「ひき逃げをしてしまい、どうすればいいのか分からない…」そんな不安な気持ちを抱えている方もいらっしゃるでしょう。
ひき逃げ事故は、重大な刑事罰を科せられる可能性の高い犯罪です。被害者が死亡し、死亡事故となってしまうケースもあります。
しかし、公訴時効をむかえた刑事事件は、処罰されなくなります。ひき逃げの場合(故意による死亡事故を除く。)、事故の態様によって違いますが、公訴時効は5年~20年になります。
また、被害者から加害者への損害賠償請求ができる権利は、交通事故の損害(怪我、死亡など)および加害者を知った時から5年、または交通事故の時から20年で時効にかかり、消滅します。
この記事では、罪名ごとに異なるひき逃げ事件の時効期間や、ひき逃げをしてしまった加害者が取るべき対応を解説します。
目次
ひき逃げ(救護義務違反)とは
ひき逃げとは、人身事故を起こした加害者が被害者を救護せずに逃げてしまう犯罪です。
交通事故を起こしたら、加害者は必ず現場で被害者を救護し周辺の危険を除去しなければなりません(道路交通法72条1項前段)。こうした救護義務を果たさずに加害者が立ち去ると、救護義務違反として重い処罰を受けます。
ところが実際には、事故を起こしてしまったことで気が動転してしまい、救護義務を果たさずにその場を離れてしまう加害者も少なくありません。また、もしかしたら人身事故を起こしてしまったかもしれないと思いつつも、信じたくない気持ちからその考えを否定し、動物やモノにぶつかっただけだと解釈してそのまま走り去ってしまうケースもあります。
このような加害者が救護義務違反をせずに立ち去る交通事故全般を「ひき逃げ」や「ひき逃げ事故」といいます。ひき逃げには被害者がけがをした場合も死亡した場合も含まれますが、被害者が死傷しなかった場合(物損事故)はひき逃げ事故になりません。
ひき逃げについてより詳しく知りたい方は『ひき逃げ事件を弁護士相談|不起訴で前科を回避?弁護士の選び方は』のページもご覧ください。
ひき逃げの時効は2種類
ひき逃げには「時効」が適用されます。時効は大きく分けて刑事事件の時効と民事上の賠償責任についての時効の2種類があります。
公訴時効(刑事事件の時効)
1つ目は「公訴時効」とよばれるものです。これは「加害者を起訴して刑罰を与えるための時効」です。公訴時効が完成すると加害者を起訴することができなくなるので処罰されません。
また、公訴時効が成立した場合、その犯罪について逮捕されることはほぼゼロになります。
公訴時効は「刑事事件の時効」と考えるとわかりやすいでしょう。
刑事事件になぜ時効があるか
刑事事件に時効がある理由はいくつかあります。なかでも大きな理由としては、時間の経過とともに正確な証拠を集めることが困難になり、正しい裁判を行うことができなくなってしまうことが挙げられます。実務上も、証拠資料を保管し、人員を投入し、捜査体制を永遠に維持し続けるにはどうしても限界が生じるでしょう。
しかし、 犯罪被害者や遺族の声の高まりや、古い証拠からであっても正確に犯人を特定できるような科学技術の進歩に伴い、殺人などの「人を死亡させた罪であつて死刑に当たる罪」 については2010年に公訴時効が廃止されました。
なお、ひき逃げについては、時効廃止の要望も強くあるものの、他の犯罪との均衡などの観点から時効廃止には至っていません。
ひき逃げの損害賠償の時効(民事事件の時効)
ひき逃げには、刑事事件だけでなく、民事事件の側面もあります。
被害者、そのご家族・ご遺族は、ひき逃げによって生じた損害の賠償を、加害者に対して請求できます。これが民事事件の側面です。
ひき逃げで生じる損害の例
- 治療費
- 休業損害
- 入院付添費
- 交通費
- 介護費用
- 慰謝料
- 逸失利益
この民事事件の賠償請求の場面でも、時効が問題になります。
ひき逃げされた被害者の損害賠償請求権は、「交通事故の損害と加害者を知った時から5年」*、または「交通事故の時から20年」で時効にかかります(民法724条、同724条の2)。
* 2020年4月1日改正。2020年3月31日以前の事故については、「交通事故の損害と加害者を知ったときから3年」です。
損害というのは、症状固定をむかえた怪我や、死亡などを指します。
損害の内容が分かっていても、加害者が分からない場合は、5年の時効期間は進行しません。
民事の時効が過ぎるとどうなる?
