2025年6月より、懲役・禁錮刑が「拘禁刑」に統一されました。
逮捕後に黙秘すると、有利になる場合もあれば、かえって不利になる場合もあります。どちらになるかは、事件の状況によって大きく異なります。
黙秘権とは、被疑者・被告人が「最初から最後まで一切話さなくていい」という強力な権利です。冤罪を防ぐために憲法で保障されており、行使したこと自体を不利に扱うことは法律上許されません。
この記事では、黙秘権の基本的な内容から、逮捕後に黙秘が有利・不利になる具体的なケース、実際の行使方法まで詳しく解説します。
ご自身やご家族の身を守るために、ぜひ最後までご覧ください。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
黙秘権ってどんな権利?
刑事事件の容疑をかけられた人を被疑者、起訴された人を被告人といいます。黙秘権は、被疑者と被告人の利益を守るために保障されている権利です。
ここでは、黙秘権の内容と目的、行使した場合の効果について解説します。
黙秘権の内容
刑事訴訟法は、被疑者について「自己の意思に反して供述する必要がない」ことを取り調べの際、あらかじめ伝えなければならないと規定しています(刑事訴訟法198条2項)。
また、被告人について「終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる」権利を保障しています(刑事訴訟法311条1項)。
被疑者・被告人に認められたこのような全面的供述拒否権を黙秘権といいます。黙秘権は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」という憲法38条1項の保障を拡張したものです。
黙秘権の目的
黙秘することを卑怯だと感じる方もいるかもしれません。しかし、卑怯だと感じる必要は全くありません。
なぜなら、黙秘権は「冤罪(えんざい)」を防ぐために生み出された人類の知恵であり、被疑者・被告人の正当な権利だからです。
想像してみてください。密室の取調室で取調官と一人で向き合わなければならないプレッシャーを。
現在の日本では、取り調べへの弁護士の同席が認められていないため、被疑者が受けるプレッシャーは相当なものです。
このような場面で、もし何もかも話さなければならないという立場に置かれたとしたら、果たして何人の人が自分の正当な主張を貫き通せるでしょうか。
おそらく多くの人は「早くこの状況から解放されたい」と思うことでしょう。そうなると、取調官の描いたストーリーのまま罪を認めてしまいかねません。
黙秘権は、このような最悪の事態を防ぐために生み出された非常に重要な権利なのです。
黙秘権を行使した場合の効果
黙秘権を行使した場合、次のような効果が生じます。
- 強要により得られた不利益な供述は、有罪判決の証拠として用いることはできません。
- 黙秘したという事実から、不利益な推認をしてはいけません。
具体的には、以下のような場面でそれぞれ効果が生じます。
勾留について
裁判官が勾留の要件を判断する際、被疑者が黙秘しているからといって「証拠を隠しそうだ」「被害者を脅しそうだ」「逃亡しそうだ」と不利な推認することは許されません。
ただし、黙秘することで被疑者に有利な事情が裁判官に伝わらないことがあります。一方、正直に供述した場合は証拠隠滅や逃亡のおそれがないと判断され、釈放されることもあり得ます。
つまり、黙秘すると事実上不利になる可能性があることは否定できません。
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保釈について
起訴後に被告人を釈放する制度を保釈といいます。保釈には権利保釈・裁量保釈・義務的保釈の3種類がありますが、実務上多いのは権利保釈と裁量保釈です。
権利保釈は、除外事由に該当しない限り原則として保釈を許可するというものです。
実務上、保釈が却下される理由として最も多いのが、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」という除外事由に該当する場合です。
被告人が黙秘している場合、その事実から罪証隠滅の相当な理由があると推認することは許されません。
裁量保釈は、裁判所が刑事訴訟法90条に記載の事情を考慮して適当と認めるときに、職権によって許可するものです。考慮事情の1つに、被告人が「逃亡し又は罪証を隠滅するおそれ」があります。
被告人が黙秘している場合、その事実から逃亡や罪証隠滅のおそれがあると推認することは許されません。
ただし、勾留の判断と同様、黙秘することで被告人に有利な事情が裁判官に伝わらず、事実上不利になる可能性があることは否定できません。
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・保釈申請の流れ。保釈条件と必要な保釈金は?起訴後の勾留から解放
犯罪事実の認定について
被告人が黙秘権を行使したことをもって、事実認定上、これを不利益に考慮することは許されません。
裁判例の中には、殺人事件の被告人が事実関係について一切黙秘し何の説明も弁明もしなかった事案で、被告人の黙秘の態度を不利益な事実の認定に用いることはできないと判示したものがあります(札幌高判平成14年3月19日判時1803号147頁)。
この事案では、黙秘に加えて各状況証拠が殺意を認定するには不十分・不適当とされたことから、無罪が言い渡されました。
量刑について
被告人が黙秘権を行使したからといって、量刑上不利益に扱うことも許されません。
ただし、一貫して自白し反省の言葉を述べている場合は量刑上有利に考慮されるのが一般的です。黙秘した被告人が、そのような場合と比べて結果的に不利になってしまうことは否定できません。
逮捕後に黙秘すると有利になる?不利になる?
