被害届が出されたら、刑事事件は動き始めます。もっとも、警察がどのタイミングで逮捕にやってくるかは読みにくいものです。できるだけ早く、被害者と示談をし、被害届を取り下げてもらえるよう動く必要があります。ただし示談は、自分で行うのは大きなリスクを伴うものです。示談が決裂すれば、その後の刑事手続きにも影響し、逮捕の可能性だけでなく起訴の可能性もでてきてしまいます。
法律の専門家である弁護士に相談し、被害者対応と警察対応を進めてもらいましょう。刑事事件に精通した弁護士であれば、スピーディな弁護活動が期待できます。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
被害届について解説
「被害届」と「告訴」の違い
よく耳にする「被害届」はイメージしやすいものかと思います。また、これとよく似たもので、「告訴」も聞いたことがある人も多いでしょう。さらに告訴に似た「告発」もあります。
被害届は被害者が「自分はこんな被害を受けた」という被害を申告することです。通常は、被害者が警察に相談にいき、事件の状況を話したことが調書化されて、それが被害届となります。加害者が不明の場合でも、被害届は出されます。
告訴は、被害の申告に加えて、「犯人を処罰してほしい」「犯人に対して厳罰を望みます」という意思が加わったものです。つまり、被害者の加害者に対する処罰感情が含まれるものです。告訴は被害者本人やその法定代理人など、告訴できる人が決められています。
一方、告発は、刑事訴訟法239条に「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」とあり、誰でも行うことができます。
被害届 | 告訴 | |
---|---|---|
内容 | 被害事実の申告 | 被害事実の申告+処罰を求める意思表示 |
受理 | 通常してもらえる | 事実上かなり難しい |
効果 | 捜査等の義務なし(法の規定なし) | 捜査等の義務あり(刑事訴訟法) |
親告罪 | 被害届のみでは起訴不可 | 起訴するために必要 |
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被害届を出せる期間は?
被害届は犯罪被害を受けたことを被害者が警察に届け出る行為です。被害の申告という性質しか無いため、被害届を出せる期間に制限はありません。被害者が出したいときに出せるといえます。加害者は、被害者の意思次第で被害届を出される可能性があるのです。
ただし、犯罪について公訴時効が成立している場合、その犯罪について起訴することができなくなります。そうすると被害届を出す意味は無いため、事実上は公訴時効の成立までが提出期限といえます。
被害届の取り下げに法的効果はある?
被害届を出された場合、その取り下げをしてもらうことが大切になってきます。
たしかに、被害届の提出には法的効果はありません。警察が犯罪の存在を知って捜査のきっかけになるものに過ぎないのです。そのため、被害届の取り下げに関しても、警察を拘束するものではありません。
しかし、被害届が取り下げられたという事実を判断材料にして、警察や検察の対応が変わってくることも多いといえます。特に被害者の感情が重視されるような事件では、被害届が取り下げられた場合、刑事事件として処理する必要性が低いと判断されることも少なくありません。被害届の取り下げには十分メリットがあるでしょう。
被害届の取り下げはいつまでできる?
被害届の提出に期間制限がないのと同様に、被害届の取り下げにも期間制限はありません。ただし、不起訴処分を目指すなら起訴前、執行猶予(刑の減軽)を目指すなら判決前に取り下げをしてもらう必要があります。警察段階で事件を終わらせるには、遅くとも送検前に被害届を取り下げてもらわなければなりません。
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被害届を出されたら警察は捜査を開始する
刑事事件(捜査)のはじまりは被害届から
刑事事件(捜査)のきっかけとなるものを、「捜査の端緒」といいます。捜査の端緒の代表的なものが、被害届の提出です。事件が発生したとき、その当事者である被害者が被害申告を警察にすることで、警察は事件を認知し捜査を開始します。被害者が積極的に警察に申告するケースだけではなく、警察が被害者を特定し、被害者から事情を聴いて被害届の提出を促す場合もあります。
例えば、盗撮事件の犯人のスマホから余罪と思われる画像が発見され、その被害者に事情聴取が行われる場合です。「ここに映っている被害者は、あなたに間違いありませんか?」警察からそう聞かされてはじめて被害者が被害を受けていることに気付くという流れもあります。
警察に被害届が提出されるとどんな捜査が行われる?
