
刑事事件において、犯人は証拠によって認定しなければなりません。では、窃盗罪における犯人の認定に使われる証拠はどんなものがあるのでしょう。また、どのように犯人を認定していくのでしょうか。
「警察はどれだけ本格的な捜査をするだろう」「どこまで調べられるか不安」という方もおられるでしょう。
この記事では、刑事事件における証拠の種類や役割を解説したのち、窃盗罪で犯人認定に使われる代表的な証拠5つを紹介しています。窃盗事件で証拠が見つかり逮捕されるか不安という方もいらっしゃるかとおもいます。そういった方に向けて、窃盗事件における示談の大切さや、弁護士の役割にも触れておりますので、最後までぜひご覧ください。

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目次
窃盗(刑事事件)における証拠
窃盗罪とは
窃盗とは、他人の占有する財物を、その意思に反して自己又は第三者の占有下におくことで成立する犯罪です。万引き、スリ、置き引き、ひったくり、車上荒らしなど、聞いたことがある方は少なくないでしょう。これらはすべて窃盗罪にあたります。
窃盗罪は刑法235条に規定されており、法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」となっています。窃盗罪は身近な犯罪ですが、最大で10年の懲役が科されかねないのです。けっして軽い犯罪ではないため、甘く見ることはできません。
窃盗の捜査は証拠収集から余罪追及まで広範囲
まず窃盗の被疑者を特定するための証拠集めがなされます。窃盗現場付近の防犯カメラや目撃者の有無、指紋やDNAのほか被害者からの事情聴取も行われるでしょう。
また、被疑者が特定された場合は余罪や前科の有無まで調査される可能性もあります。窃盗は再犯も多く、本人の意思に反して窃盗をしてしまう窃盗症(クレプトマニア)による犯罪も目立つためです。もっとも、余罪がどこまで追及されるかは事件ごとに異なります。
なお、取り調べでは被疑者の生い立ちや今の生活状況も質問されるでしょう。これは、窃盗行為に至った背景が量刑に影響する可能性があるためです。たとえば、生活苦から窃盗した人とギャンブルでの借金返済のために窃盗した人とを比べると、被疑者に求める刑事処分は変わる場合もあります。
取り調べでどこまで答えるべきなのかという判断は難しいものです。また、証拠を示されたときの答え方や余罪を聞かれた場合の対応など、取り調べのアドバイスを受けるには弁護士への相談がおすすめです。

窃盗(刑事事件)の犯人は証拠で認定する
窃盗など刑事事件において、被疑者が犯人だと認定するには「合理的な疑いを残さない程度」の証明が必要です。この証明は検察官がすることになります。「合理的な疑い」とは、通常人なら誰もが持つ疑問のことです。検察官は証拠によって、通常人が疑問を持たない程度に、被疑者が犯人であることを証明する必要があります。
証拠が不十分なときは不起訴処分もある
窃盗など刑事事件において、被疑者が犯人であると証明できなかったり、証拠が不十分なために被疑者が犯人であるという疑いが残るときには、不起訴処分になることもあります。具体的には、不起訴処分のうちの「嫌疑なし」あるいは「嫌疑不十分」という処分です。
嫌疑なしと嫌疑不十分
不起訴処分 | 意味 |
---|---|
嫌疑なし | 被疑者が犯罪を起こした疑いがない |
嫌疑不十分 | 被疑者が犯人であるかの疑いが残る |
不起訴処分となると前科はつきませんし、裁判が開かれて刑罰を言い渡されることもありません。
証拠には直接証拠と間接証拠がある
刑事事件の証拠には直接証拠と間接証拠(情況証拠)があり、犯人の認定には直接証拠が重視されます。もっとも、間接証拠を積み重ねることで犯人と認定された判例もあります。
直接証拠とは何か
直接証拠とは、要証事実(例えば「被告人が犯人であること」)を直接証明する証拠のことです。直接証明するというのは「推認過程を経ずに」証明するという意味になります。つまり、直接証拠の信用性が認められるなら、単独の証拠であっても犯人を認定できるということになります。
