「行政書士として働いているが、罪に問われ前科がつく可能性がある。資格を剥奪される可能性はあるのか」「行政書士を目指して勉強をしているが、過去に前科がある。資格を取得することはできるのか」
こちらの記事では、現在行政書士として仕事をされている方や、これから行政書士を目指している方の前科と免許・資格に関するこのような疑問に詳しくお答えしていきます。また、不起訴処分を得て前科を回避するためにすべきことについても解説します。
目次
行政書士は前科がついたら資格を剥奪される?
行政書士として働いている人、または行政書士を目指している人に前科がついた場合、資格を有しないとされることがあります。
行政書士は禁錮以上の前科がつくと資格を有しないとされる
行政書士に関する諸制度を定めた法律である行政書士法は、第2条の2第3号においてその業務に就くのに要求されている資格を欠くとみなされる要件である「欠格事由(けっかくじゆう)」を定めており、以下に該当する者は「行政書士となる資格を有しない」としています。
三 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつてから三年を経過しない者
行政書士法2条
また同法14条は、「行政書士が、この法律若しくはこれに基づく命令、規則その他都道府県知事の処分に違反したとき又は行政書士たるにふさわしくない重大な非行があつたときは、都道府県知事は、当該行政書士に対し、次に掲げる処分をすることができる」と定めています。
一 戒告
二 二年以内の業務の停止
三 業務の禁止
行政書士法14条
その他、行政書士が業務を行うにあたって所属する行政書士会には独自に会則が定められており、それに則って処分が下される可能性があります。
日本行政書士会連合会が「綱紀事案の公表」としてホームページに掲載している処分の一覧を見ると、2021年3月、広島県行政書士会に所属する税理士が元依頼人の妻に対して暴行を加え、20万円の罰金刑となった例があります。
このことは行政書士法14条の「行政書士たるにふさわしくない重大な非行」であるとみなされ、県知事により戒告とする処分が下っています。
逮捕は前科ではないので資格に影響しない
前科とは、過去に有罪判決を受けた事実のことを指します。前出の行政書士法2条の2の場合、「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつてから三年を経過しない者」に該当します。
一般的には、「逮捕=前科」と思われがちですが、単に逮捕されただけでは前科がつくことはありません。捜査機関から捜査を受けた履歴のことは「前歴」と呼ばれ、捜査機関にのみ残るものです。
したがって、逮捕されたのみでは行政書士資格に直接影響することはないといえます。ただし、もし逮捕が長引いたりした場合、風評によって仕事を失ったりするリスクはあります。そのため、早期に弁護士に相談するなどの対応が重要です。
前科があると3年間は行政書士の資格を取得できない
欠格事由には、該当すると直ちに欠格となる絶対的欠格事由と、該当していても場合によっては資格が認められる相対的欠格事由があります。
行政書士法2条の2は、該当する者は「行政書士となる資格を有しない」としており、前者の絶対的欠格事由にあたります。そのため、禁錮以上の刑の執行が終わってから3年間は行政書士の資格を取得することはできません。
前科とは?罰金や執行猶予も前科になる?
前科とは、「刑事裁判で有罪判決が確定すること」であり、裁判になっても無罪判決を獲得できれば前科はつきません。
裁判以外で前科を回避する方法として、不起訴処分を獲得し、刑事裁判を開くことなく事件を解決に導く、という方法があります。
前科とは懲役刑や罰金刑が裁判で確定すること
前科とは、刑事裁判で有罪判決を受け、その判決が確定した際につくものです。
逮捕後は、一定の勾留期間を経て、検察官が起訴か不起訴かの判断を下し、起訴されて裁判で有罪判決が確定した場合、前科がつくことになります。
したがって、検察官が裁判を行わないという「不起訴処分」の判断を下せば、その人が刑罰に問われることはなく、前科はつかないということになります。
執行猶予や略式罰金も前科になる
裁判において「執行猶予つき判決」や「略式罰金」の判決が出た場合でも前科になります。
ただし、行政書士法は欠格事由を「禁錮以上の刑」としているため、罰金以下の刑の場合は該当しません。
一度ついた前科は消えないが、法的な効力は一定期間で消失する
罪を犯し前科がついた場合、事件記録が検察庁や裁判所に保管されます。そのため、前科がついたという事実は消えることはありません。
しかし、前科の事実は消えなくても、その法的な効力は失効することがあります。具体的には、禁固以上の刑の場合は10年、罰金以下の刑の場合は5年の間、刑の執行を終えてから新たに罰金以上の刑に処せられなかった場合、前科としての法的な効力が失効するのです。
前科の法的な効力が失効すれば、行政書士法の欠格事由には該当しません。
行政書士が前科で資格を失わないために弁護士へ早期相談
行政書士が何らかの罪を犯したことにより前科がついた場合、資格の取り消しなどが行われる可能性があることがわかりました。
前科により資格を失わないためには、早期に弁護士に相談することが重要となります。
不起訴処分を獲得し前科を回避する
検察官により起訴が行われた場合、裁判で無罪になるのは非常に難しくなります。しかし、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判を受けることがなくなるため、前科がつく可能性はゼロになります。
すなわち、前科がつくことを回避するためには、不起訴処分を目指すことが最も現実的な手段となります。
示談で不起訴の可能性を高める
被害者のいる犯罪の場合、早期に被害者対応を行うことが肝要です。真摯に反省して謝罪を行い、示談を締結することで、検察官が再犯の可能性や加害者家族への影響などといった様々な情状を考慮し、最終的に「起訴するほどではない」と判断する「起訴猶予」の可能性が高まります。
被害者と示談するためには弁護士に相談する
被害者との間に示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
逮捕されてから起訴される前の身柄拘束が続く期間は、最大で23日間となっています。起訴が決定された後で示談が成立しても、後から不起訴とすることはできないため、示談交渉はその間に行う必要があります。そのため、できる限り早い段階で弁護士に相談することが大切になってきます。
逮捕されている場合、加害者本人は示談交渉はできず、また逮捕されていない場合であっても加害者と被害者が直接示談交渉を行うことは困難です。そのため、示談交渉の際は弁護士を間に立てることが必要となります。