警察に被害届が提出されると、まずは当事者から事情を詳しく聞くところから捜査は始まります。被害者の話は重要ですが、同時に被疑者の話や目撃者の話も重要です。被疑者が事件を認めるか否認するかで、捜査の方向性は変わります。特に、否認事件となれば、被害者と加害者の言い分が食い違っているわけですから、より慎重な捜査が展開されます。
実際には、被害者の主張により重きが置かれますので、被疑者が否認すれば被疑者の取り調べでは厳しい追及が行われることが予想されます。そのため、冤罪であっても被疑者は精神的に追い詰められ、自白に転じてしまうことがあるのです。このようなことにならないよう、被疑者扱いされたらすぐに弁護士に相談することが重要なのです。
被害届や告訴が出されると必ず逮捕される?
被害届や告訴が出されると、必ず逮捕されるというわけではありません。被害届や告訴は、被害者が捜査機関に犯罪の事実を伝えたり処罰感情の有無を示すために用いられるものです。逮捕すべきかどうかは捜査機関により検討されることとなります。被害届と告訴は、それぞれ、捜査機関の扱いも異なります。警察が告訴を受け取ると、検察官に事件を送致する義務が発生します。
検察官は、起訴するか起訴しないかを決めたときは、それを告訴をした者に対して「速やかに」通知しなければなりません(刑事訴訟法260条)。つまり、告訴が提出されると、捜査機関は必ず捜査をしなければならないという義務を負うことになります。これに対し、被害届の提出では、捜査機関に捜査義務を与えるものではありません。
被害届が出されたら弁護士に相談を|早期解決の要点
弁護士の活動①示談交渉(被害者対応)と警察対応
弁護士に刑事事件の弁護活動を依頼した場合、弁護士はどのようなことをしてくれるのでしょうか。弁護士は、逮捕回避に向けた活動、逮捕されたときには早期釈放に向けた活動、不起訴処分を獲得するための活動をしてくれます。被害者対応として示談を早急に進めるということが、弁護活動の中で重要なテーマとなります。
また、被害届を出されたら、警察が動き出しますので、警察対応も同時に行う必要がでてきます。警察は、捜査中の事件情報は、「捜査情報なので教えられない」と開示してくれないものです。弁護士は、送致されていれば検察官とやりとりをして捜査状況を把握します。また、被疑者の取調べ内容から、警察がどう考えているかを推測し、捜査の進展状況を把握することになります。
弁護士の活動②逮捕を回避する
弁護士の活動として、被疑者が警察に逮捕されないための活動があります。警察が逮捕に踏み切るまでに、在宅捜査を求める意見書を提出して逮捕回避を目指します。このとき、被疑者は定職についていること、身元を引き受けてくれる家族があることなどを書面で証明し、逃亡のおそれがないことを警察に示します。
在宅捜査の中で、警察から呼び出しがあれば、弁護人が被疑者を警察まで連れて行くという対応をする場合もあります。逮捕されることで生じる日常生活への影響は大きいです。仕事への影響も避けられません。そのため、逮捕を回避して日常生活を維持することは、被疑者やその家族にとって重要なことです。弁護士は、逮捕回避に向けて弁護活動を尽くします。
被害者がいる犯罪の場合、被疑者は早い段階で被害者対応として示談交渉を行うことで、逮捕のリスクを小さくすることができます。ただし、自分で示談を行おうと被害者に接触することは、警察に「証拠隠滅を図ろうとしている」という印象を与える可能性があります。これは逮捕されやすい方向に働くため、示談をする際には、事前に弁護士に相談しておくことが重要です。
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弁護士の活動③被害届の取り下げを求める
弁護士は、被疑者ができるだけ不利な立場にならないように、被害者との示談交渉を進めます。示談の中では、被害者から許しをもらう(宥恕の取得)と同時に、被害届の取り下げを求めることが必要です。被害者が被害届の取り下げに同意すれば、「被害届取下書」を作成し署名押印してもらいます。
弁護士は、示談書と合わせて、被害者作成の「被害届取下書」を捜査機関に提出します。これにより、被害者の処罰感情が事実上おさまったと示すことが可能です。被害者が示談金の支払いを受け、加害者を宥恕し、被害届を取り下げたとなれば、捜査機関はその事情を考慮した処分を行います。そうすると、送致前なら警察限りで事件が終了したり、送致されているとしても不起訴処分が出る可能性が高まるでしょう。
まとめ
被害届が出されたら、まずは弁護士に相談して今後の対応を考えましょう。できる限り早く相談して、被害者対応を進めましょう。素早く対応すれば、被害届を取り下げてもらい、事件化を阻止することも可能です。また、逮捕回避や不起訴処分の獲得も現実的になります。刑事事件でお困りの方は、迷わず弁護士までご相談ください。