を足で複数回蹴り,同人を仰向けに倒し,突き出してきた右手をかむなどした」というものである旨釈明した。
2 弁護人の主張
 これに対して,弁護人は,被告人は,Bから一方的に暴行を受けただけで,同人に対して,公訴事実のような暴行を加えたことはなく,仮に,被告人がBに対して何らかの有形力を行使したとしても,それは,Bの暴力から自己の身体を守るためやむなくしたものであるから正当防衛に当たる旨主張している。
第2 当裁判所の判断
1 本件の証拠構造
 被害者とされているBは,被告人から公訴事実のような暴行を受けた旨供述している。一方,被告人は,Bから一方的に暴行を受けたに過ぎない,とこれを否定する供述をしている。本件については,本件現場付近で働いていたCが,その一部を目撃しているが,そのすべてを目撃している第三者的証人はいない。
2 前提事実
 まず,関係証拠によると,次の事実が認められる。
(1) 平成21年11月28日午前9時20分ころ,Bの妻が運転し,後部座席右側にBが,助手席及び後部座席左側にBらの子が乗車していた自動車が,東京都町田市ab丁目c番d号Aクリニックの駐車場にバックで入ろうとして,同クリニック前一方通行路に停車していたところ,自動車を運転して後方から通りかかった被告人が,道路右端に電柱があるのでB車の右側を通り抜けることができないとして,クラクションを鳴らすなどしたことから,被告人とBとの間で,トラブルが発生した。
(2) 本件トラブルは,現場近くの自動車販売店で勤務中本件を目撃したCの仲裁によって収まり,本件後,被告人は,自ら救急車を呼んで,D病院を受診し,約2週間の加療を要する頸椎捻挫,両側下肢打撲,頭部・胸部・腹部打撲傷,外傷性歯の破折という診断を受け,同年12月1日まで,主として検査の目的で入院した。一方,Bは,当日,E整形外科を受診し,左下腿挫創,両手挫創,顔面挫創(左下腿前部に挫創,両手背面に挫創,顔面右側頭部に挫創と皮下出血がある)と診断された。
 以上の事実が認められる。
3 関係者の供述
 本件に関するB,被告人,及びその一部を目撃したというCの供述は,次のようなものである。
(1) Bの供述
 Bは,公判廷で証人として,次のように供述している。
 「被告人が,電柱があるので通れないと言うので,通れると思うと答えたところ,被告人は,怒ったような感じで,車から降りてきた。そこで,私も車から降り,言い合いになった。すると,被告人は,口で文句を言いながら,頭,肩,上半身を,肩や胸の辺りに当ててきた。そこは道の真ん中だったので,Aクリニックの駐車場に移動した。その後も,ちょっとこづかれるような感じはあった。つかみ合いはしていない。その場が収まらないので,私は,両手で被告人の両肩をつかんで横に倒し,肩の辺りを両手で押さえた。そのとき,私の足は被告人の足の間にあった。すると,被告人は,両足で,ももとおなか辺りを蹴り上げてきた。5回から10回蹴られた。上着も引っ張られた。そこで,私は,逃げるような感じで,一旦離れた。すると,またつかみ合いのようになり,私は,先程と同じような方法で被告人を倒した。そこで,もみ合いの状態になり,最終的に私が下になり,仰向けの状態で乗りかかられた。そこで,右手で払いのけるように抵抗すると,その手首を服の上から被告人にかまれた。そのままの状態で,お互いに乗っかった状態のところに,Fの人(Cのこと)が仲裁に入り引き離してくれた。私は,この間を通じて,被告人を殴ったり,蹴ったりしたことはない。」
(2) 被告人の供述
 これに対して,被告人は,捜査段階ないし公判廷で,次のように供述している。
 「私が,電柱があるので通れないなどというと,Bは,「うるせえな,あっちに行け」などと言って,車から飛び出してきた。そして,運転席にいる私のところにきて,「ちょっと来い。」と言った。勇気を振り絞って車から降り,Aクリニックの駐車場まで一緒に行くと,Bが自分のおでこを私のおでこに当て,上腕を両手でつかみ,右足に右足を掛けて私を倒した。背中から倒れ頭を打った。その後,Bは,立ったまま,踏み付けるようにして私の上半身を蹴った。私は,逃げようとして,地面を足で蹴った。20回から30回蹴られた。また,Bは,中腰になって,げんこつや平手で,私を殴ってもきた。上半身を20回くらい殴られた。そのうち,Bがバランスを崩して,私の右上方に倒れた。そのすきに立ち上がって逃げようとしたが,恐怖で体がうまく動かず,両膝から転んでしまった。後ろを振り向くと,Bがすぐそばまで迫っていた。そのとき,Cが割って入ってくれた。」
(3) Cの供述
 本件の一部を目撃したというCは,公判廷で証人として,次のように供述している。
