2023年3月14日、性犯罪の規定を見直す刑法改正案が閣議決定されました。その中には、撮影罪の新設も含まれています。
撮影罪とは、盗撮や同意のない性的な画像撮影などを処罰するための規定です。
現行刑法には盗撮罪や撮影罪という罪は存在せず、盗撮を取り締まるためには、各都道府県の迷惑防止条例が使われています。
しかしスマートフォンの普及によって盗撮件数が年々増加していく中、盗撮を全国一律で処罰する規定の新設や重罰化などが求められ、撮影罪が新設されることになりました。
この記事では、撮影罪の新設で違法となる行為や刑罰がどう変わる見込みなのか、撮影罪が新設される理由などについて解説します。
目次
撮影罪とは
撮影罪とは、人の性的姿態や着用中の下着などを撮影する罪のことです。
国会で法案が成立すれば、刑法に新たに創設される予定です。
撮影罪が新設されると、各都道府県の迷惑防止条例よりも、刑罰の上限が拡大されます。
2023年2月に法制審議会で発表された撮影罪の要綱案をもとに、撮影罪の概要について説明していきます。
何を撮影すると撮影罪になる?
人の性的姿態等の撮影が、撮影罪で違法となる行為です。
性的姿態等とは、次の3つを指します。
- 性器や臀部、胸部などの性的な体の部位
- 性的な部位を隠すために着用している下着
- わいせつな行為や性交等がされている間の人の姿態
現行の東京都迷惑防止条例では、「人の通常衣服で隠されている下着又は身体の撮影行為」が処罰対象とされています。
条例の文言は、撮影罪の文言と異なりますが、犯罪になる撮影対象に変化はありません。
撮影罪で刑罰はどう変わる?
撮影罪の新設によって、盗撮をはじめとする性的姿態の撮影行為が厳罰化されます。
撮影罪に違反して撮影を行った場合、法定刑は「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」となる見込みです。
なお2023年3月現在、盗撮などを取り締まっている各都道府県の迷惑防止条例では、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と規定している自治体がほとんどです。
撮影罪による刑罰の変更点
新設 | 現行法令 | |
---|---|---|
罪名 | 撮影罪 | 迷惑防止条例違反 |
刑罰 | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 ※非常習、東京都の場合 |
拘禁刑とは
拘禁刑とは、2025年に施行される見込みの改正刑法により新設される、新たな刑の種類です。自由刑の中の「懲役」と「禁錮」を一本化して新たに創設されることが決まりました。
拘禁刑の詳細については「拘禁刑とは?拘禁刑の内容、創設の理由を解説」の記事をご覧ください
撮影罪はいつから新設される?
2023年3月時点では、撮影罪は新設が閣議決定されたのみで、具体的な公布・施行の日にちが決まっているわけではありません。
ですが法案は、2023年夏頃の成立が見込まれています。
数年以内には撮影罪が刑法に新しく創設されることになるでしょう。
撮影罪で処罰されるケース
人の性的姿態をひそかに撮影する行為、いわゆる盗撮行為が撮影罪で処罰される主なケースとなります。
しかし新設される撮影罪では、盗撮以外の撮影のケースも示されています。どのケースであっても、撮影罪に該当すれば「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」が科される予定です。
①正当な理由なく、人の性的姿態をひそかに撮影(盗撮)
正当な理由なく、人の性的姿態をひそかに撮影すると、撮影罪で処罰されます。
電車や駅構内で、女性のスカートの中や胸の部分をバレないように撮影する行為が典型例です。他にも、わいせつな行為や性交をしている人の様子を隠れて撮影する行為も、盗撮に該当します。
②同意できない状態の被害者を撮影
自分の意思で撮影に同意したとはいえない人の性的姿態を撮影すると、撮影罪で処罰されます。
自分の意思で同意したとはいえない状態とは、次のような手段を用いた場合です。
- 暴行・脅迫を用いる
- アルコール又は薬物を摂取させる
- 拒絶するいとまを与えない
- 睡眠や意識不明の状態にする
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力を利用する
被害者が同意できない状態を加害者が作り出して撮影した場合も、元々同意できない状態にあった被害者を撮影した場合も、撮影罪に該当します。
もちろん、撮影される人が自身の意思で同意している場合など、正当な理由があれば性的姿態を撮影したとしても処罰されることはありません。
③被害者を誤信させて撮影
特定の行為や恰好がわいせつなものではないと被害者に信じ込ませてその様子を撮影したり、自分以外は誰も見ないと嘘をついて性的姿態を撮影したりすると、撮影罪になります。
④正当な理由なく、16歳未満の人の性的姿態を撮影
正当な理由なく16歳未満の人の性的姿態を撮影すると、盗撮ではなくても処罰されます。
なお、13歳以上16歳未満の人の性的姿態の撮影は、原則5歳以上の年長者が撮影した場合に処罰対象となります。この5歳差要件は、交際している同級生などが撮影した場合などを除外するための規定です。
大人が中学生未満の性的姿態を撮影すると、原則処罰されることになるでしょう。
また、正当な理由なく13歳未満の人の性的姿態を撮影すると、年齢に関係なく処罰されることになります。
⑤未遂
①~④までのケースは、未遂であっても処罰されます。
第三者への画像の提供など
2023年3月に閣議決定された刑法改正案では、撮影罪以外にも提供罪や保管罪などが新設される予定です。
これにより、盗撮画像の第三者への提供行為や提供するための保管行為も処罰されることになります。事情を知って画像や映像を記録する行為も同様です。
現行法では、盗撮画像を提供する行為などは主にわいせつ物頒布等罪(刑法175条)に規定されています。
「2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料」が法定刑で、状況によっては懲役と罰金が併科されることもあります。
①提供罪
性的姿態の撮影画像を第三者へ提供すると、撮影罪と同じく「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」が科されます。
不特定多数の者に提供又は公然と陳列した場合には「5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金又は併科」となります。
②保管罪
提供する目的で性的姿態の撮影画像を保管した場合、「2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金」が科されます。
現行のわいせつ物頒布等罪では、有償で販売する目的で保管した場合に処罰される規定となっているため、この改正案により、画像の保管で処罰される範囲が広くなります。
③記録罪
撮影罪を犯して撮影されたという事情を知って、画像や映像を記録した場合、「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」が科されます。
記録罪については、現行刑法には処罰規定がありませんが、被害者が18歳未満の場合には、児童ポルノ規制法における処罰対象となる可能性があります。
児童ポルノに該当しない画像に関しては、記録罪は完全に新しく設けられる内容になります。
なぜ撮影罪が新設されるのか?
盗撮件数の増加
撮影罪の新設が検討されている理由として、スマートフォンの普及による盗撮の被害件数の増加が挙げられます。
毎年盗撮の検挙件数は増え続けており、2021年には5,000件を超える盗撮事件が検挙されています。
こうした社会情勢の変化を受けて、都道府県条例ではなく刑法で規制して厳罰化すべきという意見が強くなり、今回の閣議決定につながりました。
条例で処罰できない事例の発生
2012年9月、国内線航空機の機内で女性客室乗務員のスカート内を撮影した男性が、嫌疑不十分で不起訴処分となった事例がありました。
男性を処罰できなかったのは、高速で移動する機内での犯行であり、犯行場所がどの都道府県だったのか特定ができなかったためです。
都道府県の迷惑防止条例を適用する場合の問題点が指摘され、全国一律で盗撮を処罰できる法律改正が求められるようになりました。
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