
刑事事件と民事事件という言葉を聞いたことはあるけれど、具体的にどう違うか分からないという方も多いのではないでしょうか。同じ一つのトラブルであっても、刑事の側面と民事の側面の両方をあわせ持つこともあります。
法律トラブルに巻き込まれたときに、最も解決したいご自身のお悩みが刑事なのか民事なのかを理解しておくことは、適切な解決方法や相談先を見つけるためにも大切です。
この記事では、刑事事件と民事事件の違いをわかりやすく解説します。
また、被害者のいる刑事事件では、裁判で刑罰を受けたのに後日被害者から民事訴訟を起こされるということもあり得ます。そこで、刑事事件を解決する中で、後の民事事件化を防ぐ方法についてもお伝えします。

※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は有料となります。
目次
刑事事件と民事事件の違いとは?
事例1 性犯罪
電車内で痴漢の被害に遭ったが、その場で犯人を捕まえて駅員に引き渡した。警察にも話を聞かれて事情を説明し、被害届を提出した。絶対に許せないので、犯人に痴漢の慰謝料を請求したい。
事例2 交通事故
交通事故を起こしてしまい、被害者は軽いむち打ちで通院、人身事故で届が出された。治療費や車両の修理費については、保険会社が間に入って話し合いをしているが、自分が100%悪い事故だと思えないので、全て自分が支払うのは納得できない。示談について、相手保険会社への対応を弁護士にお願いしたい。
事例3 詐欺
フリマサイトで商品を購入し、代金を振り込んだが商品が送られてこない。詐欺だと思い、警察に相談した。どうにかお金を取り返したい。
さて、上記の事例は、刑事と民事どちらのお悩みかわかるでしょうか。どれも刑事事件が関係する事例ではありますが、お悩み内容の中心は実はすべて「民事」の問題です。どういうことなのか以下、わかりやすく解説します。
刑事事件とは?
刑事事件(刑事裁判)とは、人が起こした犯罪について検察官(国家)が処罰を裁判所に求めるものです。
ポイントは、刑事裁判は「犯罪の疑われる一般人 vs 国家(検察官)」の関係であることと、「犯罪に対しどのような刑罰を科すか」の問題であることです。
「加害者 vs 被害者」ではありませんし、被害者への賠償などは刑事上の問題とはなりません。
ご自身の心配事が以下のようなものであれば、それは刑事事件のご相談です。
刑事事件のお悩み
- 不起訴になりたい|前科をつけたくない
- 逮捕・勾留されたくない
- 警察の取り調べにどう対応すればよいのか知りたい
- 刑罰を軽くしたい、執行猶予をつけたい
上記は、どれも刑罰や刑事処分に関する心配、捜査機関(国の機関)に対する対応に関するお悩みです。
こういった相談であれば、刑事事件を注力して取り扱っている弁護士に相談するのが適切でしょう。
なお、被害者への示談や賠償・謝罪などの「被害者対応」についてのお悩みは民事上の問題ですが、刑事処分の結果にも大きく影響します。そのため、通常は「被害者対応」も含めて刑事事件の相談として取り扱われます。
一方、警察沙汰になることや刑罰を科され前科がつくかもしれないといった心配事ではなく、当事者間での損害賠償や慰謝料、示談金の支払いのみが問題の中心となっているケースはもっぱら民事上の問題です。
被害者から加害者に慰謝料などを請求するという場合も同様です。
特に、交通事故の加害者として法律相談をするときなどは、自身の心配が刑事なのか民事なのかがわかれば、相談先も見つけやすくスムーズです。
民事事件とは?
