被害届を警察に出されてしまったという場合、どうすれば良いのでしょうか。
被害届を取り下げてもらうためには、被害者との示談が必要であり、適切な手続を取ることによって刑事処分のリスクを大きく減らすことができます。
以下では、被害届とは何なのか、どのようにすれば被害届を取り下げてもらえるのか、いつまでに被害届を取り下げてもらえばいいのか、その際の示談金はどれくらいなのか、など丁寧に解説しています。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
被害届とは
「被害届」とは犯罪被害にあったことを申告する書面
「被害届」とは、何らかの犯罪の被害を受けたことを被害者が警察に届け出る書面です。あくまで被害の事実を申告するものであり、被害届には犯人の処罰を求める意思表示は含まれていないとされています。
被害届は警察による捜査の取り掛かりとなるものです。警察は様々な方法で犯罪行為を見つけて捜査しますが、被害届が出されていない事件については知ることができないことも多く、被害者がいる事件の場合、基本的には被害届が出された事件を警察は捜査することになります。
被害届の提出・受理
被害届の提出は、交番でも警察署でも可能です。受理については、「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。」と規定されています(犯罪捜査規範61条)。
ただし、明確に虚偽であったり、著しく合理性を欠く内容の被害届は受理されません。また、業務が多忙であったり、複数の都道府県の警察に関係するような「面倒」な事件では、被害届を出そうとしてもあしらわれてしまうなど警察の対応が不適切であるケースも散見されます。
さらに、被害届の受理の効果については法律上の決まりがないため、被害届を受理したとしても警察が実際に捜査を行うかどうかは警察の判断になります。
とはいえ、実際には被害事実が明らかであって被害届が出されれば警察は捜査してくれることが通常です。犯罪行為をしてしまい、被害者に被害届を出されてしまえば事件化する可能性は大きく、後日警察から呼び出しを受けたり、場合によっては逮捕されることもあります。
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被害届が出ているか確かめる方法はない
被害届が出ているかどうかは、捜査上の情報ですので確認する方法はありません。
事件化のリスクは一般人が判断するのは難しい事柄ですから、不安があれば弁護士に相談することをおすすめします。事件化の心配がほとんどないようなケースもあれば、すぐに示談や自首といった行動をとった方が良い場合もあります。
経験豊富な弁護士であれば、リスクを適切に評価して今すべきことをアドバイスすることができます。
被害届と告訴の違い
「告訴」とは、被害者等が捜査機関に犯罪事実を申告したうえで、処罰を求める意思表示をいいます。なお、第三者がする場合は「告発」になります。
230条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
刑事訴訟法
239条 何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
242条 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
名誉毀損や器物損壊のようないわゆる「親告罪」の場合、起訴をするためには告訴が必要です。
告訴は刑事訴訟法に定められた法律行為であり、告訴を受けた捜査機関は事件を捜査する義務を負うなど法律上の効果をもちます。
そのため、親告罪などで捜査機関から告訴の案内をする場合は別として、通常は警察は告訴を嫌がるケースが多く、被害届の提出に比べて事実上告訴のハードルはかなり高くなります。
被害届 | 告訴 | |
---|---|---|
内容 | 被害事実の申告 | 被害事実の申告+処罰を求める意思表示 |
受理 | 通常してもらえる | 事実上かなり難しい |
効果 | 捜査等の義務なし(法の規定なし) | 捜査等の義務あり(刑事訴訟法) |
親告罪 | 被害届のみでは起訴不可 | 起訴するために必要 |
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被害届の取り下げの手続き・効果
被害届が取り下げられたら不起訴になるって本当?
