- 会社の契約書を偽造してしまった・・・
- 領収書を偽造してお金をだまし取ってしまった・・・
他人の印章(はんこ)や署名を使って、契約書や領収書などの私文書を偽造すると、有印私文書偽造罪に問われることがあります。
初犯であれば不起訴になるのか、刑罰は軽く済むのかなど、初めて事件を起こして警察の捜査を受けている方は不安が尽きないでしょう。
この記事では有印私文書偽造罪の初犯で刑罰がどうなるのか、逮捕されることはあるのかなど、加害者の方が気になる内容について解説します。
目次
有印私文書偽造罪の解説
有印私文書偽造罪とは?
有印私文書偽造罪とは、他人の印章または署名を使用して、権利義務または事実証明に関する文書または図画を偽造する罪です。
また、偽造した他人の印章や署名を利用して私文書を偽造した場合も、有印私文書偽造罪となります。
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して(略)偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
刑法159条1項
有印私文書偽造罪が成立する要件は、以下のとおりです。
- 他人の印章または署名を使用・偽造すること
- 権利義務または事実証明に関する文書または図画を偽造すること
- 行使する目的があること
他人の印章や署名を使用して売買契約書などを偽造する行為が、有印私文書偽造罪の典型例です。
有印私文書偽造罪の初犯の刑罰
有印私文書偽造罪で有罪になると、「3月以上5年以下の懲役」が科せられます。
有印私文書偽造罪は、公文書偽造罪に比べると罪が軽いですが、それでも懲役刑が科される可能性がある犯罪です。
有印私文書偽造罪は罰金刑が定められていない犯罪であるため、執行猶予がつかない限り実刑となり、刑務所で服役することになります。
もっとも、有印私文書偽造罪の初犯で被害者との示談が成立していれば、不起訴処分となるケースが多いです。
被害者と示談できない場合でも、弁護士に依頼すれば贖罪寄付など別の手段によって不起訴の可能性を高めていくことができます。
有印私文書偽造罪と詐欺罪の関係
有印私文書偽造罪は、金銭を不正に得る目的があるケースが一般的であり、詐欺罪や横領罪などが併せて成立することが多いです。
例えば、請求書を偽造して会社から必要以上の費用や手当を受給すれば、有印私文書偽造罪と詐欺罪に問われます。
この場合、文書偽造は詐欺を行うための手段となっているため、両罪は牽連犯という関係になり、重い方の刑罰が科せられます(刑法54条1項後段)。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」であり、有印私文書偽造罪よりも重いので、有印私文書偽造罪と詐欺罪が牽連犯である場合には、「10年以下の懲役」の範囲で量刑が判断されます。
有印私文書偽造罪の初犯は逮捕されるのか?
有印私文書偽造の初犯で逮捕される可能性
有印私文書偽造は初犯であっても逮捕される可能性があります。逮捕される可能性を高める要因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 偽造した文書が重要な文書である
- 偽造した文書が実際に使用された
- 偽造した文書によって被害が発生した
また、逮捕される可能性を低める要因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 弁護士に依頼して、反省の態度を警察に示す
- 被害者と示談を成立させる
有印私文書偽造の初犯で逮捕された後の流れ
有印私文書偽造罪を犯しても、初犯であれば逮捕されたとしても勾留される可能性は低いといえます
しかし、余罪が多数ある場合や、社会的な影響が大きいような場合には、身柄拘束が長引くおそれもあります。
逮捕されると、以下のような流れで捜査が行われます
逮捕後の流れ
- 逮捕
- 警察での取調べ
- 検察庁への送致
- 勾留請求
- 勾留決定
- 勾留期間中の取調べ
- 起訴・不起訴の決定