黙秘権の行使が有利に働く場合もあれば、不利に働く場合もあります。その両方を知っておくことが、自分の身を守るうえで大切です。
黙秘権の行使が有利に働く場合
殺意や詐欺の故意など、主観面に争いのある事件では、黙秘権を行使するメリットがあります。
人の心の中は外からは見えないため、自白が重要な証拠となります。捜査機関は自白を得るために様々な角度から質問してくるでしょう。
たとえば殺人事件であれば、「死んでしまえとは思っていなくても、死んでも構わないと思っていたのではないか」といった形で。
このような質問に対して曖昧な発言をすると、後々不利な結果につながるおそれがあります。こうしたケースでは、完全黙秘が1つの有効な手段となります。
また、客観的な証拠が少ない事件でも黙秘権を行使するメリットは大きいです。このようなケースでは、被疑者の供述がなければ嫌疑不十分で不起訴となる可能性が高くなります。
黙秘権の行使が不利に働く場合
被疑者が犯人であることが証拠上明らかな場合、黙秘することがかえって不利になることもあります。このようなケースでは、黙秘することで身体拘束が長期化してしまうおそれがあります。
黙秘を選択しなくても、示談などによって不起訴を期待できるケースも多いため、弁護士とよく相談することをおすすめします。
また、量刑の判断において、黙秘したことで反省していないと捉えられ、不利な処分につながってしまう可能性もあります。
事案によりますが、犯罪事実に争いがなく、早期釈放や起訴猶予を目指す場合は、素直に供述した方が有利になるケースも多いです。
黙秘するかどうかは弁護士とよく相談しよう
黙秘権を行使するかどうか迷ったら、刑事弁護の経験豊富な弁護士にぜひ相談しましょう。
弁護士は、黙秘権を行使した場合のメリットとデメリットを本人が納得するまで丁寧にお伝えします。
また、法律のプロとして最適な弁護方針をお伝えします。黙秘権を行使する方針が固まったら、頻繁に接見を行い、被疑者・被告人を全力でサポートします。
逮捕後の黙秘権はどのように行使したらいいの?
黙秘しようと思っても、実際どうすればよいのか不安に感じる方も多いでしょう。ここでは、黙秘権の行使の仕方や、精神的につらくなったときの対処法について解説します。
さらに、黙秘権が侵害されている場合に取り得る対策についても解説します。
黙秘権の行使は何も言わなくてよい
黙秘権はどの時点でも行使できます。取調官が黙秘権を告知する前であっても構いません。
行使の際、何も言う必要はありません。もちろん、黙秘の理由も伝える必要もありません。何も言わないのが不安な方は「弁護士に相談します」と一言述べて、あとは黙っていましょう。
やってはならないのが、「これは話しても大丈夫だろう」と自分で判断して供述してしまうことです。後々不利な結果につながるおそれがあります。
完全黙秘にするか一部黙秘にするかは、必ず弁護士と相談のうえ決めましょう。
黙秘がつらくなったときの対処法
被疑者が黙秘権を行使すると、取り調べが厳しくなることが予想されます。もちろん、警察官や検察官は黙秘権について理解しているので、拷問のように責め立てることはないでしょう。
しかし、たとえば「黙秘するなんて卑怯だと思わないか」といった言葉で精神的に追いつめてくることは十分あり得ます。
また、取調官の中には弁護士の悪口を言って信頼を失わせようとする人もいます。雑談を持ちかけて警戒心を和らげた後、それとなく自白へ誘導して供述調書を取ろうとすることもあります。
こうした取り調べを連日受けていると、黙秘を続けることがつらくなることもあるでしょう。そんなときこそ弁護士を頼ってください。弁護士は、できる限り頻繁に接見に行き、しっかりサポートします。
どうしても黙秘が難しい場合、次のような対処法もあります。
(1)署名押印を拒否する
1つ目の対処法として、供述調書への署名押印を拒否するという方法があります。供述調書とは、取り調べで話した内容が記載された書面のことです。
供述者がこの書面に署名押印することで、裁判の証拠として扱うことが可能になります。しかし、署名押印がなければ、その調書は証拠として用いることはできません。
捜査機関が客観的な証拠を十分に集められず、署名押印のある供述調書もない場合、不起訴となる確率は高くなります。
「供述調書がないと自分の言い分を裁判官や裁判員にわかってもらえないのでは」と心配になる方もいるかもしれませんがご安心ください。
あなたの言いたいことは、法廷でしっかりと伝えることができます。書面よりも実際に話す姿を見た方が、裁判官や裁判員にあなたの言い分を理解してもらいやすいでしょう。
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(2)陳述書を作成する
2つ目の対処法として、陳述書を作成する方法があります。陳述書は、黙秘も署名押印拒否も難しく、被疑者に不利な内容の供述調書が作成されてしまった場合に有効です。
陳述書とは、被疑者が本当に言いたい内容を弁護士が聴き取り、書面にまとめたものです。陳述書を作成したら被疑者の署名押印をもらい、公証役場等で確定日付を取得します。
こうすることで、陳述書を裁判の証拠として提出することが可能になります。
黙秘権行使が阻害されたときの対処法
黙秘権の行使が阻害されるような違法・不当な取り調べが行われた場合は、すぐに弁護士に知らせてください。弁護士は、適切な対処を行い被疑者の利益を守ります。
具体的には、担当警察官・警察署長・担当検察官・検察庁などに対してすぐに抗議を行います。また、準抗告の申し立てなど、裁判所に対する手続きを取ることもあります。

