- 万引きに失敗した
- 車両荒しや倉庫窃盗をしようとしていて見つかってしまった
- 下着泥棒をしようとしたが、取る前に逮捕されてしまった
窃盗に失敗したときには「未遂罪」として逮捕される可能性があります。
そんなとき、どのくらいの刑罰を下されてしまうのでしょうか?
今回は窃盗が既遂になるタイミングや未遂罪になったときの刑罰、なるべく処分を軽くするための対処方法など、弁護士が解説します。
万引きやひったくりなどの盗みに失敗したけれど「未遂罪で捕まるのでは?」と心配している方はぜひ、参考にしてみてください。
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目次
窃盗罪には未遂犯がある
窃盗罪には未遂犯があり、盗みに失敗しても処罰される可能性があります。
最近でも公務員の男性がベランダに干してあった女性の下着を盗もうとした疑いで逮捕された事件が話題になっていました。このように、実際に窃盗未遂罪で逮捕されるケースはあるので軽く考えてはなりません。
以下では窃盗罪と未遂犯の意味について、確認しましょう。
窃盗罪とは
窃盗罪とは、他人の財物を「自分のものにしてやろう」と考えて盗み取る犯罪です。
- 万引き
- ひったくり
- スリ
- 下着泥棒
- 空き巣
- 車上荒らし
- 車両窃盗
- 倉庫に侵入して保管物を盗む
こういった行為はすべて窃盗罪として処罰対象になります。
窃盗罪の量刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金刑」です(刑法235条)。
未遂犯とは
窃盗罪には「未遂犯」があります。未遂犯とは、犯罪に着手したけれど結果的には失敗してしまったときに成立する犯罪です。
実はすべての犯罪について、未遂犯が処罰されるわけではありません。犯罪の種類により、未遂犯が処罰されるものと処罰されないものがあります。
窃盗罪の場合、未遂犯も処罰対象とされているので(刑法243条)、盗みに失敗しても「窃盗未遂罪」が成立する可能性があると考えましょう。
たとえばコンビニの商品を手にとって自分のカバンに入れようとしたとき、見つかって失敗したとしても「窃盗未遂罪」で逮捕される可能性があります。
また窃盗に成功した場合を「既遂罪」というので、未遂罪とあわせておぼえておきましょう。
窃盗既遂と窃盗未遂の違い、分岐点
窃盗の既遂と未遂はどの時点で区別されるのでしょうか?以下で段階的に分析してみましょう。
そもそも犯罪行為に着手していない場合
そもそも犯罪の実行に着手していない段階では、既遂罪はもちろん未遂罪も成立しません。
どの時点で「犯罪の実行に着手した」と言えるかについては、窃盗の現実的な危険性が発生したかどうかで判断されます。一般的には物色行為を始めた時点と判断されることが多いです。
たとえば、以下のような場合には窃盗未遂罪にもならない可能性があります。
- コンビニで商品を盗もうと思ったが、実際には商品を手に取らなかった
- 窃盗目的で建物に忍び込んだが金品を物色する前に見つかって通報された(住居侵入罪が成立する可能性はあります)
着手したが途中でやめた場合
犯罪行為に着手してしまったけれども「途中で自分の意思でやめた場合」には、窃盗未遂罪になります。
犯罪行為にいったん着手してしまったら、その段階で何らかの罪が成立してしまうのはやむを得ません。ただ途中でやめているので「未遂」です。
このように自分の意思で犯罪を中止する場合を、法律的に「中止犯」といいます(刑法43条但書)。たとえば以下のような場合には窃盗罪の中止犯が成立すると考えてください。
- 下着泥棒を目論んで下着を手に取ったけれど「やっぱりやめよう」と思って元の場所に戻した
- 夜中に他人の家に忍び込んでたんすの引き出しを開けて物を取ろうとしたが、やっぱりやめて何も取らずに帰った(住居侵入罪は既遂になる可能性があります)
着手したが外部的要因で失敗した場合
犯罪行為に着手したけれど、外部的な要因によって失敗した場合にも「未遂罪」になります。
- コンビニで万引きしようとして商品を手に取りカバンに入れようとしたら、発見されて現行犯逮捕された
- (金品があることが確実な)倉庫の鍵を壊して侵入したが、見つかって通報された
このような場合「窃盗未遂罪」として処罰されます。
着手して目的を遂げた場合は既遂罪
犯罪行為に着手し、実際に目的を達成したら既遂罪です。
たとえば以下のような場合、窃盗既遂罪が成立すると考えましょう。
- コンビニで商品を万引きしようとして商品を手に取りカバンに入れて店外へ持ち出した
- 下着泥棒をしようとして下着をとって持ち帰った
窃盗既遂と窃盗未遂の量刑の違いは?
窃盗が既遂になった場合と未遂になった場合とでは、量刑はどの程度異なるのでしょうか?
実はこの場合、「中止犯」が成立するかどうかによって変わってきます。
中止犯が成立する場合
中止犯とは「自分の意思によって犯罪行為を途中でやめること」。自分の意思で犯罪をやめたら、被疑者(容疑者)に対する情状は良くなるのが当然です。
実際刑法においても「中止犯が成立したら、刑罰が減軽あるいは免除される」と規定されています(刑法43条但書)。
つまり中止犯が成立したら、必ず刑罰を減軽あるいは免除してもらえる、ということです。
- 減軽…刑罰を軽くしてもらえること。懲役刑や禁固刑の場合、長期と短期が2分の1になります。罰金刑の場合、上限と下限の金額が2分の1になります。
- 免除…刑罰を免除してもらえること。
窃盗罪が減軽されると具体的にどのくらいの刑罰になるのか?