時効期間を過ぎた場合、被害者の賠償請求権は消滅し、民事裁判で戦うと負けてしまって、賠償金を手にすることができなくなります。
ただし、保険会社が示談対応をしてくれる場合は、時効をむかえる前に、賠償金を受けとれるケースも多いです。
加害者側としては、民事の時効が経過すれば、賠償金を支払う必要はなくなりますが、時効を待つという選択は賢明ではありません。
保険での被害弁償を提案したり、真摯に謝罪をしたりして、時効を迎える前に、示談での解決を目指す必要があるでしょう。
ひき逃げで成立する犯罪
ひき逃げの公訴時効(刑事事件の時効)は、成立する犯罪によって変わります。
ひとくちに「ひき逃げ」といっても、その態様によって成立する犯罪に違いがありますので、まずは「ひき逃げ」で成立する犯罪を確認しましょう。
「ひき逃げ」で成立する犯罪には、道路交通法違反の罪と、自動車運転処罰法違反の罪の2種類があります。
道路交通法違反
救護義務や警察への報告義務、飲酒運転禁止や制限速度超過などの運転者の義務違反についての罪は道路交通法に定められています。ひき逃げは救護義務違反に該当し、道路交通法違反の罪になります。
加害者の運転が原因で相手を死傷させた事故では、救護義務違反の罰則は「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」です(道交法72条1項前段、117条2項)。
自動車運転処罰法違反
不注意によって交通事故を起こし、被害者を死傷させてしまったことについて成立する犯罪です。主に以下の2種類の犯罪類型があります。無免許の場合はさらに重い罪が科せられます。
過失運転致死傷罪
一般的な不注意によって交通事故を起こし、被害者を死傷させたときに成立する罪です。刑罰は「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金刑」です。
危険運転致死傷罪
故意とも同視できるほどの悪質な過失や故意によって交通事故を起こし、被害者を死傷させたときに成立する罪です。被害者がけがをした場合と死亡した場合とで刑罰が異なります。
被害者がけがをした場合…15年以下の懲役
被害者が死亡した場合…1年以上の有期懲役
道路交通法違反と自動車運転処罰法違反の関係
不注意による事故で人を死なせてしまい、さらに救護義務も怠る(=ひき逃げをする)と、過失運転致死傷罪と救護義務違反の罪が両方成立します。
この場合両者は併合罪と呼ばれる関係になり、重い罪の長期1.5倍の刑(罰金の場合は両方の罪の合計)が科されます。
過失運転致死傷のひき逃げの例
過失運転致死傷罪:「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金刑」
救護義務違反:「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」
↓ 両方が成立すると刑は…
過失運転致死傷のひき逃げ:「15年以下の懲役または200万円以下の罰金」
ひき逃げの公訴時効
公訴時効は「人を死なせたかどうか」と「法定刑の重さ」によって、刑事訴訟法250条でその期間が定められています。
ひき逃げ事故の公訴時効は「被害者が死亡したかけがをしたのか」「加害者に過失運転の罪が成立するのか危険運転の罪が成立するのか」によっても大きく異なるため、ケースごとに正しく計算しなければなりません。
被害者が死亡した場合(死亡事故)
加害者の運転によって被害者を死亡させた、ひき逃げ事件の公訴時効期間は以下のとおりです。
罪名 | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
過失運転致死罪 | 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金 | 10年 |
危険運転致死罪 | 1年以上(20年以下)の有期懲役 | 20年 |
救護義務違反 | 10年以下の懲役又は100万円以下の罰金 | 7年 |