逮捕後に勾留された場合、起訴されるまでの期間は最長で23日間です。起訴された場合は、裁判で有罪・無罪が判断されます。
有印私文書偽造で逮捕されたらすぐに弁護士に相談しよう
有印私文書偽造で逮捕された場合は、すぐに弁護士に相談することが重要です。
弁護士は、以下のサポートを行うことができます。
- 逮捕後から勾留期間中の取調べの対応
- 不起訴処分に向けた弁護活動
- 起訴された場合の裁判対策
弁護士に相談することで、不起訴処分の可能性や軽い刑罰で終了する可能性が高まります。
有印私文書偽造罪の初犯で不起訴になる可能性
不起訴になるためのポイント
有印私文書偽造罪の初犯で不起訴になるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 被害者との示談が成立していること
- 犯罪の程度が軽いこと
- 起訴できるだけの証拠がないこと
そもそも、初犯であること自体が不起訴になるための重要なポイントです。過去に刑事罰を受けたことがない場合、再犯の可能性が低いと判断され、不起訴になる可能性が高まります。
被害者との示談
被害者との示談は、有印私文書偽造の初犯で不起訴となる可能性をさらに高めます。
示談が適切に成立していることで、被害者が加害者から謝罪と賠償を受けて許しているとされ、検察が起訴する必要がないと判断しやすくなるからです。
有印私文書偽造は詐欺や横領の手段となることが多く、示談の主な相手は金銭的な損害を受けた被害者となります。私文書の名義人との示談も状況によっては考えられるかもしれません。
示談交渉の際には、後になって追加で請求されないように文言を作ったり、加害者の処罰を望まない旨の内容を盛り込んだりするなど、不備のない示談を成立させる必要があります。
犯罪の程度が軽い
犯罪の程度が軽いことも、不起訴になるためには重要なポイントです。
犯罪の程度が軽く、被害が大きくない場合には、慰謝料や示談金も多額にならないため示談を成立させやすいでしょう。
また、示談が仮に成立しなかったとしても、犯罪の程度が軽ければ処罰の必要がないと検察が判断して、不起訴になるケースもあるかもしれません。
いずれの場合も、弁護士に相談することで、ご自身の処分の見込みを把握することができます。
有印私文書偽造罪を犯してしまった場合には、早い段階で弁護士に相談してみてください。
起訴できるだけの証拠がない
検察が起訴できるだけの証拠がなければ、不起訴になる可能性が高まります。
検察官は、起訴するかどうかを決定する際に、加害者が有罪であると認めるに足りる証拠があるかどうかを判断します。証拠が不十分な場合は、起訴されずに不起訴になる可能性があります。
不起訴になるメリット
有印私文書偽造罪で不起訴になれば、以下のメリットがあります。
- 前科がつかない
- 刑罰を受けずに済む
- 就職や転職に影響がない
前科がつかないため、就職や転職に影響がないことは、大きなメリットです。刑罰を受ける必要もなくなります。
不起訴のために弁護士は必要なのか
不起訴のために弁護士が必要であるという法律的な決まりはありませんが、弁護士をつけることで不起訴処分の可能性が高まるでしょう。
不起訴を獲得するためには、被害者と示談したり、検察に処罰の必要性がないことを主張したりする必要があります。
しかし、被害者や検察との交渉を自分で進めることはきわめて困難です。
被害者対応や捜査機関への対応などをスムーズに進め、不起訴の可能性を高くしたいのであれば、弁護士に依頼するのが最も効率的な方法です。
弁護士は、法律の専門家として、加害者の主張を整理し、有利な証拠を収集・提出することで、不起訴になる可能性を高めることができます。また、捜査や取り調べの対応も、弁護士に依頼することで、加害者が不利益な状況に陥ることを防ぐことができます。
弁護士に依頼するかどうかは、加害者の状況や事情によって異なりますが、不起訴を目指すのであれば、弁護士に依頼することを検討することが望ましいでしょう。
起訴されたらどうなるのか?執行猶予になる可能性は?
