窃盗罪は原則として非親告罪のため、被害者の告訴がなくても起訴される犯罪です。しかし、窃盗犯人と被害者との間に一定の親族関係がある場合、窃盗罪は親告罪となるのです。
この記事では、窃盗罪が原則として非親告罪であることを確認したのち、例外的に親告罪になる場合について解説していきます。親族間で窃盗事件を起こしてしまった方は自分の起こした窃盗罪が親告罪となるのか気になるところかと思われます。ぜひ最後までご覧ください。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
窃盗は非親告罪|告訴がなくても起訴される犯罪
親告罪とは|告訴と被害届のちがい
親告罪とは、告訴がなければ公訴の提起ができない犯罪をいいます。「告訴」と似た言葉に「被害届」があるので、ここで違いを確認しておきましょう。
告訴とは、被害者が捜査機関に被害を受けたことを申告するとともに、加害者に対して処罰感情があると意思表示をするものです。告訴を受けた捜査機関は、事件を捜査する義務を負うなど法律上の効果をもちます。
被害届とは、被害者が捜査機関に被害を受けたことを申告するものです。あくまで被害の事実を申告するものであり、犯人の処罰を求める意思表示は含まれていないとされています。被害届の受理に関して法律上の決まりはありません。被害届が受理されても、捜査するかは警察の判断になります。
窃盗罪は原則、親告罪ではない
刑法の窃盗罪は235条に規定されています。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法235条
窃盗罪は原則として親告罪ではないため、窃盗罪で起訴するために、被害者の告訴は不要です。被害届が出されると警察の捜査の対象となり、刑事手続き上、起訴される可能性も出てきます。
窃盗罪の法定刑は、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。窃盗罪は身近な犯罪といえますが、一番重い刑罰としては懲役10年が想定されており甘く見ることはできません。
窃盗が例外的に親告罪となるケース
刑法244条1項、2項には、窃盗罪における親族間の特例が規定されています。一定の親族関係にある場合、窃盗罪は①刑が免除となる場合と②親告罪となる場合があるのです。
刑法244条
1 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
刑法244条
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
窃盗罪の刑が免除となるのは窃盗犯人からみて被害者が「配偶者」「直系血族」「同居の親族」の場合です。
これ以外の親族について、窃盗罪は親告罪となります。
刑法244条1項と合わせると、窃盗罪が親告罪となるのは、被害者が同居していない親族(配偶者、直系血族は除く)である場合です。
なお、民法725条によると親族は「六親等内の血族」「配偶者」「三親等内の姻族」とされています。
窃盗が親告罪となる代表的な例は、同居していない兄弟姉妹から窃盗をしてしまった場合です。たとえば、同居していない兄の時計を盗んだとしても、被害者である兄が告訴しなければ、窃盗罪で起訴されません。
親族間の窃盗なら必ず親告罪になる?
窃盗の共犯者に親族以外がいると親告罪とならない
では、窃盗の犯人と被害者との関係が「親族」であったとしても、その犯人と共犯関係にある者は、どのような扱いを受けるのでしょうか。実は、共犯者が被害者との関係において、244条1項、2項の「親族」の立場にない場合は、通常の窃盗犯人として扱われます。244条3項には「前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。」と規定されているためです。
通常の窃盗犯人として扱われると、場合によっては逮捕、勾留されることもあります。捜査の結果、罰金処分や起訴されて刑事裁判になる展開も考えられるところです。犯人が被害者との関係で特例扱いを受けたとしても、その共犯者が被害者と親族関係になければ刑を免除されたり親告罪の扱いを受けることはありません。
窃盗の被害者に親族以外がいると親告罪にならない
窃盗罪で親族間における特例が認められる趣旨は、「法は家庭に入らず」という点にあります。そのため、親族間の特例が認められるには、窃盗事件に関係するすべての人物に親族関係がなくてはなりません。つまり窃盗犯人と財物の所有者、財物の占有者に親族関係があることが必要です。
たとえば、同居していない姉が持っている(占有している)宝石を弟が盗んだとします。姉が持っている(占有している)宝石が、姉の所有物であるなら、窃盗犯人である弟は告訴がなければ起訴されません。しかし、宝石が弟と親族関係にない第三者の所有物の場合、窃盗事件に関係するすべての人物に親族関係があるとはいえず、弟は告訴がなくても起訴される可能性があります。
窃盗犯人が未成年後見人なら親告罪とならない
親族間の特例の趣旨は「法は家庭に入らず」というものでした。しかし、親族であっても未成年後見人(民法839条以下)にあたる者は、公的性格を有するため、この趣旨が妥当しません。
たとえば、未成年Aの同居していない親族である叔母BがAの未成年後見人であった場合を考えてみましょう。叔母BがAのお金を盗んだ場合、叔母BはAの親族(三親等の傍系血族)であることから、通常ならAが告訴しなければ起訴されません。しかし、未成年後見人は公的性格を持つことから、親族間の特例が適用されず、告訴がなくても起訴され得ることになります。
親告罪の窃盗事件を弁護士に相談すべき理由
(1)親告罪での窃盗事件で逮捕されるとどうなる?
窃盗被害者との関係が「親族」であっても、刑法244条2項に該当する場合には、告訴されると逮捕される可能性がでてきます。仮に逮捕されない場合でも、何度も警察に呼び出しをうけ取調べを受けることが想定されます。
逮捕され勾留されてしまうと、起訴・不起訴の判断が下るまで最大23日間は自宅に帰れなくなりますので、仕事や学業への影響も深刻なものとなります。在宅捜査でも起訴される可能性があるため、弁護士のアドバイスをもとに取調べに応じることが望ましいです。
(2)被害者との示談で早期解決を図る
もし、窃盗罪で警察に捜査を受けることになった場合、すぐに被害者との示談で告訴を取り消してもらう活動を始めることが必要です。親告罪では告訴の有無が刑事処分に反映されます。被害者に告訴を取り消してもらうと、それ以降、捜査は行われなくなり不起訴処分にて事件は終了するからです。逮捕されている場合には、釈放されます。
しかし、示談は被害者との関係性や事件の内容によっては難航することもあります。加害者自身が被害者と接触を図ることで、さらにトラブルが大きくなることも少なくありません。そのため、被害者対応は弁護士に任せて、自分では行わないようにすることが安全です。
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(3)窃盗が親告罪事例か判断するのが難しい
この記事では、窃盗罪の中でも親告罪になるケースならないケースについてまとめてきました。しかし、実際には、自分の事件が親告罪となるのか、あるいは通常の事件となるのかを判断するのは難しいものです。窃盗をしてしまった場合には、早い段階で弁護士に相談し、自分の事例がどのような展開になっていくかを確認するとよいでしょう。
もし、刑事事件として動き出す可能性がある窃盗事件であれば、すぐに被害者対応や捜査機関の対応を始める必要があります。逮捕の回避や早期釈放、そして不起訴処分獲得のためには、刑事事件に精通した弁護士のサポートを受けていただくことをおすすめします。まずは、法律相談を受けるところから始めましょう。
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