 「本件現場近くの自動車販売店の2階駐車場で働いていると,Aクリニックの駐車場の方から大きな怒号が聞こえた。そこで,Aクリニックを見ると,2人が互いに相手の肩口辺りをつかんでもみ合っていた。私のところから現場までは20mくらいであり,私の視力は0.6ないし0.7で,少し乱視もある。すると,もみ合っている状態でバランスを崩して倒れこんだという感じで,被告人が下,相手が上になり,被告人が尻餅をついて倒れた。相手が被告人の肩辺りを持って押さえようとしていたが,被告人は左右の足を蹴り上げ,相手のふとももやおなか辺りを蹴っていた。2階から止めろと声を掛けたが,届かないような感じだった。そのうち,相手の連れの子供が被告人を足でつつくようなことを始めたので,危ないと思い,販売店の裏を回って,現場に止めに行った。現場に着くまで20ないし30秒かかった。現場に着いたとき,2人が倒れていたか,既に立ち上がっていたかは,分からない。そしてすぐ2人を止めに入った。」
4 関係者の供述の信用性
(1) Cの供述の評価
 Cは,何の利害関係もない第三者であるから,その供述は,一般的には,高い信用性が認められるべきものであるが,同人は,本件の一部始終を見ていたわけではない上,その視認した部分についても,被告人らが倒れている状況を見た位置にに(ママ)ついて,捜査段階では現場に着いてからと供述していたのに,公判廷では自動車販売店の2階から見たと供述するなど,ささいとは言い難い変遷が見られる上,被告人とBのいずれもが,Bが被告人を倒す前(Bの供述によれば最初に倒す前),両者がもみ合っていたことはない旨供述しているのに,Cだけがもみ合っていたと供述するなど,実際に見たこととその時の印象を混同して述べているのではないかと疑われる節もある。その視認条件も考えると,同人の供述は,その大綱についてはともかく,細部については,信頼性に欠けるところがあるものといわざるをえない。
(2) B供述の信用性
 Bの前記供述は,一応,具体的・迫真的で,信用できそうにも見える。とりわけ,Bが,被告人を押さえ付けていたとき,被告人から足で大腿部や腹部を蹴られたという部分は,Cの供述に裏付けられている。しかし,Cがこれを見たのが,その公判供述どおり約20m離れた位置からだとすると,同人の視力等も考えると,果たして同人に,被告人の足が振り上げられているという以上に,これがBの大腿部や腹部に当たるところまで見えたかどうか疑問の余地がないわけではない。
 それはおいても,Bの前記供述中,被告人の方が先に車から降りてきたとする点,Bが被告人を最初に倒す前に,被告人が頭,肩,上半身をぶつけてきたという点,Bが被告人を押さえているとき体勢が入れ代わって被告人の下になり,抵抗しようとして差し出した右手を被告人にかまれたという点については,これを裏付ける証拠はない(なお,写真撮影報告書(甲11)には,Bの当日の負傷状況の1つとして,右手のひら下部の傷を写した写真がちょう付されているが,右手首とは若干位置が異なるように見える上,上記傷はいわゆる歯形のようなものではないから,服の上からかんだとき,そのような傷になるかも疑問であり,この傷が,被告人から右手首を服の上からかまれたというBの供述を裏付けているものとまではいえない。)。
 また,Bが,被告人に対して,殴る蹴るの暴行は一切加えていないというのは,被告人が,当日,D病院を受診し,約2週間の加療を要する頸椎捻挫,両側下肢打撲,頭部・胸部・腹部打撲傷,外傷性歯の破折という診断を受けていること(なお,捜査報告書(甲10)に添付されたカルテ情報には,鼻出血痕という記載があり,また,歯の破折については,写真撮影報告書(甲9)でも確認されている。)と明白に矛盾するようにも見える。
 こうした事情に照らすと,Bの前記供述は,せいぜい,Bが被告人を倒して被告人に覆い被さるような状態になったとき,被告人が,倒れた状態のまま,Bに向かって足を振り上げていたという限度で,信用性が肯定できるにすぎないものというべきである。
(3) 被告人の供述の信用性
 被告人の前記供述のうち,Bから倒された後,同人に向けて足を振り上げるなどもしていないという部分は,Cの供述にも反するもので,直ちに信用できず,Bから,20回から30回蹴られ,20回くらい殴られたというのも,前記D病院の診断に照らし,少なくとも,やや大げさであることは否定できない。
