2025年6月より、懲役・禁錮刑が「拘禁刑」に統一されました。
医師や歯科医師の方が犯罪行為によって前科がついた場合、罰金以上の刑に処せられると医道審議会の審査対象となり、戒告・医業停止(最長3年)・免許取消のいずれかの行政処分を受ける可能性があります。
ただし、前科がついたからといって必ず免許が剥奪されるわけではなく、犯罪の内容・情状・示談の有無などによって処分内容は大きく変わります。
早期に弁護士へ相談し、示談交渉や不起訴獲得に向けた弁護活動を行うことで、免許への影響を最小限に抑えられる可能性があります。
今回は、医師・歯科医師が注意すべき「前科による不利益」の具体的な内容、行政処分の種類と判断基準、刑事事件の流れ、そして免許剥奪や前科のリスクを回避する方法を弁護士が詳しく解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
前科による医師免許や歯科医師免許への影響
医師や歯科医師の方に前科がつくと、医師免許や歯科医師免許にどのような影響が及ぶのでしょうか。医師法・歯科医師法には、前科がついた場合の取り扱いが明確に定められています。
罰金以上の刑に処せられると医師免許に影響する
医師や歯科医師は「罰金以上の刑罰」に処せられると、医師免許・歯科医師免許が制限される可能性があります。これは刑罰そのものではなく、厚生労働省による「行政処分」として行われます。
罰金以上の刑には以下のものが含まれます。
| 刑罰の種類 | 内容 |
|---|---|
| 罰金 | 1万円以上の金銭支払の刑罰 |
| 拘禁刑 | 刑事施設に収容される刑罰 |
| 死刑 | 絞首 |
具体的な行政処分の内容は、「医道審議会」によって審査が行われたうえで決定されます。医道審議会とは、医師や歯科医師に対する行政処分の内容を審議し、厚生労働大臣に答申する専門機関です。
前科のついた医師や歯科医師には、「戒告」「3年以内の医業の停止」「免許の取消し」のいずれかの処分が下される可能性があります。
科料・拘留の場合には医師免許に影響しない
刑事事件になっても「拘留」や「科料」であれば、医師免許・歯科医師免許に影響しません。拘留や科料は罰金よりも軽い刑罰だからです。
| 刑罰の種類 | 内容 |
|---|---|
| 拘留 | 30日未満の期間、刑事施設に収容される刑罰 |
| 科料 | 1万円未満の金銭支払の刑罰 |
つまり、医師免許や歯科医師免許に影響するのは「罰金以上の前科がついたとき」に限られます。
不起訴でも行政処分の対象になるケースがある
注意が必要なのは、医師が患者に対してわいせつ行為を行ったような場合です。行為の内容によっては、刑事事件が不起訴で終わった場合でも、「医師としての品位を損なう行為」として行政処分の対象とされる可能性が全くないとはいえません。
また、刑事裁判で起訴されなかった場合でも、民事訴訟で医療行為の責任が認定された医師に対して行政処分が下された事例も過去に存在します。
医師や歯科医師に前科がつく典型的なケースは?
痴漢や盗撮、暴行や傷害などの犯罪行為をすると、逮捕・起訴され、罰金以上の刑罰を受ける可能性があります。比較的軽めの交通違反でも罰金の前科がつくケースがあるため、注意が必要です。
医師・歯科医師に前科がついて免許に影響が出る典型例は、以下のようなケースです。
前科がつく可能性のある罪
- 痴漢(迷惑防止条例違反)
- 盗撮(性的姿態撮影等処罰法違反)
- 児童買春・児童ポルノ
- 万引き(窃盗罪)
- 交通違反(スピード違反、飲酒運転など)
- 暴行・傷害
- 薬物犯罪(大麻・覚醒剤など)
- 名誉毀損
- 詐欺(診療報酬の不正請求を含む)
自分では気をつけているつもりでも、スピード違反や飲酒運転などの交通違反で罰金刑となれば医師免許や歯科医師免許に影響が及びます。
医師・歯科医師の前科による行政処分の種類
医師・歯科医師に前科がついた場合に受ける行政処分は、「戒告」「3年以内の医業の停止」「免許の取消し」の3種類です。処分の内容は、医道審議会の審議を経て厚生労働大臣が決定します。
(1)戒告
戒告は「注意を促す処分」です。単に注意されるだけなので、免許に対する直接の制限はありません。 そのまま医業を継続できます。
ただし、戒告を受けた事実は記録として残るため、今後再び問題を起こした場合にはより重い処分を受ける可能性が高まります。
(2)3年以内の医業の停止
3年の範囲内で医業の停止を命じられる処分です。医業を停止されている間は、医師や歯科医師としての診療行為やクリニック開業ができません。
