1. »
  2. »
  3. 拘禁刑とは?拘禁刑の内容、創設の理由を解説

拘禁刑とは?拘禁刑の内容、創設の理由を解説

拘禁刑

2022年6月13日、懲役と禁錮を廃止し「拘禁刑」に一本化する改正刑法が参院本会議で賛成多数により可決、成立しました。1907年の刑法制定以来、刑の種類が変更されるのは実に115年ぶりの出来事です。改正刑法の施行は2025年の見込みです。

この記事では、拘禁刑の内容や、拘禁刑が創設された理由をわかりやすく解説します。

刑事事件でお困りの方へ
無料相談予約をご希望される方はこちら
tel icon
24時間365日いつでも相談予約受付中 0120-204-911

※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は有料となります。

拘禁刑とは?

現在の刑罰の内容は?

現行刑法における刑罰(主刑)は、以下の6種類あります。

生命刑
(生命を奪う刑罰)
自由刑
(身体の自由を奪う刑罰)
財産刑
(財産を奪う刑罰)
死刑懲役、禁錮、拘留罰金、科料

このうち、自由刑の中の「懲役」と「禁錮」を一本化して新たに創設された刑罰が「拘禁刑」です。

懲役は刑務作業が義務付けられる一方、禁錮は義務ではありません。しかし、実際には、禁錮刑受刑者の大半が自発的に希望して刑務作業に従事しています。そのため、懲役と禁錮を分ける実益は乏しいのではないかと指摘されてきました。

このような指摘を踏まえ、拘禁刑では刑務作業は義務ではなくなりました。刑務作業が義務でなくなった分、再犯防止に向けた改善指導等に重点を置くことが可能になります。

関連記事

刑罰について知りたい!

拘禁刑の下限と上限は?適用対象は?

拘禁刑には、無期と有期があります。有期拘禁刑は1月以上20年以下です。ただし、併合罪等で拘禁刑を加重するときは30年まで上げることができ、減軽する場合は1月未満に下げることができます。

拘禁刑の適用対象は施行後の犯罪です。施行前に懲役刑や禁錮刑が確定した受刑者には従来通り懲役刑、禁錮刑が執行されます。

拘禁刑で刑罰はどう変わる?

改正刑法は、拘禁刑の受刑者に対して「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」と規定しています。

一方、現行法は、懲役刑の受刑者に対し「所定の作業を行わせる」としか規定していません。

このように、拘禁刑創設によって「改善更生」に重点を置くことと、そのための「指導」が明記されたことが今回の刑法改正の重要なポイントです。

具体的には、以下の変化が生じます。

①受刑者の年齢、特性に応じた柔軟な処遇が可能になる

懲役刑のもとでは、刑務作業に時間をとられ再犯防止や社会復帰に向けた取組みは不十分になっているのが実情です。

しかし、拘禁刑創設によって、刑務作業は義務ではなくなります。そのため、刑務作業を一律に行わせるのではなく、受刑者の年齢や特性に応じて、改善指導教科指導を柔軟に行うことが可能になるのです。

改善指導というのは受刑者に対し、犯罪の責任を自覚させ、社会生活に適応するのに必要な知識や生活態度を習得させるために行う指導です。講話、体育、行事などを行う一般改善指導と、薬物依存者等に更生プログラムを実施する特別改善指導があります。

教科指導というのは学校教育の内容に準ずる指導です。学力が不足しているため改善更生及び社会復帰に支障がある受刑者に対し行う補修教科指導と、学力向上が円滑な社会復帰につながると認められる受刑者に対し行う特別教科指導があります。

例えば、刑務作業が困難な高齢受刑者には、リハビリや福祉的支援を重点的に行います。また、学力不足で社会生活に支障がある若年者等に対しては、学力を向上させる指導に力を入れます。さらに、受刑者に被害者の心情を伝えて理解を促し、再犯防止につなげる制度も創設されます。

②懲役刑と禁錮刑が廃止され、法定刑が変わる

拘禁刑創設に伴い、懲役刑と禁錮刑は廃止されます。

そのため、現行法のもとで法定刑が「懲役」「禁錮」「懲役又は(若しくは)禁錮」と規定されているものは、すべて「拘禁刑」に変わります。

例えば、窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」から「10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」に改正されます。

また、業務上過失致死傷罪の法定刑は、「5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」から「5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」に改正されます。

刑法以外の法律や条例の中にも罰則が定められているものが多数あります。それらの罰則についても「懲役」や「禁錮」は、すべて「拘禁刑」に統一されることになります。

なお、拘留(1日以上30日未満の身体拘束)については比較的軽微な犯罪に対する自由刑であり、その効果も懲役や禁錮とは異なるため、拘禁刑に統一せず、そのまま残されることになっています。

拘禁刑の今後の課題は?