被害届には法律上の効果はなく、警察が犯罪事実を知って捜査をするきっかけにすぎません。そのため、被害届が取り下げられたとしても捜査が続く可能性はあり、必ず不起訴となるということもありません。
一度捜査が開始されれば、事件の取り扱いは捜査機関の判断次第ですし、とりわけ起訴不起訴の判断は検察官の裁量によります。
しかし、被害届が取り下げられたということを判断材料として、送検前であればそのまま事件化されずに不送致となったり、送検後であったとしても不起訴処分になるケースは多いです。そのため、被害届を取り下げてもらうことは大きなメリットがあります。
被害届は法的には処罰を求める意思表示を含みませんが、被害者がわざわざ申告を取り下げることは、事実上被害者の処罰感情がなくなったことを意味します。そのため、特に被害者感情が重視される事件類型では、刑事事件として処罰する必要性がなくなったと捜査機関は判断するのです。
被害届が取り下げ | 被害届そのまま | |
---|---|---|
捜査 | 捜査終了の可能性あり | 捜査は継続 |
処分 | 不起訴の可能性大 | 不起訴の可能性小 |
被害届が取り下げられても安心できない事件とは
いわゆるDVなど家庭内暴力の事件では、被害届が取り下げられたとしても事件が終わらないことが結構あります。
CASE
夫と口論になり殴られたため、自身で110番した(もしくは騒ぎを聞きつけた近所の人が通報した)ところ、夫が逮捕されてしまった。当時は感情的になっていたが、被害届も取り下げて夫の早期釈放を望んでいるがどうしたら良いか。
実際に、このように被害者が加害者の弁護活動を相談してくることは意外とあるケースです。
こういった被害者と加害者の関係が近い事件では、被害者が加害者を本当に許しているのか慎重に判断する必要がありますし、仮に本心から被害届を取り下げていたとしてもそのまま不問にすることが真に問題の解決にならないことがあるためです。
そのほか、被害届の取り下げだけでは不起訴を獲得することが難しい可能性がある例としては、同種前科があるなど悪質な事案や、被害者個人だけではなく社会的な利益を守る必要性が高い犯罪などがあります。
例えば、盗撮事件で被害者が18歳未満だったため、児童ポルノ法違反にも該当するという場合や、振り込め詐欺などの社会的に問題となっている犯罪などが考えられます。
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被害届の取り下げの手続き|電話でできる?
被害届の取り下げは、被害者が書面でする必要があります。
被害者が被害を取り下げる意思表示として刑事処分に大きな影響を与える行為ですので、書面などで間違いないように証拠に残す必要があります。電話で被害届を取り下げるといったことはできません。
被害者が被害届を取り下げる場合、警察に行きその旨を伝えると、被害届取り下げの書面を渡されます。そこで、被害者が必要事項を記入し、警察に提出することで被害届が取り下げられます。
また、示談の中で被害届の取り下げをする場合、加害者側で被害届の取り下げの書面を準備したうえで署名・捺印してもらいそのまま提出することもあります。
被害届はいつまでに取り下げれば良い?
被害届の取り下げ自体に期間制限は特にありません。
しかし、当たり前ですが、刑事処分がなされるまでに被害届の取り下げがされなければ、刑事処分に影響を与えることはできません。
たとえば、不起訴を期待するのであれば、検察の起訴判断の前までに被害届の取り下げが必要ですし、裁判の内容に影響を与えたいということであれば、判決までに取り下げてもらう必要があります。
特に被害届取り下げの大きなメリットは、事件化や送検を回避し警察限りで事件が穏便に解決する可能性を高めることにあるので、できる限り早く取り下げてもらうことがベストです。
被害届が取り下げられたあと再提出されることはある?
被害届が取り下げられたあとに再提出をすることは困難です。法律上被害届の再提出を禁じるものはありませんが、そもそも被害届自体が被害を届け出る通知にすぎず、そのことが取り消されることはないため、再度被害届を提出しても重複となって警察に受理されないことの方が一般的です。
被害届の取り下げは、被害を受けた被害者がわざわざ被害を取り下げていることから被害者の処罰意思がなくなったことを推認させる意思表示となり、捜査が終了することもあります。そのため、一度終結している事件について被害届が再提出されたとしても再度立件すべきではないと考えられることになります。
被害届を取り下げてもらう方法【示談】とは?
示談とはどういうもの?
示談とは、刑事事件の被害者と加害者との間で行う、いわば和解契約です。示談を締結することによって、被害者と加害者のその事件についての関係が清算されます。そして、被害者が示談締結後はその事件で加害者を刑事的に訴えないことの表示として、示談の内容に被害届の取り下げを入れ込むことがあります。
示談契約の中で被害届の取り下げを行うことで確実に被害届を取り下げて和解したことを捜査機関に示すことができます。
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示談で被害届を取り下げてもらうには弁護士が必要?
示談で被害届を取り下げてもらうためには、弁護士がいた方がよいでしょう。加害者本人が示談交渉をしようとすると、示談が締結できないリスクがある上、被害届の取り下げについて適切に合意ができない可能性があります。そのため、弁護士に任せる方が確実に示談で被害届を取り下げることができます。
加害者本人が示談交渉を行おうとすると、被害者は身構えたり反発したり、そもそも接触を拒んで連絡が取れないということがよくあります。また、被害届の取り下げについても正確な説明ができず、示談に入れ込めないということもあります。弁護士であればそのようなことはなく、示談で被害届を取り下げることができます。
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被害届取り下げのための示談金の相場はどう決まる?