民事事件(民事裁判)とは、人vs人、会社vs会社、人vs会社など、私人間の紛争を解決する手続きを裁判所に求めるものです。
「犯罪について国が刑罰を科すかどうか」という問題以外の、民間人同士のトラブルについてはおよそほとんどが民事事件と考えて良いでしょう。国や地方自治体を訴える争いも、広い意味では民事事件に含まれます。
民事事件のお悩み
- 損害賠償や慰謝料を請求したい
- 貸したお金が帰ってこない
- 交通事故などで示談をしたい
- 離婚や相続をめぐるトラブル
- 会社をクビと言われてしまった
民事事件は、私人同士の権利と義務の関係を調整する機能を果たし、究極的にはお金の問題といえます。
犯罪に関するトラブルであっても、被害者が加害者に損害賠償や慰謝料を請求すること、逆に言えば加害者が被害者と示談をしたり賠償をすることは民事上の問題です。
詐欺事件などで、犯人が逮捕されたとしても、自動的に騙し取られたお金が返ってくるわけではありません。犯人からお金を返してもらうためには、民事事件として請求する必要があります。
なお、窃盗事件の盗品など所有者が明らかな物品で警察が押収したものについては、刑事手続きの中で警察から返してもらうことができます(刑事訴訟法123条)。
刑事事件と民事事件の当事者の違い|訴訟できる人は?
何かしらのトラブルに見舞われた場合、刑事事件と民事事件のどちらにすべきなのか、という疑問を持たれる方が良くいらっしゃいます。
刑事事件と民事事件は両立します。ただし、そのうち被害者が当事者として関与できるのは民事事件についてだけです。
刑事事件は、犯罪を犯した人と国家の間の関係ですので、基本的には被害者が関与することはできず、被害者が訴訟を起すこともできません。刑事事件では、訴訟を起こせるのは検察官だけです(刑事訴訟法247条)。
刑事事件として処罰を求めたい場合には、警察に被害届を出して被害の申告をするか、処罰を求める意思表示である「告訴」をして捜査を求めることができます。
その後は、あくまで「犯罪を犯した人と国の関係」ですので、警察や検察が捜査を行って事件についてどういう処分を行うか判断することになります。検察が起訴をすると判断した場合にだけ刑事裁判が開かれます。
もっとも、直接の当事者でないとはいえ、被害者の処罰感情は刑事処分の判断に強く影響します。
なお、刑事事件では、訴えられた人を「被告人」といい、訴えられる前は「被疑者」といいます。刑事事件の当事者は検察官と被告人ですが、力のバランスをとるため被告人には弁護人がつきます(憲法37条3項)。
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民事事件では、誰でも訴訟を起こすことができます。
訴えた側を「原告」、訴えられた側を「被告」といい、両者が当事者になります。原告と被告の違いは、どちらが権利の請求等をするかだけで、良い悪いはなく、誰でも原告にも被告にもなりえます。民事裁判では弁護士を付けてもつけなくても構いません。
刑事事件と民事事件の適用される法律の違い
刑事事件で適用されるのは、「犯罪にあたる行為と刑罰」が定められた法律です。
刑法が典型ですが、それ以外にも道路交通法や覚せい剤取締法等の、特別法と呼ばれる国が定めた法律があります。また、都道府県が定めた青少年保護育成条例などの条例も、広い意味の刑法に含まれます。
捜査や刑事裁判など、刑事手続上のルールは刑事訴訟法に規定されています。
民事事件で適用される法律では、刑法のように「この行為をしたら犯罪になり、このような刑罰を与える」などという規定はなく、私人間のルールが定められています。
民法を代表例として、会社法、労働法、租税法など、社会における分野に沿って様々な法律が規定されています。民事裁判についてのルールは民事訴訟法が規定しています。
刑事事件と民事事件の手続きの違い
刑事事件では、警察や検察に、手続きを遂行する際の逮捕・勾留など、一般人の権利を制約する大きな権限が付与されています。検察官が訴訟を起こして裁判が開かれれば、裁判官により必ず有罪か無罪が言い渡されます。そのため、当事者である検察官と被告人が和解することはありません。
また、刑事裁判に被告人が出廷しない場合は裁判を開くことはできません。裁判所は強制的に被告人を出廷させる手続きをとることになります。
