「司法書士として働いているが、罪に問われたことで前科がつくかもしれない。資格を剥奪されることはあるのか」「これから司法書士を目指して勉強をしているが、過去に前科がある。司法書士試験を受験して資格を取得することはできるのか」
この記事では、司法書士として働かれている方や、これから司法書士を目指している方の前科と免許・資格に関するこのような疑問に詳しくお答えしていきます。また、不起訴処分を得て前科がつくことを回避するためにすべきことなどについても解説します。
目次
司法書士は前科がついたら資格を剥奪される?
司法書士として働いている人、または司法書士を目指している人に前科がついた場合、資格を剥奪されたり、試験を受験することができなくなったりすることがあります。
司法書士は禁錮以上の前科がつくと資格を有しないとされる
司法書士に関する諸制度を定めた法律である司法書士法は、その業務に就くのに要求されている資格を欠くとみなされる要件を示した、第5条「欠格事由(けっかくじゆう)」の1号にて、以下のような者は司法書士となる資格を有しないと定めています。
一 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつてから三年を経過しない者
司法書士法5条
よって、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終えてから3年が経過していない者は司法書士の資格を有しません。
また前科による欠格事由とは別に、司法書士法47条は、司法書士が同法、または同法に基づく命令に違反した場合、法務大臣によって次のような処分が下されることがあると定めています。
一 戒告
二 二年以内の業務の停止
三 業務の禁止
司法書士法47条
処分が下ると、日本司法書士連合会がホームページ上で公開している「綱紀事案公表一覧」に、その詳細が公表されることとなります。
逮捕は前科ではないので資格に影響しない
前科とは、過去に有罪判決を受けた事実のことを指します。前出の司法書士法第5条1号の場合、「禁錮以上の刑に処せられた者」が欠格事由に該当します。
一般的には、「逮捕=前科」と思われがちですが、単に逮捕されただけでは前科がつくことはありません。捜査機関から捜査を受けた履歴のことは「前歴」と呼ばれ、捜査機関にのみ残るものです。
したがって、逮捕されたのみでは司法書士資格に直接影響することはないといえます。ただし、もし逮捕が長引いたりした場合、風評によって仕事を失ったりするリスクはあります。そのため、早期に弁護士に相談するなどの対応が重要です。
前科があると3年間は司法書士の資格を取得できない
欠格事由には、該当すると直ちに欠格となる絶対的欠格事由と、該当していても場合によっては資格が認められる相対的欠格事由があります。
司法書士法5条は、該当する者は「司法書士となる資格を有しない」としているため、前者の絶対的欠格事由にあたります。そのため、禁錮以上の刑の執行が終わってから3年間は司法書士の資格を取得することはできません。
前科とは?罰金や執行猶予も前科になる?
前科とは、「刑事裁判で有罪判決が確定すること」であり、裁判になっても無罪判決を獲得できれば前科はつきません。
裁判以外で前科を回避する方法として、不起訴処分を獲得し、刑事裁判を開くことなく事件を解決に導く、という方法があります。
前科とは懲役刑や罰金刑が裁判で確定すること
前科とは、刑事裁判で有罪判決を受け、その判決が確定した際につくものです。
逮捕後は、一定の勾留期間を経て、検察官が起訴か不起訴かの判断を下し、起訴されて裁判で有罪判決が確定した場合、前科がつくことになります。
したがって、検察官が裁判を行わないという「不起訴処分」の判断を下せば、その人が刑罰に問われることはなく、前科はつかないということになります。
執行猶予や略式罰金も前科になる
裁判において「執行猶予つき判決」や「略式罰金」の判決が出た場合でも前科になります。
ただし、司法書士法は欠格事由を「禁錮以上の刑」としているため、罰金以下の刑の場合は該当しません。
一度ついた前科は消えないが、法的な効力は一定期間で消失する
罪を犯し前科がついた場合、事件記録が検察庁や裁判所に保管されます。そのため、前科がついたという事実は消えることはありません。
しかし、前科の事実は消えなくても、その法的な効力は失効することがあります。具体的には、禁固以上の刑の場合は10年、罰金以下の刑の場合は5年の間、刑の執行を終えてから新たに罰金以上の刑に処せられなかった場合、前科としての法的な効力が失効するのです。
効力が失効すれば、司法書士法の欠格事由には該当しません。
司法書士が前科で資格を失わないために弁護士へ早期相談
司法書士が何らかの罪を犯したことにより前科がついた場合、資格の取り消しなどが行われる可能性があることがわかりました。
前科により資格を失わないためには、早期に弁護士に相談することが重要となります。
不起訴処分を獲得し前科を回避する
検察官により起訴が行われた場合、裁判で無罪になるのは非常に難しくなります。しかし、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判を受けることがなくなるため、前科がつく可能性はゼロになります。
すなわち、前科がつくことを回避するためには、不起訴処分を目指すことが最も現実的な手段となります。
示談で不起訴の可能性を高める
被害者のいる犯罪の場合、早期に被害者対応を行うことが肝要です。真摯に反省して謝罪を行い、示談を締結することで、検察官が再犯の可能性や加害者家族への影響などといった様々な情状を考慮し、最終的に「起訴するほどではない」と判断する「起訴猶予」の可能性が高まります。
被害者と示談するためには弁護士に相談する
被害者との間に示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
逮捕されてから起訴される前の身柄拘束が続く期間は、最大で23日間となっています。起訴が決定された後で示談が成立しても、後から不起訴とすることはできないため、示談交渉はその間に行う必要があります。そのため、できる限り早い段階で弁護士に相談することが大切になってきます。
逮捕されている場合、加害者本人は示談交渉はできず、また逮捕されていない場合であっても加害者と被害者が直接示談交渉を行うことは困難です。そのため、示談交渉の際は弁護士を間に立てることが必要となります。
司法書士が罪を犯し前科がついた場合、資格の剥奪などの処分がなされる可能性があります。
資格を失わないためには、早期に弁護士に相談し、示談を締結することが重要です。