加害者に過失運転致死罪が成立する場合には公訴時効は10年、危険運転致死罪が成立する場合には公訴時効は20年になります。救護義務違反そのものの時効はどちらにしても7年間にとどまります。
たとえば、過失運転致死のひき逃げでは、7年が経過すると救護義務違反については公訴時効が成立しますが、10年経過するまでは過失運転致死罪の責任を問うことはできます。
被害者が死亡しなかった場合
被害者が死亡しなかった場合の公訴時効期間は以下のとおりです。
罪名 | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
過失運転致傷罪 | 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金 | 5年 |
危険運転致傷罪 | 1年以上(20年以下)の有期懲役 | 10年 |
救護義務違反 | 10年以下の懲役又は100万円以下の罰金 | 7年 |
たとえば、過失運転致傷のひき逃げでは、5年が経過すると過失運転致傷罪については公訴時効が成立しますが、7年経過するまでは救護義務違反の責任を問うことはできます。
無免許運転の場合
無免許運転の場合、刑罰が加重されるため公訴時効期間も延長されます。
罪名 | 法定刑 | 公訴時効 |
---|---|---|
過失運転致傷罪(無免許) | 10年以下の懲役 | 7年 |
過失運転致死罪(無免許) | 10年以下の懲役 | 10年 |
危険運転致傷罪(無免許) | 6月以上(20年以下)の有期懲役 | 20年 |
危険運転致死罪(無免許) | 1年以上(20年以下)の有期懲役 | 20年 |
救護義務違反(ひき逃げ)の時効と交通事故自体の時効は違う
ひき逃げ事件では「ひき逃げの時効(救護義務違反の時効)」と 「交通事故の時効」 は異なります。
ひき逃げの時効は7年で成立しますが、その後も過失運転致罪や危険運転致傷罪の時効は成立しません。数年間はこれらの罪で起訴される可能性があります。
特に危険運転致死罪が成立すると、公訴時効は20年となり非常に長期になります。ひき逃げをしたまま罪を免れようと思っても、厳しい状況といえるでしょう。
ひき逃げしてしまったときの対処法
もしもひき逃げをしてしまったら、どのように対処すればよいのでしょうか。
自首する、任意出頭する
ひき逃げをしてしまった方は、警察へ自首することをおすすめします。
自首とは、犯罪が発覚する前に犯人が自ら捜査機関へ罪を申告することです。ひき逃げが明るみになる前であれば、自首によって刑罰を減軽してもらえる可能性が高くなります。自首が成立すると、刑罰が任意的に減軽されることになっているためです。
一方、ひき逃げの犯人であることが明らかになっていると自首は成立しません。その場合でも、任意で出頭したことによって情状が良くなる効果を期待できるので、逮捕される前に出頭しましょう。
自首と任意出頭のちがいについて詳しく知りたい方は『自首と出頭にはどんな違いがある?警察に自ら出向くとどうなるのか』の記事をご覧ください。
時効の成立を待つのはおすすめできない
ひき逃げした場合、隠れたまま公訴時効の成立を待とうと考える方もいるかもしれません。 確かに自首や任意出頭せずに時効が成立したら処罰を受けずに済みます。しかし、時効の成立を待つのは得策とはいえません。
令和5年版の犯罪白書によれば、ひき逃げの検挙率は2022年には69.3%、なかでも死亡事故の検挙率は101.0%です。検挙件数には前年以前に認知された事件が含まれているため、100%を超える数値になっています。死亡事故はほとんどの確率で検挙されると考えていいでしょう。
近年はドライブレコーダーの需要も高まっており、ひき逃げの検挙率は年々上昇しています。逃げることは賢明な判断とは言えません。
また、いつ何時警察に逮捕されるかわからない状態になるので、何年もの間隠れて生活しなければならないのは大変です。ある日突然警察がやってきて逮捕されてしまうリスクと隣り合わせの生活になります。人生の貴重な期間をおびえながらの生活に費やしてしまうのは大きな損失となるでしょう。
