「薬剤師として働いていたが、罪に問われたことで前科がついてしまうかもしれない。薬剤師免許を剥奪されることはあるのか」「これから薬剤師を目指して勉強をしているが、過去に罪に問われ前科がついたことがある。試験を受験して免許を得ることはできるのか」
この記事では、薬剤師免許と前科に関する疑問について詳しく解説し、詳細にお答えしていきます。また、不起訴処分を得ることで、前科がつくのを回避するためにすべきことについても解説します。
目次
薬剤師は前科がついたら免許剥奪?
薬剤師として働いている人、または薬剤師を目指している人に前科がついた場合、免許を剥奪されたり、試験を受験することができなくなったりすることがあります。
薬剤師は罰金以上の前科がつくと免許を取り消されることがある
薬剤師法は、第5条にて、その業務に就くのに要求される資質を欠いているとみなされるが、場合によっては認められることがある事柄である「相対的欠格事由(そうたいてきけっかくじゆう)」を定めており、以下に該当する者には免許を与えないことがあるとしています。
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、薬事に関し犯罪又は不正の行為があつた者
薬剤師法5条
相対的欠格事由に該当した、あるいは薬剤師としての品位を損するような行為があった場合には、同法第8条の「免許の取消し等」において、厚生労働大臣によって以下のような処分が下ることがあると定められています。
一 戒告
二 三年以内の業務の停止
三 免許の取消し
薬剤師法8条
薬剤師は様々な医薬品を取り扱う仕事である関係上、通常の前科に関する規定とは別に「薬事に関し犯罪又は不正の行為」を行った者に対しては免許を与えないことがあると定められているのが特徴です。
処分は厚生労働省が設置する、医療従事者に対する行政処分をなどを決定する審議会である医道審議会のうち、薬剤師分科会薬剤師倫理部会が行います。
2019年5月27日に行われた同部会では、7名の薬剤師に対する処分などの審議が行われ、以下のような行政処分が下る旨の決定がありました。
業務停止2年:1件(医薬品医療機器等法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反1件)
業務停止1年:1件(強制わいせつ1件)
業務停止6月:1件(窃盗1件)
業務停止3月:2件(不正請求2件)
業務停止2月:1件(麻薬及び向精神薬取締法違反1件)
業務停止1月:1件(道路交通法違反1件)
厚生労働省「医道審議会 (薬剤師分科会薬剤師倫理部会)」
厚生労働省は現在2012年から2020年までの議事要旨をホームページ上に公開しており、最も重い免許取消の処分を受けた者は合計で7名です。内訳は医薬品医療機器等法違反、殺人未遂、麻薬及び向精神薬取締法違反などとなっています。
逮捕は前科ではないので免許に影響しない
前科とは、過去に有罪判決を受けた事実のことを指します。前出の薬剤師法5条3号の場合、前科のうち「罰金以上の刑に処せられた者」が欠格事由に該当します。
一般的には、「逮捕=前科」と思われがちですが、単に逮捕されただけでは前科がつくことはありません。捜査機関から捜査を受けた履歴のことは「前歴」と呼ばれ、捜査機関にのみ残るものです。
したがって、逮捕されたのみでは薬剤師免許に直接影響することはないといえます。ただし、もし逮捕が長引いたりした場合、風評によって仕事を失ったりするリスクはあります。そのため、早期に弁護士に相談するなどの対応が重要です。
前科があっても薬剤師試験の受験は可能だが、申請の義務はある
これから薬剤師になろうとする人が相対的欠格事由に該当する場合、薬剤師国家試験を受験して仕事に就くことは可能なのでしょうか。
結論から言えば、試験を受験すること自体は可能ですが、合格しても最終的に免許が発行されない可能性があります。
試験に合格した人はその後、薬剤師免許の申請を厚生労働省まで行う必要があります。その際に提出する「薬剤師免許申請書」には罰金以上の刑の有無および薬事に関する犯罪歴の有無を記入する欄があり、最終的には厚生労働大臣の判断によって免許発行の可否が決定されます。
前科とは?罰金や執行猶予も前科になる?
前科とは、「刑事裁判で有罪判決が確定すること」であり、裁判になっても無罪判決を獲得できれば前科はつきません。
裁判以外で前科を回避する方法として、不起訴処分を獲得し、刑事裁判を開くことなく事件を解決に導く、という方法があります。
前科とは懲役刑や罰金刑が裁判で確定すること
前科とは、刑事裁判で有罪判決を受け、その判決が確定した際につくものです。
逮捕後は、一定の勾留期間を経て、検察官が起訴か不起訴かの判断を下し、起訴されて裁判で有罪判決が確定した場合、前科がつくことになります。
したがって、検察官が裁判を行わないという「不起訴処分」の判断を下せば、その人が刑罰に問われることはなく、前科はつかないということになります。
執行猶予や略式罰金も前科になる
注意しなければならないのは、裁判において「執行猶予つき判決」や「略式罰金の命令」が出た場合でも前科になるということです。
執行猶予や罰金は懲役刑に比べると軽微なイメージがありますが、薬剤師の場合でも「罰金以上の刑」として薬剤師法の欠格事由に当てはまることになります。
一度ついた前科は消えないが、法的な効力は一定期間で消失する
罪を犯し前科がついた場合、事件記録が検察庁や裁判所に保管されます。そのため、前科がついたという事実は消えることはありません。
しかし、前科の事実は消えなくても、その法的な効力は失効することがあります。具体的には、禁固以上の刑の場合は10年、罰金以下の刑の場合は5年の間、刑の執行を終えてから新たに罰金以上の刑に処せられなかった場合、前科としての法的な効力が失効するのです。
前科の法的な効力が失効すれば、薬剤師法の相対的欠格事由には該当しません。
早期に弁護士に相談し、薬剤師が前科で免許を失うことを防ぐ
薬剤師が何らかの罪を犯したことにより前科がついた場合、免許の取り消しなどが行われる可能性があることがわかりました。
前科により免許を失わないためには、早期に弁護士に相談することが重要となります。
不起訴処分を獲得し前科を回避する
検察官により起訴が行われた場合、裁判で無罪になるのは非常に難しくなります。しかし、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判を受けることがなくなるため、前科がつく可能性はゼロになります。
すなわち、前科がつくことを回避するためには、不起訴処分を目指すことが最も現実的な手段となります。
示談で不起訴の可能性を高める
被害者のいる犯罪の場合、早期に被害者対応を行うことが肝要です。真摯に反省して謝罪を行い、示談を締結することで、検察官が再犯の可能性や加害者家族への影響などといった様々な情状を考慮し、最終的に「起訴するほどではない」と判断する「起訴猶予」の可能性が高まります。
被害者と示談するためには弁護士に相談する
被害者との間に示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
逮捕されてから起訴される前の身柄拘束が続く期間は、最大で23日間となっています。起訴が決定された後で示談が成立しても、後から不起訴とすることはできないため、示談交渉はその間に行う必要があります。そのため、できる限り早い段階で弁護士に相談することが大切になってきます。
逮捕されている場合、加害者本人は示談交渉はできず、また逮捕されていない場合であっても加害者と被害者が直接示談交渉を行うことは困難です。そのため、示談交渉の際は弁護士を間に立てることが必要となります。