刑事事件では「身元引受人」が必要になることがあります。
身元引受人は、釈放された人の身元を引き受け、逃亡や証拠隠滅がなされないよう監督する者になるので、すべての人が当然に身元引受人になれるわけではありません。
身柄の解放には、身元引受人が必要となる場面も多くありますが、どういうときに必要なのか、どうすれば身元引受人になれるのか、わからないことも多いと思います。
そこで、身元引受人の具体的な役割、何かしらの責任を負うのか、どのような場面に必要になるのかを見ていきましょう。
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身元引受人とは?役割と責任
身元引受人に求められる具体的な役割
身元引受人の役割は、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれが生じないように防止・監督することです。
そもそも、逮捕や勾留は、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがある人を拘束して捜査を行う手続きになります。
捜査中や裁判中に逃亡したり証拠を隠滅したりすれば、捜査や裁判の遂行がうまくできず支障が出ることになるでしょう。こういった事態を避けるため、逮捕や勾留といった身体拘束が行われるのです。
身元引受人が被疑者・被告人の身元を引き受け、逃亡や証拠隠滅のおそれを防止・監督することで本人が釈放されることになります。
なお、身元引受人は被疑者や被告人の行動を監督することになりますが、24時間常に目が届く範囲で監視を続ける必要は無いため、本人から目を離して買い物や遊びに行っても問題ないです。
また、本人の身元を引き受けている最中に捜査機関から電話がきて様子を聞かれるようなこともありません。
身元引受人が具体的にすべきこと
身元引受人として具体的にすべきことは、以下のようなものとなります。
- 本人が逃亡、証拠隠滅行為を行わないよう注意する
- 本人が取調べに応じるよう促す
- 本人が裁判に出頭するよう促す
- 本人が更生できるよう手伝う
身元引受人として、本人が取調べや裁判を拒否して逃亡しないよう監視したり、本人を説得することが求められます。
また、本人の更生を手伝うことで、本人が逃亡や証拠隠滅を行わないようにすることも重要な役割といえるでしょう。
身元引受人の役割が果たせなかったらどうなるのか
仮に、証拠の隠滅や逃亡を許してしまった場合、捜査機関や裁判所からの信用を失ってしまうことになるので、その後も身元引受人になることは難しくなるでしょう。
また、身元引受人が被告人に代わって保釈金を出していた場合、保釈中の本人が証拠の隠滅や逃亡を行ってしまうと、保釈金が没取されて返還されないことがあるので注意が必要です。
身元引受人に法的責任は無い
身元引受人に法的責任はありません。
たとえば、被疑者や被告人が証拠を隠滅したり逃亡をしたとしても、身元引受人が刑罰を受けたり、損害賠償を請求されたりするといった法的責任を負うことはないのです。
また、身元引受人はあくまで被疑者・被告人の身元を引き受ける者であるという意思を示したものなので仰々しい手続などもありません。
もちろん、身元引受人は身元をきちんと引き受けられる者である必要はありますが、本人を監督しその身元を引き受けられる人物であればなることができます。
もっとも、最終的に本人が身元引受人の手の届かないところで何か起こしたとしてもそのことで身元引受人が法的責任を負うことはありません。
身元引受人と保証人・後見人は何が違うのか
身元引受人は、保証人や後見人とは異なるものです。
保証人とは、本人に代わって債務の支払いをする人のことを指します。借金をした人が返済できなくなったり、施設の賃料などを滞納した際、本人の代わりに支払いをします。
後見人とは、判断能力が不十分な人の代わりに契約や財産の管理などを行う人のことを指します。認知症や精神障害などで判断能力が衰えた人の後見人を成年後見人といい、親権者がいない未成年者の後見人を未成年後見人といいます。
誰がなれる?身元引受人の条件
身元引受人の条件に関しては法律により定められていませんが、基本的には以下のような立場の方が身元引受人として認められることがあります。
- 家族・親族
- 会社の上司・雇い主
- 彼氏・彼女・友人
- 弁護士
家族・親族は身元引受人の条件を満たしやすい