拘禁刑の目的である、受刑者の特性に合った柔軟な処遇を実施するには、介護、福祉、医療など専門性をもった人材の確保が課題です。これらの専門家と刑務所の職員が連携して、受刑者一人一人に合った処遇を行うことが再犯防止につながります。

また、再犯防止を実現するには、出所後の「居場所」も不可欠です。居場所とは、住居だけでなく、安定した就労場所も意味します。実際、再犯者の多くが出所後に住居や就労先が確保できず再び犯罪に手を染めてしまっているのです。住居や就労場所の確保には、地域住民の理解と協力も重要です。

拘禁刑が創設された理由は?

再犯者率の悪化

刑法犯の検挙者数は年々減っているものの、再犯者率(検挙された刑法犯のうち再犯者の占める割合)は増加傾向にあります。

令和3年版犯罪白書によると、2020年の再犯者率は過去最悪の49.1%に上ります。再犯者率を押し上げた背景の一つに、コロナ禍で企業の経営が悪化し、出所者の雇用先が減少したことがあると考えられます。

再犯者率が悪化している状況を受け、刑務所内で再犯防止に向けた取組みに重点を置く制度の新設が検討されてきました。

受刑者の高齢化

犯罪白書によると、2020年の65歳以上の高齢受刑者は2,143人で、2001年と比べて約2.1倍に増加しています。特に、70歳以上の受刑者の増加は激しく、2001年と比べ約3.8倍に急増しています。

高齢受刑者の中には、刑務作業を行うことが困難で他の受刑者の介護が必要な人も少なくないのが実情です。

受刑者の高齢化を受け、法務省は、一律に刑務作業を課すのではなく、リハビリなど社会復帰を見据えた処遇を柔軟に行えるようにする新自由刑の新設を検討してきました。

懲役刑は「作業」時間が長く「指導」が不十分

懲役刑には大きな問題があります。それは、刑務作業の時間が長く、改善指導等のために十分な時間がとれないという点です。

刑務作業の内容は、職業訓練のほか、木工、印刷等の生産作業、公園の除草等の社会貢献作業、炊事、清掃等の自営作業です。

もちろん、改善更生や社会生活への適応能力を養うために刑務作業は大切です。しかし、受刑者によっては、刑務作業よりも、性犯罪や薬物犯罪等を二度と繰り返さないための指導を受ける必要性が高い人もいます。また、若年者の場合は、教育を重視して社会復帰に備えることも再犯防止のため特に重要です。

もっとも、現行法は懲役について「作業を行わせる」(刑法12条2項)と規定しているため、刑務作業時間をゼロにはできません。刑務作業の時間は1日8時間以内と規定されています。実際1日6~7時間程度刑務作業をするケースが多いようです。

これでは、再犯防止に必要な指導に十分な時間を割くことができません。そこで、受刑者の年齢や特性に応じて、指導に重点を置くなど柔軟な処遇が可能となる制度作りが検討されてきました。

懲役と禁錮を分ける実益が乏しい

令和3年版犯罪白書によると、2020年に新たに入所した受刑者の刑の種類は、懲役1万6,562人(99.7%)、禁錮53人(0.3%)、拘留5人でした。さらに、禁錮受刑者は、2021年3月31日時点で、79.8%が刑務作業に従事していました。

禁錮刑は刑務作業が義務ではないため、何も希望しなければ独房に居続けることになります。しかし、長時間何もしないままでいるのは実際には相当な苦痛です。そのため、禁錮刑受刑者の多くが自ら希望して刑務作業を行っているのだと考えられます。

このように、受刑者の大部分は懲役受刑者であり、しかも禁錮刑受刑者の大半も刑務作業に従事している現状からすると、懲役と禁錮を分ける実益が乏しいと指摘されてきました。

拘禁刑のまとめ

上記の理由から、受刑者ごとに作業と指導を柔軟に行うことを可能にし、改善更生と再犯防止を実現する目的で拘禁刑が創設されました。

今回の刑法改正により、刑罰の目的が「受刑者に懲罰を与えること」から、「再犯防止のために教育すること」に重点が移ります。再犯防止対策の充実によって、安心・安全な地域社会の実現も期待できます。

刑事事件のお悩みはアトム法律事務所へ

刑事事件の被疑者になった方やそのご家族は、「逮捕されるのか」「刑罰はどうなるのか」など不安が尽きませんよね。そのような方は、ぜひ刑事事件に強いアトム法律事務所の弁護士にご相談ください。弁護士への相談が問題解決の大きな一歩になります。

アトム法律事務所の弁護士は、ご相談者様が日常生活を一日も早く取り戻せるよう全力を尽くします。また、再犯防止のための具体的な対策をご相談者様とともに考え抜きます。

私たちは終始一貫してご相談者様の味方です。お一人で悩まず、ぜひ一度お電話ください。

刑事事件でお困りの方へ
無料相談予約をご希望される方はこちら
24時間365日いつでも相談予約受付中 0120-204-911

※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は有料となります。

岡野武志弁護士

監修者

アトム法律事務所
代表弁護士 岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了