被害届の取り下げをするための示談金の相場は、その示談をする刑事事件の罪名や内容によって異なります。一般には、その事件で見込まれる罰金額や、民事訴訟で慰謝料請求されたときに見込まれる金額が示談金額の目安となります。
もっとも、示談の成立は被害者の納得が第一ですので、決められた金額があるわけではなく、当事者の交渉次第で金額が変わるものです。それに加えて被害届の取り下げをお願いするということは、刑事的に処罰を求めない意思をさらに明確にするものですので、関係性を清算するだけの示談と比べてハードルも上がり、多めの金額を支払うことも多いです。
被害届取り下げ以外の示談のメリットとは?
被害届取り下げ以外にも示談にはメリットがあります。
示談がされたということは、当事者間では事件が解決したということです。被害者が納得している以上、処罰の必要性も低下しますので、示談をすることで不起訴処分や罰金刑など刑事処分が軽くなることがあります。
また、たとえ示談をしなかったとしても被害者から慰謝料請求をされる可能性があります。示談を締結することで民事的な請求についても清算することができるので、民事訴訟等をされるリスクを減らすことができます。
被害届取り下げをお願いするための具体的な方法は?
被害届の取り下げを示談でお願いするために、示談書の中に被害者が被害届を取り下げるという文言を明記します。
確実に被害届の取り下げをしてもらうために、示談の締結の際に被害届の取り下げ書を準備することもあります。その場合には、示談書の作成段階で被害者にあらかじめ説明の上、示談書の署名捺印の際に併せて被害届の取り下げ書にも署名捺印をしてもらい、それをそのまま警察等に提出します。
【注意】示談しても必ず被害届取り下げができるわけではない
示談をしたとしても、必ず被害届の取り下げができるわけではありません。
示談の内容は事案や話し合いによって様々です。そのため、今後訴えを起こす気はなくとも心情として被害届を取り下げたくないという被害者もいます。そのような場合にまで被害届を強要することはできません。
被害届が取り下げられないとどうなる?
①逮捕されてしまうリスクがある
示談をせず被害届を取り下げられないままの場合、その被害届を元に警察に逮捕されてしまう可能性があります。
逮捕をするかどうかの判断では、被害者と接触させると危険か、証拠を隠す可能性があるのかなども考慮します。
そのため、もし示談が締結され被害届が取り下げられていれば、警察は和解できている加害者を拘束する必要もなく、被害申告が下げられている事件の捜査は不要として逮捕せず捜査が終了する可能性があります。
②起訴されて前科がつく可能性が高まる
被害者がいる事件では、被害者の処罰感情は起訴不起訴を決定する大きな要素です。
そのため、示談をしないで被害届が取り下げられないままの場合、被害者の処罰感情の表れとして検察官に起訴されてしまう可能性が高まります。
起訴された事件はほとんどが有罪となり刑罰を受けることになります。そのため、起訴を避け、前科をつけないためには、検察官の処分前に示談をし、被害届を取り下げてもらうことが必要です。
③懲役刑など刑事処分が重くなる可能性がある
示談によって被害届を取り下げてもらえないままの場合、被害者はまだ処罰感情を持っていると判断され、重い刑事処分がなされるリスクがあります。
刑事処分の量刑の判断では、被害者に対するケアを行い当事者間で解決されているか、被害者の処罰感情の強さはどうかが一つの判断要素です。適切な被害者対応をしなかったことで、重い刑罰を避けられなくなってしまうこともあります。そのため、示談をして被害者に被害届を取り下げてもらうことは大きな意味を持ちます。
被害届を取り下げてもらうべきタイミングはいつ?
被害届を取り下げてもらうタイミングは、できるだけ早いに越したことはないでしょう。刑事処分に影響を与えたいということであれば、その処分がなされる前には取り下げてもらう必要があります。なるべく速やかな段階、遅くても刑事処分前に取り下げてもらうことで、不起訴やより軽い処分を得る可能性が高まります。
被害届をより早い段階から取り下げてもらうことで、被害届の取り下げの利益が大きくなります。たとえば、警察の捜査着手前か開始後まもなくに取り下げられればそのまま捜査が終了したり、検察官の処分前に取り下げられれば起訴されずに済み刑罰を受けずに済むことが期待できます。