「誰かが置いていった財布を拾い、警察に届けずについ自分のものにしてしまった」……このような行為は一見すると何気ないですが、「置き引き」と呼ばれる立派な犯罪です。
置き引き行為を行った場合、窃盗罪となるのでしょうか。この記事では、置き引きにより問われる可能性のある罪について、また逮捕され前科が付く可能性や、逮捕された場合の流れについて解説します。
置き引きによって前科をつけないためには不起訴処分を得ることが重要であり、そのためには早期に弁護士に相談することが必要です。
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目次
置き引きにはどんな罪が適用される?
置き引き行為を行った場合、適用されるのはどのような罪なのでしょうか。
置き引きとはどのような行為か
まずは「置き引き」と称される行為についてですが、以下のようなものを拾得し、自分のものにしてしまったケースが主に置き引きとされます。
- ベンチやトイレ、電車の網棚などに誰かが置いていった財布やバッグ。
- ATMに置き忘れられた紙幣やクレジットカード。
- 駐輪場に止められた自転車のカゴの中のバッグや荷物。
このように、誰かが忘れていった、あるいはあえてそこに置いた金品を自分のものにする行為のことを総じて置き引きと呼びます。
しかし、置き引き罪という罪名はありません。置き引き行為に対しては、主に刑法に規定された窃盗罪もしくは占有離脱物横領罪が適用されます。まずは、それぞれの罪の概要を見ていきましょう。
窃盗罪とは
窃盗罪については、刑法235条に定められています。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法235条
窃盗罪は一般にイメージされる「盗み」であり、「他人の財物」を「窃取」した場合に成立します。「窃取」とは、他人の占有している財産や物品を、その意思に反して自分または第三者のものとしようとする行為のことを指します。
窃盗罪には未遂罪もあるため、置き引きを行おうとして途中で見つかり失敗に終わったような場合であっても処罰されることがあります。
占有離脱物横領罪とは
占有離脱物横領罪は、遺失物等横領罪または遺失物横領罪ともいい、刑法254条に定められた罪です。
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑法254条
窃盗罪となるのはどのようなケースか
両者の条文を比較すれば、同じ置き引きであっても、窃盗罪に問われたほうが罪は重くなることがわかるかと思います。それでは、占有離脱物横領罪と窃盗罪はそれぞれどのようなケースにおいて適用されるのでしょうか。
占有離脱物横領罪と窃盗罪のどちらが適用されるかは、拾得したものが持ち主の占有を離れているかどうかが問題となります。以下では、持ち主の占有とはどういうことかについて解説します。
盗んだものが持ち主の占有を離れていない場合
例えば、テーブルやベンチなどに誰かが置いていった財布を自分のものにしてしまったとしましょう。
このとき、持ち主が離れてから一定以上の時間が経っている場合は占有離脱物横領になりえますが、持ち主がトイレに行っていた隙など、短い時間の間に自分のものにしてしまった場合などは窃盗罪となる可能性が高いといえます。
ただし、占有を離れているかの判断は実際の裁判においてはケースバイケースといえます。
商業施設の占有が及んでいる場合
また、飲食店、スーパーマーケット、ショッピングモール、スポーツジムなどといった施設内における忘れ物については、本来の持ち主の占有は離れていてもその施設の管理者の占有が及んでいるとされることもあります。そのように管理者の占有が認められた場合は窃盗罪が適用されます。
窃盗罪が認められた判例
ここでは、置き引き行為に対して窃盗罪が適用された実際の判例をみてみましょう。
被害者がポシェットを公園のベンチに置き忘れ、そこから27メートルほど歩いた時点で、犯人がそのポシェットを持ち去ったという置き引き事件が発生しました。
この事例においては、最高裁は置き忘れて27メートル離れた程度ではポシェットに対する持ち主の占有は失われていないとし、窃盗罪の適用を認めています(最高裁平成16年8月25日第三法廷決定)。