 しかし,前者の点については,被告人自身,逃げようとして地面を蹴った,そのときBに当たったかどうかは分からないと供述しているから,必死になっているときの行動で,これについて正確な認識を持ち得ていないのではないかとも思われ,殊更な虚偽供述とまでいえるかどうか疑問が残る上,上記各点を除けば,被告人の供述は,むしろ他の証拠と符合していると見られる点も少なくない。
 すなわち,被告人がBから殴る蹴るの暴行を受けたとする点は,程度の問題はあるにせよ,上記D病院の診断に符合するものであり,Bに,本件当日,①左下腿前部の挫創,②両手背面の挫創及び右手のひらの前記傷,③顔面右側頭部の挫創等が見られたことは,それぞれ,①Bがバランスを崩して被告人の右上方に倒れたこと,②Bがげんこつで被告人を殴るなどしたことやバランスを崩して被告人の右上方に倒れたこと,③Bが被告人を倒す前,「おでこ」を被告人の「おでこ」にぶつけたことに整合するように見える。
 こうした事情に照らすと,被告人の前記供述は,多少誇張したところ等があるにせよ,基本的には,その信用性を否定できないものというべきである。
5 本件の状況とその評価
(1) 前記のような事情に照らすと,本件においては,被告人とBの間で,車外で,トラブルが始まった後,Bが両手で被告人の両肩付近をつかむなどして被告人を倒した後,被告人が,被告人を踏み付けたり,殴り付けたり,押さえ付けたりしてきたBに対して,倒れたまま,両足を振り上げるなどして対抗したという事実は認められるが,それ以上に,被告人が,まず車から降りてBの方に向かって行ったり,Bから倒される前にその肩等をBの体にぶつけたり,頭突きをしたり,その後,Bを仰向けに倒して,同人が突き出してきた右手をかむなどしたことは認定できないというべきである。
(2) 前記のとおり,被告人は,Bに倒された後,倒れたままの状態で,Bに対して両足を振り上げていたものであるところ,これが人に対する有形力の行使として暴行に当たることは明らかである。
 しかし,被告人がそのような行動をとったのは,Bから,いきなり,両手で両肩付近をつかむなどして倒され,さらに,Bから,踏み付けられたり,殴り付けられたり,押さえ付けられたりしたことから,自己の身体を守るためにしたものと認められる。そして,その態様も,上記のような攻撃を加えていたBに対し,倒れたまま,足を振り上げるというのにとどまるから,侵害行為から身体を守るため必要最小限のものであったと認められる。
 検察官は,被告人は,Bの肩や胸に頭や肩をぶつけるという暴行を加えて,Bの暴行を誘発したというが,被告人にそのような行為があったと認められないことは,前記のとおりである。
 検察官は,本件は典型的なけんか闘争であるとも主張するが,前認定の事実によれば,被告人は,Bに倒された後,倒されたままの状態で,踏まれたり,殴られたりするのに対抗して,足を振り上げていたに過ぎないのであるから,被告人とBとの間に双方が攻撃防御を繰り返す闘争状態があったとはいえない。なお,Cは,前記のとおり,Bが被告人を倒す前,同人らの方から大声が聞こえてきたと供述しているが,発言者がだれであったか明らかでなく,仮に,そのとき被告人とBが口論をしていたとしても,車から降りて相手を呼び出し,そのきっかけを作ったのが被告人とすべき明確な証拠はないし(Cの公判供述によると,Cから仲裁された後,被告人の方がより激しく相手方をののしっていたようでもあるが,理不尽な攻撃を受け,ようやく解放されたときの心理状態がそうさせたと見る余地もあるから,そのことから,直ちに,当初挑発したのが被告人とみるのは相当でない。),そのような状況で口論をしているとき,自らは暴力に訴えたことがないのに,相手がいきなり暴行を加えてきて,押し倒され,引き続き攻撃を受けるという状況に陥ったとすれば,その状況が継続している限り,これはやはり,防衛の許される違法な侵害状況というべきである。
 以上によれば,被告人の前記行為は,Bからの暴行という急迫不正の侵害に対し,自己の身体を防衛するため,やむを得ずした行為であって,正当防衛に該当すると認められる。
6 結論
 以上の次第で,被告人が,Bに倒された後,倒れたままの状態で,Bに対して両足を振り上げる暴行を加えたことは認められるが,同行為については正当防衛が成立し,被告人が,検察官が主張するその余の暴行を加えたことについては,これを認めるべき的確な証拠がない。そうすると,結局,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。
 よって,主文のとおり判決する。
平成23年1月20日
東京地方裁判所立川支部刑事第1部
裁判官  福崎伸一郎

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