有印私文書偽造罪は罰金刑が規定されていないため、略式裁判はなく、起訴されれば正式裁判が始まります。刑事裁判で有罪か無罪かが判断され、執行猶予がつかなければ刑務所で服役することになります。
しかし、有印私文書偽造罪は、初犯で被害者対応などが完了していれば起訴される可能性は低いです。もっとも、事件後何もせずに放置していたり余罪が多数あったりすると、起訴されるおそれもあります。
令和4年の犯罪白書によれば、偽造の罪における執行猶予率は約83.3%でした。
通常第一審で偽造の罪で懲役刑となった被告人の総数は433人であり、執行猶予がついた総数は361人でした。
このデータは有印私文書偽造罪に限った統計ではないですが、私文書偽造と公文書偽造であれば公文書偽造の方が重い罪に問われることが多いです。
有印私文書偽造罪の初犯で起訴されてしまったとしても、執行猶予になる可能性は十分高いといえるでしょう。
文書偽造に関連する犯罪
私文書偽造罪
私文書偽造罪は、有印私文書偽造罪と無印私文書偽造罪に分類されます。
有印私文書偽造罪(刑法159条1項)
有印私文書偽造罪とは、利用する目的で、他人の印章または署名を使用して私文書を偽造する犯罪です。
例えば、他人の印章を偽造して領収書や契約書などを偽造する行為が典型例となります。
法定刑は「3月以上5年以下の懲役」です。
無印私文書偽造罪(刑法159条3項)
無印私文書偽造罪は、利用する目的で、他人の印章や署名を使用せずに私文書を偽造する犯罪です。
有印私文書は社会的に信用度が高いため強く保護されていますが、無印私文書を強く保護する必要はありません。
そのため、無印私文書偽造罪の法定刑は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金」となっています。
私文書変造罪
私文書変造罪は、有印私文書変造罪と無印私文書変造罪に分類されます。
有印私文書変造罪(刑法159条2項)
有印私文書変造罪は、他人が押印・署名した私文書を変造する罪です。法定刑は、「3月以上5年以下の懲役」です。
変造とは、文書の非本質的部分を書き換えるなどして、内容を改ざんする行為です。
過去の判例では、借用証書の金額の側に別の金額を記入する行為や、預金通帳の金額を書き換える行為などが、有印私文書変造に該当するとされています。
無印私文書変造罪(刑法159条3項))
他人の押印・署名がない文書の変造は無印私文書変造罪となり、「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金」が科せられます。
公文書偽造罪
公文書偽造罪は、有印公文書偽造罪と無印公文書偽造罪に分類されます。
有印公文書偽造罪(刑法155条1項)
有印公文書偽造罪は、利用する目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して「公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画」を偽造することです。
公務所や公務員の印章・署名を偽造した場合も、有印公文書偽造罪になります。
有印公文書偽造罪の典型例は、免許証の偽造です。
有印公文書偽造罪の法定刑は「1年以上10年以下の懲役」です。
公文書は信用度が極めて高い文書であり、偽造による影響が私文書よりも大きいため、刑罰が重くなっています。
無印公文書偽造罪(刑法155条3項)
無印公文書偽造罪は、公務所や公務員の印章・署名を使わずに公文書を偽造する犯罪です。法定刑は「3年以下の懲役又は20万円以下の罰金」となります。
公文書変造罪
公文書変造罪は、有印公文書変造罪と無印公文書変造罪に分類されます。
有印公文書変造罪(刑法155条2項)
有印公文書変造罪は、公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造する犯罪です。法定刑は、「1年以上10年以下の懲役」です。
無印公文書変造罪(刑法155条3項)
無印公文書変造罪は、公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造する犯罪です。法定刑は「3年以下の懲役又は20万円以下の罰金」となります。
偽造私文書行使等罪
偽造私文書行使等罪とは、偽造や変造された私文書を行使する犯罪です(刑法161条)。
法定刑は偽造罪・変造罪と同じ「3月以上5年以下の懲役」となります(有印私文書の場合)。
同罪における行使とは、提示や提出、交付や閲覧させる行為などが該当します。
偽造公文書行使等罪
偽造公文書行使等罪とは、偽造や変造された公文書を行使する犯罪です(刑法158条)。
法定刑は偽造罪・変造罪と同じ「1年10年以下の懲役」となります(有印公文書の場合)。
同罪における行使も私文書と同様、提示や提出、交付や閲覧させる行為などが該当します。