こちらの記事では、医師・歯科医師がわいせつに関する罪を犯した場合、どのような処分が下されるのか、医師免許・歯科医師免許を剥奪される可能性について、また性犯罪の類型ごとの刑罰についても解説します。
医師・歯科医師が診療中にわいせつ行為を行った場合、特に厳しい処分が下されると考えられますが、医師免許・歯科医師免許を失わないためには、早期に弁護士に相談することが重要です。
目次
医師・歯科医師がわいせつ等の性犯罪で逮捕されたら免許を剥奪される?
性犯罪に限らず、医師・歯科医師が何らかの犯罪を犯して前科がついてしまった場合、医師免許・歯科医師免許を剝奪されたり、新たに取得できなくなることがあります。
医師・歯科医師は禁錮以上の前科がつくと免許を剥奪される
医師法4条3・4号は、以下に該当する者には「免許を与えないことがある」と定めています。
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
医師法4条
また同法7条は、医師が第4条のいずれかに該当する、または医師としての品位を損するような行為があった場合、厚生労働大臣により以下のような処分が下ることがあると定めています。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し
医師法7条
また歯科医師についても、歯科医師法4条および7条にて医師と全く同じ欠格事由と処分が定められています。
処分については、医師・歯科医師ともに、厚生労働省が設置する医道審議会のうち、年に1~3回程度開催される医道分科会にて決定されます。
行政処分を行うにあたっては、厚生労働省が2002年に発布した「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」の「7)猥せつ行為(強制猥せつ、売春防止法違反、児童福祉法違反、青少年育成条例違反等)」において、以下のような考え方が示されています。
国民の健康な生活を確保する任務を負う医師、歯科医師は、倫理上も相応なものが求められるものであり、猥せつ行為は、医師、歯科医師としての社会的信用を失墜させる行為であり、また、人権を軽んじ他人の身体を軽視した行為である。
厚生労働省「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について(PDF)」
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、特に、診療の機会に医師、歯科医師としての立場を利用した猥せつ行為などは、国民の信頼を裏切る悪質な行為であり、重い処分とする。
公開されている医道分科会の議事要旨をみると、2021年7月1日の分科会において、児童買春などの罪に問われた医師1名が医業停止2年の処分を受けた例があります。
また、患者にわいせつ行為を行った医師が示談により不起訴になった後すぐに診療を再開するケースなどは、近年政府内から問題視する声が上がるようになっています。
このため、厚生労働省は今後、民事裁判で認められた事実関係も活用していくなど、特に患者に対してわいせつ行為を行った医師・歯科医師に対する処分方針を見直し厳格化や明確化を行っていくとしています。
医師・歯科医師がわいせつ等の性犯罪で逮捕された後の流れ
医師が性犯罪により逮捕された後は、どのような流れで刑が確定するのでしょうか。
逮捕されてから起訴・不起訴の決定が行われるまでは、最大で23日間の身体拘束が続く可能性があります。
事件を検察官に引き継ぐ検察官送致(送検)の手続きは逮捕後48時間以内に行われます。検察官の判断により24時間以内に勾留請求が行われ、勾留質問などのあと、原則10日間身柄が拘束されます。必要に応じ、最大10日間の勾留延長が行われます。
捜査の結果、検察官は起訴・不起訴を判断します。起訴されると略式裁判もしくは正式裁判が開かれ、罰金刑や懲役刑などの刑罰が決定されます。
医師・歯科医師がわいせつ等の性犯罪で免許を失わないための正しい対処法
前科とは起訴され刑事裁判で有罪が確定することをいいます。日本においては、起訴された場合の有罪率はほぼ99.9%に上るため、前科がつくことを避けるためには刑事裁判が開かれなくなる不起訴処分を得ることが重要です。
不起訴処分を得るためには、検察官が判断を下すまでに、示談を締結するなどの活動を行うことが必要となります。
また、逮捕されている場合でも、逮捕されたのみでは前科がつくことはありません。不起訴処分を得るために、まずは早期の釈放を目指すこととなります。
いずれの場合であっても、できるだけ早く弁護士に相談することが大切なのです。
わいせつ・盗撮・児童買春・痴漢・強制性交の刑罰は?
