「税理士として働いているが、罪に問われたことで前科がつくかもしれない。資格を剥奪されることはあるのか」「これから税理士を目指して勉強をしているが、過去に前科がある。税理士試験を受験して資格を取得することはできるのか」
この記事では、税理士として働かれている方や、これから税理士を目指している方の前科と資格・免許に関するこのような疑問に詳しくお答えしていくほか、不起訴処分を得て前科がつくことを回避するためにすべきことなどについても解説します。
目次
税理士は前科がついたら資格を剥奪される?
刑事事件を起こして禁錮以上の前科がついてしまった場合、税理士資格を剝奪されたり新たに取得できなくなる可能性があります。
税理士は禁錮以上の前科がつくと資格を有しないとされる
税理士に関する諸制度を定めた法律である税理士法は、4条3・4・5号において、その業務に就くのに要求されている資格を欠くとみなされる要件である「欠格条項(けっかくじょうこう)」を定めており、以下に該当する者は税理士となる資格を有しないとしています。
三 国税若しくは地方税に関する法令又はこの法律の規定により禁錮以上の刑に処せられた者で、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から5年を経過しないもの
税理士法4条
四 国税若しくは地方税に関する法令若しくはこの法律の規定により罰金の刑に処せられた者又は国税犯則取締法(略)若しくは関税法(略)の規定により通告処分(科料に相当する金額に係る通告処分を除く。)を受けた者で、それぞれその刑の執行を終わり、若しくは執行を受けることがなくなつた日又はその通告の旨を履行した日から3年を経過しないもの
五 国税又は地方税に関する法令及びこの法律以外の法令の規定により禁錮以上の刑に処せられた者で、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から3年を経過しないもの
税理士は税金の専門家としての業務を行う関係上、税金に関する法律に違反した場合の規定がその他の場合での前科よりも重くなっているのが特徴です。
また、第4号にある通告処分とは、税金に関わる罪の場合は犯則事件として収税官吏による調査が行われますが、その結果下される国税通則法に定められた処分のことをいいます。
この処分は刑事罰ではなく行政処分にあたるため、処分を受けても前科がつくことはありません。しかし、税理士法4条においてはこの処分を受けた者も税理士となる資格を有しない対象としているため、注意が必要です。
不正行為に対しては財務大臣による懲戒処分が下される
また税理士が書類に虚偽の記載をする、脱税の相談に応じるなどの行為を行った場合、税理士法45条および46条により、刑事罰や行政処分とは別に、財務大臣によって業務の停止・禁止などの懲戒処分が下されることがあります。
国税庁はホームページ上で「税理士・税理士法人に対する懲戒処分等件数」を2016年以降より公開しています、2020年の処分件数は合計22件で、そのうち最も重い「業務の禁止」の処分を受けたのは4名となっています。
逮捕は前科ではないので資格に影響しない
前科とは、過去に有罪判決を受けた事実のことを指します。前出の税理士法4条5号の場合では、「国税又は地方税に関する法令及びこの法律以外の法令の規定により禁錮以上の刑に処せられた者」として、欠格事由に該当します。
一般的には、「逮捕=前科」と思われがちですが、単に逮捕されただけでは前科がつくことはありません。捜査機関から捜査を受けた履歴のことは「前歴」と呼ばれ、捜査機関にのみ残るものです。
したがって、逮捕されたのみでは税理士資格に直接影響することはないといえます。ただし、もし逮捕が長引いたりした場合、風評によって税理士の仕事を失ったりするリスクはあります。そのため、早期に弁護士に相談して釈放に向けた対応をすることが重要です。
前科があると3~5年間は税理士の資格を取得できない
税理士法4条では、欠格条項に該当する者は「税理士となる資格を有しない」としているため、該当者は税理士の資格を取得することはできません。
したがって、禁錮以上の刑が執行されて前科がついてから、同法の定める期間である3年または5年を経過していない場合、税理士の資格を取得することはできないということになります。
また、税理士資格の取得後、業務を行うためには日本税理士会連合会が作成する税理士名簿への登録が必要となりますが、税理士法24条6号は「登録拒否事由」を以下のように定めています。
六 次のイ又はロのいずれかに該当し、税理士業務を行わせることがその適正を欠くおそれがある者
税理士法24条
イ 心身に故障があるとき。
ロ 第4条第3号から第10号までのいずれかに該当していた者が当該各号に規定する日から当該各号に規定する年数を経過して登録の申請をしたとき。
このため、前科がついてから3~5年の期間が経過していても、税理士としての適性を欠くとみなされた場合、登録を拒否されることがあります。
前科とは?罰金や執行猶予も前科になる?
