
ドメスティック・バイオレンス(以下「DV」といいます)と聞くと「家庭内暴力」や「配偶者暴力」をイメージすると思います。しかし、DVとして逮捕されるケースは、婚姻関係のある配偶者間の暴力に限られません。
この記事では、DVでの逮捕が不安な方に向けて、以下の内容をまとめています。
- DVで逮捕される場合とは
- DVで逮捕された後の流れ
- DV事件を弁護士に依頼するメリット(早期釈放や不起訴の獲得方法など)

※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は有料となります。
目次
DVで逮捕される場合とは?
DVで逮捕されるきっかけ
①110番通報
被害者が110番通報をした結果、警察が現場にかけつけ逮捕に至る場合があります。
現行犯逮捕の他、任意同行後に逮捕される可能性もあります。
②告訴、被害届の提出
日常的にDVを受けている被害者が、告訴をしたり、被害届を提出することもあります。診断書など客観的な証拠があると暴行事件や傷害事件として立件される可能性があるでしょう。
ここで告訴と被害届の違いを解説していきます。
告訴とは、被害者が、捜査機関に対し被害の事実を申告し、かつ犯人の処罰を求める意思表示です。捜査機関が告訴を受理すると必ず捜査が開始されます。これに対し、被害届は被害が発生したことを警察に届け出る行為で処罰を求めるものではありません。被害届が受理されても、実際に捜査を始めるかどうかは捜査機関の判断次第です。
以前は、家庭内のトラブルに介入することに捜査機関が消極的だった時代もありました。しかし、DVを発端とした重大事件が複数発生したことを受け、捜査機関の対応が変化しました。現在では、警察の方から被害届の提出を促すこともあります。また、被害届の提出がされなくても、必要性が認められ客観的証拠と逮捕の理由があれば逮捕に至ることもあります。
③離婚相談に関連した告訴
弁護士に離婚問題を相談する中で、DVの告訴が検討されることもあります。なぜなら、配偶者への暴力は離婚事由になりうるからです。また、DVは離婚の慰謝料を増額する理由にもなります。こうした事情から、被害者が診断書など証拠をそろえた上、弁護士が代理人として告訴状を提出するケースもあります。
DVで逮捕される場合に適用される罪名・罰則の内容
①暴行罪
暴行罪(刑法208条)の「暴行」とは、他人の身体に対する有形力の行使をいいます。したがって、暴力を振るった場合、怪我を負わせなくても暴行罪が成立する可能性があります。
過去の裁判例では、包丁を突きつける行為(東京高判昭和43年12月8日)、椅子を投げつける行為(仙台高判昭和30年12月8日)も暴行と認定されています。法定刑は、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。
拘留は、1日以上30日未満の期間、刑事施設に拘置される刑罰です(刑法16条)。
科料は、1000円以上1万円未満とされています(刑法17条)。
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②傷害罪
暴行の結果、怪我を負わせると傷害罪(刑法204条)が成立する可能性があります。身体的被害が生じなくとも、PTSD(心的外傷後ストレス障害)が傷害に当たると判断されるケースもあります。法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
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③傷害致死罪、殺人罪
身体を傷害した結果、被害者が死亡した場合は傷害致死罪(刑法205条)が成立する可能性があります。法定刑は、3年以上の有期懲役です。
最初から「殺してやる」「死んでもかまわない」と思っていた場合は、殺人罪(刑法199条)が成立する可能性があります。法定刑は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役です。
④脅迫罪
相手方またはその親族の生命、身体、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫した場合、脅迫罪(刑法222条)が成立する可能性があります。法定刑は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金です。
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⑤器物損壊罪
家具等を壊した場合、器物損壊罪(刑法261条)が成立する可能性があります。法定刑は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料です。
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⑥強制性交等罪、強制わいせつ罪
夫婦間であっても、被害者の意思に反して性交渉を強要した場合、強制性交等罪(刑法177条)が成立する可能性があります。法定刑は、5年以上の有期懲役です。
性交渉に至らなくても、暴行・脅迫を用いてわいせつな行為をした場合は強制わいせつ罪(刑法176条)が成立する可能性があります。法定刑は、6月以上10年以下の懲役です。
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⑦DV防止法違反
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)に基づく保護命令に違反した場合、保護命令違反の罪で1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる可能性があります(DV防止法29条)。
DV防止法の保護命令とは?
DV防止法の保護対象者
DV防止法は、「配偶者からの暴力を受けた者」を被害者と規定し、保護の対象としています(DV防止法1条2項)。具体的には、以下の方が「被害者」に該当します。なお、「被害者」には女性だけでなく男性も含まれます。
- 法律的な婚姻関係にある者
- 婚姻の届出をしていないが事実上の婚姻関係にある者(DV防止法1条3項)
- 生活の本拠を共にする交際関係にある相手から暴力を受けた者(DV防止法28条の2)
※「生活の本拠を共にする交際」といえるには、婚姻関係における共同生活に類するような共同生活関係が必要です。したがって、一時的な同棲関係はDV防止法の対象外となります。
保護命令の対象になるDV
①配偶者からの身体に対する暴力
刑法上の暴行罪や傷害罪に該当するケースをいいます。この場合、保護命令の要件として、更なる身体に対する暴力によりその生命身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことが必要です。
②被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫
刑法上の脅迫罪のうち、被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知するケースをいいます。この場合、保護命令の要件として、身体に対する暴力によりその生命身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことが必要です。
保護命令の内容
保護命令の内容は、以下のとおりです(DV防止法10条)。原則として①接近禁止命令、②退去命令が発令されます。③から⑤は付随的な命令です。
①接近禁止命令
②退去命令
③電話・電子メール等の禁止命令
④子どもに対する接近禁止命令
⑤被害者の親族等に対する接近禁止命令
令和元年におけるDVの検挙状況は?
令和2年版犯罪白書によると、令和元年におけるDV事案の検挙実態は、保護命令違反が71件、他法令が9090件でした。他法令のうち、最多は暴行罪で5384件、次が傷害罪で2786件です。保護命令違反の検挙件数は近年減少傾向にあります。一方、令和元年における他法令の検挙件数は、平成22年の約3.9倍に上ります。
DVで逮捕された後の流れ|釈放のタイミングは?
DVで逮捕された後の流れ
逮捕後の大まかな流れは、以下の図のとおりです。

