2025年6月より、懲役・禁錮刑が「拘禁刑」に統一されました。
「看護師に前科がつくと免許を取り消されるのだろうか」「過去に前科があるが、これから看護師免許を取得することはできるのか」——このような不安を抱えている方は少なくありません。
結論として、看護師に罰金以上の前科がつくと、保健師助産師看護師法(保助看法)の相対的欠格事由に該当し、免許の取り消しや業務停止などの行政処分を受ける可能性があります。
ただし、逮捕されただけでは前科はつかず、不起訴処分を獲得できれば前科を回避して免許を守ることが可能です。
この記事では、看護師の前科と免許の関係や欠格事由の具体的な内容、そして前科を回避して免許を守るための具体的な方法について詳しく解説します。
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目次
看護師は前科がつくと免許を取り消される?
刑事事件を起こして前科がついた場合、看護師免許の取り消しや業務停止といった重い処分を受ける可能性があります。
ここでは、前科が看護師免許にどのような影響を与えるかを詳しく解説します。
看護師は罰金以上の前科がつくと免許を取り消される場合がある
看護師が何らかの罪を犯し、罰金以上の刑に処せられて前科がついた場合、免許を取り消される可能性があります。
看護師の資質向上を目指す法律である「保健師助産師看護師法(保助看法)」は、第9条において、以下に該当する者には免許を与えないことがあると定めています。
一 罰金以上の刑に処せられた者
二 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者
保健師助産師看護師法9条
このように、一定の業務に就くための資質を欠いているとみなされる事柄を欠格事由と呼びます。
欠格事由に該当した場合の行政処分の内容
看護師が保助看法第9条の欠格事由に該当した場合、または看護師としての品位を損なう行為があった場合、同法第14条に基づき、厚生労働大臣によって以下の処分が下されることがあります。
前科がついた看護師が受ける処分の例
- 戒告(文書または口頭による厳重注意処分)
- 3年以内の業務の停止
- 免許の取消し
処分内容は罪の重さや情状によって異なりますが、深刻な犯罪と判断された場合には免許の取り消しという最も重い処分が科される可能性があります。
医道審議会における処分の実例
看護師に対する行政処分は、厚生労働省が設置する医道審議会のうち、保健師助産師看護師分科会看護倫理部会が審議を行います。
2025年8月に行われた同部会では、33名の看護師に対する処分等が審議され、うち22名に行政処分、11名に行政指導(厳重注意)がなされました。処分の内訳は以下のとおりです。
前科がついた看護師が受ける処分の例
- 免許取消:5件(殺人1件、窃盗2件、非現住建造物等放火未遂・非現住建造物等放火・詐欺1件、恐喝1件)
- 業務停止2年:2件(覚醒剤取締法違反1件、詐欺1件)
- 業務停止1年6月:1件(①道路交通法違反・過失運転致傷、②道路交通法違反1件)
- 業務停止1年2月:1件(大麻取締法違反1件)
- 業務停止1年:1件(危険運転致傷1件)
- 業務停止11月:1件(道路交通法違反・過失運転致傷1件)
- 業務停止6月:1件(公職選挙法違反1件)
- 業務停止3月:9件(道路交通法違反4件、熊本県迷惑行為等防止条例違反1件、暴行4件)
- 戒告:1件(建造物侵入1件)
このように、殺人や放火といった重大犯罪だけでなく、暴行といった比較的身近な犯罪でも業務停止処分が下されていることがわかります。また、免許取消5件のうち窃盗が2件含まれている点は、看護師として注意すべきポイントです。
交通違反で看護師免許を取り消されるリスク
看護師にとって、最も身近な前科のリスクのひとつが交通違反です。どのような交通違反で前科がつく可能性があるのかを正しく理解しておきましょう。
軽微な交通違反は欠格事由にならない
軽微な交通違反であれば、看護師の欠格事由には該当しません。
駐車違反や一定範囲内の速度超過(一般道で30km未満、高速道路で40km未満)などの交通違反で支払う「反則金」は、交通反則通告制度に基づく制裁金であり、刑事罰の罰金刑とは性質が異なります。そのため、反則金を支払うだけでは前科はつきません。
また、被害者のいない単独事故の場合も、刑事処分に至らなければ前科にはなりません。
飲酒運転・人身事故は前科がつくリスクがある
一方で、以下のような重大な交通違反は刑事裁判となり、前科がつく可能性が高くなります。
前科がつきやすい交通違反
- 飲酒運転(酒酔い運転・酒気帯び運転)
- 無免許運転
- 危険運転致死傷
- 過失運転致死傷
これらの違反で有罪判決が確定した場合は、看護師の欠格事由に該当し、免許への影響が避けられない可能性があります。
なお、過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪は、不注意で事故を起こしたのか、故意に危険な行為をして事故を起こしたのかという点で異なります。
