示談にはいくつかポイントがあります。示談は刑事処分に影響することであり、決裂しないようしっかり準備しておく必要があります。この記事では、示談決裂を回避するための注意事項をまとめています。また、示談が決裂したときの対応方法についても触れています。これから示談を予定している人や、今まさに示談をしている人に読んでいただきたい記事になっています。繊細な被害者対応を成功させる秘訣を、実践経験豊富な弁護士が解説しています。
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目次
示談交渉の決裂回避術|弁護士が注意する被害者対応3つ
①示談での解決は被害者にとってメリットが大きい
示談決裂を回避するポイントの一つは、示談が被害者にとってどのような意味を持つか、被害者に対し、丁寧に説明することです。被害者と示談をする際に、示談の意味合いを説明しなければ、誤解を生みかねません。「示談金ですべてなかったことにしようとしている」「お金さえ積めば許されると思っている」など、加害者への印象が悪くなりかねません。被害者が被害を被った点、それによる精神的なショックなどにも配慮して、示談をすることのメリットを説明することで、示談決裂の可能性を下げることが重要です。
示談が決裂すると、それ以降、被害者は事件により被った被害を金銭で賠償してもらえなくなる可能性があります。また、刑事事件が裁判まで進み、場合によっては被害者が法廷に呼び出されて公開の場で証言を求められるという展開もありえます。それを踏まえると、示談交渉で被害弁償を受け、事件解決を検討することは、被害者にとっても大きな意味をもつといえます。
②示談金・慰謝料の金額は適切か
示談決裂を回避するポイントの2つ目は、被害者に示談金(慰謝料)について、なぜその金額が妥当かを説明し、納得してもらうことです。示談は、当事者の合意があってこそ成立するもので、被害者が納得しないことには決裂の可能性が高まります。示談金(慰謝料)の金額は示談の重要な部分です。弁護士が金額を提示するときには、根拠を示し、被害者の納得を得る努力をします。
事件によっては、被害金額と慰謝料だけでなく、事件により生じた被害者の出費までカバーする必要が生じます。例えば、加害者に被害者自宅が知られているケースでは、被害者は引き続き同じ場所で生活することに恐怖を感じるため、引越しをせざるをえなくなることがあります。その引越し費用を示談金に盛り込むことで、被害者に配慮した示談を締結することを目指します。
③弁護士が加害者に代わって示談をする意味
示談決裂回避のためのポイント3つ目は、弁護士が被害者の代わりに示談を行うことの意味を説明することです。犯罪加害者が被害者に直接接触して示談をすることは避けるべきです。直接謝罪をしたいと考えても、被害者からすると恐怖であったり不快感を感じるおそれがあります。被害者の心情に配慮して、弁護士が加害者に代わり謝罪と示談の話をするということが大切です。
また、警察や検察官から見ても、被疑者が被害者に接触することは、口封じの危険(証拠隠滅のおそれ)を感じます。被害者に対して誠意ある態度を考えるのであれば、弁護人に示談を任せるべきといえます。被害者も弁護士であれば落ち着いて話を聞くことができ、冷静に解決に向けた話し合いをすることが期待できます。
示談が決裂したときに弁護士が行う重要な活動とは
示談決裂の原因を整理する|原因は被害者?加害者?