ただし、免許自体が取り消されるわけではないので、医業停止の期間が経過したらまた医業を再開できる可能性があります。停止期間後には再教育研修の受講が必要です。
医業停止期間はいつから始まるのか
医道審議会の開催日の翌日から14日目に処分の効力が発生します。つまり、処分が決定してから約2週間後に医行為ができなくなります。この期間を利用して、患者の引継ぎなど必要な対応を行うことになります。
(3)免許の取消し
前科がついたときの最も重い処分は、医師免許や歯科医師免許の取消です。一旦取り消されると、再取得しない限り医業を再開できません。
2025年(令和7年)に開催された医道審議会の議事要旨によると、年3回の審議会で合計約60名以上の医師・歯科医師が行政処分の対象となっています。
- 2025年3月:医師17名・歯科医師5名に行政処分(免許取消2件を含む)
- 2025年8月:医師12名・歯科医師8名に行政処分(免許取消1件を含む)
- 2025年12月:医師16名・歯科医師7名に行政処分(免許取消1件を含む)
処分事由としては、わいせつ行為、薬物犯罪、交通違反、詐欺(診療報酬不正請求を含む)などが多く見られます。
参照元:厚生労働省「医道審議会(医道分科会)」
免許を取り消されると「欠格期間」が発生し、その間は医師免許や歯科医師免許の再取得ができなくなります。欠格期間は前科の内容によって異なります。
前科の内容と欠格期間
| 前科の内容 | 欠格期間 |
|---|---|
| 罰金刑となった | 罰金を支払った後、罰金以上の刑に処せられないまま5年が経過するまで |
| 拘禁刑で執行猶予がついた | 執行猶予期間の満了時まで |
| 拘禁刑で実刑となった | 刑の執行が終了した後、罰金以上の刑に処せられないまま10年が経過するまで |
医師免許の再交付は実務上は難しい
医師免許が取り消された場合でも、欠格期間の経過後に再取得を申請することは制度上可能です。
しかし、まず再教育研修を受ける必要がありますし、過去に悪質な前科がある場合は再交付を拒否される可能性が高く、実際に再免許が付与された例は極めて少ないのが現状です。
そのため、刑事事件を起こしてしまった場合には、前科がつかない不起訴を目指して早期に活動することが重要になります。
医師・歯科医師の逮捕で免許剥奪以外にも生じる不利益
医師や歯科医師の方が逮捕されたり前科がついたりすると、免許以外の点でも大きな不利益を受ける可能性があります。
病院に出勤できない・解雇リスク
逮捕や勾留によって身柄拘束されると、その間は病院に出勤できません。
勤務医の場合、勤務先の病院に不審に思われたり、場合によっては解雇されたりする可能性があります。
クリニックを開業している場合は、身柄拘束中に病院を休業にしなければなりません。逮捕されると事件が起訴されるかどうか決まるまで最大23日間も身柄を拘束される可能性があるため、長期休業は患者への影響も大きくなります。
信用の低下・キャリアへの影響
医師や歯科医師に前科がつくと、社会的信用が大きく低下します。
具体的には、以下のような不利益が想定されます。
想定される不利益
- 同業の医師・歯科医師からの信頼低下
- 医師会・歯科医師会での立場が悪化
- 大学病院などでの昇進が困難になる
- クリニック開業者の場合、患者離れのリスク
マスコミによる実名報道
医師や歯科医師が犯罪行為をすると、社会的地位の高さから話題性があるため、マスコミ報道されるケースがあります。
実名報道がなされると全国に名前が知られ、再起が極めて困難になる可能性があります。また、医道審議会で行政処分が決定した際にも報道される場合があります。
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家族への影響
医師の逮捕や前科は本人だけでなく、家族にも大きな影響を与えます。配偶者や子どもの社会生活に支障が出る可能性があり、家庭内の関係にも深刻なダメージを及ぼすことがあります。
医師や歯科医師が犯罪行為をした場合の刑事事件の流れ
医師や歯科医師が何らかの犯罪行為をして刑事事件になった場合、どのような流れになるのでしょうか。逮捕の有無によって手続きが異なります。

(1)逮捕・勾留される場合の流れ
犯罪行為が発覚すると、逮捕される可能性があります。ただし、逮捕は逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合のみに行われるものです。
医師や歯科医師の方で、仕事や家庭が安定しており、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されれば、逮捕されない可能性も十分にあります。
