ご自身や息子さんなどご家族が刑事事件を起こした場合、よくある質問が「示談が成立すれば前科がつかないの?」というものです。結論から言うと、示談成立によって不起訴処分になれば前科はつきません。不起訴処分になる以外にも、示談にはたくさんのメリットがあります。
この記事では、そもそも前科はどんな場合につくのか、前科と前歴の違いは何なのか最初にご説明します。そして、示談のタイミングと効果を詳しく解説。さらに、犯罪ごとの示談金相場や弁護士に示談交渉を依頼するメリットも具体的にご紹介します。
誰にも相談できない悩みを抱えている方にとって、この記事が今後とるべき行動の参考になるはず。早速一緒に見ていきましょう。
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目次
示談すると前科・前歴がつかない?
まず最初に、「前科」「前歴」の意味や、生活上どのような影響があるかご説明します。
前科はどんなときにつく?前歴との違いは?
前科について
前科とは起訴されて有罪が確定した裁判をいいます。起訴とは、検察官が裁判所に対して裁判を開くよう求めることです。交通事犯などで略式起訴され有罪になった場合も前科になります。前科は戸籍や住民票には載りませんが、検察庁の管理する前科調書に記載されます。
前科がつくのは、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の刑罰を科されたときです。前科がつくと、国家資格の制限や海外渡航の制約など様々なデメリットがあります。
起訴されても無罪になれば前科にはなりません。しかし、日本の刑事裁判は、起訴されると99%以上の確率で有罪になるのが実情です。ですから、前科をつけたくなければ、不起訴処分にすることが非常に重要です。
前歴について
前歴は、警察や検察の捜査対象になったことをいいます。逮捕の他、書類送検された場合も前歴になります。示談が成立した場合も捜査対象になった以上、前歴は残ります。もっとも、前歴は、前科のように資格制限など法律上のデメリットはありません。
示談すると起訴猶予になり前科がつかない?
検察官は、犯罪の容疑が認められる場合でも、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により起訴しない場合があります。これを「起訴猶予」といいます。起訴猶予になると前科はつきません。
示談が成立すると、起訴猶予の可能性が高まります。令和元年の起訴猶予率(刑法及び道交法違反を除く特別法犯)は、64.5%に上ります(令和2年版犯罪白書)。想像よりも起訴猶予率が高いと感じるのではないでしょうか。犯行を認める場合、真摯に反省すると共に、早期に示談を成立させることが起訴猶予になるポイントです。
もっとも、再犯を繰り返している場合や、殺人や不同意性交等罪などの生命・身体犯ではたとえ示談が成立しても起訴される可能性は高いです。
前科を回避するには示談|タイミングと効果は?
前科がつくのを避けたければ、示談交渉は「できるだけ早く」始めるのが正解です。示談成立が早ければ早いほど日常生活への影響は小さくなります。
ここでは、示談成立のタイミングとその効果を刑事手続きの流れに沿って【事件発生~逮捕前】、【逮捕後~起訴前】、【起訴後】の3つに分けてご説明します。
事件発生~逮捕前に示談が成立した場合
逮捕前に示談が成立する最大のメリットは、逮捕を回避できる可能性が高まることです。逮捕は、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあるときでなければできません。示談成立によってこれらのおそれはなくなるので、逮捕の可能性も小さくなるのです。被害届の取り下げに同意してもらえると、より効果的です。
逮捕されると最大3日間拘束されます。この間に無断欠勤となり事件のことを職場に知られるケースが多く存在します。しかし、逮捕されなければ事件について仕事の関係者に知られる危険は相当小さくなります。したがって、逮捕前の示談成立は解雇防止策としても非常に有効です。
逮捕後~起訴前に示談が成立した場合
逮捕後から起訴されるまでの間に示談が成立すると、①身体拘束からの早期解放、②起訴猶予が期待できるという2つのメリットがあります。
①身体拘束からの早期解放
逮捕に引き続き勾留されることがあります。勾留は、逃亡や罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由があることがなければできません。
示談が成立すれば、勾留されない、もしくは、勾留期間(原則10日間+延長でさらに最大10日間)が短くなる可能性が高まります。
なぜならば、示談によって被害者から許しを得たのであれば、示談成立後に被疑者が逃亡や罪証隠滅をする理由が無いとみなされやすいためです。
②起訴猶予が期待できる
示談が成立すれば起訴猶予になる可能性も高まります。被害者側が加害者側を許すという宥恕文言つきの示談が成立すると、起訴猶予につながりやすくなります。
起訴後に示談が成立した場合
