
- 前にも強制わいせつ事件で逮捕されたのに、再度犯行に及んでしまった
- 強制わいせつの前科があると、2回目は実刑を免れないのか?
以前強制わいせつ罪を犯してしまい、再度強制わいせつで逮捕された場合、今度は実刑を免れないのでしょうか。
また再犯であっても、再度執行猶予がつくということはありえるのでしょうか?
この記事では「強制わいせつ事件」で「再犯」になってしまう場合の量刑や、執行猶予期間中の罪の取り扱い、処分を軽くする方法があるのかについて解説していきます。
強制わいせつ罪の再犯とは?
強制わいせつ罪は「暴行や脅迫を用いて被害者にわいせつ行為をした場合」に成立します(刑法176条)。
ただし被害者が13歳未満の場合には、暴行や脅迫を伴わないわいせつ行為のみで強制わいせつ罪が成立します。
さらに痴漢は一般的には各都道府県の迷惑防止条例違反となりますが、悪質な痴漢行為ですと強制わいせつ罪での逮捕・起訴となることもあります。
「再犯=強制わいせつ罪で再び逮捕、起訴されること」ではない
一般に再犯というと「以前にも犯罪を犯したにもかかわらず、再度犯行に及んでしまった人」というイメージがあります。
ただし、法律的な「再犯」の定義は一般的なイメージと一致しないため、注意が必要です。
刑法56条では「再犯」について、以下のように規定されています。
刑法56条
懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする
刑法56条より、「再犯」となるには以下に述べる3つの要件があるとわかります。
刑法上の再犯の要件①以前実際に懲役刑になった
- 懲役に処せられた者
以前の刑が罰金刑や禁固刑などの場合には「再犯」にはなりません。
また執行猶予期間が満了している場合も、実際に懲役刑になったわけではないので「再犯」となりません。
強制わいせつ罪の場合は、罰金刑や禁固刑の規定がありませんので、前回の罪で執行猶予がついていなければ、この条件を満たすことになります。
刑法上の再犯の要件②執行の終了などの翌日から5年以内
- その執行を終わった日(出所日)の翌日から5年以内に罪を犯す
- その執行の免除を得た日(時効完成など)の翌日から5年以内に罪を犯す
刑の執行が終わってから5年以内に犯罪行為をした場合が「再犯」となります。
よって刑務所を出てから10年後に犯罪をしてしまった場合は、刑法上の「再犯」にあたりません。
また執行猶予中は、執行の終了・免除を得たとは言えないため、犯罪をしても「再犯」とはなりません。
執行猶予期間中に罪を犯した場合は、先の刑の執行猶予を取り消すかどうかという問題になります。
刑法上の再犯の要件③有期懲役に処するとき
- その者を有期懲役に処するとき
再度の犯罪であっても、罰金刑や禁固刑となった場合は「再犯」とはなりません。
強制わいせつの「再犯」は最大懲役20年?
刑法上の「再犯」となると、より長く刑務所へ収監されるおそれが高まります。
刑法57条
再犯の罪は、その罪について定めた懲役の長期の2倍以下とする
強制わいせつ罪の場合、懲役刑の長期は10年です。
よって強制わいせつ罪の再犯となると「20年以下の懲役刑」が刑の上限となります。
また、再犯を3度以上行っている者については、再犯と同様に扱われます(刑法59条)。
強制わいせつの再犯率はどのくらい?
令和2年版の「犯罪白書」によれば、強制わいせつ罪で検挙(逮捕や書類送検などを去れた人)のうち、同種の前科を持っていた人の割合は7.6%となっています。
性犯罪は再犯が多いというイメージがありますが、実はそうとは言い切れません。
刑法全体で見たとき、検挙された有前科者の割合は13.1%ですので、強制わいせつ罪の再犯率が突出して高い、とまでは言えません。
なお、ここでの「前科」とは有罪の確定裁判を受けた人を指しており、刑法上の「再犯」とは必ずしも一致しないことに注意が必要です。
強制わいせつ罪の執行猶予中に犯罪をしたらどうなる?