家族や親族は、身元引受人の条件を満たすことが多いでしょう。家族や親族の場合、同居の上で被疑者・被告人の身元を引き受けることも多く、より本人が逃亡したり証拠隠滅したりできない可能性が高いと判断されることになります。
したがって、家族や親族は、本人が逃亡や証拠隠滅をしないよう強く監督しやすく、身元引受人として相応しいといえるでしょう。
身元引受人の状況を満たすかは、家族や親族との関係によって異なります。
たとえば、血縁上で遠縁の親戚よりは近縁の親戚の方が身元引受人に相応しいことが多いでしょう。
ただし、物理的に本人の住居地から遠くに住む近縁の親族よりは、近くに住み本人と交流のある遠縁の親族の方が本人の逃亡や証拠隠滅を防ぎやすく、身元引受人の条件を満たしやすいこともあるのです。
会社の上司・雇い主は身元引受人の条件を満たすことがある
会社の上司や雇い主は身元引受人の条件を満たす場合もあります。
被疑者・被告人が仕事をする時間が長かったり住み込みで働いたりなど、会社の上司や雇い主といることが多い場合などは、本人が逃亡をしたり証拠隠滅をしたりしないよう監督をする立場にあるといえ、身元引受人の条件を満たすことがあります。
会社の上司や雇い主であっても、本人が日中仕事に出るだけで仕事での拘束時間が短かったり拘束力の小さいパート勤務などの場合には、逃亡や証拠隠滅を防げる身元引受人とは言い難いでしょう。会社の上司や雇い主が、しっかり本人を日常的にも監督できる立場にあるかどうかによるのです。
彼氏・彼女や友人は身元引受人の条件を満たすことがある
被疑者・被告人の彼氏・彼女(恋人)や友人は、身元引受人の条件を満たすことがあります。
恋人や友人で本人の近くに住み連絡を頻繁に取ったり、同居したりするなど本人の監督を十分に行い、逃亡や証拠隠滅のおそれを防ぐことが期待できるのであれば、恋人や友人も身元引受人の条件を満たすといえるでしょう。
たとえば、恋人なら婚約中であったり、同棲したりしていれば身元引受人の条件として十分といえます。友人ならルームシェアをしているような間柄であれば、身元引受人としての条件を十分に満たしているでしょう。
もっとも、単純に恋人や友人という立場の場合、家族や親族の場合と異なって本人との繋がりが薄く、監督できない場合も想定されやすいです。本人との連携を密に取れる状況で、本人が逃亡したり証拠隠滅したりすることを防ぐことができる立場なのであれば、身元引受人となり得るでしょう。
弁護士は身元引受人の条件を満たす
弁護士は、身元引受人の条件を満たすことになり得るでしょう。
弁護士が被疑者・被告人に付いていることにより、本人が弁護士の指導監督のもと逃亡したり証拠隠滅したりするおそれがないことを示すことがでるので、弁護士は身元引受人の条件を満たすことになります。
弁護士は一緒に生活を共にして監督をすることができないため、生活を共にできるものが引受人となることが望ましいといえます。
そのため、まずは身近な者から適切な身元引受人を探し、他の適任者がいない場合に弁護士が引受人となるのが一般的でしょう。
【コラム】身元引受人がいないと釈放は無理?
身元引受人がいないと、実務上は釈放されにくくなってしまうことになるでしょう。
たとえば、逮捕されている場合、身元引受人がいれば1~2日程度で釈放されるようなケースでも、身元引受人がいないと逮捕に続き勾留されてしまうケースもあるのです。
事件によっては身元引受人がいなくても釈放されることもありますが、捜査機関や裁判所は身元引受人という存在を担保として被疑者・被告人の釈放を認める側面があります。身元引受人がいなければ、釈放の許可がおりなかったり釈放されるまで長引いたりしてしまうことが予想されるでしょう。
身元引受人を引き受ける前に知っておきたいこと
身元引受人は拒否・辞退できない?
身元引受人は、拒否や辞退をすることもできます。
身元引受人は被疑者・被告人の身元を引き受けるという意思を示すものなので、たとえ身元引受人の適性があるとしても自身が身元引受人になりたくない場合や、身元引受人を断りたいと思った場合には自由に拒否や辞退をすることができます。
身元引受人は強制的な制度ではありません。身元を引き受ける者がいた方が本人の釈放に有利な場合、身元を引き受ける者がいることを示すためのものにすぎないのです。
そのため、本人の身元を引き受けたくないのであれば、拒否や辞退をしても問題ありません。
身元引受人になったら途中でやめられない?
