万引き、空き巣、車上荒らし、ひったくり、置き引き。これらはすべて「窃盗罪」で処罰される可能性があります。刑の重さを決める出発点になるのが「法定刑」です。
この記事では、まず窃盗罪の法定刑についてご説明します。そして、常習累犯窃盗罪や親族間の特例も解説。
さらに、窃盗罪の構成要件、不起訴や執行猶予付き判決を得るためのポイントについても詳しくお伝えします。
窃盗事件を起こしたご本人もそのご家族も、この記事を読めば今後とるべき対応が分かり落ち着いて対処できるようになりますよ。
目次
窃盗罪の法定刑と時効は?常習犯や親族間の場合は?
窃盗罪の法定刑
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金です(刑法235条)。
有期懲役の刑期は原則として1月以上20年以下(刑法12条1項)、罰金刑は原則1万円以上とされています(刑法15条)。したがって、窃盗罪で有罪になると、1月以上10年以下の懲役又は1万円以上50万円以下の罰金で処罰される可能性があります。なお、自首が成立した場合、裁判官の裁量により刑が減軽される可能性があります(刑法42条1項)。
窃盗罪は、前科がなく被害額が軽微であるなどの事情があれば、警察限りで処分が終わる微罪処分となることもあります。また、正式裁判よりも迅速な略式裁判にかけられ罰金刑で終わることもあります。
窃盗未遂罪の刑罰
窃盗罪は未遂も処罰されます(刑法243条)。未遂の場合、「刑を減軽することができる」と規定されています(刑法43条)。窃盗未遂の場合、減軽されると15日以上5年以下の懲役又は5000円以上25万円以下の罰金が科される可能性があります。
窃盗罪の公訴時効
窃盗罪の公訴時効は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。したがって、窃盗行為が終わってから7年経つと、検察官は公訴を提起することができなくなります。
(参考)公訴時効期間
刑事訴訟法250条2項
時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。
4号 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については7年
常習累犯窃盗罪の法定刑
窃盗事件を繰り返している場合、常習累犯窃盗罪(盗犯等の防止及処分に関する法律3条)に該当し通常の窃盗罪より重く処罰される可能性があります。
常習累犯窃盗罪の構成要件は、①常習として、②過去10年以内に窃盗罪で6月以上の懲役刑を3回以上受けたことです。
常習累犯窃盗罪の法定刑は、3年以上20年以下の懲役です。同罪に罰金刑はなく、懲役刑の内容も窃盗罪より加重されています。
親族間の窃盗に関する特例(親族相盗例)
突然ですが、配偶者の財布を盗んだ場合、窃盗罪で処罰されると思いますか?答えはNOです。「法は家庭に入らず」という趣旨で定められた親族相盗例が適用されるからです。親族相盗例は以下のように規定されています。
①配偶者、直系血族又は同居の親族との間で窃盗罪(未遂を含む)を犯した者は、その刑が免除される(刑法244条1項)。
②上記①以外の親族との間で犯した窃盗罪(未遂含む)は、告訴がなければ起訴することができない(同条2項)。
ここでいう、「配偶者」は内縁関係を含みません。「直系血族」は、父母や祖父母、子どもや孫のことです。「親族」とは、6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族を意味します(民法725条)。例えば、兄弟姉妹は6親等内の血族、兄弟姉妹の配偶者は3親等内の姻族に当たります。
「配偶者、直系血族又は同居の親族」以外の親族との間で窃盗罪を犯した場合、被害者が告訴した場合のみ処罰されます。
窃盗罪の構成要件
窃盗罪の構成要件は、①他人の財物、②窃取、③故意、④不法領得の意思です。これらの要件をすべて満たすと窃盗罪が成立します。
窃盗罪の構成要件①ー他人の財物
窃盗罪における「財物」は、有体物(固体、液体、気体)だけでなく、管理可能な無体物が対象になります。
では、電気を盗むと窃盗罪が成立するでしょうか?実は、電気は条文で「財物とみなす」と明記されています(刑法245条)。したがって、充電が許可されていない施設で勝手にスマートフォンや電気自動車の充電をすると電気窃盗として処罰されるおそれがあります。
窃盗罪の構成要件②ー窃取
「窃取」とは、占有者の意思に反して、その占有を侵害し、自己又は第三者の占有に移すことです。
ここでは、「窃取」に関連する次の3つの問題を解説します。
- 窃盗未遂罪になるのはいつ?(着手時期の問題)
- 窃盗既遂罪になるのはいつ?(既遂時期の問題)
- 窃盗罪と占有離脱物横領罪(遺失物等横領罪)のどちらが成立する?(占有の有無の問題)
窃盗未遂罪になるのはいつ?