交通事故事件の不起訴率などに関してはこちらの記事で詳しく解説しています。
公立病院の看護師は公務員法も適用される
看護師の勤務先が公立病院の場合、保助看法だけでなく公務員法の規定も適用されるため、より厳しい基準で処分が判断される可能性があります。
地方公務員法の欠格事由
公立病院など、国や自治体が運営する病院で働く看護師に対しては、保助看法に加えて公務員法が適用されます。
地方公務員法第16条第2号には、「拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」は職員の欠格事由に該当する旨が規定されています。
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・公務員に前科がついたら免職になる?懲戒処分の基準を解説
看護師免許取り消し以前に失職する可能性
公務員の看護師が拘禁刑以上の前科を受けた場合、看護師免許の行政処分が下される前に、公務員法上の欠格事由に基づいて失職する可能性があります。
つまり、看護師としての資格を失うだけでなく、公務員としての職も同時に失うリスクがあるということです。
このため、公立病院に勤務する看護師は、前科を避けるための対応がいっそう重要になります。
一度前科がついたら看護師になるのは難しい?
看護師として働いていた方、これから看護師を目指している方の中には、過去の前科が試験や免許取得に影響するのではないかと不安に感じている方もいるでしょう。
前科があっても看護師試験を受験すること自体は可能
結論として、前科がある場合でも看護師国家試験を受験すること自体は可能です。ただし、試験に合格しても、最終的に免許が発行されない場合があります。
看護師国家試験に合格した後は、保健所で免許の申請手続きを行いますが、その際に過去の賞罰について申告する義務があります。申告内容を踏まえて審議が行われ、免許を付与するかどうかの判断が下されます。
実務上は免許再取得のハードルは高い
実務上、一度免許取り消しになってしまうと、再免許取得へのハードルが高いのが現実です。
2020年~2025年の医道審議会では、元看護師13名に対する再免許付与について議論され、結果的に再免許が付与されたのは1名のみです(医道審議会 保健師助産師看護師分科会看護倫理部会より参照 )。
職業を守るためには、前科をつけずに事件を解決することが重要になります。
看護師が前科を回避して免許を守るための方法
ここまで解説したとおり、前科がつくと看護師免許に深刻な影響を及ぼす可能性があります。免許を守るための最も効果的な方法は、前科がつくことを未然に防ぐことです。
不起訴処分を獲得し前科を回避する
検察官により起訴された場合、日本の刑事裁判における有罪率は99%以上と非常に高く、起訴後に前科を回避することは極めて困難です。
一方で、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判が行われないため前科がつく可能性はありません。
すなわち、前科を回避するためには、不起訴処分を獲得することが最も現実的かつ効果的な手段となります。
被害者との示談で不起訴の可能性を高める
被害者のいる犯罪の場合、被害者への謝罪と示談の締結が不起訴処分を得るための重要なポイントとなります。
示談が成立することで、検察官は以下のような点を総合的に考慮し、「起訴するほどではない」と判断する「起訴猶予」処分を下す可能性が高まります。
- 被害者の処罰感情が緩和されていること
- 被害の回復が図られていること
- 加害者が真摯に反省していること
- 再犯のおそれが低いこと
示談交渉には弁護士のサポートが不可欠
被害者との示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
まず、起訴が決定された後に示談が成立しても、原則として不起訴に覆すことはできないため、示談交渉は起訴前の限られた時間内に行う必要があります。
逮捕されている場合は、起訴までの身柄拘束期間が最大23日間しかなく、検察が早期に起訴を判断する可能性があるため、示談のタイムリミットはさらに厳しくなります。
また、逮捕・勾留中の加害者本人が被害者と直接交渉することはできません。在宅事件であっても、加害者が被害者に直接連絡することは事態を悪化させるリスクが高いため、弁護士を通じた交渉が必要です。
どのようなケースであっても、示談を締結するためには、できる限り早い段階で弁護士に相談することが重要です。

看護師免許への影響を見据えた弁護活動
看護師が刑事事件の被疑者となった場合、一般的な刑事弁護に加えて、将来の行政処分(医道審議会の審議)を見据えた弁護活動が求められます。
不起訴処分を獲得できれば、罰金以上の刑に処せられた者という欠格事由には該当しないため、行政処分を受けるリスクを大幅に低減できます。
万が一、起訴が避けられない場合でも、判決の内容(罰金刑の金額や執行猶予の有無など)が行政処分の軽重に影響するため、看護師免許への影響を最小限に抑えるための弁護戦略が重要です。
看護師の前科に関するよくある質問
Q.看護師が逮捕されたら免許は取り消されますか?