窃盗罪のもともとの刑罰は10年以下の懲役または50万円以下の罰金刑です。減軽がなければ原則として懲役刑は1月以上、罰金刑は1万円以上です。
これが「減軽」されることで、上限と下限の金額ともに2分の1になり「15日以上5年以下の懲役」または「5千円以上25万円以下の罰金刑」となります。
中止犯が成立するなら積極的に主張すべき
窃盗行為に及んでしまっても、自分の意思でやめたら必ず刑罰を減免してもらえるので、もしもそういった事情があるなら逮捕後などの刑事手続において積極的に主張しましょう。
中止犯が成立しない場合
実は窃盗未遂においても中止犯が成立しないケースが多々あります。たとえば下着泥棒をしたけれど見つかって現行犯逮捕された場合などです。
こういった場合には「任意的に刑罰が減軽」されます(刑法43条本文)。
任意的、というのは裁判所の裁量によって減軽してもらえる可能性がある、という意味です。
必ず減軽してもらえるわけではありませんが、軽くしてもらえる可能性はあります。
また中止犯の場合と異なり「刑の免除」はされません。
犯罪行為をしてしまったら、外部的要因で失敗する前に自ら思いとどまった方が刑罰を軽くしてもらえます。万一魔が差してしまったときには、このことを思い出して犯罪を思いとどまってください。
中止未遂 | 障害未遂 | |
---|---|---|
刑罰 | 必ず減軽・免除 | 減軽の場合あり |
具体例 | 自分の意思で思いとどまる | 犯行完了前に逮捕される |
窃盗未遂の量刑の相場
窃盗未遂罪で逮捕されたとき、実際にはどの程度の刑罰を適用されるのでしょうか?
量刑は、以下のような要素によって大きく異なります。
犯罪の内容
犯罪が重大・悪質であれば量刑は重くなります。たとえばコンビニで100円のパンをとろうとしただけなら不起訴になる可能性が極めて高いでしょう。一方で1,000万円の価値のある物品を盗もうとした場合、数人の共犯で計画的に窃盗行為を実行した場合などには懲役刑が選択される可能性が高くなります。
「中止犯」が成立するか
中止犯が成立すると、必要的に刑罰が減免されるので刑罰は軽くなります。少々高い物品をとろうとした場合でも、執行猶予をつけてもらえる可能性が高くなるでしょう。
被疑者の反省、初犯である
被疑者がしっかり反省していて初犯であれば、刑罰を軽くしてもらえる可能性が高くなります。
同種前科の有無
窃盗罪や詐欺罪などの同種前科があると情状が悪くなって刑罰が重くなる可能性が高まると考えましょう。
被害感情
被害者の感情も重視されます。「厳しく処罰してほしい」と希望されると、軽い窃盗未遂罪でも起訴されて処罰される可能性が高まると考えてください。
窃盗未遂で逮捕された場合の手続きの流れ
窃盗未遂で逮捕されると、以下のような流れで手続きが進みます。
1.検察官のもとへ送致される
逮捕されたら、48時間以内に検察官のもとへ送られます。
2.勾留されて取り調べを受ける
検察官が「引き続いての身柄拘束が必要」と判断すると、送検後24時間以内に勾留請求されて勾留決定が下ります。すると最大20日間、留置場にて身柄拘束され取り調べを受けなければなりません。
勾留されない場合には被疑者在宅のまま捜査が進められます。
3.起訴か不起訴か決定される
勾留期間が満期になると検察官が起訴するか不起訴にするかを決定します。
4.刑事裁判になる
起訴されたら刑事裁判になります。不起訴になったら刑事手続が終了し、身柄拘束を受けていた場合には釈放されます。
5.判決が下される
刑事裁判になった場合、略式起訴であれば罰金を払えば手続きが完了に。公判請求された場合、何度か期日が開廷され最終的に判決が下されて刑罰が言い渡されます。
窃盗未遂で処分を軽くする方法
窃盗未遂罪で逮捕された場合、処分をなるべく軽くするには以下のように対応してください。
被害者への謝罪、被害弁償
まずは被害者への謝罪が重要です。被害が発生していなくても誠意をもって対応してください。もしも一部被害が発生していたら確実に弁償を行い、場合によっては謝罪の気持ちとして慰謝料も払うとよいでしょう。
被害者から「嘆願書」を出してもらえたら不起訴などの軽い処分を出してもらえる可能性が高くなります。
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反省の態度を見せる
しっかり反省することも重要です。警察や検察官に対して今の反省している心情や、再犯には及ばないという決意を示しましょう。書面で提出する方法も有効です。
未遂減軽を主張する
未遂犯ですので、減軽(減免)を主張しましょう。
特に中止犯が成立する場合には、あいまいにされないよう注意が必要です。
未遂減軽(減免)が重要なのは、刑事裁判になった後だけではありません。
起訴前であっても中止犯が成立するようなケースでは不起訴にしてもらえる可能性も高くなります。刑事弁護人を通じて検察官へ中止犯が成立する情状の良いケースであることをしっかり主張しましょう。
当事務所では未遂犯も含めて刑事弁護に積極的に取り組んでいます。窃盗未遂罪で逮捕されてお悩みの方がおられましたら、お早めにご相談ください。