逮捕後の身柄拘束の流れ

- 逮捕後48時間以内:検察官のもとへ身柄が送致される
- 送致後24時間以内:検察官が勾留の要否を判断し、必要があれば裁判所に勾留請求
- 勾留期間:原則10日間(最大で10日間の延長あり)
- 最大拘束期間:逮捕から数えると最大23日間
身柄拘束されている間は取り調べが行われ、病院への出勤はできません。
ただし、逮捕されても極めて軽い犯罪で被害者が許しているような場合には、勾留請求されず「微罪処分」として釈放されるケースもあります。
(2)逮捕・勾留されない場合(在宅事件)
逮捕されなかった場合や勾留されなかった場合には、被疑者在宅のまま捜査が進められます(在宅事件)。 この場合、被疑者の立場であっても医業を続けることが可能です。

ただし、警察や検察から呼び出しを受け、取り調べに応じる必要があります。正当な理由なく呼び出しを無視したり拒否し続けると、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとみなされて逮捕される可能性があるので注意してください。
(3)起訴か不起訴かが決定される
逮捕された場合、在宅事件で進んだ場合のいずれにおいても、捜査が終了すると、検察官によって「起訴」か「不起訴」かが決定されます。
不起訴となれば事件は終了しますが、起訴されると刑事裁判が開かれます。ただし、略式起訴の場合は法廷での裁判は行われず、書類上の審理により罰金刑や科料の刑が下されます。
通常起訴(公判請求)されると公開法廷で審理されます。刑事裁判は公開されるため、一般の方が傍聴に来て犯罪行為の詳細を知られるリスクもあります。
刑事裁判が終わると判決が下されます。有罪判決になったら前科がつき、医師免許や歯科医師免許に対して行政処分が検討されることになります。
一方、無罪判決であれば前科はつかず、医師免許・歯科医師免許への影響はありません。
なお、日本の刑事裁判における有罪率は99%以上であるため、起訴された段階で有罪となる可能性は極めて高いと言えます。だからこそ、起訴前の段階で不起訴を目指すことが重要です。
医師や歯科医師が免許剥奪や前科の不利益を防ぐには?
医師や歯科医師の方が犯罪の被疑者となった場合、免許への影響を最小限に抑えるために取るべき対策を解説します。
早期に被害者と示談する

痴漢や暴行など被害者のいる犯罪では、とにかく早めに被害者と示談することが最も重要です。示談が持つ効果は、刑事手続きの各段階で異なります。
示談のタイミングと効果
| タイミング | 期待できる効果 |
|---|---|
| 逮捕前に示談成立 | 逮捕自体を回避できる可能性が高まる |
| 逮捕後〜起訴前に示談成立 | 不起訴処分となり、前科がつかない可能性が高まる |
| 起訴後に示談成立 | 執行猶予や刑の減軽の可能性が高まる |
被害者との示談交渉は、医師・歯科医師ご本人ではなく弁護士に依頼しましょう。 加害者本人が直接交渉すると、被害者に恐怖心や不信感を与えてしまい、かえって交渉が難航するケースが少なくありません。弁護士を通じた方が被害者も受け入れやすく、スムーズに示談が進む傾向にあります。
弁護士に相談する
交通違反などの被害者がいない犯罪であっても、弁護士に相談することで適切な対応が可能になります。
弁護士が果たす役割は多岐にわたります。
弁護士に相談・依頼するメリット
- 身柄拘束の回避・早期釈放に向けた活動
- 不起訴処分の獲得に向けた検察官への申し入れ
- 示談交渉の代理
- 取り調べへの対応についてのアドバイス
- 医道審議会における弁明のサポート
弁護人が良い情状を集めて検察官に申し入れをすれば、不起訴になる可能性が高くなります。自分一人で対応していると状況が悪化して前科がついてしまうリスクも高くなるので、早めに弁護士に相談することが大切です。
医道審議会の聴取に向けた準備をする
罰金以上の刑に処せられた場合、法務省から厚生労働省に情報提供がなされ、医道審議会での審査対象となります。
審査の流れは以下のとおりです。
医道審議会の聴取の流れ
- 厚生労働省から「事案報告書」の提出を求められる
- 意見・弁明の聴取期日が設定される(聴取日の約1か月前に通知)
- 聴取期日に口頭で質問を受ける(弁護士を補佐人として同行可能)
- 聴取から約1〜2か月後に医道審議会が開催され、処分が決定
弁護士を補佐人に選定して聴取に臨むことで、反省の態度や再発防止策を効果的に伝えることができます。 事前にできる準備をしっかり行うことが、処分の軽減につながります。
医師の逮捕に関するよくある質問
Q.医師が交通違反で罰金刑を受けた場合、必ず免許取消になりますか?