逮捕されただけでは看護師免許は取り消されません。
前科とは刑事裁判で有罪判決が確定した場合につくものであり、逮捕の段階では前科には該当しません。
ただし、逮捕が長期化することで職場での立場に影響が出る可能性はあるため、早期に弁護士へ相談して釈放に向けた対応をとることが重要です。
Q.交通違反で看護師免許を取り消されることはありますか?
軽微な交通違反(駐車違反、30km未満の速度超過など)の反則金は刑事罰ではないため、前科にはならず、看護師免許には影響しません。
しかし、飲酒運転や人身事故などの重大な交通違反で有罪判決が確定した場合は前科となり、免許取り消しや業務停止の対象となる可能性があります。
Q.執行猶予つきの判決でも看護師免許に影響がありますか?
執行猶予つきの判決であっても前科に該当するため、看護師免許に影響する可能性があります。
保健師助産師看護師法の欠格事由は「罰金以上の刑に処せられた者」と規定されており、執行猶予つき判決もこれに含まれます。
医道審議会の審議で処分内容が決定されますが、免許取り消しから戒告まで、罪の内容や情状に応じた判断がなされます。
アトムの解決事例(看護師)
窃盗事件
アトムの解決事例(不起訴処分)
バス車内の忘れ物と思い交番に届けた21歳看護師の女性が、約3ヶ月後に警察から窃盗事件として捜査されていると告げられた事案。依頼者に窃盗の意図は全くなく、無実を主張していた。
弁護活動の成果
弁護士が、交番への即時届け出・中身が金目の物でない点・前科前歴なしの3点を根拠に不起訴の見込みを主張し、示談交渉なしで検察官の理解を得た。約3か月弱で不起訴処分が確定し、看護師としての社会生活への影響を回避することができた。
盗撮事件
アトムの解決事例(不起訴処分)
20代の男性看護師が店舗内で女性客のスカート内をスマートフォンで盗撮し、手が当たり発覚・警察に通報された事案。在宅事件として捜査が進む中、依頼者自身が示談金100万円で被害者と示談を成立させていた。
弁護活動の成果
弁護士が取調べへの対応を複数回アドバイスするとともに、すでに成立していた示談書と上申書を添えた意見書を検察官に提出した。その結果、事前の示談成立が有利に考慮され、不起訴処分となり前科を回避した。
自動車のひき逃げ事件
アトムの解決事例(不起訴処分)
30代の看護師女性が子どもを乗せて運転中、交差点でバイクと接触したことに気づかずそのまま立ち去ったひき逃げの事案。帰宅後に車の傷に気づき自ら警察に出頭したが、検察官から「気づかなかった」との主張に疑問を呈され、公判請求の可能性も示唆された。
弁護活動の成果
示談交渉が感情的対立でこじれた状態から、弁護士が粘り強く謝罪を続けて被害者の態度を軟化させ、示談成立にこぎつけた。これにより不起訴処分を獲得し、前科回避・公判請求を回避することができた。
まとめ
看護師が前科を負った場合、保健師助産師看護師法の欠格事由に該当し、免許の取り消しや業務停止などの行政処分を受ける可能性があります。執行猶予つきの判決や略式罰金であっても前科となるため、注意が必要です。
看護師免許を守るうえで最も重要なのは、不起訴処分を獲得して前科を回避することです。適切な弁護活動により、不起訴を得られる可能性は十分にあります。特に被害者のいる犯罪では、早期の示談交渉が不起訴獲得の鍵となります。
刑事事件を起こしてしまった場合や、逮捕の不安がある場合は、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、免許を守るための適切な対応を開始することをおすすめします。
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