直接証拠の例
- 窃盗の一部始終を目撃した人の証言
- 窃盗の全容が映る防犯カメラ映像
- 窃盗の一部始終を目撃した被害者の供述
間接証拠とは何か
間接証拠とは、要証事実を推認させる事実(間接事実)を証明する証拠のことです。間接証拠で犯人を認定する場合、推認過程を経ることになります。そのため、単独の間接証拠で犯人を認定することは難しい場合が多いです。もっとも、間接証拠を積み重ねることで、間接証拠のみで犯人を認定できることは判例も認めています。
間接証拠の例
- 窃盗の現場から被疑者が走り去ったとの目撃証言
- 現場付近の防犯カメラ映像に被疑者が映っていた
- 窃盗物から被疑者の指紋が検出された
- 被疑者が窃盗物を所持していたという目撃証言
つづいて、より具体的に証拠とされるものをみていきましょう。
窃盗で犯人認定に使われる証拠5つ
窃盗の証拠としては、防犯カメラの映像、犯行の目撃証言、犯行現場に残る指紋、窃盗品の所持、自白などが代表的です。
(1)防犯カメラの映像
防犯カメラの映像は、直接証拠としても間接証拠としても使われます。直接証拠ととして使われるのは、たとえば、お店の商品を盗む瞬間を防犯カメラが捉えていた場合です。間接証拠として使われるのは、犯人と疑われる者がお店に入っていくところが防犯カメラに映っていた場合が挙げられます。
防犯カメラの映像は、科学的な方法により機械がその場にあった出来事をそのまま記録するものです。そのため、見間違いや記憶違いがなく、信用性が高い証拠といえるでしょう。もちろん、映像の解析度を考慮する必要はありますが、鮮明な映像であれば、犯人と認定し得る有力な証拠となります。
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(2)犯行の目撃証言
犯行の目撃証言は直接証拠として使われます。たとえば、電車内で他人の財布を盗み取った瞬間を目撃した証言が挙げられます。犯行そのものを目撃していなければ直接証拠にはなりません。車の窓を割って中に侵入する場面を目撃しても、「車の中にあったバッグを取る瞬間」を目撃していなければ、窃盗の直接証拠にはならないのです。
目撃証言は、防犯カメラの映像と違い、見間違いや記憶違いといった可能性を否定できません。そのため、犯行の目撃証言の信用性を吟味することになります。具体的には、客観的な事実との整合性をチェックしたり、証言内容が変化していないかチェックしたりします。証言の信用性が高ければ、犯人と認定し得る有力な証拠となります。
(3)犯行現場に残った指紋
犯行現場に残った指紋は間接証拠として使われます。指紋は「万人不同」「終生不変」の特徴を持ちます。そのため犯行現場に残った指紋と、犯人と疑われている者の指紋が一致していた場合、その場所に犯人と疑われる者がいたことが推認されるのです。
もっとも、スーパーや百貨店など人の出入りが自由な場所なら、犯人と疑われる者の指紋が残っていても不思議ではないこともあります。このような場合、犯行現場に残った指紋が窃盗の犯人だと推認させる力は弱いといえます。逆に、私人の自宅など出入りが自由でない場所に、その場所に行ったことがない者の指紋が残っていた場合、窃盗の犯人だと推認させる力は強いです。
(4)被害物品の所持
被害物品の所持は間接証拠として使われます。窃盗事件の犯行直後であるなら、窃盗の犯人が被害物品を所持していることが多いでしょう。また、盗む以外の方法でその物品を入手しているなら、入手方法や経路について具体的に説明できるはずです。
これらの根拠から、犯行現場から時間や場所が近接した時点で被害物品を所持している者は、合理的な説明ができない場合、窃盗の犯人であると推認されます。これを近接所持の法理といいます。
(5)自白
自白は「証拠の王様」と呼ばれ、犯人と認定するのに極めて有力な直接証拠です。しかし、自白が強力な証拠であることから、自白を獲得するために、捜査機関により無理な取調べがなされる危険性があります。そこで、強要された自白や任意性が疑われる自白は証拠とすることができません(憲法38条2項、刑事訴訟法319条1項)。これを自白法則といいます。