起訴後の示談成立は、①執行猶予付き判決等の可能性が高まる、②保釈の実現が期待できるというメリットがあります。
①執行猶予付き判決等の可能性が高まる
示談が成立すれば、執行猶予や減刑の効果が見込まれます。
もっとも、起訴・不起訴の判断場面と同様、犯罪の種類によって量刑への影響の程度は異なります。窃盗罪などの財産犯は、示談によって執行猶予や減刑になる可能性が高いでしょう。
一方、不同意性交等罪など金員によって回復困難な被害が生じた犯罪では、示談が成立しても量刑への影響はわずかと考えた方が良いでしょう。
②保釈の実現が期待できる
保釈は起訴後に身体拘束から解放する手続きです。実務上、保釈を許可するかどうか分かれ目になるのが「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があるか否かです。
示談が成立すれば、被害者を脅すなどの罪証隠滅行為に出るおそれはなくなるので、保釈も認められやすくなります。
逮捕後の示談 | 起訴後の示談 | |
---|---|---|
期待できる メリット | 早期釈放、起訴を防ぐ | 執行猶予の獲得、保釈 |
前科 | つく可能性低い | つく可能性高い |
前科回避のため示談金の相場を知ろう!罪種ごとに解説!
前科がつくのを避けたい場合、気になるのが示談金の相場ですよね。ここでは、アトム法律事務所での解決実績をもとに、罪種ごとに示談金の相場をご紹介します。
①暴行罪・傷害罪の示談金相場
暴行罪や傷害罪の示談金は、治療費や交通費などの実費の他、精神的苦痛に対する慰謝料を合わせた金額となることが一般的です。重傷の場合、示談金は100万円を超えることもあります。
暴行事件や傷害事件は、酒に酔った上でのけんかなど、相手にも落ち度がある場合が少なくありません。そうした事情も考慮しつつ、民事裁判で認められるような適切な金額を基準に示談の締結を目指すことが重要です。
ちなみに、令和元年の起訴猶予率は、暴行罪が68.3%、傷害罪が59.2%に上ります(令和2年版犯罪白書)。暴行罪・傷害罪は、起訴猶予の獲得可能性が高い犯罪です。早期に弁護士に依頼すれば、その分得られるメリットも大きいでしょう。
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②窃盗罪の示談金相場
窃盗罪は、示談による被害回復性が大きいことが特徴です。窃盗罪で示談が成立すると初犯で被害額が軽微であれば、不起訴となる可能性が大きいです。また、窃盗事件では、示談成立の有無が実刑判決か執行猶予かの決め手になる場合も少なくありません。
もっとも、同じ窃盗罪でも万引き、スリ窃盗など手口の違いにより、示談の量刑への影響は異なります。例えば、スリ窃盗の場合、行為者の危険性が大きいので、示談が成立しても通常は量刑への影響は少ないと考えられています。
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③盗撮の示談金相場
盗撮の示談金は、被害者の精神的苦痛に対する慰謝料と同視できます。慰謝料額は犯行態様の悪質性と処罰感情の大きさを軸に決まります。処罰感情が大きければ、示談金は30万円を超えることも少なくありません。
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④痴漢の示談金相場
痴漢の示談金も、盗撮と同様、被害者の精神的苦痛に対する慰謝料と同視できます。示談金額は、犯行態様の悪質性と処罰感情の大きさを軸に決まります。陰部を触るなど悪質性が高い事例では、示談金が100万円を超えることもあります。
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⑤不同意わいせつ(旧強制わいせつ罪)の示談金相場
不同意わいせつ罪の示談金も慰謝料の意味が強く、その金額は行為態様の悪質性と被害感情の大きさを軸に決まります。悪質なケースでは示談金が100万円を超えることもあります。
不同意わいせつ罪は、被害者の告訴がなくても起訴できる非親告罪ですので、示談成立により告訴を取り消してもらえたとしても、不起訴になるとは限らないことに注意してください。
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⑥器物損壊罪の示談金相場
器物損壊罪の示談金額は、壊された物の経済的価値に大きく左右されます。
器物損壊罪は親告罪なので、示談をするメリットが非常に大きいのが特徴です。親告罪は、公訴の提起に被害者その他法律の定めた者の告訴、告発又は請求のあることを必要条件とする犯罪をいいます。器物損壊罪の他、インターネット上で問題になることの多い名誉毀損罪も親告罪に該当します。
弁護士が親告罪の示談交渉を行う場合、告訴を取り消していただくよう必ずお願いします。告訴を取り消してもらえると、100%不起訴となるため前科がつかずに済みます。
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前科を回避したい!弁護士に示談を依頼するメリット!