窃盗未遂罪になるのは、窃盗罪の実行に着手したといえるときです。実行の着手は、他人の財物の占有を侵害する具体的危険が発生する行為を行った時点で認められます。具体例として、以下の裁判例があります。
- 住居侵入窃盗の場合
金品物色のためタンスに近寄った時点(大判昭和9年10月9日刑集13巻1473頁)
- 車上荒らしの場合
ドアの開扉・解錠など自動車内への侵入行為を開始した時点(東京高判昭和45年9月8日判タ259号306頁)
窃盗未遂が成立すると、事後強盗として重く処罰される可能性があるので要注意です。すなわち、未遂を含む窃盗犯人が、逮捕を免れる目的等で暴行・脅迫をすると、事後強盗罪が成立する可能性があります(刑法238条)。事後強盗は強盗と同じ扱いをされるので、窃盗罪よりも量刑がかなり重くなることが多いです。
強盗罪についてさらに詳しく知りたい方は、『強盗で逮捕されたらどうなる?必ず裁判になるの?刑を軽くするには?』もぜひご覧ください。
窃盗既遂罪になるのはいつ?
窃盗既遂になるのは、他人の占有を排除して自己又は第三者の占有に移した時点です。万引きの既遂時期の具体例として、以下の判例があります。
- 店頭に並べてある靴下を手にしてポケットに入れた時点(大判大正12年4月9日刑集2巻330頁)
- スーパーにおいて、店舗備え付けのカゴに商品を入れレジを通過することなく外側に持ち出した時点(東京高判平成4年10月28日判タ823号252頁)
窃盗罪と占有離脱物横領罪のどちらが成立する?
自転車盗や置き引きのケースでは、窃盗罪と占有離脱物横領罪のどちらが成立するか問題になることがあります。「占有」を侵害したといえる場合は窃盗罪、そうでない場合は窃盗罪より軽い占有離脱物横領罪(1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料)が成立します。
ここでの「占有」は、支配の意思で財物を事実上支配していることをいいます。必ずしも物の現実の所持または監視を必要とせず、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在すれば足ります(最判昭和32年11月8日刑集11巻12号3061頁)。占有の肯定例・否定例として、以下の判例があります。
占有肯定例(=窃盗罪成立)
被害者が公園のベンチにポシェットを置き忘れて約27メートル離れた場所まで歩いて行った時点で被害者の占有は失われておらず、ポシェットを領得した行為は窃盗罪に当たる(最決16年8月25日刑集58巻6号515頁)。
占有否定例(=占有離脱物横領罪成立)
公衆の自由に出入りできる開店中のスーパーマーケットの6階ベンチの上に札入れを置き忘れたまま地下1階に移動してしまい、付近には手荷物らしき物もなく、札入れだけが約10分間放置されていた場合、被告人が札入れを領得した時点で札入れは被害者の占有下にあったとはいえず、占有離脱物横領罪が成立する(東京高判平成3年4月1日判時1400号128頁)
窃盗罪の構成要件③ー故意
窃盗罪の故意は、他人の財物を窃取することについて認識と認容があることです。例えば、目的物を占有離脱物と誤信していれば、窃盗の故意がないことになります(東京高判昭和35年7月15日下級裁判所刑事裁判例集2巻7~8号989頁)。この場合は占有離脱物横領罪が成立します。
窃盗罪の構成要件④ー不法領得の意思
窃盗罪は成立するには、不法領得の意思が必要です。不法領得の意思の内容は、①権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様に、②その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思です(大判大正4年5月21日刑録21輯663頁)。
難しそうな要件ですが、①権利者排除意思と、②利用処分意思に分けて考えると分かりやすいです。
①権利者排除意思
この要件は、使用窃盗と区別するために必要とされています。
使用窃盗とは、他人の物を無断で一時使用すること。日本では使用窃盗は処罰されません。