また、自白に頼り切ったために、裁判所が誤った認定をしてしまう危険性があることから、自白のみでは被告人を有罪とすることができません(憲法38条3項、刑事訴訟法319条2項)。これを補強法則といいます。窃盗事件の場合、自白が架空のものではないことを基礎づけるため、自白の他に「窃盗の被害届」が補強証拠として必要になります。
窃盗は証拠隠滅や逃走の可能性があると逮捕につながる
窃盗の証拠をもとに被疑者が特定されたのち、被疑者に逃走の恐れや証拠隠滅の可能性がある場合には、警察は逮捕に踏み切る可能性があります。
窃盗の証拠をもとに逮捕された後の流れ
窃盗など刑事事件で逮捕された場合、警察による取調べを経て48時間以内に被疑者の身柄と事件が検察に送致されます。検察官は被疑者を受け取ったあと、24時間以内に勾留請求するかを決めなければなりません。勾留請求がなされ、裁判所が認めると被疑者は勾留されることになります。
勾留された後は、検察官が起訴・不起訴の判断を下すまで最大で20日間身体拘束されることになります。仮に起訴された場合、被疑者勾留は被告人勾留に切り替わります。この被告人としての勾留は通常、保釈が認められない限り、裁判が終了するまで続きます。

窃盗での逮捕を避ける方法は?
警察による捜査で証拠が見つかって逮捕される場合、多くは逮捕状を元にした後日逮捕(通常逮捕)が想定されます。逮捕状が発行されている時点で、窃盗の被疑者であるという疑いが強く持たれているでしょう。逮捕状には法的拘束力があるため、拒否できません。
ある日突然逮捕されるといった事態を防ぐには、逮捕状が発行される前に適切な対応を取る必要があります。逮捕状の請求や逮捕執行の流れ、逮捕の前兆を解説した関連記事も参考にしてください。
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・逮捕状の発行を避けたい|逮捕状の請求・執行の手続きと逮捕の前兆を解説
現行犯逮捕は証拠がいらない
窃盗で逮捕されるケースは、窃盗現場での現行犯逮捕も多いです。現行犯逮捕のときには証拠がなくても逮捕可能とされています。現行犯逮捕は警察だけでなく、被害店舗の店員や万引きGメン、警備員や犯行現場に居合わせた一般人による私人逮捕がきっかけになることもあります。
窃盗事件で被害者と示談|不起訴処分を目指す
日本における刑事裁判で、有罪となる割合は99%以上です。そのため、検察官に起訴されてしまうと、ほとんどの場合で有罪となり前科がついてしまいます。前科がつくと、社会生活において様々な不利益が生じてしまうでしょう。できる限り起訴処分を避けなければなりません。
窃盗事件を起こしてしまった場合、いち早く被害者と示談することが大切です。被害者と示談が成立し、被害者の許しを得ることができたなら、検察官はそれを考慮して寛大な刑事処分をする可能性が高まります。初犯であったり、悪質性が低い事件なら、不起訴処分となることも十分に期待できます。
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窃盗被害者との示談は弁護士に相談しよう
示談交渉を弁護士が行うと、被害者が示談に応じてくれる可能性が高まります。被害者は通常、加害者と直接会うことを恐れるものです。弁護士が加害者について被害者との示談交渉の窓口になることで、被害者に直接加害者側と接することがなく事件を解決できるという安心感を与えることができます。
弁護士に示談を任せれば、被害者が被害届を取下げたり、告訴を取消したりする可能性があります。弁護士が被害者感情に配慮した丁寧な交渉により、示談の内容として被害届の取下げや告訴の取消を盛り込んだ示談を目指します。被害者が納得して示談が成立すれば、検察官が不起訴処分を下す可能性が高まるでしょう。
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