「酒の勢いで人を殴り逮捕されてしまった」「息子が盗撮容疑で現行犯逮捕された」
このような場合、「仕事をクビにならないか」「再就職の際、不利にならないか」と不安が尽きませんよね。
こうした不安は、逮捕=前科になるという誤解が原因であることも少なくありません。逮捕されただけでは前科になりません。もちろん、逮捕によるデメリットはありますが、前科のデメリットより小さいものです。
この記事でお伝えしたいポイントは、「逮捕だけで終われば早期の社会復帰が可能」ということ。では逮捕だけで終わるにはどうすれば良いか?そのカギは「不起訴処分」になることです。
逮捕と前科の違いや不起訴処分の獲得方法について、早速見ていきましょう。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
逮捕と前科の違い|逮捕のみなら社会復帰しやすい!
逮捕されただけでは前科になりません。前科は、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の刑罰が確定したときに限ってつくものだからです。
前科のデメリット
前科がつくと様々なデメリットが生じます。ここでは、特に影響力の大きいデメリットについてご説明します。
懲戒解雇のおそれ
有効な懲戒解雇の条件は、①懲戒事由を規定した就業規則等が存在すること、②解雇に客観的に合理的な理由があること、③社会通念上相当であることの3つです。
会社の就業規則に有罪判決を受けたことが懲戒解雇事由として定められている場合、解雇される可能性が高いでしょう。
もっとも、業務と無関係の私生活上の犯罪行為であれば、懲戒解雇が認められるケースは限られています。
裁判例では、痴漢行為で前科・前歴のある鉄道職員が再三訓戒処分等を受けたにもかかわらず、休日に電車内で再び痴漢に及び懲戒解雇が認められた事案があります(東京高判平成15年12月11日)。
この事案と同程度の悪質性がない限り、私生活上の犯罪行為を理由に懲戒解雇になる可能性は高くないでしょう。
もっとも、懲戒解雇が認められないケースでも、降格や減給などの処分を受ける可能性は高いです。
再就職時に不利になるおそれ
再就職の際、会社指定の履歴書に賞罰欄があれば、前科について記載しなければなりません。面接で前科について聞かれた場合も正直に答える義務があります。
前科の事実を隠したまま採用されても経歴詐称を理由に解雇されるおそれが高いでしょう。
資格制限のおそれ
前科がつくと種々の資格制限を受けます。
公務員は、禁錮以上の刑に処せられると当然に失職します(国家公務員法76条、38条1号、地方公務員法28条4項、16条1号)。罰金の場合、当然には失職しません。しかし、極めて悪質性が高い、職員の職責が特に高いといった事情があると懲戒免職される可能性もあります。
医師免許は、罰金以上の刑に処せられると付与されないことがあります(医師法4条3号)。また、3年以内の医業停止や免許取消し処分を受けることもあります(同法7条1項2号、3号)。
その他にも、看護師、薬剤師、歯科医師、学校の教員、公認会計士など多くの職業で前科は欠格事由等になります。
実名報道のおそれ
実名報道される明確な基準はありません。しかし、一般的に社会の関心が高く、話題性の強い事件の場合、実名報道のリスクは高いです。有罪判決を受けると実名報道の可能性はより高くなります。特に公務員の場合、公益性の高い職業であることから、実名報道のリスクは民間企業に比べて高いでしょう。
また、インターネット上に氏名等の個人情報が残ることもあります。マスコミに削除要請することは可能です。しかし、公益性の観点からすべて削除要請に応じてもらえるわけではありません。現状では、一度ネット上に広がった記事を完全に削除するのは非常に難しい状況です。
渡航制限のおそれ
禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者は、パスポートを取得できないおそれがあります(旅券法13条1項3号)。執行猶予付き判決を受けた場合も該当します。
また、前科がつくとビザが発給されず入国を許可されないおそれもあります。
逮捕だけで終わった場合のメリット
逮捕された場合、内定取り消しのおそれがあるなどデメリットがあることは否定できません。
しかし、逮捕だけで釈放され不起訴となれば、前科がつく場合に比べ早期の社会復帰が可能です。
ここでは、逮捕だけで釈放され不起訴となった場合のメリットを見ていきます。
すぐに日常生活を取り戻せる
逮捕だけで釈放された場合、最大のメリットは日常生活をすぐに取り戻せる点です。「『すぐ』って逮捕後どれくらい?」と疑問に思った方のために、逮捕後の刑事手続きについて簡単にご説明します。次の①~⑥の流れをご覧ください。
逮捕後の刑事手続き
- ①逮捕後~警察での取調べ(その後留置場で生活)
- ②逮捕後48時間以内に検察官へ送致
- ③送致後24時間以内に勾留請求
- ④勾留請求が認容されると、10日間勾留
- ⑤延長されると、さらに最長10日間勾留
- ⑥検察官による起訴・不起訴の決定(逮捕から最長23日後)
- ⑦被告人として勾留が続く
逮捕だけで釈放されるパターンは2つあります。
1つ目は、微罪処分となって逮捕後48時間以内に釈放される場合。微罪処分とは、被害結果等が特に軽微な窃盗・詐欺・横領事件等について警察限りで終結させる処分のことです。この場合、②の検察官送致となる前に釈放されます。
2つ目は、勾留されず逮捕後72時間以内に釈放される場合。示談成立等により逃亡・罪証隠滅のおそれがないと判断されると、③の勾留請求前に釈放されます。