示談が決裂した場合に、弁護士が行うことがあります。まずは、その示談決裂の原因を整理することです。示談決裂の原因が被害者にあるのか、加害者にあるのかで、今後の展開が変わるため、これは重要なことです。被害者が法外な金銭を示談金や慰謝料として請求してきたために、それに応じることができなかったのか、加害者が誠意ある謝罪をしなかったがために示談が決裂したのか、まずは原因を整理します。
示談が決裂する以前の問題、というケースもあります。そもそも被害者が示談交渉に応じる気がないという場合です。被害者が謝罪をうけることを拒否したり、話し合いの場を設けることを避けることもあります。もう事件にかかわりたくないという思いが強かったり、加害者に対する恐怖や嫌悪の気持ちから、示談ができないという場合があります。その時には、弁護人は他の手段を検討することになります。
示談交渉の経過を記録し報告する
何らかの事情で示談が決裂した場合、弁護人は被害者に対して対応を尽くしたということや、示談交渉を試みたことを検察官に報告します。示談が長引く場合でも、検察官が起訴・不起訴の処分を決める前に、示談交渉の経過状況を報告書にして提出することがあります。
検察官に示談状況が伝わらなければ、被害者に対して何もしていないと思われてしまうかもしれません。加害者に反省や謝罪の意思がないということで、厳しい処分になることも考えられます。そうならないために、示談が決裂しても、それまでに活動を尽くしたことを報告書にして検察官に説明することが大切です。
示談金・慰謝料を供託する
示談が出来なかった場合や、示談が決裂した場合には、直接被害者に被害弁償を支払うことができなくなります。そのとき、弁護士は「供託」という制度を使うことを検討します。これは、被害者が被害弁償金の受領を拒むときに、その金額を法務局に預けることで、加害者の弁償意思を示すというものです。被害者はそのお金を受け取ろうと思えば法務局に連絡し、受け取ります。
供託では、被害者が加害者はもちろんのこと、その弁護人にも接触することなく被害弁償金を受け取ることができます。弁護人は、供託をしたときには、供託をしたことを証する書面(厳密には、その写しです。)を検察官に提出します。このように、示談が出来ない、示談が決裂したからといって諦めるのではなく、他に出来ることがないか、弁護士と相談することが重要です。
示談の決裂が不安な方へ|弁護士からのアドバイス
被害者に支払う示談金の金額には相場がある
被害者と示談交渉を行う際、気になることの一つに「示談金の金額」があります。示談金の金額には、事件によって相場がありますので、それを基準にしつつ被害者の合意を得る話し合いを行います。被害者が希望する金額を全額支払うことが必ずしも正しい示談ではありません。被害者の心情を最大限に配慮しつつ、事件に応じて適切な金額で示談をすることが望ましいといえます。
例えば、痴漢の場合、各都道府県の迷惑防止条例違反という罪名がつけられる場合には、30万円~50万円が相場となっています。強制わいせつ罪(現不同意わいせつ罪)となる場合には、示談金が100万円を超えることも珍しくありません。事件によって相場があるとはいっても、個別の事情によって左右されますので、具体的な実例は弁護士に確認されることをお勧めします。
示談決裂が刑事事件(裁判)に与える影響を知る
示談が決裂した場合には、それが刑事処分に影響することを想定しておかなければいけません。刑事処分は、被害者の被害状況や感情が重視されます。示談をして被害弁償をすべき事案において、示談が出来なかったとなれば、被害者の被害回復や心情面の慰謝は実現されていないと評価されます。これにより、起訴された場合には、すぐに裁判の準備に入る必要があります。
起訴され、刑事裁判を受けることになった場合には、執行猶予付きの判決を目指すことになります。そのとき、加害者は裁判の中で、被害者対応をできる限り行ったということを示すことが大切です。その取り組み経緯を示すことで、反省と謝罪の意思があり、再犯防止への意欲を示すことができます。
被害者対応は早い段階で弁護士に相談する
加害者が被害者のいる事件を起こしたとき、まずすべきことは弁護士に相談して、具体的な被害者対応を検討することです。謝罪や被害弁償をする際にも、直接被害者に接触することは避けるべきです。そのため、まずは刑事事件の専門家である弁護士に対応方法を仰ぐのがよいでしょう。
被害者対応は、時間が経過するほど示談を難しいものにします。できるだけ早い段階で示談を進めるために、弁護士に相談し、すぐに動いてもらうことが望ましいです。示談は刑事事件の手続きと並行して進められるものです。そのため、刑事事件を扱った経験が豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。
まとめ
示談は、刑事処分に影響するものとして、とても重要な意味をもちます。示談ができると、不起訴獲得や執行猶予獲得につながります。示談は被害者の置かれた状況に十分配慮しながら慎重に行うべきものですので、弁護士の経験値が試されます。性犯罪など、事件の性質上、繊細な事情を含むものもありますので、どれも同じ流れで示談を進めることは適切ではありません。示談が決裂しないようにするためには、事前に弁護士によく相談し、示談のタイミングや方法についても詳細なアドバイスをもらっておきましょう。