逮捕後は警察署で警察官による取り調べを受けます。取り調べで話した内容は供述調書にまとめられます(取り調べについてさらに詳しく知りたい方は、『弁護士が教える怖い警察の取り調べの対応法|録音や拒否はできる?』をぜひご覧ください)。
警察は、留置の必要があると考えるとき、逮捕後48時間以内に事件を検察官に送致します。送致を受けた検察官は、留置の必要があると考えるとき、送致後24時間以内に裁判官に勾留請求します。裁判所が勾留を認めると、勾留されます。勾留期間は原則10日間、延長されると最長20日間です。
逮捕勾留中に犯罪事実の有無が捜査されます。逮捕から最長23日後に検察官が起訴・不起訴の決定をします。起訴されると、公開の法廷で正式な刑事裁判を受けることになります。罪を認める場合であれば、起訴から約1か月後に第1回公判、第1回公判から1か月以内に判決が言い渡されるという流れが多いでしょう。
DV事案の場合、略式手続がとられるケースも多いです。略式手続は、100万円以下の罰金等で被疑者が異議を申し立てないとき、書面審理だけで終了する簡易な手続です。DV事案の場合、暴行事件や傷害事件のケースが多いため、略式手続となる可能性があります。略式手続で罰金刑により事件が終了すると、逮捕から最大でも23日間で釈放されます。
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早期釈放のポイントは示談
DV容疑で逮捕後、早期に釈放されるポイントは示談の成立です。示談が成立すれば、逃亡や罪証隠滅のおそれはなくなったと判断されやすくなります。その結果、勾留されず釈放となる可能性が高まります。勾留されなければ、逮捕後 72時間以内(3日以内)に釈放されます。
身柄拘束からの早期釈放を目指すなら、私選弁護人に依頼するのがおすすめです。私選弁護人は逮捕直後から接見できるからです。国選弁護人と違い、ご本人またはご家族が刑事弁護の実績豊富な弁護士を選任できる点もメリットです。依頼の仕方としては、逮捕前からご本人が弁護士を選任しておくか、ご本人が逮捕されたことを知ったご家族が弁護士に連絡する方法があります。
DV事件を弁護士に依頼するメリット
DV事案は、できる限り早く弁護士に依頼することで、日常生活への影響を最小限に抑えることが期待できます。ここでは、弁護士に依頼する具体的なメリットについてご紹介します。

刑事事件化の防止が期待できる
早期に弁護士に依頼の上、謝罪と賠償を尽くせば刑事事件化を防ぐことが期待できます。刑事事件にならなければ、逮捕や前科の回避につながります。仕事を休まなくて済むので、会社に暴力事件を起こしたと知られるおそれもなくなります。
早期釈放が期待できる
示談によって早期釈放が期待できます。弁護士は、示談成立を目指すことに加え、加害者を許す条項(宥恕条項)や被害届を取り下げる旨の条項にも同意していただけるよう交渉します。告訴されている場合は、告訴取消書も作成していただけるよう尽力します。
ただし、DV事案の場合、金銭賠償が済んでも、被害者への報復の危険がなくなったと認められない可能性があります。そのような場合に備え、被害者との別居措置をとったり、今後加害者が被害者に近づかない旨の誓約書も提出するなど、事例に応じた最善の弁護活動を行います。
不起訴獲得が期待できる
示談成立により不起訴処分の獲得も期待できます。不起訴となれば前科は付きません。また、事案によっては、実は被害者もここまで事件が大きくなると想像していなかったケースもあります。このような場合、被害者も起訴まで望んでいない場合が少なくありません。
弁護士は、当事者双方から事情を丁寧に聴き取り、検察官に対し、起訴の必要がないことを積極的に主張します。
刑の減軽が期待できる
起訴された場合でも、適切な弁護により、罰金刑や執行猶予付き判決となることが期待できます。怪我の程度にもよりますが、初犯であれば、実刑判決が言い渡されても執行猶予となる可能性は十分あります。
また、弁護士は、暴力行為をやめたくてもどうしていいか分からないと苦しむ方のために、加害向け自助グループの情報を提供することもあります。自身の行動を反省し、しっかりと更生に取り組む姿は、裁判上も刑を減軽する事情として考慮されます。