逮捕後の刑事手続きの流れについてさらに詳しく知りたい方は、『逮捕されたら|逮捕の種類と手続の流れ、釈放のタイミング』もぜひご覧ください。
懲戒解雇のおそれは低い
逮捕されたことのみを理由に懲戒解雇されるおそれは低いでしょう。
被疑者・被告人は、検察官が裁判で有罪を証明するまで無罪と扱わなければなりません。これを「推定無罪の原則」といいます。つまり、逮捕されただけでは、その人が本当に犯罪を行ったと断定できないのです。それにもかかわらず、十分な事実確認をしないまま懲戒解雇すると、後になって会社側が損害賠償請求されるおそれがあります。
本人が認めている場合でも、示談成立等によって不起訴処分になる可能性もあります。この場合も、逮捕された段階で解雇してしまうと不当解雇を理由に会社側が訴えられるリスクがあります。
以上の理由から、実務上、解雇は有罪判決が出てから慎重に検討することが原則とされています。
再就職時の申告義務なし
履歴書の賞罰欄にいう「罰」は、一般的に確定した有罪判決を意味します(東京高判平成3年2月20日労働判例592号77頁)。
したがって、逮捕歴を含む前歴(捜査対象になったこと)を賞罰欄に記載する必要はありません。面接でも特に聞かれなければ申告する義務はありません。
ちなみに、逮捕歴や前科といった犯罪歴は検察庁等が厳重に管理しています。したがって、会社など第三者が自由に閲覧することは不可能です。
資格制限のおそれなし
逮捕されただけでは、資格制限のおそれはありません。
渡航制限のおそれなし
逮捕されただけでは、渡航制限のおそれはありません。
前科なしで社会復帰したいなら不起訴処分を目指そう
前科をつけず早期の社会復帰を目指すには、不起訴処分を獲得することが非常に重要です。
不起訴処分とは
逮捕されても「不起訴処分」になれば前科はつきません。「不起訴処分」にはいくつか種類があります。主なものは次の4つです。
罪とならず | 事件が罪にならないことを理由とするもの(心神喪失を含む) |
嫌疑なし | 犯罪の嫌疑がないことを理由とするもの |
嫌疑不十分 | 犯罪の嫌疑が十分でないことを理由とするもの |
起訴猶予 | 犯罪の嫌疑が認められる場合でも、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況を考慮して訴追を必要としないことを理由とするもの |
このうち、令和元年に不起訴処分の理由として最も多かったのは起訴猶予で、不起訴処分全体の70.4%を占めました(令和2年版犯罪白書)。したがって、逮捕された場合、前科を回避するには起訴猶予を目指すことが重要です。
起訴猶予になるには
起訴猶予を獲得するには、犯罪の種類にもよりますが、一般的に示談の成立が大きく影響します。
特に、窃盗などの財産犯では示談成立によって被害が回復したといえるので、初犯で被害額が軽微であれば、起訴猶予の可能性は相当程度高まるでしょう。
また、盗撮や痴漢も示談が成立して被害者が加害者を許すという宥恕の意思を表明していれば、初犯の場合、起訴猶予となる可能性は十分あります。
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逮捕後の社会復帰が不安なら弁護士に相談!
逮捕後、早期の社会復帰を実現するには、刑事弁護の経験豊富な弁護士に相談するのが最善策です。弁護活動を始めるタイミングが早ければ早いほど、早期の社会復帰が期待できます。ここでは、弁護士に依頼するメリットを具体的にご紹介します。
早期に示談し会社に知られることを防ぐ
早期の社会復帰のために最も効果的なのが、会社に刑事事件のことを知られないことです。会社が事件について知るのは、警察から連絡が行った場合が多いです。
警察から連絡を行かせないためには、早期の示談成立がポイント。示談内容に被害届を提出しないという条項を盛り込むことで刑事事件化を防ぐことができます。このような交渉には、法律のプロである弁護士の介入が不可欠です。
逮捕の回避が期待できる
逮捕されてしまうと、起訴・不起訴の判断が下るまで最長23日間も身柄拘束されるおそれがあります。起訴されるとさらに被告人勾留が続く可能性があります。
しかし、早期に示談が成立すれば、逮捕を回避できる可能性が高まります。逮捕を回避できれば、日常生活を送ることができるので職場に事件のことを知られるおそれも低下します。
実名報道を阻止できる可能性が高まる
社会復帰の大きな壁となりうるのが実名報道。これを避ける最善の手段は逮捕されないことです。実名報道を防ぐためにも早期の示談成立が大きな意味を持ちます。
もし逮捕されてしまった場合でも、弁護士を通じ、捜査機関に実名報道を控える要請を出すことは可能です。具体的には、実名報道された場合の実害の大きさを意見書にまとめ、家族の嘆願書等を添付して粘り強く説得することになります。
ただ、あくまで「要請」であって、実名報道を阻止できる法的強制力はありません。一度実名報道されると、名前等をネットで検索することで過去の逮捕歴が判明するおそれが大きいです。実名報道のリスクを最小限に抑えるには、何よりも逮捕を阻止することが重要です。
早期釈放が期待できる
弁護士は、早期釈放のためにも示談交渉に全力を尽くします。
さらに、家族による監督誓約書を検察官や裁判官に提出したり、直接面談して早期釈放の必要性を訴えます。
不起訴処分が期待できる
弁護士は、不起訴処分獲得のため、示談交渉に尽力します。示談成立のため、金額面の交渉だけでなく、被害者に今後接触しないといった条項を盛り込むなど工夫をこらします。
さらに、必要に応じて医療機関や福祉団体等と協力しながら被疑者の立ち直りをサポートします。社会内で立ち直る環境が整えば、不起訴となる可能性が高まります。