
昨今、「転職に伴い会社の営業秘密を持ち出した」などの不正行為がよく問題になります。会社のデータを持ち出す行為は、不正競争防止法違反に該当し、刑事罰を科されるおそれがあります。
この記事では、不正競争防止法違反に該当する行為や刑事罰についてわかりやすく解説します。特に問題になることの多い「営業秘密侵害罪」についても詳しくご説明します。

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目次
不正競争防止法とは?
不正競争防止法の目的
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争とこれに関する国際約束の的確な実施を確保することで、国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています(1条)。
この目的を実現するために民事上及び刑事上の措置を定め、不正競争行為を規制しています。次の項では、不正競争行為に該当する具体例と刑事罰を解説します。
不正競争防止法違反に該当する行為
【不正競争行為一覧(2条1項)】
類型 | 具体例 | 刑事罰(21条1項~3項) |
---|---|---|
周知表示混同惹起(1号) | 他社の著名な商号が記載された袋に同社が製造したものではない商品を入れて販売する行為 | 個人:懲役5年以下、罰金500万円以下 (併科の可能性あり) 法人:罰金3億円以下 |
著名表示の冒用(2号) | 他社の著名なブランド名と同一の表示を自社の営業する施設において使用する行為 | 個人:懲役5年以下、罰金500万円以下 (併科の可能性あり) 法人:罰金3億円以下 |
商品形態の模倣(3号) | 他社の商品の形態と実質的に同一の形態の商品を販売する行為 | 個人:懲役5年以下、罰金500万円以下 (併科の可能性あり) 法人:罰金3億円以下 |
営業秘密の侵害(4号~10号) | 転職にあたって、製品の設計データや顧客名簿をUSBメモリにコピーする行為 | 個人:懲役10年以下、罰金2000万円(海外使用等は3000万円)以下 (併科の可能性あり) 法人:罰金5億円(海外使用等は10億円)以下 |
限定提供データの不正取得等(11号~16号) | 機械の稼働データを不正アクセスによって取得する行為 | なし |
技術的制限手段無効化装置等の提供行為(17号、18号) | パソコンソフトを正規の認証なく利用できる認証回避プログラムを提供する行為 | 個人:懲役5年以下、罰金500万円以下 (併科の可能性あり) 法人:罰金3億円以下 |
ドメイン名の不正取得等(19号) | 他社の著名な商号「〇〇」に類似する「〇〇grp.com」というドメイン名を使用して自社の宣伝をする行為 | なし |
誤認惹起行為(20号) | 外国産海産物を国産と偽って販売する行為 | 個人:懲役5年以下、罰金500万円以下 (併科の可能性あり) 法人:罰金3億円以下 |
信用毀損行為(21号) | 競争関係にある他社の商品が、自社の商標権を侵害するという虚偽の事実を他社の取引先に告知する行為 | なし ※ただし、刑法233条の信用毀損及び業務妨害罪(懲役3年以下、罰金50万円以下)として処罰される可能性あり |
代理人等の商標冒用行為(22号) | パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の代理人が、正当な理由なく、その商標を使用等する行為 | なし |
不正競争行為に対する民事上の措置
①差止請求(3条)
不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求すること及び侵害の行為を組成した物の廃棄等を請求すること ができます。
②損害賠償請求(4条)
故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者に対し、損害賠償を請求することができます。
③信用回復の措置(14条)
故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の信用を害した者に対し、信用回復措置を請求することができます。
信用回復措置としては、新聞等に謝罪広告を掲載するよう命じられるケースが多いです。
営業秘密侵害罪とは?
