刑事事件に強い弁護士

逮捕と解雇

「逮捕されたら解雇されてしまう?」
「逮捕の事実を会社に知られたくない!」

刑事事件で逮捕されたとき、職場にどのような影響が及ぶか不安に思う方は非常に多いです。

この記事では逮捕による解雇についてお悩みをお持ちの方に向けて『逮捕を理由とした解雇は法的に有効なのか』『逮捕後、会社に連絡することは可能なのか』といったよくある疑問を解説しています。

逮捕だけを理由とした解雇は無効

まず逮捕された直後に行われる解雇は原則として違法です。

そもそも逮捕とは逃亡や証拠隠滅を阻止するために身体拘束するという手続きであり、逮捕の段階では罪が確定されていません。
冤罪の可能性もありますし、仮に罪を認めていたとしても不起訴となって裁判が開かれず前科もつかないというケースは数多くあります。

逮捕=有罪確定といった図式は完全に誤りであり、まだ処分が確定していない段階から解雇をするのは無効となります。

処分が確定しても解雇が有効とは限らない

罪を認めた場合でも解雇無効なケースは多い

逮捕後、処分が確定したとしても解雇が有効になるケースは限定的です。

まず犯罪について容疑を否認していて、最終的に嫌疑不十分や嫌疑なしを理由に不起訴になった場合やあるいは裁判で無罪判決を受けた場合には解雇は当然無効です。

罪を認めて有罪判決を受けた場合、あるいは被害者と示談を結ぶなどして起訴猶予処分で不起訴になった場合についても、そのすべてで解雇が認められるわけではありません。

裁判例から言うと、刑事事件を起こしたことを理由とした解雇は『会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合』にのみ認められます。

実務上解雇が認められるかどうかの基準としては『その犯罪が業務に関係するか』『その犯罪が重大・悪質なものか』『報道されたかどうか』『会社内の地位が高いか』『刑務所に収監されたか』といった要素が重要になります。

その犯罪が業務に関係するか

例えば『業務中に横領や窃盗を行った』といった場合、企業秩序を乱したとして解雇が認められる可能性が高いです。

また 『運転手であるにも関わらず飲酒運転をした』、『教職であるにも関わらず児童を被害者とする犯罪をした』といったように、自身の職業と関係のある犯罪をした場合にも解雇が有効となる可能性はあがります。

一方で通勤中や休日に行われた業務と関係のない私生活上の犯罪の場合、解雇が有効となるケースは限定されます。

犯罪が重大・悪質なものか

犯罪が重大であったり悪質であったりするほど、会社の社会的な評価への影響が大きいと判断され解雇の可能性は高まります。

また、初犯ではなく再犯であった場合なども悪質性が高いと評価され解雇の可能性は高まります。

報道されたかどうか

事件について報道があった場合、会社は自社の従業員が犯罪を犯したとして社会的な評価を毀損されます。

報道があったという事実は会社に与えた影響が大きかったと判断される要素となり、解雇が有効となる可能性が高まります。

会社内の地位が高いか

会社の中で役職に就いている場合など、普通の従業員に比べ会社内での地位が高い場合には解雇の可能性は高まります。

責任のある立場にある人が犯罪を犯した場合には他の従業員との不和が大きくなる可能性があるため、解雇が相当であると判断されやすくなるのです。

刑務所に収監されたか

裁判を経て執行猶予無しの実刑となった場合、物理的に会社に出社したり業務を行ったりすることができなくなります。

この場合、雇用契約で定められた労働を行うことができなくなるため、ほぼ確実に解雇が有効だと認められてしまいます。

解雇が無効・有効となった裁判例

解雇が無効とされた裁判例

解雇が無効とされた裁判例としては、『横浜ゴム事件(最高裁判所 昭和45年7月28日)』が代表的です。
ゴムの製造を行う工場に勤める従業員が、深夜に他人の住居の風呂を覗いて住居侵入罪で捕まり最終的に罰金刑を科せられ、『不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した』として解雇されたという事件です。

裁判所は『犯罪が私生活の範囲内で行なわれたものであること』『科された刑が罰金刑であり軽いこと』『会社における職務上の地位が指導的なものでないこと』などを理由として解雇を無効と判断しました。

また『日本鋼管事件(最高裁判所 昭和49年3月15日)』でも、解雇が無効であるという判決が下されています。
この事件は鉄鋼の製造販売を行う会社の一従業員が米軍基地に対し行き過ぎたデモ活動を行い検挙され、また事件が報道されて会社の取引などに影響が出たため解雇されたというものです。

裁判所は『従業員の犯罪が破廉恥犯ではないこと』『科された刑が罰金刑であり軽いこと』『会社が大企業であること』『従業員の地位がただの工員にすぎなかったこと』などから解雇を無効と判断しました。

解雇が有効とされた裁判例

解雇が有効とされた裁判例としては、『小田急電鉄事件(東京高等裁判所 平成15年12月11日)』が有名です。
鉄道従業員が自身の勤める会社とは別の私鉄沿線において痴漢を行い罰金20万円を科せられ、会社から解雇されたという事件です。

裁判所は『過去に2回同種犯罪を犯し罰金刑を科せられていること』『過去の犯罪の際にも会社から減給等の処分を受けていること』『勤め先において痴漢撲滅キャンペーンを行っている最中だったこと』等を理由として解雇を有効としました。

犯行態様が悪質であったり、業務と関連していたりすると、やはり解雇が有効となる可能性は高まります。

逮捕後すぐ会社に連絡できる?

逮捕後、外部との連絡手段は著しく制限されます。
逮捕され留置場に入れられる際にはスマホ等は警察官の預かりになってしまいますし、自由に外に出ることもできなくなります。
よって、逮捕後すぐ会社に連絡することはできません。

逮捕後、勾留まで認められてしまった場合には何日ものあいだ無断欠勤することになります。
犯罪の事実が職場に知られる例としては、無断欠勤により身元の問い合わせを親族に行い親族が会社に欠勤の理由を話すなどして逮捕の事実が把握される、というのが典型です。

逮捕後、勾留されるまでに至らなかった場合には数日の欠勤で済む場合もあります。
その場合は会社に逮捕の事実などを知られる可能性を下げることができるでしょう。

逮捕を理由に解雇されてしまいそうになったときの対処法

先述の通り、逮捕されたという事実だけで解雇をするのは法的に無効です。
しかし会社の全てが法律や裁判例に精通しているわけではなく、逮捕後すぐに懲戒解雇をしたり、処分確定後に事件内容を精査せず解雇したりするケースは数多く発生しています。

この点、逮捕による解雇が心配な方は弁護士に相談するのがおすすめです。

弁護士は警察官、検察官、裁判官への働きかけによって逮捕・勾留の可能性を下げることができます。
つまり刑事事件で検挙されたという事実を職場に知られる可能性を下げることができ、そもそも解雇などの問題が生じないように努めることができるのです。

加えて、もし会社に事実を知られてしまったとしても、過去の裁判例など客観的な根拠を提示したうえで解雇が無効であることなどを主張することができます。

仮に会社を辞める場合であっても、解雇されると退職金などが生じず、また職歴にも傷がつくため転職が難しくなってしまう可能性があります。
解雇を阻止して自主退職となれば、今後生活を送っていくうえで非常に有利になります。

逮捕による解雇についてお悩みや不安をお持ちの方は、ぜひ一度弁護士に相談してみてください。


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