示談交渉を自分自身で行うと新たなトラブルを招くおそれがあります。最もおすすめな方法は、刑事弁護の経験豊富な弁護士に依頼することです。早期に弁護士に相談することで大きな安心感につながりますよ。
ここでは、弁護士に示談交渉を依頼する様々なメリットをご紹介します。具体的な弁護士費用について知りたい方はこちらの弁護士費用の目安を解説しているページをご覧ください。
弁護士 | 本人 | |
---|---|---|
示談交渉 | 交渉しやすい | 難しい |
示談成立 | 早期成立 | 時間がかかる |
内容 | 法的に万全な示談が可能 | 不完全な示談になる恐れあり |
身体拘束からの早期解放が期待できる
示談成立のポイントは、できるだけ早く交渉を始めることです。とはいえ、逮捕されてしまうと、警察署に連行され最長3日間家族にすら面会できません。
しかし、弁護士であれば逮捕中でも接見できます。接見では、事件の経緯や謝罪の気持ち、示談金の工面方法などを聴き取り、迅速に示談交渉を開始します。また、示談成立に向けたアドバイスも適宜行います。示談が成立すれば、逮捕・勾留から早期に解放される可能性が高まります。
執行猶予付き判決や減刑が期待できる
示談が成立すれば、執行猶予付きの判決を得て実刑を免れる可能性が高まります。また、実刑回避が難しい場合でも減刑につながることが期待できます。
仮に示談が成立しない場合でも、弁護士は示談が成立しない理由と示談成立に向けた被告人の努力を書面にまとめ裁判所に提出します。実務上、示談が成立しなくても、被告人が示談金をきちんと用意していたなど努力が分かる事情があれば、何もしない場合に比べ量刑上有利に考慮されます。
被害者の連絡先が不明でも交渉可能性がある
盗撮、痴漢、不同意わいせつなどの性犯罪は、被害者に謝罪したいと思っても連絡先が分からない場合が多いです。
その場合でも、弁護士に依頼すれば示談交渉を進められる可能性があります。弁護士は、捜査機関に被害者の連絡先情報を問い合わせることができるからです。
示談が難しくても謝罪の意を伝えられる
特に性犯罪では、処罰感情が大きく被害者が示談を拒否することも少なくありません。ここで大切なのは、被害者の気持ちを無視して示談を成立させようと決してしないことです。
示談で最も重要なのは、被害者の苦しみを理解すること。この過程を抜きにして示談を押し付けることは、被害者に二次被害を与えるのと同じです。また、被告人本人の更生にもつながりません。
弁護士は、どうすれば被害者の精神的苦痛をやわらげることができるか、被告人と対話を重ねます。同時に、被害者の心情に十二分に配慮しながら示談交渉に応じていただけるよう粘り強く努力します。
示談交渉が困難な状況でも、被告人が作成した謝罪文を被害者にお渡しし、その写しを裁判で証拠として提出するなど最善の弁護を尽くします。
万全な示談書をもとに示談を締結
法的に万全な示談書を作成するには、とても繊細な配慮をする必要性があります。弁護士は、清算条項(「甲と乙との間で,本件に関し,本示談書に定める他何らの債権債務のないことを相互に確認する。」)など、示談書に必須の項目を漏れなく盛り込んだ万全の示談書を作成します。
さらに、事件の内容に応じ、接近禁止条項や、将来の民事裁判を予防する条項を入れるなどの工夫を凝らし、紛争の抜本的解決を目指します。
交渉の場では、被害者に示談内容に心から納得していただけるよう、まずは加害者が真摯に反省していることを伝え、示談書について丁寧な説明を尽くします。