一度、身元引受人になったとしても、途中で身元引受人をやめることもできます。
身元引受人は被疑者・被告人の身元を引き受けることが前提であるため、身元を引き受けることができなくなった場合やその身元を引き受けたくなくなった場合には、自身の意思で自由に身元引受人をやめることができます。
もっとも、急に身元引受人をやめる場合には、本人に不利益が生じる可能性があるので、他に身元引受人がいないかどうか、やめる前に相談はしたほうがいいでしょう。
身元引受人が必要な場面
逮捕がない在宅事件で身元引受人は必要
身元引受人は、逮捕がない在宅事件として扱われるかどうかの判断の際に有益であるといえるでしょう。
任意での取り調べを終え、警察が「逮捕するまではなく在宅事件で捜査をすすめよう」と判断した場合、迎えに来てもらえるよう身元引受人に連絡します。
また、初犯の万引きなど、場合によっては警察段階で刑事手続きが終了する微罪処分となることもあるでしょう。微罪処分で釈放される場合も、身元引受人の存在は有利な事情となります。
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逮捕後の釈放に身元引受人は必要
身元引受人は、逮捕後に釈放されるためにいた方が良いでしょう。
逮捕後の勾留は、証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれがある場合になされることになります。身元引受人がいれば、証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれがなくなるとして、逮捕後に釈放されるための有利な事情となるのです。
身元引受人が存在しているとすれば、逮捕された本人が証拠を隠滅したり逃亡したりして捜査に支障が生じることを防ぐことができます。
そのため、逮捕後の釈放のために身元引受人の存在は大きな意味を持つことになります。逮捕後の釈放のために、できるだけ身元引受人は用意するべきでしょう。
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起訴後の保釈に身元引受人は必要
身元引受人は、起訴後の保釈の際に基本的にいた方が良いでしょう。
保釈されるためには裁判所に釈放されても裁判までに逃亡したり裁判に支障がでるような証拠隠滅をしたりしないことが必要であり、裁判所としても本人がそのような行為をしないように身元引受人がいた方が保釈許可を出しやすいということになります。
保釈とは、起訴された者が裁判の判決を受けるまでの間において身柄拘束から解放されるための手続ですので、証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれがある場合には裁判に支障が生じる恐れがあるため保釈は認められないでしょう。
そのため、証拠隠滅や逃亡のおそれを抑制できる身元引受人がいればより保釈の許可に有利になるということになります。
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判決で執行猶予を得るのに身元引受人は必要
身元引受人は、判決で執行猶予を得るのにも有益であるといえるでしょう。判決において実刑ではなく、猶予期間を設けて社会内で更生する機会を与える執行猶予が認められるためには、本人を監督する身元引受人の存在がいた方がよいでしょう。
社会内で更生できるかどうかについて、身元引受人がいれば、本人の身元を引き受けて監督をして再犯防止の可能性を高めることができると考えられます。
そのため、身元引受人がいれば、判決の際に実刑を科すよりも身元引受人の監督の下、社会内で猶予を与えるという判断がされやすくなります。
刑務所からの仮釈放に身元引受人は必要
身元引受人は、刑務所からの仮釈放の際に必要といえます。
法律上は身元引受人は仮釈放に必要とはされていませんが、事実上は仮釈放のためには身元引受人を立て、本人が逃亡などをせず、適格な身元引受人のもとで更生を図ることができるような環境を整えることが求められているのです。
刑務所からの仮釈放のためには、「改悛の情」が認められるかどうかが要件となっており、その判断の中で出所後の環境も1つの要素となります。
そのため、仮釈放後の身元引受人の存在があれば、出所後もきちんと更生される環境が整っていると考えられるため、身元引受人の存在が必要なるでしょう。
まとめ
もしも、家族や身近な人が逮捕されてしまった場合、できることは身元引受人になって釈放後の生活を監督していくことです。
- 身元引受人とは、被疑者・被告人が逃亡や証拠隠滅しないよう防止、監督する人のこと
- 被疑者・被告人が逃亡・証拠隠滅しても、身元引受人に法的な責任はない
- 身元引受人は、被疑者・被告人の逃亡や証拠隠滅を防げる人なら基本的に誰でもなれる
逮捕された人がすみやかに元の生活に戻れるようにするには、早期の釈放が鍵を握ります。もっとも、ご自身だけで早期釈放に向けた活動をするのは限界があるでしょう。
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