不正競争防止法違反の典型例が「営業秘密侵害罪」です。ここでは、営業秘密侵害罪の典型例と「営業秘密」の要件を解説します。また、実際の裁判例もご紹介します。
営業秘密侵害罪に該当する行為
営業秘密侵害罪の構成要件は、不正競争防止法21条1項に規定されています。ここでは、典型的な4つのパターンを解説します。
なお、営業秘密侵害罪は、平成27年改正により非親告罪化されました。そのため、被害者の告訴がなくても起訴される可能性があります。
【1号】
不正の利益を得る目的で、またはその営業秘密保有者に損害を加える目的(あわせて「図利加害目的」という)で、詐欺等行為又は管理侵害行為によって、営業秘密を取得する行為
例えば、不正アクセスによって営業秘密を取得するケースが該当します。
【2号】
1号の行為によって不正に取得した営業秘密を、図利加害目的で、使用・開示する行為
例えば、不正アクセスによって営業秘密を取得した者が、報酬を得る目的で、その営業秘密を第三者に開示する行為が該当します。
【3号】
営業秘密を営業秘密保有者から示された者が、図利加害目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、(イ)記録媒体等の横領、(ロ)複製の作成、(ハ)消去義務違反かつ消去したように仮装する方法により営業秘密を領得する行為
例えば、営業秘密が記録されたサーバにアクセスする権限を付与された者が、報酬を得る目的で、サーバにアクセスして営業秘密に関するデータを記録媒体に保存する行為は、「複製の作成」による営業秘密の領得に該当します。
【4号】
営業秘密を営業秘密保有者から示された者が、3号の行為によって領得した営業秘密を、図利加害目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、使用・開示する行為
例えば、営業秘密が記録されたサーバにアクセスする権限を付与された者が、報酬を得る目的で、営業秘密のデータを印刷して競合他社の従業員に手渡す行為は、営業秘密の開示に該当します。
「営業秘密」の要件
営業秘密侵害罪にいう「営業秘密」に該当するためには、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の要件をすべて満たす必要があります。
①秘密管理性
「営業秘密」というためには、その情報に接触できる従業員等から見て、その情報が会社にとって秘密にしたい情報であることが分かる程度に秘密管理措置がなされている必要があります。
具体的には、以下の例で秘密管理性が認められます。
- 書類に「部外秘」と記載してある
- 当該情報にアクセスできる者が制限されている
- 施錠された部屋で保管されている
②有用性
「営業秘密」というためには、その情報によりサービスの生産・販売、経営効率の改善等の経済活動に役立てることができるものである必要があります。
具体的には、以下の情報には有用性が認められます。
- 製品の設計図
- 顧客情報
- 販売マニュアル
- 過去に失敗した実験データ
③非公知性
「営業秘密」というためには、保有者の管理下以外では一般に入手できないことを意味します。
営業秘密侵害罪に関する裁判例
①実刑になったケース(ベネッセ事件ー東京高判平成29年3月21日)
通信教育業を営む会社でシステム開発に従事していた派遣労働者である被告人が、約3000万件の顧客情報を自己のスマートフォン等に複製して持ち出し、このうち約1000万件の顧客情報をインターネット上にアップロードし、名簿業者に開示した事案。
判決
懲役2年6月、罰金300万円
この事案では、犯行の悪質性に加え、被害会社に多大な経済的損害を与えた上、その信用を失墜させるなど、結果が重大であることが重視され実刑が選択されました。
もっとも、顧客情報の管理等に不備が多々あった点を被害者側の落ち度として被告人に有利に考慮し、原判決よりも懲役刑の刑期が短縮されました。
②執行猶予になったケース(東京地判令和2年7月9日)
②執行猶予になったケース(東京地判令和2年7月9日)
無線網を取り扱う会社で営業秘密にアクセスする権限を付与されていた被告人が、1か月余りの間に2回にわたり、各営業秘密のデータファイルの複製を作成し、領得した事案。
判決
懲役2年(執行猶予4年)、罰金80万円、ノートパソコン1台没収
この事案では、実害は生じていないものの、信用低下等の結果は軽視できないこと、犯行が発覚しにくいよう工夫を凝らしており犯行態様が悪質であること、1回当たり20万円の報酬を得たことから被告人の刑事責任は軽くないと判断されました。
もっとも、被告人が反省の態度を示していること、妻が今後も被告人を支えていく旨の上申書を提出したこと、前科前歴がないことを考慮して執行猶予が付されました。
不正競争防止法違反のお悩みはアトム法律事務所へ
不正行為をしてしまった方へ
不正競争防止法違反事件は、複雑な法律の解釈や細かな事実認定が問題になります。そのため、不正競争防止法違反の被疑者になった場合、早い段階から法律の専門家である弁護士に相談することが必須です。
弁護士は、ご相談者様から丁寧に事情をお聴きした上、本当に不正競争防止法違反に該当するのか検討します。
犯罪の構成要件を満たさない場合は、その理由を検察官に具体的に説明し不起訴を求めます。
仮に構成要件に該当する場合でも、示談、家族による監督、被害者側の落ち度などご相談者様に有利な事情を主張し、不起訴にすべきだと粘り強く主張します。
また、弁護士は取調べのアドバイスも行います。取調べでの不用意な一言が重大な不利益につながるおそれもあります。そうなる前にぜひ弁護士のアドバイスを受けてください。
どのような事案でも弁護士が全力でお力になります。お一人で悩まず、刑事事件に強いアトム法律事務所にぜひご相談ください。
会社の代表者や法務部の方へ
従業員が営業秘密侵害罪などの不正競争行為をすると、両罰規定により、場合によっては法人も刑事罰を受ける可能性があります。不正競争防止法違反に関して少しでも不安がある場合は、お早めにアトム法律事務所にご相談ください。
また、営業秘密の漏えいは一たび起こると会社にとって甚大な不利益が生じるおそれがあります。
未然に防ぐため、アトム法律事務所の内部通報ツール【コンプラチェッカー】の導入をぜひご検討ください。