執行猶予期間中に犯罪を犯しても、刑法上の「再犯」にはあたらず、刑罰が重くなることはありません。
しかし執行猶予期間中に犯罪を犯すと、以前の執行猶予を取り消されてしまうことがあります。
強制わいせつ罪の執行猶予が必ず取り消されるケースとは?
刑法26条より、以下のような場合には執行猶予が取り消されます。
- 執行猶予期間中に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき
- 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき
- 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき
強制わいせつの場合、懲役刑のみしか規定がありませんので、執行猶予が取り消される可能性は非常に高いと言えます。
強制わいせつの執行猶予中の犯罪で刑罰はどうなる?
執行猶予期間中に犯罪を犯し、執行猶予が取り消された場合を考えてみましょう。
その場合、執行猶予が取り消された罪に加えて、新たに犯した罪についても、あわせて服役しなければなりません。
例えば以前の強制わいせつ罪で懲役2年執行猶予3年、その後執行猶予期間中に再度強制わいせつで懲役2年となった場合は、合計して4年の懲役刑となります。
強制わいせつ罪を繰り返したとき、再度の執行猶予はつけてもらえる?
強制わいせつ罪で繰り返し有罪判決を受けた場合、基本的に再度執行猶予をつけてもらうことは極めて困難です。
具体的には、以下の要件を全て満たさなければ執行猶予がつくことはありません。
- 今回言い渡された刑期が1年以下
- 前の執行猶予で保護観察をつけられていない
- 犯行の内容や程度、結果などにおいて特に酌量すべき情状がある
強制わいせつの下限刑は6ヶ月以上ですが、実務では1年6ヶ月以上の懲役となるのが一般的です。
さらに執行猶予期間中に犯罪を犯したことで「反省がない、再犯可能性がある」と考えられ、刑罰が重くなる傾向があります。
いずれにせよ、執行猶予を再度つけてもらうことは難しいでしょう。
強制わいせつの再犯などで刑罰を軽くする方法はある?
強制わいせつの刑の執行から5年以内に再犯をした場合、または強制わいせつの執行猶予中に再度強制わいせつをしてしまった場合、5年以上前の前科がある状態には、いずれも刑罰が初犯より重くなる可能性があります。
再び同じような犯罪を犯してしまったことを反省し、なるべく早くに社会復帰を果たすためには、どうすればよいのでしょうか。
再犯でない強制わいせつの前科でも罪は重くなる?
2度目以降の強制わいせつ事件で逮捕された場合、法律上の「再犯」が成立しなくても刑罰が重くなる可能性があります。
以前に有罪判決を受けた場合、その記録は「前科」として本人が死亡するまで残り、新たに罪を犯したら、検察官に前科照会されて調べられます。
裁判所にも前科記録が提出され、悪い情状として評価されます。
たとえば以前には執行猶予をつけてもらえた場合でも、今回は実刑になる、などが考えられます。
事件を起こしてしまったら、早急に刑罰を軽くするための活動を開始すべきです。
早急に強制わいせつの被害者と示談する
強制わいせつ罪などの性犯罪では、被害者と示談することが非常に重要です。
示談の際に示談金の支払いや被害弁償をすることで、被害者に謝意や反省を伝えることができます。
また示談の結果、もしも被害者から宥恕(加害者を厳罰に処することを望まないという意思)が得られれば、裁判で良い情状として評価され、刑罰が軽くなることもあります。
強制わいせつで示談は弁護士に任せる
強制わいせつの加害者が被害者と示談を進めるときには、刑事弁護人によるサポートが必要不可欠です。
そもそも加害者個人では、被害者側と連絡をとること自体まず不可能であるためです。
刑事弁護人であれば検察官を通じて被害者の許可をとり、連絡先を確認できる可能性があります。
また弁護人からの連絡であれば、被害者の方も示談交渉に応じてくれることがあります。
強制わいせつの再犯で不安な方はお早めにご相談を!
当事務所では性犯罪の加害者の刑事弁護に積極的に取り組んでいます。
以前に強制わいせつで逮捕されたのに再度犯行に及んでしまった方は、お早めにご相談ください。