もっとも、一時使用目的なら窃盗罪不成立になるとは限りません。
判例は、駐車場から他人所有の自動車を数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図のもとに4時間あまり乗り回した事案で、使用後に元に戻しておく意思があったとしても不法領得の意思を肯定し、窃盗罪が成立すると判示しました(最決昭和55年10月30日刑集34巻5号357頁)。
②利用処分意思
この要件は、器物損壊罪などの毀棄罪と窃盗罪を区別するために必要とされています。捨てたり隠したりする目的で物を盗んだ場合は、毀棄罪として窃盗罪より軽く処罰されます。
利用処分意思が否定された例として、教員が校長に恨みを持っており、同人に責任を負わせるために、教育勅語謄本等を教室の天井裏に隠した事案があります(大判大正4年5月21日刑録21輯663頁)
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窃盗罪の検挙率
令和2年版犯罪白書によると、令和元年の窃盗の検挙率は、侵入窃盗64.1%、非侵入窃盗44.0%、乗り物盗9.2%です。
非侵入窃盗の中には、身近な犯罪である万引きも含まれます。万引きは現行犯逮捕の他、防犯カメラ映像等の証拠をもとに後日逮捕されることもあります。
万引きの検挙率は70.2%と比較的高くなっています。万引きは軽い犯罪と考えがちですが、衝動的な万引きでも繰り返していれば実刑判決のおそれが高まります。
窃盗罪の弁護を弁護士に依頼するメリット
不起訴処分が期待できる
窃盗事件を起こした場合、重要なのはできる限り早く示談を成立させることです。検察官は、犯行態様の悪質性や被害品の価値だけでなく、示談成立の有無も起訴・不起訴の判断に際し考慮するからです。特に、窃盗のような財産犯は、お金を支払うことで被害が回復したと同視できます。ですから、窃盗罪における示談は不起訴となるために非常に大きな意味を持っています。
ちなみに、令和元年の窃盗罪の起訴猶予率は、男性が46.6%、女性が59.9%です(令和2年版犯罪白書)。
アトム法律事務所では、窃盗事案で宥恕条項付き示談の成立と被害届取下書の提出により不起訴を獲得するなど豊富な弁護実績があります。窃盗罪で不起訴を獲得したい場合、ぜひ当事務所にご相談ください。
早期釈放が期待できる
被害額が大きく実刑のおそれがある、犯行を否認しているなどの事情があると逮捕・勾留されるおそれがあります。
もし逮捕・勾留された場合、示談成立によって早期釈放が期待できます。示談が成立すれば、逃亡や証拠隠滅のおそれといった身体拘束の理由がなくなるからです。示談成立が早ければ、逮捕を回避できる可能性もあります。
刑事事件は、逮捕・勾留されてから検察官が起訴するかどうか決めるまで最長でも23日しかありません(逮捕後の流れについて詳しく知りたい方は、『逮捕されたら|逮捕の種類と手続の流れ、釈放のタイミング』もぜひご覧ください)。早期釈放を実現するには、一日も早く刑事弁護の実績豊富な弁護士に依頼することが最善の方法です。
執行猶予や減刑が期待できる
示談が成立すれば、執行猶予付き判決や刑の減軽が期待できます。
また、弁護士は、示談交渉の他にも、事案に応じてきめ細やかな情状弁護を行います。
例えば、窃盗の原因が経済的困窮にあるのなら、生活保護に関する情報を提供するなど、生活環境の改善に向けて活動します。
窃盗の原因が病気であるケースもあります。それが、「窃盗症(クレプトマニア)」です。窃盗症は、医学的にきちんとした診断基準がある病気です。放置するとご本人にとっても辛い状況が続きます。窃盗症の場合、専門医療機関で治療を受けることが再犯防止のために重要です。弁護士は、専門医療機関の情報を提供したり、保釈を申立てて通院のサポートを行います。
弁護士は、被告人が社会内で更生できる環境を調えることにも全力を尽くします。こうした活動は、執行猶予付き判決や減刑の獲得にも非常に有効です。
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