裁判員裁判とは、国民の中から選出された裁判員が、裁判官とともに事件を審理し判決を出す裁判のことです。
この制度は、刑事裁判に一般市民の社会経験や知識を反映させることを目的としてつくられました。
しかし、全ての事件で裁判員が選ばれるわけではなく、一定の重大犯罪が裁判員裁判の対象事件となります。
裁判員裁判が開かれたニュースを聞いたことがある方も多いと思いますが、どのような事件を起こすと裁判員裁判の対象となるのでしょうか。
この記事では、裁判員裁判の対象事件を起こしてしまった場合の流れや、アトム法律事務所で弁護した裁判員裁判の事例などをご紹介しています。
裁判員制度について知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

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目次
裁判員裁判の制度|なぜ国民が裁判にかかわるのか
裁判員裁判の目的
裁判員裁判は、一般国民の知識や経験を裁判に反映させ、国民の裁判への理解を深めるという目的で作られた刑事事件の裁判制度です。
平成21年5月から開始されており、国民の中から選出された裁判員が裁判官とともに事件を審理し判決を出します。
これまで、刑事裁判は、裁判官、検察官、弁護士という法律の専門家が中心になり事件を審理する形がとられていました。現在も、基本的にその形は維持されていますが、一部の重大な犯罪に限り裁判員裁判が導入されています。
裁判官、検察官、弁護士により高度な法的知識を用いて裁判が行われることで、審理は緻密に行われることが期待できます。一方で、国民の理解が追いつかなかったり一般社会の認識と乖離するおそれも生じます。
そこで、国民を裁判に参加させることで、より裁判内容を国民の感覚、理解に近づけようとしてこの制度が設計されました。
裁判員はどうやって選ばれる?
裁判員裁判の裁判員に選出されるまでには、厳正な手続が行われます。
まず毎年秋ごろ、選挙権のある者の中からくじ引きで裁判員候補者が選ばれ名簿が作成されます。
そして、裁判員制度の対象となる事件ごとに、その裁判員候補者名簿の中からさらにくじ引きで裁判員が選ばれます。ここで選ばれても、まだ裁判員に確定したわけではありません。
次に、裁判員裁判の事件を担当する裁判長が、裁判員候補者を裁判所に呼び、事件と利害関係がないか、辞退の希望があるときにはその理由を聞きます。そして再びくじ引きにより裁判員は確定します(原則6人)。
なお、裁判員候補者名簿に名前が掲載されると、裁判所から通知が送られてきます。そこで辞退を申し出たいときは、理由を添えて辞退の意向を裁判所に伝えましょう。
原則として、辞退は認められません。しかし、重大な病気、親族の介護など、理由によっては辞退が認められることもあります。
裁判員に求められること
制度趣旨からもわかるように、この制度は一般の国民の知見を裁判に反映させることが重視されます。事前に法律を学び一定の知識を身につけなければいけないということはありません。
むしろ、社会生活を営む一個人の常識的感覚が大切ですので、裁判員に選ばれたからといって、特別に用意しなければいけないことはありません。
裁判員は、判決を導くに当たり、非公開の場で意見を述べるという場に参加します。これを「評議」といいます。
評議で議論されたことや、裁判員が職務上知りえたことは口外してはいけません。裁判員には守秘義務が課されます。
守秘義務は、裁判が終わったあとであっても守らなければならず、これに違反すれば「6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されることもあります。
裁判員又は補充裁判員が、評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律108条
裁判員裁判の対象事件
裁判員裁判の対象となる事件は、刑の上限として無期懲役や死刑が予定されているような重大犯罪や故意の犯罪行為により人を死亡させた罪です。例えば、次のような罪を犯して起訴されると、裁判員裁判が開かれます。
- 殺人
- 強盗致傷
- 覚醒剤取締法違反(営利目的の輸入)
- 現住建造物放火
- 傷害致死
- 強制わいせつ致傷
裁判員裁判の審理の流れ
裁判員裁判は次のような流れで審理されていきます。
- 公判前整理手続き
- 公判手続き
- 評議・評決
- 判決
それぞれ、詳しく説明していきます。
公判前整理手続き
公開裁判が始まる前に、裁判官、検察官、弁護士が打合せを重ね、公判で何を明らかにするかを決める手続きのことです。
公判前整理手続きに裁判員が参加することはありません。裁判官と検察官、弁護士のみで実施されます。
公判手続き
裁判員は公判手続きから審理に参加します。公判手続きでは、冒頭手続きと証拠調べ手続きが行われます。
冒頭手続きでは、被告人の本人確認や、検察官による起訴状の朗読、被告人に対して黙秘権の告知などが行われます。
証拠調べ手続きでは、証人尋問や被告人質問が行われ、裁判員は、検察官と弁護人の主張を聞いて、証拠に基づいて事実を認定しなければなりません。
最後に、検察官の論告・求刑と弁護人の最終弁論となります。
評議・評決
公判手続きが終わると、裁判官と裁判員は証拠を元に、判決を決めるための評議を行います。その上で評決を行い、有罪無罪や有罪の場合の量刑が決定されます。
全員の意見がまとまらなかった場合は、多数決で結論が導かれます。ただし、この多数決での多数意見の中に、1名以上の裁判官が含まれていなければいけません。
裁判体は裁判官3名、裁判員6名で構成されるのが原則です。例えば5名の裁判員が「有罪」と意見を表明しても、その中に1名も裁判官が含まれていなければ、「無罪」という判決が導かれます。
判決
評決の内容が決定されると、裁判長が判決の宣告を行います。
裁判員裁判の判決は必ず有罪?
殺人罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪などの重大犯罪に裁判員制度は適用されますが、必ず有罪になるとは限りません。
裁判とは、有罪無罪を決するために「審理」をするステージです。判決が言い渡されるまでは被告人には「無罪推定」がはたらいていることを忘れてはいけません。
しかし、これら重大犯罪が起訴され刑事裁判になれば、マスコミ報道で取り上げられることも多く、世間は被告人に対して「犯人」という印象を持つでしょう。
裁判員は有罪無罪を検討する際、マスコミの情報に影響されることなく、法廷に提出された証拠のみを基礎に冷静に判断することが求められます。
アトム法律事務所で弁護した裁判員裁判の実例
アトム法律事務所は、刑事事件の加害者側の弁護活動に注力する事務所であり、裁判員裁判の解決実績も豊富です。
ここでは、過去に弁護した裁判員裁判の事例を抜粋してご紹介します。
強盗致傷の裁判員裁判で無罪判決
路上で被害者女性を倒す等の暴行を加えて頭部打撲等の傷害を負わせ、現金約数千円とカバン等を強盗したとされたケース。依頼者は犯人性を否認。強盗致傷の事案。
弁護活動の成果
一貫して犯人性を否認。犯人でないことを示す証拠の収集のため証拠開示請求を行うなどして主張・立証を尽くした結果、裁判員裁判で無罪判決を獲得した。
最終処分
無罪
強制わいせつ致傷の裁判員裁判で執行猶予つき判決
路上で被害者女性を倒して両膝挫傷等の傷害を負わせ、陰部を直接触る等のわいせつ行為をしたケース。強制わいせつ致傷の事案。
弁護活動の成果
被害者に謝罪と賠償を尽くして示談が成立。弁論で量刑傾向などを示す等して粘り強く主張・立証を行い、裁判員裁判で執行猶予つきの判決を獲得した。
最終処分
懲役3年、執行猶予5年(保護観察付)