そして、逃げた場合には逮捕されたときの情状も悪くなり、より重い刑罰を科される可能性が高くなります。
時効の成立を期待するよりも自ら罪を申告することが、誠実な対応といえますし、自身が受ける不利益も最小限で済む可能性が高いです。
弁護士へ相談する
「パニックになり事故現場から走り去ってしまった」
「もしかしたらひき逃げをしてしまったかもしれない」
このようなお悩みで、どうすればよいか迷っているなら、まずは弁護士に相談してみてください。
弁護士に相談すれば自首のメリットやデメリットを教えてもらえるので、本当に自首して良いものか正しく判断できます。自首する際にも弁護士に同行してもらえますし、そのことで「確実に自首した」証拠を残し、刑の減免を受けやすくする効果も期待できるでしょう。
被害者との示談交渉や刑事弁護も依頼できて、結果的に最も良い方向で解決できる可能性を大きく向上させることができます。
刑事事件に強い弁護士へ相談することが重要
刑事事件の被疑者(容疑者)が可能な限り不利益を小さくするには、法律的な知識と刑事弁護のスキルを持った弁護士に対応してもらうことが極めて重要といえるでしょう。
事故を起こしたくて起こす人はまずいませんし、とっさの事故では冷静かつ適切に対応することはなかなか難しいものです。人間ですから弱い心もあります。逃げてしまいたくなることもあるでしょう。
しかし、起こしてしまった事故や被害者とはしっかりと向き合わなければなりません。弁護士はそのためのサポートをすることができます。一人では向き合うことが難しくても、心強い味方がいればそれだけで違うでしょう。アトム法律事務所の弁護士はあなたの絶対的な味方です。
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アトムの解決事例(ひき逃げ・死亡事故)
ここでは、過去に、アトム法律事務所が取り扱った事案の一部を、プライバシーに配慮したかたちでご紹介します。
ひき逃げ・致傷(不起訴)
トンネル内において被害車両に追突し、動揺して逃走したケース。被害車両に搭乗していた被害者がけがを負い、過失運転致傷と道路交通法違反で逮捕された事案。
弁護活動の成果
けがを負った被害者と宥恕条項(加害者を許すという条項)付きの示談が成立。結果、過失運転致傷と道路交通法違反両方につき不起訴処分となった。
示談の有無
あり
最終処分
不起訴
死亡事故(禁錮1年4か月執行猶予3年)
自動車死亡事故事案。依頼者が自動車で駐車場から路上に出ようとした際に、飛び出してきた被害者と衝突。転倒した被害者が脳挫傷で死亡した過失運転致死の事案。
弁護活動の成果
依頼者加入の保険会社を通じ、被害者遺族とは示談が成立していたが、裁判では被害者側の過失についても立証を尽くした結果、執行猶予判決を獲得した。
示談の有無
あり
最終処分
禁錮1年4か月執行猶予3年
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ご依頼者様からのお手紙・口コミ評判
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ワラをもつかむ思いで訪問・先生が尽力してくれた
(抜粋)3ヵ月後に、急に検察庁から出頭依頼を受け告訴された旨を聞いた時、親子で途方にくれました。次の日、よく理解できないながら、ワラをもつかむ思いで、御社を訪問させていただきました。被害者様は示談を強く拒否されていて最後までお話しも聞いていただけなかったことは残念でしたが、出口先生のご尽力で何とか、終わらせることができました。
ご依頼者様からのお手紙のほかにも、口コミ評判も公開しています。
身柄事件では、逮捕から23日後には起訴の結論が出ている可能性があります。
在宅事件でも、検察からの呼び出し後、すぐに処分が出される可能性があります。
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