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民事事件では、原告または被告が証拠保全のための手続きを取ることができるものの、刑事事件ほどの強力な権限や強制力はありません。また、刑事事件が判決により解決するのに対し、民事事件は訴訟を起こした前でも後でも、当事者同士の和解で事件を解決し終結させることができます。
民事裁判に当事者が出廷しなかった場合、相手の言い分が100%認められます。
刑事事件と民事事件の違いまとめ
刑事事件 | 民事事件 | |
---|---|---|
内容 | 罪を犯した者に、国が刑罰を科す手続 | 当事者同士の利害の調整を図る手続 |
当事者 | 被疑者・被告人 vs 国(検察官) | 私人 vs 私人 |
訴訟提起 | 検察官による「起訴」のみ | 誰でも訴えることができる |
法律 | 刑法・刑事訴訟法など | 民法・会社法・労働法・民事訴訟法など |
手続 | ・強制力のある捜査ができる ・起訴後は判決で決まる | ・刑事事件ほどの強制力はない ・裁判となっても和解で終了することが多い |
裁判の帰趨 | 検察官が、被告人の犯罪事実を証明できるかどうかで決まる | 「どちらの主張がより、真実らしいか」で決まる |
もし、ご自身の直面している問題が刑事事件なのか民事事件なのかわからない場合には、「犯罪について、逮捕や刑罰、警察・検察相手への対応が心配事であれば刑事事件」、「請求・交渉の相手が一般人であったり金銭の問題なのであれば民事事件」と思っていただければ、おおよそ間違いはないと思います。
刑事事件でも民事事件として訴訟されることがある?
刑事事件と民事事件の両方が問題となる事件
被害者がいる(損害が発生している)犯罪については、基本的に刑事事件と民事事件の両方が問題となり得ます。
犯罪行為によって怪我や精神的苦痛などの被害を受けた人は、加害者に対して、被った被害の損害賠償を請求する権利があります。
しかし、刑事手続では被害者との間の賠償関係は解決されません。罰金刑となった場合であっても、罰金は国に納めるものであって被害者の損害の賠償として支払われるものではありません。
「犯罪について国がどういう刑罰を科すか」という刑事上の問題と「加害者-被害者間の賠償問題」という民事上の問題は別物なのです。そのため、刑事事件が終了しても、損害賠償や慰謝料などの民事上の請求は免れません。被害者が訴訟を起こせば、刑事裁判だけでなく民事裁判にもなる可能性があります。
具体的なケース
典型的なのは交通事故です。人身事故を起こし、過失運転致傷罪で罪に問われて判決で懲役刑を受けた場合でも、被害者の怪我の治療費や休業損害、慰謝料、車の修理代などの損害賠償の問題が解決していなければ、民事訴訟を起こされる可能性があります。
また、痴漢等の性犯罪でも同様です。痴漢で罰金刑になっても、痴漢の被害で被った精神的苦痛を損害とする慰謝料を支払う義務はありますので、別途民事訴訟を起こして請求されることがあります(ただし、一般的にそのような請求をしてくる人はあまり多くはありません)。
刑事事件と民事事件の関係と損害賠償命令制度
刑事事件と民事事件は、その目的も内容も全く異なる手続です。そのため、並行して行うことも可能ですし、同じ出来事について刑事事件と民事事件で異なる事実認定がされる可能性もあります。
一般的には民事訴訟を提起する場合は、刑事事件の結果が出た後である事がほとんどです。
なぜなら、刑事事件では「疑わしきは罰せず」の原則のもと極めて厳格な事実認定がされていますので、刑事事件で認められた事実はそのまま民事でも認められやすいからです。一部の重大犯罪では、被害者の民事訴訟の負担を軽減するため、「損害賠償命令制度」が設けられています。
一方で、刑事事件で罪に問われなかったとしても、民事裁判では犯罪があったと認定される可能性はあります。
民事事件ではどちらがより真実らしいかという観点から審理がされ、反論しなければ相手の主張がそのまま認められるなど、裁判で事実として認定されるために必要な証明の程度が大きく違うのです。
アメリカの話ですが、「O・J・シンプソン事件」という超有名事件では、刑事裁判では殺人が認められず無罪判決となりましたが、その後の民事裁判では殺人の事実が認定されて遺族への賠償金の支払いが命じられました。
損害賠償命令制度とは?