交通違反の罰金刑で必ず免許取消になるわけではありません。
罰金以上の刑に処せられると医道審議会の審査対象にはなりますが、処分内容は犯罪の内容・悪質性・反省の態度などを総合的に考慮して決定されます。
交通違反の場合は「戒告」や比較的短い「医業停止」にとどまるケースが多いですが、飲酒運転やひき逃げなど悪質なケースでは重い処分を受ける可能性があります。
Q.逮捕された段階で医師免許は取り消されるのですか?
逮捕された段階では医師免許は取り消されません。医師免許に対する行政処分は、刑事裁判で有罪判決が確定した後に、医道審議会での審議を経て決定されます。
逮捕されただけでは前科にはならないため、不起訴処分や無罪判決を得ることができれば、免許取消を回避できる可能性があります。
Q.医師免許が取り消された場合、再取得は可能ですか?
医師免許が取り消された場合でも、欠格期間の経過後に再取得を申請することは制度上可能です。
ただし、再教育研修の受講が必要であり、申請しても再交付が認められるとは限りません。
過去に悪質な前科がある場合は再交付を拒否される可能性が高く、実際に再免許が付与された例は極めて少ないのが現状です。
アトムの解決事例(医師)
被害届の提出前に示談を成立させ逮捕回避した事例
アトムの解決地事例①(事件化回避)
クリニックを経営する50代の医師が、採用予定の女性従業員に対し診察と称して二人きりの状況でわいせつ行為をした事案。後日、女性から不快感を示され、被害届提出の可能性を危惧した依頼者が、事件化前の段階で弁護士に相談した。
弁護活動の成果
弁護士間での示談交渉の結果、当初の被害者を含む計3名全員と示談が成立し、総額約503万円を支払った。全被害者との示談成立により被害届は提出されず、刑事事件化することなく解決した。
罰金刑を避け、行政処分を回避した事例
アトムの解決地事例②(事件化回避)
医院を経営する50代の依頼者が、自院の職員用トイレに小型カメラを設置し女性従業員を盗撮した事案。職員にカメラを発見され、一部従業員とは自力で示談したが、示談を拒否した従業員が警察に相談し、刑事事件化を懸念して弁護士に依頼した。
弁護活動の成果
弁護士が未示談の被害者と粘り強く交渉し、被害者10名全員との示談を成立させた。医師免許への影響を考慮した弁護活動の結果、罰金刑より軽い科料9900円の処分となり、医道審議会による行政処分や医師会からの処分も回避できた。
まとめ
医師・歯科医師に前科がつくと、罰金以上の刑罰であれば医道審議会の審査対象となり、戒告・医業停止・免許取消の行政処分を受ける可能性があります。
免許への影響だけでなく、出勤不能・解雇リスク・信用低下・マスコミ報道など、医療従事者としてのキャリアに深刻なダメージを及ぼしかねません。
しかし、早期に弁護士へ相談し、被害者との示談交渉や不起訴獲得に向けた弁護活動を行うことで、前科を回避したり行政処分を軽減したりできる可能性があります。
刑事事件の被疑者となってしまった場合、一刻も早い対応が結果を大きく左右します。医師免許・歯科医師免許を守るためにも、できるだけ早く刑事事件に強い弁護士に相談してください。
アトムは24時間365日相談予約受付中
アトム法律事務所は設立当初から刑事事件を専門に扱う事務所として発足し、刑事事件の豊富な解決実績があります。
当事務所は、24時間365日、土日・深夜でもご相談予約を受け付けております。
「医師として勤務する家族が逮捕された」「警察から呼び出しを受けて医師として仕事できなくなるのが心配」など、今後が不安な方は、まずはお電話で相談予約をお取りください。
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