わいせつに関連する性犯罪にはいくつかの種類があり、その刑罰も異なります。それぞれを見てみましょう。
強制わいせつの刑罰
強制わいせつについては、刑法176条にその定義や処罰が規定されています。
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑法176条
盗撮の刑罰
盗撮罪という罪はなく、盗撮行為については基本的には各都道府県の迷惑防止条例が適用されます。
迷惑防止条例は各都道府県が制定している粗暴行為などを取り締まるための法律です。
東京都の迷惑防止条例では、以下の通り定められています。
(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
東京都「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」5条
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
上記に違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されることになります。
迷惑防止条例はこのように「人が通常衣服を身につけないような場所」「公共の場所」などの盗撮行為を禁じています。
ただ都道府県によっては、公共の場所のみの盗撮を禁じ、住居等の盗撮について規制の対象外としているケースもあります。
そのような都道府県における住居等の公共の場所以外での盗撮は、住居侵入罪や軽犯罪違反として処罰されることになります。
児童買春の刑罰
児童買春については、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」4条に以下のように定められています。
児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条
痴漢の刑罰
痴漢行為に対しても、痴漢罪という刑罰はなく、基本的には各都道府県の定める迷惑防止条例が適用されます。東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」では、痴漢行為については6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金としています。
また、痴漢であっても行為の悪質性によっては強制わいせつ罪が適用されることもあります。この場合は前述の通り6ヶ月以上10年以下の懲役となります。
強制性交の刑罰
刑法177条に定められた強制性交罪は、以前は強姦罪という名称でしたが、2017年に法改正が行われて現在の名称となり、被害者の告訴を必要としない非親告罪となっています。
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
刑法177条
医師・歯科医師がわいせつ等の性犯罪で免許を失わないためには弁護士へ早期相談を
医師・歯科医師が万引きの罪を犯したことにより前科がついた場合、資格の取り消しなどが行われる可能性があることがわかりました。
前科により資格を失わないためには、早期に弁護士に相談することが重要となります。
被害者と示談をして釈放と不起訴を目指す
検察官により起訴が行われた場合、裁判で無罪になるのは非常に難しくなります。しかし、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判を受けること自体がなくなるため、前科がつく可能性はゼロになります。
すなわち、前科がつくことを回避するためには、不起訴処分を目指すことが最も現実的な手段となります。
行政処分は刑事罰とは別の手続きであり、不起訴になったからといって医師免許・歯科医師免許を取り消される可能性がなくなるわけではありません。しかし、免許を取り消されることを防ぐためには、まずは不起訴処分を得ることが重要です。
わいせつ等の性犯罪は性依存症の治療が必要となる可能性あり
強制わいせつをはじめとした性犯罪で捕まった人の中には、無自覚のうちに性依存症となっている人もいます。
依存症が認められたからといって不起訴になったり、処分が軽く済んだりするわけではありません。しかし、弁護士は医療機関やカウンセラーを案内し、その治療を行うことにより、再犯防止に向けた取り組みとして示すことができます。
示談で早期釈放・不起訴で前科回避を目指すために弁護士に相談する
被害者との間に示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
逮捕されてから起訴される前の身柄拘束が続く期間は、最大で23日間となっています。起訴が決定された後で示談が成立しても、後から不起訴とすることはできないため、示談交渉はその間に行う必要があります。そのため、できる限り早い段階で弁護士に相談することが大切になってきます。
痴漢は性犯罪であり、被害者は加害者の行為によって深く傷ついていることが考えられます。対応を誤った場合、被害者にさらなる精神的苦痛を与え、脅したと捉えられて最終的な処分が重くなる可能性もあります。
そのような事情もあり、示談交渉の際は必ず弁護士を間に立てることが必要となります。