前科とは、「刑事裁判で有罪判決が確定すること」であり、裁判になっても無罪判決を獲得できれば前科はつきません。
裁判以外で前科を回避する方法として、不起訴処分を獲得し、刑事裁判を開くことなく事件を解決に導く、という方法があります。
前科とは懲役刑や罰金刑が裁判で確定すること
前科とは、刑事裁判で有罪判決を受け、その判決が確定した際につくものです。
逮捕後は、一定の勾留期間を経て、検察官が起訴か不起訴かの判断を下し、起訴されて裁判で有罪判決が確定した場合、前科がつくことになります。
したがって、検察官が裁判を行わないという「不起訴処分」の判断を下せば、その人が刑罰に問われることはなく、前科はつかないということになります。
執行猶予や略式罰金も前科になる
注意しなければならないのは、裁判において「執行猶予つき判決」や「略式罰金の命令」の判決が出た場合でも前科になるということです。
税理士法4条は、税理士となる資格を有しない基準を「禁錮以上の刑」としているため、執行猶予つき判決を受けた場合、猶予期間を問題なく満了すれば資格が回復するということになります。
また、前科でも罰金以下の場合であれば「禁錮以上の刑」には該当しないため、税理士法においては欠格条項となりません。
一度ついた前科は消えないが、法的な効力は一定期間で消失する
罪を犯し前科がついた場合、事件記録が検察庁や裁判所に保管されます。そのため、前科がついたという事実は消えることはありません。
しかし、前科の事実は消えなくても、その法的な効力は失効することがあります。具体的には、禁固以上の刑の場合は10年、罰金以下の刑の場合は5年の間、刑の執行を終えてから新たに罰金以上の刑に処せられなかった場合、前科としての法的な効力が失効するのです。
前科の法的効力が失効すれば、税理士法における欠格条項には該当しません。
早期に弁護士に相談することで、税理士が前科で資格を失うことを防ぐ
税理士が何らかの罪を犯したことにより前科がついた場合、資格の取り消しなどが行われる可能性があることがわかりました。
前科により資格を失わないためには、早期に弁護士に相談することが重要となります。
不起訴処分を獲得し前科を回避する
検察官により起訴が行われた場合、裁判で無罪になるのは非常に難しくなります。しかし、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判を受けることがなくなるため、前科がつく可能性はゼロになります。
すなわち、前科がつくことを回避するためには、不起訴処分を目指すことが最も現実的な手段となります。
示談で不起訴の可能性を高める
被害者のいる犯罪の場合、早期に被害者対応を行うことが肝要です。真摯に反省して謝罪を行い、示談を締結することで、検察官が再犯の可能性や加害者家族への影響などといった様々な情状を考慮し、最終的に「起訴するほどではない」と判断する「起訴猶予」の可能性が高まります。
被害者と示談するためには弁護士に相談する
被害者との間に示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
逮捕されてから起訴される前の身柄拘束が続く期間は、最大で23日間となっています。起訴が決定された後で示談が成立しても、後から不起訴とすることはできないため、示談交渉はその間に行う必要があります。そのため、できる限り早い段階で弁護士に相談することが大切になってきます。
逮捕されている場合、加害者本人は示談交渉はできず、また逮捕されていない場合であっても加害者と被害者が直接示談交渉を行うことは困難です。そのため、示談交渉の際は弁護士を間に立てることが必要となります。