刑事事件の被害者が、民事上の請求を刑事裁判の中で行うことは原則できません。ただし、殺人・傷害・強制性交等など一部の重大事件では、刑事事件の裁判を担当した裁判官が、引き続き民事上の損害賠償請求を審理する手続きが導入されています。この手続きを「損害賠償命令制度」といいます。
損害賠償命令制度では、刑事事件で利用された事件の記録を、民事事件の損害賠償請求の審理でもそのまま利用することができます。原則4回以内で審理を終了して損害賠償額を決め、裁判官が損害賠償命令を出します。刑事事件と同じ裁判官が担当するので審理がスムーズに進むメリットがあります。
刑事裁判の成果を利用する制度ですので、無罪判決が出た場合には損害賠償命令の申立ては却下されます。もっとも、その場合も通常の民事訴訟を提起することは可能です。
被害者から民事訴訟を起こされるとどんなリスクがある?
刑事事件以外に民事訴訟を起こされると、解決まで長期化するリスクがあります。
民事訴訟では、何も返答しなければ相手の請求通りの判決となってしまうため、返答や反論をする必要があり、訴訟に対応せざるを得ません。また、そのために弁護士に依頼するとなるとその費用負担も生じます。
刑事事件で示談金を払って解決したと思っていても、適切な示談ができていなければ、民事上の問題は解決していないと言われ損害賠償を請求されて二重払いのリスクを負う可能性もあります。このようなリスクを防ぐには、弁護士に示談をしてもらうことをお勧めします。
民事事件の訴訟を防ぐためにはどうすべき?
民事事件の訴訟を防ぐためには、刑事事件の中で示談を締結し、民事上の損害賠償に関する問題も一挙に解決することが有効です。示談とは、当事者間の合意を言いますが、示談の中で損害賠償や精神的苦痛に対する慰謝料などをすべて含む解決金を示談金として払い、金銭問題を解決するのです。
具体的には、謝罪を尽くした上で、
- 加害者は被害者に対して示談金として金○○円を払う
- 加害者と被害者は、本示談書に定めるほか何らの債権債務がないことを確認する
などと記載します。これを清算条項といい、一切の金銭問題が解決したことになるので、後日の民事訴訟のリスクをなくすことができます。
刑事事件の示談について詳しく知りたい方は「刑事事件で示談をすべき5つの理由|示談金の相場も紹介」をご覧ください。
被害者が示談を拒否し、刑事・民事両方の責任を強く求めている場合
被害者との示談の成立は、刑事事件において重要な意味を持ちます。なぜなら、被害の回復がされ、被害者も事件を許しているのであれば、重い刑事罰を科す必要はないと考えられるからです。
ただし、示談はあくまで民事上の合意ですので、当事者間で合意がなければ成立はしません。示談には応じず、強く処罰を求めるという被害者はたくさんいます。
そういったケースでは弁護士が入ることで、当事者間の公平という観点から、適切な金額で被害者感情にも配慮しながら冷静に示談交渉を行うことができるため、示談締結の可能性を高めることができます。
被害者側としても、示談を拒否した場合には弁護士を雇って民事裁判を起こさなければ慰謝料の支払いを受けられないリスクがあるため、交渉次第では示談に応じてもらえる可能性があります。
刑事事件では、よほど悪質でない限り実刑ではなく、不起訴や罰金刑、執行猶予となる犯罪も多いです。示談を拒否してもどうせ期待する刑事罰が下されないのであれば、ということで示談金が得られる選択をするという被害者は結構いらっしゃいます。
また、あまりに高額な慰謝料や示談金を要求された加害者のご家族が、言われた通りに支払うしかないのかと悩んで弁護士に相談に来るというケースもあります。
そのような場合には、示談は難しくなるものの、あえて民事訴訟を提起してもらって裁判所に適正な額の賠償額を判断してもらうという対応も考えられます。