このように、金品を置き忘れた場合であっても、少し離れた程度では持ち主の占有は失われておらず、置き引きした場合は占有離脱物横領ではなく窃盗罪の適用となる可能性があります。
置き引きで逮捕された場合の流れ
次は、実際に置き引きで逮捕された場合の流れを見てみましょう。逮捕には主に通常逮捕と現行犯逮捕の2つの形式があります。
逮捕には2つの形式がある
まずは通常逮捕があります。後日逮捕とも呼ばれる形式で、刑事訴訟法に基づき、一定階級以上の警察官や検察官などが逮捕状を請求し、裁判官が逮捕の理由と必要性を認めた場合のみ逮捕令状を発行し、それによって逮捕が行われます。
次に現行犯逮捕があります。犯行中や犯行直後の犯人を逮捕することをいい、犯人を間違える可能性は低いため、逮捕状なく一般人でもできる(私人逮捕)ことが特徴ですが、逮捕後はすぐに警察官などに犯人を引き渡す必要があります。その後は最寄りの警察署に連行され、取り調べを受けることになります。
置き引きは現行犯逮捕の可能性も高い
置き引きは、金品の持ち主がその場で気付いた場合は現行犯逮捕されることもありますが、特に商業施設内における置き引きについては、防犯カメラに犯行の様子が記録されており、そこから後日逮捕にいたることもあります。
逮捕勾留から起訴前の釈放までは最長23日間
次に、逮捕された後の流れをみてみましょう。逮捕されてから起訴・不起訴の決定が行われるまでは、最長で23日間の身体拘束が続く可能性があります。
占有離脱物横領においては警察は微罪処分として釈放する場合もありますが、それ以外の場合、事件を検察官に引き継ぐ検察官送致(送検)が48時間以内に行われます。検察官の判断により24時間以内に勾留請求が行われ、勾留質問などのあと、原則として10日間身柄が拘束されます。必要に応じ、さらに最長で10日間の勾留延長が行われます。
捜査の結果、検察官は起訴・不起訴を判断します。不起訴となった場合は釈放されますが、起訴されると略式裁判もしくは正式裁判が開かれ、罰金刑や懲役刑などの刑罰が決定されます。
置き引きで前科をつけないためにすべきこと
置き引きで前科をつけないためには、早期に弁護士に相談し、不起訴処分を得ることが重要です。
不起訴処分を獲得し前科を回避する
検察官により起訴が行われた場合、裁判で無罪になるのは非常に難しくなります。しかし、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判を受けること自体がなくなるため、前科がつく可能性はゼロになります。
すなわち、前科がつくことを回避するためには、不起訴処分を目指すことが最も現実的な手段となります。
また、置き引きは先述のように占有離脱物横領罪ではなく窃盗罪に問われた場合は必然的に罪が重くなります。特にどちらが適用されるか微妙な場合においては、弁護士はできる限り占有離脱物横領として扱われるのを目指す活動を行うことが可能です。
示談により不起訴の可能性を高める
置き引きは被害者のいる犯罪であり、早期に被害者対応を行うことが肝要です。
まずは置き引きした金品の返還・弁償をしっかりと行いましょう。さらに、被害者との間に示談を締結することで、検察官が再犯の可能性や加害者家族への影響などといった様々な情状を考慮し、最終的に「起訴するほどではない」と判断する「起訴猶予」の可能性が高まります。
被害者と示談するためには弁護士に相談する
被害者との間に示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
逮捕されてから起訴される前の身柄拘束が続く期間は最大で23日間ですが、起訴が決定された後で示談が成立しても、後から不起訴とすることはできないため、示談交渉はその間に行う必要があります。そのため、できる限り早い段階で弁護士に相談することが大切になってきます。
逮捕されている場合、加害者本人は示談交渉はできず、また逮捕されていない場合であっても加害者と被害者が直接示談交渉を行うことは困難です。そのため、示談交渉の際は弁護士を間に立てることが必要となります。